LIFULLが語る! 施策成功率280%UP、CV10倍を実現した「プロダクトアナリティクス」の全貌
日本最大級の不動産・住宅情報サービス「LIFULL HOME’S」を運営するLIFULLでは、グロースマーケティングによる持続的な成長を目指して「プロダクトアナリティクス」に力を入れてきた。その結果、施策数が150%増加、施策成功率は280%向上、コンバージョン数はなんと10倍に増加した事例があるという。
「Web担当者Forumミーティング 2025 春」のセッションでは、プロダクトアナリティクスツール「Amplitude」を提供するDearOneの松田計仁氏とともに、LIFULLの井上洸太朗氏が登壇。プロダクトアナリティクス導入の背景や改善事例を紹介した。

(右)株式会社LIFULL LIFULL HOME’S事業本部 プロダクトマネージャー 井上 洸太朗 氏
グロースマーケティングにおけるプロダクトアナリティクスとは?
ユーザーの行動データを収集・分析し、より効果的な施策を打つために「プロダクトアナリティクス」を導入する企業が増えているという。そもそもプロダクトアナリティクスとは、どういう手法なのだろうか。
従来のデータ分析は、デモグラフィック情報やアクセス解析、購買履歴など、点と点の情報をつなぎ合わせながら、ペルソナやユーザージャーニーを推測していくのが一般的なやり方だ。しかし、この方法では、「なぜユーザーが購入したのか」「どうして店舗に来たのか」「次回も購入してもらうにはどうすればよいのか」といった本質的な部分を捉えきれないなどの課題があった。
これに対し、プロダクトアナリティクスではユーザーの行動全体を分析対象とする。プロダクトサイト内の「ページ移動」「利用頻度」「最も活用されている機能」など、ユーザー行動のすべてが分析の対象となり、アクイジション(新規顧客獲得)、マネタイゼーション、リテンション(既存の顧客維持)の各領域に活かすことが可能になるのだ。
定量データと定性データを組み合わせ、目的や目指すべき状態に応じてユーザーの行動を詳細に分析することで、従来の点と点をつなぐ推測では得られなかったインサイトと行動ベースの示唆を導き出せるようになります(松田氏)
LIFULLではプロダクトアナリティクスを導入した結果、分析の質が大きく向上したという。井上氏は導入時の印象について、「ガラケーを使っていた人が初めてスマホを使ったときのような感動的なものでした」と語る。その大きな違いを解説していこう。
プロダクトアナリティクスの概念と必要性
まず、プロダクトの成長における市場学習回数の必要性が解説された。
一般的に、大きな目標が設定されると、それに向けたプロジェクトが動き出す。多くの場合、分析を経て変更すべき点を決定し、それを改善するための施策を打ち出す。だが、こうしたリニューアルや施策には成功のための確実な保証がなく、Web担当者の頭を常に悩ませる。
一方LIFULLでは、成果を生み出す構成要素を以下の3つに分けて考えていくという。
- 施策数
- 施策成功率
- 施策によるアップリフト
このうち、「施策成功率」と「アップリフト」は実際に試してみないとわからない部分です。けれど「施策数」は、プロセス改善をすれば着実に増やせます。さらに、施策数を増やすことで、副次的に成功率やアップリフトが向上するので、「施策数」にフォーカスするのが戦略的にも妥当だと考えています(井上氏)
施策数・市場学習回数はコントロールが効きやすく、1日0.1%の改善を毎日行えば、1年後には144%の成長が実現します。逆に0.1%の悪化が続けば1年後には70%まで縮小してしまう計算になります。だからこそ、多くの企業が市場学習回数を増やす方針にこだわり、長期的な成長を目指すのです(松田氏)
しかし、施策数を増やすことが重要であるとわかっていても、実際には組織の体制や基盤が整っていなかったり、A/Bテストのアイデアが不足していたり、素早く検証できる環境がなかったりする壁に突き当たる。「正論ではあるが実行は難しい」と感じる企業も少なくないだろう。だが、このような課題を解消できれば施策が円滑に進み始め、成長の加速につながる可能性があるのだと松田氏は説く。
それでは、LIFULLがプロダクトアナリティクスを導入し、市場学習回数の向上に取り組んだ背景や事例について、具体的に見ていこう。
プロダクトアナリティクス導入の背景
井上氏によると、以前は、プロダクト開発に課題がある状態で、実施した施策もやりっぱなしになってしまうことが多かった。また、実施したA/Bテストの勝敗結果はわかるが、なぜ勝ったのか・何が悪かったのかといった要因分析がしっかりと行えず、次につながらないことが頻繁にあったという。
こういったことはLIFULLに限らず、実務に携わる多くの担当者が思いあたることだろう。LIFULLでは4~5年前からこの事態を打開するために、次の点に着手した。
プロダクトマネジメントの考え方を導入
書籍『INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント』(日本能率協会マネジメントセンター、2019年発行)を教科書とし、アウトプットではなくアウトカムをしっかりと重視し、成果を出すために「市場学習回数を向上させていこう」という考え方に変えた。それにともなって、施策がアウトカムにどう影響を与えたか?を速く・深く分析し、次の打ち手までのサイクルをより短くするためにプロダクトアナリティクスの導入を決めた。
プロダクトアナリティクスの重要性に着目し、データ分析環境を整備
プロダクトアナリティクスを導入し、深掘りした要因分析と迅速な市場学習を可能にするため、分析ツールの刷新を決断し、より活用しやすいツールへと切り替えた。以前のツールは使いこなすのが難しく、学習コストが高かったり、インサイトの発見までなかなかたどり着かなかったりする状況だった。そこで、プロダクトアナリティクスに特化したツール「Amplitude」を導入。これにより、単純なデータ集計レベルのレポートではなく、施策がアウトカムにどう影響を与えたかを詳細に分析し、インサイトを得て施策の質を高めることができる環境に変わった。
プロダクトアナリティクスツール Amplitude
Amplitudeは、ユーザーの行動計測、分析、アクションをワンプラットフォームで完結でき、迅速にインサイトを得て施策を展開することが可能なツールだ。世界中で4000社以上が導入しており、国内でもDearOneが支援する多くの大手企業や有名企業で活用されている。
特筆すべき点は、Amplitudeには分析チャート機能が搭載されており、世界トップレベルのアナリストが行うような高度な分析がワンクリックで可能になるという点だ。従来の分析環境では、データ分析の属人化やツールの形骸化といった課題が起こりがちだが、Amplitudeを活用することでこれらの問題も解消されると松田氏は語る。
分析チャートは、数値だけでは捉えきれない顧客体験を可視化することができ、N1の時系列データ分析やセッションリプレイを通じて、ユーザーの行動を詳細に把握できる。これにより、A/Bテストやガイドアンドサーベイ、ポップアップ施策など、データに基づいた改善をスピーディーに進めることができるのだ。
Amplitude導入の成果
LIFULLでは、データ分析の速度と精度を向上させ、市場学習回数を増やすことで、より効果的なプロダクト開発を実現していった。この取り組みを通じて、企業の成長戦略におけるデータ活用の重要性が改めて認識されたのだ。
導入前と導入後でどのような違いが生まれたのか、詳しく見てみよう。
導入前
既存の分析ツールを使いこなすことが難しく、データ取得の心理的ハードルが高かった。
導入後
データ取得が簡単になり、社内で「まずはデータを見てみよう」という風土が広がった。そして、次のような効果が見られた。
- ミーティング中に疑問が出た際、その場でツールを開いて即座にデータを確認し、意思決定がスムーズに進むようになった。
- インサイト発見のプロセスも大幅に向上した。充実した分析チャートを活用することで、誰でも一定のレベルの分析ができるようになり、データに基づいた仮説を立てる文化が社内に定着した。
- A/Bテストの振り返り分析もしっかりと行われるようになり、次の施策に活かされるケースが増えたことで、施策の質が向上した。
続いて、Amplitudeを活用した具体的な改善事例を見てみよう。
改善事例①不動産ポータルサイトにおけるユーザーの検討度合いを分析し、セグメントを定義した
Step1全体の構造化
不動産会社への問い合わせをコンバージョンとするこのサイトでは、ユーザーの検索行動をファネル化し、ファネルごとにどのようなユーザーがいるのかを分析した。
検索条件の設定数が多いほどユーザーがより具体的な検討を進めていると仮定し、その条件をもとにセグメントを作成。ユーザーの母数やコンバージョン率を可視化することで、全体の傾向を把握した。
Step2ターゲティング
次のステップとして、どのセグメントに注力すべきかを決定した。コンバージョン率の変化に着目し、伸びしろのあるセグメントを特定。
この分析により、特定の検索条件が設定されている場合にコンバージョン率が向上することが判明し、まだ設定していないユーザーに検索条件を追加することで、全体のCV数を増やせる可能性があると判断した。
Step3ユーザーの解像度を上げる
最終的に、ユーザー一人ひとりの行動履歴を詳細に分析するため、「User Streamチャート」を活用。
これにより、ユーザーが最初にどの条件で検索を行い、その後どの物件を閲覧し、最終的にコンバージョンに至るまでの流れを時系列で確認できた。
得られたインサイト
データ分析を通じて得られたインサイトには、いくつか重要な発見があったという。
インサイト①:検索条件Aを設定していないユーザーが、その後条件を設定して検索し、そのままコンバージョンに至るケースが多く見られた。これにより、最初から検索条件Aを設定してもらうことで、コンバージョン率の向上につながるのではないかという仮説が裏付けられた。
インサイト②:価格や間取りが似た物件ばかりを見ていたユーザーが、あるとき急に異なる価格帯の物件を閲覧し、そのままコンバージョンに至るケースも発見された。これにより、レコメンド機能を活用してユーザーに幅広い選択肢を提示することが、希望の物件を見つける手助けになると考えられた。
Amplitudeの導入により、高レベルなデータ分析とインサイト発見がスピーディーに実現できているという事例だ。
改善事例②KPIが期待通り向上しなかった施策を次のアクションにつなげた
Step1A/Bテストの事前設計
検索履歴や閲覧履歴をもとに、よりパーソナライズされた表示順を展開していたが、検索結果の表示部分をさらに工夫することで、ユーザーの利用促進につなげる施策を行う。実施に先駆け、まずはA/Bテストの事前設計を行う際に、施策ごとにどういう指標を計測し、どういう判断をするかを決めた。
Step2ダッシュボードでの定常監視
Amplitudeのダッシュボードを活用し、施策の効果をリアルタイムに測定した。Amplitudeでは、指標の設定やダッシュボードのテンプレート化が容易なため、各施策の管理を効率的に行えるようになった。これにより、リードタイムなしで施策の評価を行い、次のアクションに移るといったスピードアップが図れた。
Step3ユーザーの一連の行動を可視化
ユーザーの行動全体を可視化し、KPIの結果だけでなく、その前後のユーザーの行動変化をデータで詳細に確認し、次にどのような施策を打つべきかを決定した。
得られたインサイト
これらの取り組みを通じて得たインサイトには、いくつか重要な発見があった。
インサイト①:物件閲覧数は直接的に増加しなかったものの、その後のユーザー行動に着目したところ、問い合わせコンバージョン率が向上していることが確認された。この結果から、ユーザーに対する説明の質を高めることで、より好意的な印象を与えられるのではないかという仮説が導き出され、次の施策へとつなげることができた。
インサイト②:ある特定の行動を取ったユーザーに着目して分析すると、成果が向上しているケースも見られた。このインサイトをもとに、次の施策ではその行動を促すような機能設計を行った。
Amplitudeの使い勝手については、操作のシンプルさとわかりやすさが特に評価されており、LIFULL社内のメンバーも積極的に活用するようになったと井上氏は評価する。
深い分析を行う際にもスピーディーにデータを取得できるため、施策のアイデアをすぐに試すことが可能になり、結果としてインサイト発見の精度も向上しました。このツールは、サービスの企画職のほか、デザイナーやエンジニアにも支持され、当社内では数百名規模で利用されています(井上氏)
作業工数削減の積み重ねで施策成功率280%増加、CV数10倍もの成果
また、松田氏の説明ではROIの観点においても作業工数の削減効果は明らかで、導入企業の多くが80~90%の工数削減を実感している事例があるということ。
このような効率化の積み重ねが、売り上げ貢献だけでなく業務プロセスの改善にも寄与し、企業全体の成長を押し上げる要因となっている。
加えてLIFULLでは、施策回数が増えたことで、施策の成功率も280%に増加し、創出されたCV数は10倍になった事例もあると語る。売り上げ・効率化の両面ですさまじい成果を出しているといえるだろう。
最後に、今回のセッションのまとめとして、次の3点が示された。
- 市場学習回数の最大化がプロダクトの成長やマーケティングの成果創出にとって、合理的なアプローチであること。
- これを実施するためには、従来の点と点の分析から脱却し、ユーザー視点で素早く多角的にデータを分析できるプロダクトアナリティクスの活用が重要であること。
- ツール選定の際には、誰でも使える手軽さや効果の実感しやすさがポイントとなり、それが社内に定着することで、成長を加速させるということ。
LIFULLの井上氏は、今後の展望について次のように語った。
まだ市場学習回数を増やす余地があると考えており、さらなる施策の強化を目指していきます。グローバルに目を向ければ、年間数千回の市場学習を実施する企業もあるため、それを参考にしながら、プロダクトアナリティクスだけでなく他の取り組みも加速させていきます。加えて、生成AIなども活用し、プロダクトの更なる革新を図ることで、成長のスピードを高めることを目指します(井上氏)
LIFULLの取り組みは、noteの「LIFULL Product Growth」に掲載されている。ここには、グロースマーケティングに関する事例や記事が豊富に紹介されているので、参考になるだろう。データ分析の質を改善したいと考えている人は、一度分析ツールについても、見直してみてはいかがだろうか。
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