ゼロクリック時代でも読まれるコンテンツとは? 生成AI経由の流入増のnoteから学ぶ

ヴァリューズとnoteが、共同調査を実施。調査の概要と「生成AI経由の流入を増やすコンテンツのカギ」を解説する。

小林 香織[執筆], 佐々木雅久[撮影]

7:00

ChatGPTやAI Overviewsなどの登場により、ユーザーがコンテンツをクリックせずに答えを得る「ゼロクリック検索」が増加している。しかし、そんな現象とは逆行し、流入が増えているサイトが存在する――。

インターネット行動ログ分析によるマーケティング調査を提供するヴァリューズとメディアプラットフォーム「note」が、共同調査レポート「ゼロクリック時代の新GEO・AI SEO」を発表した。調査によると、noteの生成AI経由流入は2025年3〜8月で3倍に増加。さまざまな専門性を持った書き手の記事が大量に投稿されるnoteならではの特性が、生成AI経由の流入を生み出しているという。

共同調査レポートの解説と、この分析結果を踏まえ、「生成AI経由の流入を増やすコンテンツのカギ」をヴァリューズの齋藤ロベルト義晃氏に聞いた。

株式会社ヴァリューズ データプロモーション局 ゼネラルマネージャー 齋藤ロベルト義晃氏

なぜ、noteは“生成AI経由の流入が多い”のか

「検索エンジンからの流入が多いサイトほど、生成AI経由の流入も多くなる」という仮説の実証から2社の共同調査は始まった。なぜなら生成AIは「事前トレーニング」と「回答の生成」において、大きく検索エンジンに頼っている前提があるためだ。結果として、概ね仮説通りであったものの、想定から外れる結果も見られたという。

次の図は、SNSやブログ、ショッピングサイトなどにおける「検索エンジン経由流入」と「生成AI経由流入」の相関関係をグラフで示したものだ。横軸と縦軸、傾斜線は次を示している:

  • 横軸:検索エンジン経由の流入
  • 縦軸:生成AI経由の流入
  • 傾斜線:相関の方向と強さの傾向を示す線
「検索エンジン経由流入と生成AI経由流入の相関関係」を示した図
(共同調査レポート「ゼロクリック時代の新GEO・AI SEO」より)

注目いただきたいのは、多くのサイトが傾斜線上に位置し、相関関係が強いにもかかわらず、それに当てはまらない「例外」が存在することです。

赤色で囲ったサイトが主な例外で、「ウィキペディア」「GitHub」「note」が当てはまります。なかでもnoteは、検索流入から期待される生成AI流入量が、期待値の約4倍と大きく上回ります(齋藤氏)

外部調査なども参照すると「ウィキペディアは生成AIに引用されやすいが、サイトへの訪問はされづらい」、一方で「GitHubやnoteは生成AIに引用されやすく、サイトへの訪問もされやすい」ということがわかった。

両者の違いは、何から生まれるのか。その答えは、カテゴリ単位の相関データから見えてきた。次の図が示すとおり、生成AI経由で流入されやすいカテゴリは、次の5つが挙げられる:

  • ブログ
  • メディア
  • 政府・団体
  • Webツール(CanvaやGitHubなど)
  • 論文・研究DB

これらは「一次情報」の集まりであり、「専門性」や「独自性」の高さも特徴と言える。

「検索エンジン経由流入と生成AI経由流入の相関関係」を“カテゴリ単位”で示した図
(共同調査レポート「ゼロクリック時代の新GEO・AI SEO」より 以下、共同調査)

専門家を含むクリエイターや企業の記事が大量に投稿されているnoteにも、「一次情報」「専門性」「独自性」のキーワードが当てはまる。そこにしかない情報だからこそ、ユーザーは「一次情報を確認したい」「よりくわしく知りたい」といった動機で生成AI検索からnoteへ訪問する流れが起きやすいと推測される

一方で、ウィキペディアは豊富な情報源ではあるものの、ほとんどが「二次情報」であり、そこにしかない情報ではない。よって、「要約のみで満足しやすい=生成AI経由での流入が少ない」という方程式が成り立つ

生成AI経由の流入で読まれているnoteの特徴

続いて、note内部による分析結果を紹介したい。noteでは、2025年3〜5月にかけて生成AI経由の流入が2.3倍に増加。さらに、8月には3月比で3倍に迫る勢いで成長した。次のグラフのとおり、急成長を牽引したのはChatGPTだ。

2025年4月以降、noteへの生成AI経由流入は増加傾向にある
(共同調査レポート「ゼロクリック時代の新GEO・AI SEO」より)

急増の背景には、ChatGPTの機能進化がある。OpenAIは2025年2月、一部の有料ユーザーなどに限定されていたWeb検索機能を全ユーザーへと拡大。これにより、同ツールを情報収集に利用する層が広がったと考えられるという。

デジタルマーケティングやデータ分析のプロフェッショナルである齋藤ロベルト義晃氏

さらに「生成AI経由流入で読まれている記事」には、次の2つの特徴があることもわかった。

特徴1書き手の経験や専門性によって深掘りされた、文字数の多い記事

生成AI経由流入で読まれているnote記事の平均文字数は約6000字にのぼり、note全体の記事平均を大きく上回る。SEOで重視されるE-E-A-T(経験、専門性、権威性、信頼性)は、AIが情報源を選ぶ際にも同様だと考えられ、note内でもそうした特徴を持つ記事がAIで多く引用されたようだ。さらに、こうした記事は要約だけでは伝わりきらない価値があり、「より深い内容を知りたい」とユーザーがサイトに訪問したと推察される。

特徴2「目次」や「見出し」の利用率が高く、構造が明確

生成AI経由流入で読まれているnote記事は、「目次」の利用率が48%、「見出し」の利用率が89%で、同時期に投稿された記事全体と比較して明らかに高水準だった。段落ごとに情報が整理され、論理的な流れになっている傾向もあった。人間にとって読みやすい構造が明確な記事は、AIにとっても理解しやすいと考えられる。

さらに、生成AI経由流入で読まれているnoteの「投稿時期」を分析したところ、約4割が半年以上前に投稿された記事だったことも判明。AIは最新情報だけでなく、普遍的な情報を求めている。つまり、過去に投稿した記事も「資産」としてストックされ、AIを通じて新たなユーザーを呼び込める可能性があるということだ。

生成AI経由流入で読まれている記事における「投稿日からの経過日数」(共同調査)

noteが持つSEOの強さ

そもそも、noteはSEOに強いとされる。齋藤氏によれば、noteの特徴から次の4つの点がSEOの強化に貢献しているという。

SEOの強さ1Googleからの「高品質サイト」の評価

現在、noteは1日に7万記事が投稿される大規模プラットフォームに成長し、「安定的に高品質のコンテンツを保持・更新しているサイトである」と評価を受けていると推測される。

SEOの強さ2SNSとの親和性が高い

noteはSNSでシェアしやすく、Xを中心としたSNSで見栄えの良い設計になっている。さらに、記事内容が「個々人の見解や経験」に基づくものが多く、共感を伴うリポストが生まれやすいと言える。そして、SNSでの共感や拡散は、GoogleやAIのクローラーがURLを早期に発見しやすくなるそうだ。

SEOの強さ3インデックスされるのが速い

noteでは記事の公開後、Googleにインデックスされるまでの時間が短い傾向がある。これは他社の大規模サイトでも確認されている現象で、noteも更新頻度の高い大規模なサイトとしてGoogleに認識されている可能性が高いと推定される。

SEOの強さ4ユーザー行動の質が高い

ヴァリューズの行動ログデータを用いてnote上のユーザーデータを確認した結果では、離脱率が低く、内部回遊が活発であることが示唆されている。この良質なユーザー行動が、検索結果、ひいてはAIにおける評価を押し上げていると予想される。

「AI経由でnoteを読む」という新しいユーザー行動が起きている

一見すると、「noteのSEOの強さがAI流入に影響しているのでは?」と思うだろう。しかし共同調査によると、「SEOの強さ」と「生成AI経由流入」の相関関係が、noteでは必ずしも高いわけではないことも判明した。

次のグラフのとおり、生成AI経由流入で読まれているnote記事を個別に見ると、「検索流入」と「生成AI経由流入」の相関関係は全体で「0.2」となった。数字は1に近づくほど相関関係が高く、「0」の場合は相関関係はまったくないという。

noteへの「検索流入」と「生成AI経由流入」の相関関係(共同調査)

noteによる仮説では、検索エンジンとAIでは、「記事を選定する段階」と「ユーザーがクリックする段階」の両方で違いがあるとのこと。検索エンジンは「キーワードの関連性」「サイトの信頼性」「被リンク」など複数要素を総合的に評価して記事をランク付けするが、AIは記事全体の内容を解析して、ユーザーの質問に対する「回答の適切さ」や「情報の網羅性」をより重視して参照元を選んでいると推測される。

また、ユーザー行動においては、検索エンジン上では「記事のタイトルや説明文」を読んで記事を選ぶのに対し、AI上では「要約」を読んだうえで「よりくわしく知りたい」と感じた際にクリックをする。つまり、要約では伝えきれない内容の深さや独自性が問われるわけだ。

noteにおいては、「検索流入」と「生成AI経由流入」の相関関係が低い。つまり、「AI経由でnoteを読む」という新しいユーザー行動が起こりつつあることが示されています(齋藤氏)

AI時代のコンテンツマーケティングは「トピック・ハブ」が重要

ここまでの分析を踏まえ、「生成AI時代のコンテンツマーケティング」の最適解として、齋藤氏は、トピックをめぐる多声的な場を表す「トピック・ハブ」を提示した。

ユーザーが生成AI経由でサイトを訪問する動機として、主に「一次情報を確認したい」「よりくわしい情報を得たい」の2つが挙がります。その心理を深掘りすると、「そのテーマに関して信頼できる情報を得たい」と言えるでしょう。

そして、「信頼」を形成するのは「専門性」や「多様な情報源」ではないかと考えられます。ショッピングサイトの「レビュー」や、企業サイトにある「導入事例」などは格好の事例です(齋藤氏)

次の3つが、齋藤氏が提唱する「トピック・ハブ」の構築に求められる設計思想だ:

設計思想1多声性の設計

自社だけではなく、専門家や顧客、業界団体など、立場の異なる発信者が同一トピックを語り、ユーザーの課題解決につながるように設計する。ただし、やらせや過度な広告要素が含まれると逆効果になってしまうため要注意だ。

設計思想2一貫性の維持

多声であっても、トピックに対する一貫性は求められる。「この場は何を語る場なのか」を明らかにして、検索エンジンやAIに対してもわかりやすく伝えることを意識しよう。

設計思想3更新性の担保

テーマ性にもよるが、特にトレンドの移り変わりが激しいような「ファッション」「ビューティー」「IT技術」などは、ユーザーの課題解決につながる最新情報が集まっているのが好ましい。

取材はヴァリューズのオフィスで実施した

当社が支援した企業では、「トピック・ハブ」の構築を目指したコンテンツマーケティングの実施により、顕著にユーザー数が増加した事例も複数あります。いずれも「ユーザーの課題」を起点に、それを解決できるコンテンツとして、「現場の一次情報」「課題解決の具体的事例」「他のユーザーの使用事例」などを盛り込み、一定の更新性を担保しました。

これらの施策に加えて、自社コンテンツがSNSで積極的にシェアされる状況を作ることができれば、生成AI経由の流入を増やせる可能性もあると考えられます。なぜなら、AIが何かを推奨するにあたり、Web上での「言及数」が1つの判断材料になっているためです(齋藤氏)

さらに齋藤氏は、「トピック・ハブの構築において、noteは1つの選択肢になる」と付け加えた。

noteは多様な人々が、あらゆるテーマの記事を投稿する場であり、そもそも多声性が担保しやすい構造と言えます。たとえば、note上でコンテンツを作成する際に、note上で他者が語っていることをピックアップして、さらに自社の見解を紹介するといった使い方も良いかもしれません(齋藤氏)

◇◇◇

生成AIの進化を正しく予想するのは難しいが、生成AIが私たちの生活により浸透していくことは、ほぼ確実だろう。まずは、自社の「専門性」や「価値」を再確認したうえで、「トピック・ハブ」の構築を進めていくのが賢い手かもしれない。

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