生成AI時代において、マーケターやコンテンツクリエイターはどのようなコンテンツを作るべきか。「Web担当者 Forumミーティング2025 秋」では、多くの企業のWebマーケティングを支援するウェブライダーの松尾氏が、生成AIを駆使して、「読まれる」コンテンツを生み出す具体的な手法を解説。人とAIの役割分担、これからのSEOやGEOに求められるコンテンツのあり方、そして自身が活用する生成AIについて語った。
誰でも手軽に作れる「生成AIで作成したコンテンツ」に価値はあるのか
ChatGPT、Gemini、Claudeなど多くの生成AIが使われるようになった。SEOを軸にWebコンサルティング事業を展開する松尾氏も、市場分析や情報収集、ディープリサーチ、アイデア出し、文章作成など、さまざまな用途でAIを活用してきた。松尾氏にとって、生成AIは「知的で器用、優秀なアシスタント」や「パワードスーツ」という存在になっているという。
最終的な意思決定をするのが人間であることは変わらないが、AIを活用すれば効率的に、マーケターの力を高めるツール、相棒となりうる(松尾氏)
松尾氏はオウンドメディア「ウェブライダーマガジン」を運営し、わずか15記事で多くの検索ワードで上位に表示され、多数のトラフィックとコンバージョンを獲得している。さらに同社ではAI文章校正ツール「文賢(ブンケン)」も展開しており、AIツール開発者の側面も持つ。そんな松尾氏が考える、「AI時代に求められるコンテンツ」とはどのようなものなのか。
マーケティングは顧客の立場に立つことが重要。その視点で見れば、生成AIで“簡単に誰でも作れてしまうコンテンツ”を見たい人がいるのか甚だ疑問。必要とされないコンテンツをAIで作る意味はあるのだろうか(松尾氏)
生成AIで安易に作られたコンテンツが大量に出回り、良質なコンテンツ体験が損なわれつつある。AIを使ったコンテンツ制作は手軽さが魅力だが、それはあくまでも作り手の視点であり、生活者の視点ではない。重要なのは「コンテンツを見る側の視点」を持って、コンテンツを設計できているかどうかだ。
また、生活者の視点で見ると、生成AIはすでに行動そのものを大きく変える存在になっている。検索の代わりにAIに質問し、比較サイトを見る代わりにAIで比べ、難解な記事は要約を依頼する。AIは、見る人の思考や知識に合わせてコンテンツを再編集できるため、依存度や信頼度は今後さらに高まるだろう。
一方で、回答やレコメンドはプロンプトや質問者によって変化する。パーソナライズが進むことで、従来の比較記事やおすすめ記事は、その価値を失っていく可能性がある。
松尾氏は、生成AIを単体で使うのではなく、複数の生成AIに同時に質問できる「ChatHub」を活用しているという。実際に使うと、ChatGPT、Claude、Geminiなどにはそれぞれ異なる個性があり、賢い人が3人同時に答えているような状態になる。特定の生成AIだけに依存したり、過度に信用したりしないための工夫だという。
今後、生成AIは購買行動における認知から意思決定まで、あらゆる段階に影響を与える存在になるだろう。そこにコンテンツという形で影響を与える場合、人力かAI生成かを問わず、共通して求められるものとは何だろうか。
生成AIが苦手とする“真実性”こそ、信頼されるコンテンツの条件
マーケティングにおけるコンテンツの目的・役割は、「情報ギャップを埋める」「信頼してもらう」「行動を促す」の3つに集約できる。生成AIによるコンテンツ作成はこれらを効率化する一方で、好ましくない状況を生む可能性もある。AIが生成する文章には、ウソや曖昧さ、無責任な表現が少なからず含まれるからだ。
松尾氏は、情報の正確性だけでなく「表現」にも問題がある点を強調し、「誤解を生まないよう整える編集作業が、AIには欠けている」と指摘する。たとえば次の文章は「唐揚げ」を表現した文章だが違和感はないだろうか。情報として正しくても、表現としては嘘っぽさを感じる人が多いはずだ。
AIを悪用したフェイクニュースが増え、それを事実と誤認するトラブルも起きている。こうした状況を受け、AIだけでは担えない編集者・監修者としての人間の役割がより求められるようになってきた。松尾氏は「むしろ人間の仕事は増えているのではないか」と語る。
エンジニアリングの現場でAIが生成したコードを人間が確認するように、コンテンツ制作においても最終判断は人間が担うことになる。
とりわけ「失敗できない領域」では、AIの判断だけに頼るリスクを感じる人も多い。たとえば、家などの高い買い物は人間のアドバイスを求める人が多い。つまり、後悔するリスクの高い商品ほど、AIだけでは意思決定ができないはず(松尾氏)
さらに松尾氏は、後悔が生まれるメカニズムを3段階で紹介。
- 情報・認知の不足や歪み
- 判断プロセスの欠陥
- 結果と価値観の不一致(感情的要素)
1についてはAIでカバーできても、2と3は難しいと指摘。AIは人をおだてる傾向(松尾氏評)があり、失敗した時に後悔が残りやすいのだという。
AIに「ユーザーに後悔させないコンテンツを作るにはどうすればいいか」と問うと、AIからは「FAQの作成」「リスク情報の提供」「専門家による解説」といった回答が返ってきた。
しかし、AIは、人間のように自らがリスクを負うわけではないため、ユーザーの不安を「自分事」として心配することができない。また、AIの情報源はネット上のデータに限られるため、人間の実体験や肌感覚といった「暗黙知」を拾うことも苦手としている。つまり、生成AIは「真実性」の担保が苦手。その領域こそ、人間が自身の経験で埋めていく必要がある。
価値あるコンテンツに欠かせない「真実性」をどう担保すべきか
では、コンテンツの「真実性」をどのように担保していけばよいのか。松尾氏は、「真実性を支える要素」を以下の10項目に分解して解説した。
“真実性”を分解すると、10項目にも達する。これらが人間にしか担保できない領域(松尾氏)
実際、松尾氏が運営するWebマガジンでは、たとえば「ツール選定コンテンツ」を作成する際、必ずそのツールをインストールして一通り操作している。そのうえで、実際に操作して感じたことをコンテンツに盛り込み、画面キャプチャも撮影するなど、さまざまな工夫が施されている。その過程で蓄積されたナレッジや知見が「⑧検証可能性」となり、コンテンツに真実性が生まれている。
人が丁寧に作ったコンテンツには、プロセスや熱量に触れたいと思わせる魅力がある。内容はもちろん、アイキャッチ画像一つに至るまで、自身の手で「魅力的だと思えるもの」を作ってきた。AI時代だからといって特別なことをしているわけではなく、AIを活用して効率化しながらも、その取り組み自体は以前と変わらない(松尾氏)
実際、こうした姿勢は、これまでSEOやSXOで重視されてきた考え方と本質的に同じだ。E-E-A-Tで求められる経験や専門性、権威性、信頼性といった要素は、松尾氏がこれまで語ってきた内容と重なる。
つまり、AI時代においても、価値あるコンテンツの条件は変わらない。真実性や信頼性、人間の経験や検証可能性といった要素が、コンテンツの厚みや魅力を生む。生成AIは精度向上や分析のサポートとして有効だが、あくまでも“補助的役割”に過ぎない。
AI時代だからといって、SEOに力を入れない理由はそもそもない。AIはSEOの競合になりうるが、ユーザーがAIの回答を検索で確認するという行動も増えるため、むしろ検索結果の情報やレビューサイトの情報がより重視されるようになる(松尾氏)
AIに負けないコンテンツを作成するための6つの要件
AI時代に価値あるコンテンツとするために欠かせない要素として、松尾氏は「真実性」に加え、「シンパシー(共感)」の重要性を挙げる。一般には「相手に共感するコンテンツ」が効果的だと言われるが、「発信者自身に共感してもらう」コンテンツもまた有効だという。
その一例として、松尾氏はVoicyで漫画『五等分の花嫁』の魅力を熱意を持って話し、その結果、Xなどで大きな反応があったことを紹介。
本当にその商品やサービスが好きな人が発信するコンテンツは強力。その熱意やリアルな体験は、他のどんな情報よりも強く人の心に響く(松尾氏)
ユーザーの共感を得るだけでなく、発信者自身が「心から好きだ」という感情を伝えることで、コンテンツの価値は高まる。こうした熱量は、AIには決して再現できないものだ。
そのうえで松尾氏は、AIに負けないコンテンツの要件として、次の6つを挙げた。
- 真実性が担保されている
- 更新頻度が高い
- UIが使いやすい
- いつもそこにある
- コミュニティ的な機能がある
- ロマンスがある
そのうち「3. UIが使いやすい」の事例として、見やすくわかりやすい表が紹介された。情報の内容だけでなく、表示サイズや視認性まで配慮されており、こうした細かな設計は現在のAIでは難しい領域だ。
また、「6. ロマンスがある」は、松尾氏が独自で作成した「ROMANCEフレームワーク」を紹介。「ハック的ではない、人間の体温を感じられるロマンスのあるコンテンツこそがこれからの時代に求められる」と改めて強調した。
マーケティング&コンテンツ制作の最前線! 松尾氏おすすめの生成AI
セッションの最後に、松尾氏が実際に活用している生成AIのツールや事例が紹介された。最も使われているのが、前述の複数のAIに質問できる「ChatHub」のWebアプリ版だ。商品比較などの調査分析には「Gemini Deep Research」、SEOのたたき台的な分析には「Genspark」の「AIシート」を活用しているという。
松尾氏は、「PEST分析などでは、指示がシンプルでも前提情報をしっかり与えることが重要」と語り、ChatHubを活用して複数の生成AIに分析を依頼し、複数の回答を得てみせた。また、「マズローの六大欲求に則ったマーケティングプランを考えて」といったプロンプトを投げて回答を得る様子も実演した。
こうした分析などでも、コンテンツと同様に、AIによって出力された答えが適切かどうかを判断・評価することが人間の役割として重要。生成AIが活躍するのではなく、生成AIで能力を拡張する人が活躍する時代になる(松尾氏)
そして、最後に「生成AIに頼りっぱなしになるのではなく、普段からスキルを磨いておくことが大切。テクノロジーが進化しても、マーケティングの先には常に人がいる。ヒューマンタッチを忘れないでほしい」とメッセージを送り、セッションを締めくくった。

