急速に進化しつつ活用が広まっている生成AI。Webサイト制作やマーケティング分野における活用実態はどうなっているのだろうか。クラウド型Webサイト制作プラットフォームを提供するWix.com Japanの今村氏と岡本氏が「Web担当者Forum ミーティング2025 秋」に登壇し、自社の調査をもとに、Webサイト制作における生成AIの活用状況やマインド、効果的なAI活用のヒントについて解説した。
(右)同社 シニアマネージャー、ソリューションエンジニア 岡本 清明氏
生成AI活用でWeb担当者に生まれる「分断」と「格差」
「現在のWeb業界では、生成AIを積極的に使うかどうかで新たな分断が生まれている」と、今村氏は指摘する。企業に勤めるWeb担当者やマーケター249名を対象とした同社の調査(※)によれば、生成AIを1日に1回以上使う「高頻度ユーザー」が全体の半数以上を占める一方、ほとんど使っていない層も3割存在する。つまり、AIを日常の一部として使う層と、まだ使っていない層がはっきりと分かれているというわけだ。さらに、全体の60%が「AIをうまく使える人と使えない人の間で格差が広がる」と考えていることも明らかになった。
(※)出典:マーケティング担当者の生成AI活用に関する意識調査 2025(Wix.com Japan 株式会社)
[出典:マーケティング担当者の生成AI活用に関する意識調査 2025(Wix.com Japan 株式会社)]
これはすでに現場で起きている現象です。AIによる変化は単なる効率化や自動化にとどまらず、働き方やキャリア、生き方そのものを変える分岐点に立っています(今村氏)
実際、調査データからは、AIを日常的に使う人は情報収集のスピードが速くなり、時間の使い方が変わったと感じているのに対し、あまり使っていないグループにはその実感がほとんどないという結果が出ている。AIの活用度合いによって作業スピードに差が生まれ、それがやがて発想力やチャンスの差へと広がりつつあるというわけだ。
また、AIを活用しているグループほど、AIによって「考える・判断する」といった業務に集中できるようになったと回答し、「AIに仕事を奪われる」というより、「AIで仕事の質を高められる」と考えている。
戦略業務へシフトするために――AI活用を進める2つのポイント
そこで、現場でのAI活用状況を見ると、コンテンツのアイデア整理、文章作成、キャンペーン企画のアイデア出しなど、クリエイティブな業務やテキスト作成での活用が進んでいる一方、Webサイトのデータ分析やページの構成、SEOといったサイトの基盤に関わるタスクに関しては、まだ活用が進んでいない。
今村氏はその理由が「複雑すぎるWebサイト運用プロセス」にあると分析する。Webサイトの更新には多くの人が関わり、確認や修正を繰り返すなど、非常に手間がかかる。この問題を解決することが、AI活用の効果を高める重要なカギとなる。
AIを上手に活用しているWeb担当者やマーケターは、日々の細かい運用から解放され、より戦略立案やアイデア創出に時間を使う未来を思い描いている。その実現には、次の2つのポイントが重要となる。
①AIとノーコード
コンテンツの独自性やUXなど体験価値をどう生み出すかが重視される。そこで、これまでデータアナリストやエンジニアの領域だったA/Bテストやコーディングは、今後、Web担当者自身がチーム内で完結できるようにする。
②作業から戦略へ
専門知識がなくても、現場でサイトを作り、改善できる時代が来ると予測されている。テクノロジーの進化で技術の壁がなくなり、仕事の中心は戦略やユーザー体験へと移っていくことになると予想される。
ノーコード×生成AIの可能性と「GEO」という新たな課題
Webサイト制作のAI活用における2つのポイントについて、今村氏は、「Wixはすでにこれをクリアしている」と語る。2006年にノーコードでのWebサイト制作プラットフォームとして誕生したWixは現在、世界中に3億人のユーザーを擁するが、2016年という非常に早い時期からAIを組み込んできた。
今村氏は、AIを活用したサイト設計・構成ツールである「Wixビジュアルサイトマップ」のデモンストレーションを実施した。
チュートリアルに沿ってビジネスの種類や特徴、主なサービス、拠点、ターゲットオーディエンス、サイトの目標、文章表現のスタイルなどを入力するだけで、サイトマップとワイヤーフレームが自動生成される。
すると、トップページをはじめ、各ページが自動的に作成され、ビジュアルサイトマップではすべてのページとセクションが表示される。デモでは、表示されていた画像が別の画像に簡単に変更されるなど、数分で作業を行えることが示された。カスタマージャーニーまで考慮されており、単なる制作ツールではなく、Web戦略まで提案してくれるエージェントといえるだろう。
従来のWebサイト運用プロセスでは、1つのアイデアをサイトに反映させるだけでも多くの時間と調整が必要で、外注コストもかかります。しかし、生成AIとノーコードを使えば、こうした複雑なプロセスの半分以上がわずか数分で完了します(今村氏)
そして、生成AIの進化による新たな課題として、今村氏はGEO(Generative Engine Optimization:生成エンジン最適化)やLLMO(Large Language Model Optimization:大規模言語モデル最適化)への対応を挙げている。これは、AIが会社やブランドのサイトをどう学習し評価するかを最適化するものであり、今後は検索エンジンだけでなくAIにも評価される必要があるという指摘だ。
SEO重視から、「GEO / LLMO」で信頼を勝ち取るフェーズへ
従来のSEOは、Googleなどの検索アルゴリズムを対象に、検索結果の上位表示を狙い、トラフィックやコンバージョンを獲得することが主目的であった。
一方、GEOやLLMOの対象は、ChatGPTやClaudeといったLLM(大規模言語モデル)そのものである。 ユーザーがAIに質問した際、自社の情報が正確に引用され、ブランドとして認知されることを目指す。ここでは、検索順位よりも「情報の信頼性・権威性・文脈」が重視され、AIが理解しやすい構造化データやFAQ形式のコンテンツなどがカギとなる。つまり、単にアクセスを集めるだけでなく、AIの回答を通じて「ブランドの信頼」を勝ち取ることが求められる世界へと変化しているのだ。
しかし、ChatGPTやGemini、Claudeといった複数のAIプラットフォームにおいて、自社サイトがどのように認識・表示されているかを人力で一つひとつ確認するのは、現実的ではないだろう。そこでWixでは「AI検索結果概要」という新機能を開発・提供している。この機能によって、各AIプラットフォーム上で自社のサイトがどの程度認識されているのかをスコアで確認でき、「どんな質問や文脈の中で自社ブランドが登場しているのか」、「そこからどれだけのトラフィックが発生しているのか」なども確認できるという。
こうした近未来のWebサイト制作を支えるのが、AI 機能に加えて、チーム運用や管理を支える多彩な仕組みを備える「Wixエンタープライズ」である。 その具体的な機能について、同社のソリューションエンジニアである岡本氏が紹介した。
Webサイト運用の3つの壁、「非効率」「セキュリティ」「拡張性」を乗り越えるプラットフォーム
岡本氏は、Wixエンタープライズが単なるWebサイトビルダーではなく、ドメイン取得から運営管理、顧客管理まで1つのプラットフォームで実行できる「統合型プラットフォーム」であると強調した。
主要機能として、メールマーケティングやSEOなど集客に必要な「マーケティング機能」、企業がウェビナーや勉強会を開催する際にも使える「予約機能」、続いて企業内ブログや社内向けコンテンツの提供に活用される「会員限定サイト機能」などがある。
そして、Webサイト運用の課題となっている3つの壁、「非効率」「セキュリティ」「拡張性」を乗り越えるために設計されたWebサイト制作・運用の総合ソリューションだと岡本氏は語る。それぞれをどのように解決していくのか、対応する機能とともに紹介された。
Webサイト運用の壁① 非効率
カスタムテンプレート機能&「CMS機能」で効率化を図る
たとえば、新しいキャンペーンやウェビナーの告知ページを急いで立ち上げたい場合、従来はIT部門や広報・マーケティング部門との調整、外注先への見積もり依頼など、さまざまな作業が発生し、サイト公開までに時間がかかる傾向があった。
こうした「非効率」の壁を打破するのが、「カスタムテンプレート機能」である。同じような構成のページを何度も作成する場合でも、「テンプレート」を一度作成しておけば、部門内や企業内で共有し、簡単にサイトを立ち上げることができる。これにより、ブランドガイドラインの整理やフォント調整、レイアウト設計をイチから考える必要がなくなり、業務効率が大きく向上する。
グローバルメニューやフッターなど頻繁に使うデザインパーツを個別に「アセット」として保存しておくことも可能です。これらを組み合わせることで、スピーディーにWebサイトを作成・公開できます(岡本氏)
「CMS(コンテンツ管理システム)機能」では、表形式でデータを管理し、それをWebサイト上の要素と紐付けることができる。担当者はExcelのような表を操作するだけでWebサイトの内容を更新できるため、HTMLを直接編集する必要がなく、人的ミスを減らしながら更新のスピードと正確性を両立できる。
「API連携機能」では、多くの企業が顧客管理や販売管理などで利用しているサードパーティアプリケーションのデータを、Webサイトで活用したい場合でも、手動でデータを移行する手間が不要になる。APIによって自動連携できるため、人的ミスを防ぎつつリアルタイムでデータを反映できるというわけだ。
Webサイト運用の壁② セキュリティ
「予防・検知・対応」の3層の防御体制でリスクを最小に抑える
「セキュリティはWebサイトを作る上での最重要事項」と岡本氏は強調する。サイトビジネスを守るために、Wixでは「予防」「検知」「対応」の3層で防御体制を構築している。
予防:データ暗号化、不正決済への対策、バグバウンティプログラムによる脆弱性の監査強化など、事前にリスクを排除する取り組みが行われている。
検知:機械学習を活用し、24時間365日体制で疑わしい活動を検出し、異常を早期に発見する仕組みを整えている。
対応:万が一の事態が発生した場合でも、専任のトレーニングを受けたチームが即座に対応し、迅速な復旧を図る体制が整備されている。
Wixはこうした多層的なセキュリティ対策によって、ビジネスリスクを最小限に抑える仕組みを実現しています(岡本氏)
これらは外部からの脅威に備えたものだが、内部からの不正に対しても「権限設定」と「操作ログ(アクティビティログ)」の2つの機能を備えている。アクセス権限では、CMSの編集権限、読み取り専用アクセス、アクセス不可など、きめ細やかな設定が可能で、人的ミスや不用意な情報漏洩を防ぐことができる。
オーディットログは、いつ誰が何をしたのかの「証跡」が全て残るため、不正操作の抑止力となり、問題発生時の原因究明にも役立つ。
セキュリティを強化すると操作性が悪くなるというジレンマに陥りがちだが、Wixはシングルサインオンに対応しており、操作性とセキュリティの両立が可能だ。また、特に機密性の高い情報を扱うサイトの場合は、IPアクセス制限の設定機能も利用でき、特定のエリアやオフィスネットワークからのみアクセスを許可することもできる。
Webサイト運用の壁③ 拡張性
運用負荷増大を解決するルーティング機能
拡張性については、サイトの規模が拡大するにつれて運用負荷が増大する問題や、古いプラットフォームから抜け出せないケースが指摘されている。これを解決するのが「ルーティング機能」だ。
たとえば、既存のWordPressサイトを運用しながら、新しいランディングページをWixで作成したい場合、ルーティング機能で既存のドメインを接続し、SEO評価を維持したまま最新の技術を利用できる。段階的に最新のプラットフォームへ移行・拡張させられるため、運用負荷を抑えつつ柔軟なサイト運営がかなうというわけだ。
しかし、少数のサイト運用であれば日々のモニタリングは可能とはいえ、数十、数百ものサイトを個別にモニタリングするのは非現実的だ。そこで、Wix Enterpriseでは「マルチサイト管理ダッシュボード」を提供しており、サイトごとのセッション数や表示速度(LCP)、応答性(INP)などのパフォーマンスデータを一覧で確認できるようになっている。これにより、多数のサイトを集中的にモニタリングでき、運用コストを大幅に削減できるという。
岡本氏は、「これらの3つの壁に思い当たるものがあれば、ぜひWix Enterpriseを検討してほしい」とセッションを締めくくった。
