ジュエリーブランド4℃ 「なんとなく改善」を脱却! ヒートマップでECのCVR114%を実現した高速PDCA
ジュエリーブランド「4℃(ヨンドシー)」のECサイトでは、Faber Companyのヒートマップ分析ツール「ミエルカヒートマップ」のデータを根拠に高速PDCAを回し、商品購入率が約114%向上した。
「Web担当者Forumミーティング 2025 春」に登壇したエフ・ディ・シィ・プロダクツの西川逸人氏とFaber Companyの板橋孝平氏が、「なんとなく改善」から脱却し、データドリブンな改善サイクルを確立するまでのプロセスを解説した。

(右)株式会社エフ・ディ・シィ・プロダクツ デジタルマーケティング部 部長 西川 逸人 氏
ヒートマップで生み出す「よい顧客体験」
ECサイトで提供すべき「よい顧客体験」とは、どういうものだろうか。ミエルカヒートマップで約100社のサイト改善を支援してきたFaber Companyの板橋氏は、次の2つを満たす必要があるという。
- 欲しい情報にアクセスしやすいこと
- ストレスフリーなUI
ただし、ユーザーの求めるものは千差万別だ。「欲しい情報」とひとくちに言っても、商品の仕様なのか、料金なのかわからないし、お目当てのものが決まっているのか、いないのかによっても変わってくる。また、ストレスを感じるポイントは、人によっても取り扱っている商材によっても、まちまちであり、「ストレスフリー」を定義するのは困難だ。
このように雲を掴むような状態で仮説を立てても、当たる確率は低く、効率が悪くなる。4℃を展開するエフ・ディ・シィ・プロダクツの西川氏は、4℃でもさまざまな打ち手を試していたが、なかなか思うような成果は得られなかったと語る。
4℃では、ECサイトを担当する西川氏のチームが、サイトの運用だけでなく、受注から在庫管理、ピッキング、梱包、発送、さらには購入後のカスタマーサポートなどフルフィルメントまでEC業務全般を担っている。
そのため、カスタマーサポートに入ってきた顧客の声を受け、そのままサイトに反映させてしまう傾向があったという。そうしたやり方も間違いではないが、感覚や主観に頼りすぎて客観性に欠けてしまったり、商品ページでの注意書きが増えてしまい購買意欲を損ねたりするリスクもある。
そこで西川氏はユーザーのニーズを定量的に可視化し、ブランド担当者とEC担当者、クリエイティブ担当者とEC担当者といったように、社内での立場が異なる者同士であっても、同じ目線で改善策を議論できる環境をつくろうと考えた。根拠なく「こっちがいい」「あっちがいい」と不毛な議論に終始することなく、みんなが納得したうえでPDCAを素早く回せるようにしたかったのだ。
数値を見ながら建設的な議論ができる組織にしたいと考え、ミエルカヒートマップの導入を決めました(西川氏)
ミエルカヒートマップには、主に以下の3つの機能がある。
- アテンションヒートマップ:熟読箇所がわかる
- スクロールヒートマップ:離脱箇所がわかる
- クリックヒートマップ:クリック箇所がわかる
ヒートマップの数値は、ユーザーからの大切なフィードバックです。興味がないところはスルーしますし、欲しい情報がなければ離脱してしまいます。数値に表れたユーザーの意思をベースにサイトを改善していくことが大切です(板橋氏)
商品購入率114%を実現した4℃のサイト改善事例
ミエルカヒートマップを使って、4℃はどのようにサイト改善を行ったのか。具体的な事例を2つ紹介した。
サイト改善策①
ブランドトップページの改修
ファーストビューはブランドメッセージを伝えるスライドショーになっているが、その下のエリアを大幅に変更した。
以前は「New Arrival」として発売日順に新着商品を並べていたが、改修後はNew Arrivalのエリアを削除し、「Category」セクションを新設した。ネックレス、リング、ピンキーリングなど、カテゴリーを選んで各カテゴリーの一覧ページへと移動できるようにした。
その理由は、ヒートマップ分析によって「4℃のサイトでユーザーが欲しい情報はCategoryだと判明したから」である。
以前のトップページでは、Categoryの一覧ページは左上のハンバーガーメニューの中にひっそりと隠れていた。それにもかかわらず、ページ全体の約26%のクリックがCategoryに集中していたのだ。
4℃はギフト需要が高いこともあり、板橋氏は「ユーザーは欲しいアイテムがある程度決まっていて、その中から選びたいのではないか」と仮説を立てた。これに対し西川氏は、「特にECサイトでは、『ネックレスをプレゼントしよう』といったように、Categoryありきで商品を探す人が多いのではないかというのは、以前からなんとなく想像はしていた。ヒートマップの数値ではっきりと事実を突きつけられ、想像が確信に変わり、改修に踏み切ることができた」という。
こうしてヒートマップのデータをもとにCategoryセクションを追加した結果、各カテゴリーの一覧ページへの移動率は約150%、商品購入率は約114%と大幅に向上した。
サイト改善策②
A/Bテストに基づくストレスフリーなUIの追求
西川氏のチームでは2024年の年初から、「カゴ落ちの改善」を大きなテーマに掲げ、取り組みを進めていた。なかなかよい解決策が見つからない中、板橋氏は、ミエルカヒートマップの「A/Bテスト機能」を使って、競合サイトも参考にしながら、さまざまな施策を試してみた。主なものは次の3つとなる。
コンバージョンポイント(「ご注文へ進む」ボタン)をフローティングバナーとして固定する:以前はページの下までスクロールしないと購入できなかったが、どこからでも購入できるように改善
ファーストビューをシンプルにする:カスタマーサポートの観点で増えてしまっていた注意書きをいったん削除
フッターメニューを削除し、他ページへの流出導線を排除する:商品をカゴに入れたあと、フッターメニューから外に出て離脱してしまう人が多かったので、フッターを削除して離脱を防止
2か月ほどかけて、A/Bテストによる多数の打ち手を試した結果、コンバージョン率の改善に成功した。
ヒートマップやA/Bテストから得られたデータを成果に結びつけるには、データの読み解き方や、改善策をスピーディーに反映できる組織体制が必要です。打ち合わせで私が改善策を提案したところ、その打ち合わせが終わる頃にはすでにサイトに反映されていたこともあったほど、西川さんたちはスピード感をもって対応してくれました(板橋氏)
具体的な数値を見せながら改善策を提案してくれたので、メンバーにも納得感がありました。だからスピード感を出せたのだと思います(西川氏)
PDCAの高速化に不可欠な「なんとなく」からの脱却を
「A/Bテストを使ってPDCAのD(Do:施策実行)とC(Check:効果測定)のスピードを上げることが重要だ」と説く板橋氏は、「P(Plan:仮説立案)に根拠がないと、上司(ステークホルダー)の説得に時間がかかり、PDCAの高速化を阻害する」と強調する。
どんなによさそうに思える施策であっても仮説はあくまでも仮説、百発百中とはいかない。それにもかかわらず、検証するには費用・時間・工数といった何かしらのコストがかかる。上司からしてみれば、コストをかけるだけの理由や納得してGOサインを出せるような材料がほしいのだ。
ユーザーの行動やニーズは多岐にわたるため、今回紹介した4℃の改善策をそのまま真似しても、よい成果につながるとは限らない。自社に最適な施策の仮説を立て、その都度ステークホルダーを説得しながら、改善策を通していくことが、勝ちパターンを見つける方法なのだ。
「『なんとなく』や『気がする』では誰も動かせないと肝に銘じ、数値で語れる人になってPDCAの高速化を目指してほしい」と語り、板橋氏はセッションを締め括った。
ソーシャルもやってます!