静止画なのにグリグリ動かせる! クリック率が劇的に上がる「360度バナー広告」のしくみ
文字・静止画・動画と、その見せ方を進化させてきたバナー広告だが、「どうすれば視聴者に興味を持ってもらえるか」「どうしたらクリックしてもらえるか」が常に悩みの種だったと言える。
そうした状況に対し、リコーが打ち出した新規軸が、グリグリと動かせる360度バナー広告である「RICOH 360 for Ad」だ。
リコーは2018年3月にバナー広告事業に参入。“VR×AIでWeb広告のパフォーマンス(クリック率/CPC/CPA)を劇的に向上させる”をうたい文句に「RICOH 360 for Ad」の提供を行っている。
「RICOH THETAのユニークさを広めたい」から「広告はどうだろう?」に至る
――本日は「360度バナー広告」についてお伺いしたいのですが、その前にまず、ネット広告事業そのものは、これまでにリコーは手掛けていたのでしょうか?
藤田: いえ、弊社としてネット広告事業を手掛けたのは初めてです。360度バナー広告である「RICOH 360 for Ad」での参入になります。
――参入のきっかけは?
藤田: もともと弊社では、360度の写真・動画をワンタッチで撮影できるデジカメ「RICOH THETA」(シータ)を5年前(2013年)から販売しています。
またRICOH THETAの法人向けサポートサービスとして「THETA 360.biz」を3年ほど前から提供しています。これは、「物件内部を360度画像で紹介したい」といった不動産業者様、飲食店様、結婚式場様などのサポートサービスで、現在3000社ほどにご利用いただいています。
そういった背景があったうえで、RICOH THETAのユニークさを世に広めたい、さらに新しい活用を見出したい、という考えから、「ネット広告への応用」に至りました。
――RICOH THETA関連の新規事業としてスタートしたんですね。
藤田: Webサイトのバナー広告のクリック率ですが、だいたい0.1%、よくて1~2%といったところだと思いますが、逆にいえば、その100~1000倍の人がバナー広告を見ていることになる。そうすると、「おもしろい画像があるときに一番見てもらえるのは、Webサイトのディスプレイ広告じゃないかな」と考えました。そこから「360度画像をディスプレイ広告に応用する」ということを技術面や採算面で検討し、事業としても成立するとわかったので、参入に踏み切りました。
――RICOH THETAの拡販が目的、というわけではなく、独立した事業として勝負すると。
藤田: 「結果としてRICOH THETAが普及する」という狙いはありますが、「ネット広告事業として利益を上げる」という前提が当然あります。私個人としては、あくまでネット広告事業として進めていますが、会社としては両輪で期待している部分はあるかもしれません(笑)。「ハードウェアとしてのRICOH THETA×ソフトウェアとしての関連サービス」「THETA 360.biz×360度バナー広告」など、さまざまな局面での相乗効果を狙っています。
RICOH THETAの持つ「360度」という特性は、やはりユニークなため、社内からの注目度も高い。RICOH THETA自体を開発し発売したときには、広告事業までは視野に入れていなかったとは思いますが、実際にRICOH THETAを市場投入したら法人ニーズが高いことがわかり、「THETA 360.biz」が提供されるようになった。広告事業も同様で、さまざまなソリューションが生まれている状態です。
研究部門も参加して、広告改良に取り組む
――事業部署の規模やメンバーなどを教えていただけますか?
藤田: リコーのカメラ製品全般に関わるのがSmart Vision事業本部ですが、こちらは500人ほどの部署になります。広告事業はそのなかで数名からのスタートでした。売り上げは順調に伸びていて、10月下期から人数もさらに増えています。
関連サービスなどとの兼任もありますが、現在は10人ほどがメンバーとして動いています。兼任メンバーは、THETA 360.bizのスタッフもいれば、研究所の技術開発スタッフもいます。それぞれのノウハウを持ち寄り、さらなるサービスの向上に取り組んでいます。
――研究開発部門も直接、広告事業に関わっているのですね。
藤田: 「RICOH 360 for Ad」ではAI技術を取り入れていますが、まだまだ改良の余地があるので、R&D(研究開発)部門のスタッフや営業スタッフにも加わってもらって、データを見ています。
――広告はどういった媒体に配信しているのでしょう?
藤田: 主要なアドネットワーク、DSPにはだいたい配信していますが、やはりメインはGoogle広告ですね。
――その際、クリエイティブはどのように用意すればよいのでしょう?
藤田: 「RICOH 360 for Ad」の大きな特徴の1つですが、AIによるクリエイティブの自動生成が可能になっています。弊社がもともと持っている画像素材もありますが、お客様に画像素材をいただければ、その画像のなかから、とくに見せるべき要素をAIが自動判断して、“クリック率が高くなるような広告”として仕上げます。
――もともと持っている画像素材は、どういったものでしょう?
藤田: 弊社では、RICOH THETAユーザー様の投稿画像も含めて、200万枚程度の素材を保持しています。これらのなかから条件に応じて、素材提供することが可能です。
マッチするものがない場合や、お客様自身の独自の要素を掲載したい場合などは、RICOH THETAで撮影した素材をご用意いただく形になります。撮影機材の貸し出しも行っています。あと広告テンプレートは約2万種が用意されています。
――基本はユーザーがRICOH THETAで撮影したものをベースに、広告化するわけですね。いくらぐらいから利用可能なのでしょう?
藤田: お客様側が自社で広告運用する「360度バナータグ利用プラン」と、弊社が広告運用までを担当する「運用おまかせプラン」があります。
「360度バナータグ利用プラン」は表示回数に応じてタグ利用料をいただく従量制の形態です。「運用おまかせプラン」は予算に応じて運用手数料を設定しますが、最低広告出稿額/月が50万円からになります。
それと、広告クリエイティブの作成は、AIによる対応のため、基本無料です。サンプルについても、検討企業様がイメージしやすいように、無償で出しています。
――実際にどういった企業が、導入されていますか?
藤田: IBMさん、ハコスコさん、レンティオさん、それに本日同席いただいているNHN JAPANさんなどですね。
AIによる画像処理で、簡単・廉価に目を引く広告を作成
――「RICOH 360 for Ad」は、どういった点が良いんでしょうか?
藤田: 基本は、3点です。
- 目を引く=クリック率が劇的に上がる。
- インタラクティブ性=クリックの質が上がる。
- バナー広告制作が簡単/無料。
・「目を引く=クリック率が劇的に上がる」
まず、私たちではAIを使って、どういう画像をどう表示すればクリック率が上がるかなどを定量的に解析しています。これにより、目立ちやすくクリックされやすい見せ方ができます。
・「インタラクティブ性=クリックの質が上がる」
次に、360度画像の持つインタラクティブ性です。表示されている360度画像は、360度全てを見ていただけるように、少しずつ動いています。またマウスやスワイプで自由に動かせます。
これにより情報量が増えますし、見たいところを見られるのでユーザー体験として記憶に残りやすい。実際に、クリックした先でのコンバージョン率が向上するなどの効果が測定されています。
動画だと、単に「動いている」状態ですが、360度画像だと「動いていて、かつ動かせる」という状態なので、ユーザーがただ見ているだけでなく、タッチするように誘導できます。あと360度画像は、ファイルサイズが静止画とそれほど変わりません。“静止画のファイルサイズで、動画以上の効果を生み出せる”という利点もあります。
・バナー広告制作が簡単/無料
最後は、クリエイティブの制作費が無料という点です。通常なら10万円、あるいはそれ以上がかかるところを、弊社では、最初に素材をいただければ何十パターンでも無償で作ります。さまざまなパターンのバナーを配信することで、より反応のよいバナーに絞っていくといったABテスト的な運用が可能です。これはAIで自動生成しているから可能なことで、他社さんにはなかなか出来ないポイントだと思います。
――さきほどから、何度か「AI」というキーワードが出てきましたが、具体的にはどういった処理を行うのでしょうか?
藤田: たとえばRICOH THETAで室内撮影を行った場合、360度全天球を撮影するので、普通に天井や床も撮影されます。こういった個所を広告内で表示しても、たいていは意味がありません。360度画像をただ回して表示しているだけだと、「長々と白い壁が表示される」といったことも起きます。
これでは広告として問題があるので、画像の特徴量を分析し、人物や見栄えのする個所をAIで自動抽出する、という手法を導入しました。基礎データとして、素材画像でもある200万枚をディープラーニングさせました。こういった点が、研究開発部門が参加している強みでもありますし、まだまだ改良や技術開発している部分でもあります。
既存ユーザーもしっかり認知「おもしろいことやっているね」
では、実際に360度バナー広告を採用した企業側は、どういった点に魅力を感じ、どういった手応えを得たのか。NHN JAPANでは、傘下企業のNHN PlayArtが開発したスマートフォンゲーム「#コンパス~戦闘摂理解析システム~」(以下、「#コンパス」)のプロモーションに、360度バナー広告を採用している。
――360度バナー広告は、どういった経緯で採用されたのでしょう?
佐橋: 「360度画像を使ったおもしろい広告があるよ」というのを、プロモーションチームのほうで把握したのがきっかけです。私たちが担当しているゲームはいくつかありますが、そのなかから「#コンパス」のプロモーションで、360度バナー広告として「RICOH 360 for Ad」を使ってみようということになりました。
「#コンパス」は、3Dのフィールドでユーザー同士が戦う、リアルタイムオンライン対戦ゲームです。ランダムに選ばれたフィールドで3対3のキャラバトルを行うんですが、このフィールドは360度作り込まれています。これがそのまま、広告で活かせるのではと考えました。ゲームのプロモーションで、360度バナー広告を行っているところもまだなかったので、話題性も狙いました。
――スマホゲームだと“RICOH THETAで撮影する”というわけにはいかないので、逆にハードルが高いと想像していた部分があります。そのへんはいかがでしょう?
佐橋:弊社だと「LINE:ディズニー ツムツム」のような、3Dでない2Dのカジュアルゲームがありますが、藤田さんに相談したところ、「2DのゲームやCGなどであっても、疑似的に360度画像として見せることも可能ですよ」という回答をいただいてましたので、そのへんは特に問題ありませんでした。それに「#コンパス」については、ゲーム内容がそのまま3Dとして活かせると考えていました。
――どういった広告なのでしょう?
佐橋: 広告内容としては、人気キャラクター4体を紹介するもので、説明テキストありのバージョンとなしのバージョンを用意しました。AIを使って、キャラに注目がいくような作りになっています。
――広告の反応はいかがだったでしょう?
佐橋: 試験的な運用で規模が小さかったため、明確な数字としては出していないのですが、成果はあったと思います。それと、Twitterを中心に既存ユーザーさんから「おもしろいことやっているね」という声は、いくつかいただきました。ユーザーさんもイメージがつながりやすかったと思います。
360度バナー広告には、360度バナー広告の良さがあると思います。今後も、タイトルとの親和性があれば利用したいですね。あと弊社の場合、アプリ内広告が主力で、Web向けの広告を費用対効果だけで単純比較はできないと思ってます。
実際、Web向けの広告でアプリインストールまでつながったかは、なかなか計測できません。ですので、新規ユーザー獲得だけでなく、既存ユーザー向けイベントでの活用など、お客様のロイヤリティを上げる方向性でも考えています。
“これまでにないコンテンツ”を出せるのが「360度バナー広告」
――新機能や今後の展開について聞かせてください。
佐橋: ぜひ大きな画面表示ができるようにしてほしいですね(笑)。そうしたら、さらに進んだ広告の見せ方ができると思ってます。
藤田: じつは、「RICOH 360 for Ad」では、すでに対応したんですよ(笑)。現在はバナーサイズ固定でなく、フリーサイズで大きく画面表示できるようになっています。あとアプリインストール、UACの対応は、現在進めているところです。
こうした新機能の開発については、ご要望をいただき次第、どんどん対応するようにしています。弊社自身の案件でも利用しておりますので、事例や要望も蓄積されていますし、ほぼ毎月、新機能を搭載しています。
また、ヘッドマウントディスプレイを使ったVRなどがさらに普及し「VR上に広告が出る」ような環境になっても、弊社としてのアドバンテージがあるので、時代に合わせたソリューションを提供できると思います。
――最後に「360度バナー広告」の最大の利点をお聞かせください。
佐橋: 一番は「静止画なんだけど動かせる」という点だと思います。ページの中に入っていても目立ちますし、今までになかった新しい広告だと思います。“360度見ることができるから、アピールできる”という業種やアプリもあるので、ぜひ使ってほしいですね。
藤田: 同じくインタラクティブ性ですね。広告って受動的なものだったと思うんですが、能動的に動かせる。世の中におもしろいコンテンツを出せるので、ぜひ活用してください。
――ありがとうございました。
※記事初出の時点で社名に誤りがありました。訂正してお詫びします。(19/01/10)
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