動画から直接買い物ができちゃう「TIG commerce」が画期的︕
動画の従来のメリットは、使い勝手や商品の魅力を相手に伝わりやすくできるところで、今までデメリットだったのは、商品購入への導線がなかったこと――そこで株式会社エスキュービズムは動画を見ながらタップして購入できる動画コマースサービス「TIG commerce(ティグコマース)」をリリースした。
動画コマースの可能性が広がっている昨今、本サービスを開発し、ECサイトを保持するさまざまな企業とともに実証実験を行ってきた同社の事業企画本部 岩井 源太 氏、Partner Alliance本部 樋口 和広 氏に話を聞いた。
「購買導線を作りづらい」という課題を解決したい
――TIG commerceはどのようなサービスなのでしょうか?
樋口氏(以下 樋口): TIG commerceは、動画上に商品のタグ付けをして購入ページなどへの導線を作成できるもので
- 動画上にうつっているものをすべて商品としてタグ付け
- ユーザーが購入したい商品をタップすればカートに保存
- カートに入れた商品からECサイトの購入ページやランディングページに遷移させる
という購入までの一連の流れを動画上で行えるサービスです。動画を見ながら高まった購買意欲を鎮めることなく購入につなげることを狙いとしています。
――TIG commerceを開発しようと思ったきっかけを教えてください。
樋口氏(以下、樋口): 動画はこれまで「見て終わり」のもので、たとえばテレビCMなどを見ていて「これ欲しいなあ」と思っても、あらためて検索して販売サイトやリアル店舗に行くという、購買導線を作りづらい状態でした。そうした課題のあるなかで、動画を見ながらそのまま購入できる、あるいはもう少し知りたい方は詳細ページにとぶといった購買導線を作れないかと考えたのがきっかけです。
それにプラスして、パートナー会社のパロニムさんがもっていらっしゃる「動画にタグ付けできるソリューションサービスTIG(ティグ)」と、もともとわが社がやってきた「ECサイトの構築、タブレットPOSの開発・導入といったコマースサービス」とをつなげられないか、というところで企画がスタートしました。
――EC領域をずっと追求されてきたからこその課題を解決することがきっかけなのですね。
樋口:弊社では「リテールイノベーション」として、Webの領域においては購買導線をいかに変革させていくかを1つのテーマとして動いており、その1つが動画コマースの領域です。
岩井氏(以下、岩井): エスキュービズムは13年目の会社で、ECサイトやオムニチャンネルなどコマースまわりをメインでやってきました。そしていま、動画コマース、VRコマースというところをやっていますが、私たちには、今後はすべてのものがEC、コマースとつながっていくだろうという思いがあります。
――時代が変わってきているということでしょうか?
岩井:そうですね。近年流行している「TikTok」や、大手通信キャリアが「SNS動画見放題」という料金プランを提供しはじめたように、これまではコミュニケーションの手段として主流だった写真が、動画へシフトしてきていると思います。
そういったトレンドを汲んでECサイトやWeb広告なども、ユーザーに対してもっとシズル感を与えたいというシチュエーションでは、たぶんどんなリッチな写真より、15秒、30秒ほどの動画の方がユーザーに対して届く時代がきていると感じています。これまでのECサイトのインタフェースは「どのブランドで買うか」といういわゆる「指名買い」に強いですが、TIG commerceでは動画を見て衝動買いしてもらえるようなサービスを展開したいと考えています。
たとえば、クリスマスパーティーの準備をしている部屋の動画があるとします。この動画でメインの商品として売っているのはチキンだけれど、そのチキンを乗せている木製プレートやテーブルの上のキャンドルをシズル感のある動画でうまく紹介してあげれば、「動画にうつっているテーブルセットをすべて買いたい」というメイン商品以外の購買につなげることができます。他の商品のレコメンドが難しいと言われている時代でも、ユーザーの心に響く商品紹介をすることで売上を伸ばすことができると思います。
――たしかに、その部屋の飾り付けごと買いたいというケースもありますね。
実証実験では動画の視聴完了率が50%超えという結果も
――実証実験での結果や印象深かったことを教えてください。
岩井:実証実験はセブン&アイ・ホールディングスのオムニ7、コーセーのコーセープロビジョンなど、ECサイトを展開している多くの企業様にご協力いただいて行いました。
その結果、動画広告を見たユーザーのおよそ20%が商品詳細のページに遷移し、かなりの確率で実際に商品を買ってくれました。また、動画の視聴完了率が、他のサービスで動画を提供した場合よりも約10倍高かったのです。FacebookやTwitter、Instagramで動画を最後まで見てくれるのは5%~6%ですが、私たちの実験では50%を超えており、これが成果の1つだと思います。
――どのような動画で実験されたのでしょうか?
岩井:動画の尺なら、30秒のものから2分のものがあり、内容では、人物が出るものと出ないもの、単なる商品の説明と商品の使い方を入れたものなど、さまざまなパターンで検証しました。
たとえば、PCのマウスという商品を紹介するために、マウス本体をぐるりとまわすだけの動画と、ビジネスシーンにおいてマウスを使っている動画では、どちらの反応がよかったかといった実験をしてみました。その結果、動画を使ってユーザーの購買意欲を喚起するという方法が、ある程度有効であることがわかりました。
――そのなかで、どのパターンが良かったでしょう?
岩井: ものによって違いますが、おもしろい傾向としては、人が出て商品について説明している動画の方が最後まで閲覧されています。TIG commerceはまだまだ生まれたてのサービスなので、これからお客様と勝ちパターンを見つけていきたいですね。
ECサイトを持っていなくても「動画から購入してもらえる」しくみとは?
――実際にTIG commerceを導入しているのは、ECサイトを保持している企業でしょうか?
樋口:いえ、本サービスのプラットフォームにはECサイトを構築するためのシステムも組み込んでいるので、年間数億円を売り上げるECサイトはもちろん、これからECサイトを始めたいお店でも簡単にお使いいただけると思います。今まで商品管理が面倒でやっていなかったというショップの担当者さんが、1品だけECで売ってみようというノリでも導入できます。
また、動画そのものをSNSで配信できるので、自分たちのフォロワーに動画を配信して購入につなげられます。これまでECサイトを保持していない方も、気楽なペースでできますよ。
――Facebookなどで配信していた写真を動画にすればよいということですね。
岩井:そうです。従来のECサイトはどのサイトも目的の商品に簡単にたどりつくインタフェースが主流でした、ECの世界にはウインドウショッピングの概念がなかったのです。そこでInstagramショッピングがその役割を担おうとしているように、TIG commerceで写真より購買意欲がわくような動画を作っていただければと考えています。
――それはいいですね。動画へのタグ付けはどのように行うのでしょうか?
樋口:はい、手順は3ステップで
- TIG commerceの管理画面上で商品情報を登録する
- 表示したい動画をアップロードする
- 動画を再生しながらタグ付けしたい範囲を指定する
これで完了します。慣れれば、1つの商品を登録するのに、5分もあればできますよ。動画へのタグ付けが簡単なことも、TIG commerceの特徴です。
――タグ付けする商品数は、1つの画面でどのくらいが適切でしょうか?
岩井: まだ何個が適切かというところまではわかっていませんが、複数商品を入れた方が良いことがわかりました。実証実験を始めた当初は、1つの動画に1商品のみタグ付けしていましたが、実証実験においてユーザーが画面中でタップされている箇所や個数をみますと、5個~10個くらいではないかと思っています。
――このツールを使えば、EC参入への敷居が低くなりそうですね。
樋口: まさに敷居を低くしようというのが狙いです。たとえば、ある地方のお店がデパートの物産展に出ることになった場合、その出展シーンをスマホで動画撮影すれば、その動画をそのままTIG commerceに登録してECサイト化したり、集客をSNSで行ったりを手軽にできます。
――購買力をあげるために、クーポン発行などの機能があるようですね。
樋口: はい、動画を一定時間視聴すると画面に流れ星が表示されて、ユーザーがタップして集めることで10%引きクーポンなどの特典がもらえる機能もあります。購買力をあげること、視聴完了率をのばしていくために、ゲーム感覚で得する仕掛けを設けています。
動画は「見るもの」だけではなく「触るもの」にしていきたい
――さまざまな工夫が盛り込まれていますが、開発時に一番苦労されたことは何でしょうか?
樋口:動画をECにつなげるということはビジネスモデルとしても新しいので、どうやって組み立てて、メリットのある形に仕上げるのかという部分では、苦労がありましたね。
一般的に、「動画は触るもの」という認識があまりなく、ふつうは触ると「再生/停止」しますよね。TIG commerceでは、動画に触るとなんらかの情報が得られるというものですから、動画の挙動はみなさんが思っている反応と違っています。その壁をどのように低くできるのかが今後の課題です。
――今後はどう展開されていくのでしょうか?
樋口:TIG commerceは2018年11月7日にニュースリリースを出しまして、ありがたいことに現在まで多数お問い合わせをいただいています。そのなかには2019年1月上旬からサービスインされるお客様もいます。
これからもお客様の反応やご意見をいただきながら、機能を拡張していきたいと思っています。新しい購買の在り方に踏み込んでいきたいですね。
岩井: コンテンツ作りが上手な人ほど絶対に使ってみてほしいですね。ロングテールという考え方がありますが、このシステムはテールの部分ではなくて売れている商品をさらに売るしくみです!
――ECにおけるイノベーションへの熱意をお聞かせいただき、ありがとうございました!
ソーシャルもやってます!