【レポート】生成AI × マーケティング フォーラム 2025

“仕事ができる人”だけが知る、マーケティング業務効率化を超える生成AI実践術

マーケティング領域で“仕事ができる人”は、生成AIをどう使っているのか? Xinobi AIの馬渕氏が、生成AIを“相棒”として活用し、業務の効率化を実現する思考法と具体的な実践テクニックを紹介した。

伊藤真美[執筆], ササキミホ[編集]

12月15日 7:05

マーケティング領域で「仕事ができる人」は、生成AIをどのように使いこなしているのか? 「生成AI × マーケティング フォーラム 2025」に「AI駆動マーケティング 業務効率化を超える生成AI実践術」の著者であるXinobi AIの馬渕氏が登壇し、生成AIを相棒として活用し、業務の効率化を実現する思考法と具体的な実践テクニックを紹介した。

Xinobi AI株式会社 共同CEO 馬渕 邦美 氏

生成AI時代が到来! 社会的変革をもたらす生成AIの階層構造とは

デジタルマーケティング業界で豊富なマネジメント経験を持ち、Instagramの日本展開を牽引したことでも知られる馬渕氏。近年は一般社団法人の理事や企業の相談役などを務めながら、産学連携によるAI経営の体系づくりやAIパーソナルアシスタントの開発など、AIを軸に多彩な価値創造に取り組んでいる。

馬渕氏は生成AIを「PCやインターネットに続く、10年~15年続く非常に大きなテクノロジーウェーブの一つ」だと語る。とりわけ「大規模言語モデル(LLM)」は数十年に一度の技術であり、社会に大きな影響を与えることは間違いない。それは、労働者の約8割がAIの影響を受けると示唆した論文からもうかがえ、マーケティング業界も例外ではない。

馬渕氏の整理によると、生成AIは「階層構造」でできているという。まず最下層は「コンピューターパワー」であり、これはインフラのことだ。AIの計算を担う頭脳であるGPU。その市場は、NVIDIAが世界シェアの90%を占めている。そして、その次は「データ」だ。世界中のインターネットのデータから、企業内に眠るデータなど、さまざまなデータがある。

生成AIの構造

さらに、その上はChatGPT、Gemini、Claudeなど「モデル」の階層で、最上層は「AIエージェント」と呼ばれる「アプリケーション」の階層だ。近年は、この「アプリケーション層」に注目が集まり、2025年を「AIエージェント元年」と呼ぶ人も多い。生成AIの発展は「数年で1000倍」と言われるが、それはインフラからエージェントまで全ての階層で技術が大きく成長しているからだ。

AI活用が必須スキルに。AIを“相棒”として、人間の創造性を拡張する

また、「これまでの技術革新と比較しても、生成AIの進化スピードは非常に速い。マーケティング業界でも、データ分析や業務の多くがAIに置き換わる可能性があり、『あったら便利』ではなく『必須』の時代になりつつある」と指摘する。スマートフォンやインターネットが当たり前になったように、数年後にはAIの活用が必須スキルになるとし、「読み書きそろばん、そしてAI」という表現で、AIリテラシーの重要性を説いた。そして、「仕事ができる人とできない人の違いは、AIを活用できるかどうかにある」と改めて語った。

では、どうしたらAIを自分の相棒として効果的に活用できるのだろうか。馬渕氏は、「複数のAIツールを目的や用途に応じて使い分けること」の重要性を指摘する。そのためには、まずはさまざまなAIツールを触ってみることが望ましい。また、テクニックよりもAIに「何を聞くか」の設計と結果の評価が、よりよい効果を得るために必要となる。さらに、「人間らしさを付加価値にする」ことが重要だとし、AIでアウトプットを出して満足するのではなく、問を立て、アウトプットを評価し、意思決定し、実行に移すことの大切さをあげた。

仕事ができる人は何が違う? 生成AI活用力が「仕事ができる」の基準に

馬渕氏自身も、寝る前にAIエージェントに指示を出し、朝に成果物を得ているという。睡眠時間を活用しているので、自分の能力や時間を2〜3倍に拡張している実感があるという。従来型のAIは予測や既存ルールの組み合わせによるアウトプットであったが、今どきの生成AIは既存のデータから学習し、テキスト、画像、動画などの新しいコンテンツを作り出せる。生成AIは単なる業務効率化ツールではなく、人間の創造性を拡張し、新たな表現や解決策を生み出す「相棒」となったというわけだ。

2025年は「AIエージェント」の時代。さまざまな仕事がAIに置き換わっていく

AIの進化の歴史を振り返ると、ルールベースAI、機械学習のブームを経て、現在の生成AIは第4次ブームと言われている。生成AIの進化ポイントとして、以下の3点があげられる。

  1. マルチモーダル(テキストだけでなく、画像・映像・音声など複数のデータ形式を統合処理する能力)
  2. RAG(Retrieval-Augmented Generation:データベースとの連携)
  3. リーズニングモデル(ロジカルな推論能力を強化したモデル)

こうした進化を経て、2025年は「AIエージェント」の時代と言われている。AIエージェントの特徴は「自律的に動く」ことであり、指示を受けると自動的にタスクを要素分解し、実行して結果を出してくれる。馬渕氏は具体例として、CursorやDevinなどのプログラミングエージェントを挙げ、指示に基づいて自動的にプログラミングを行い、エラー修正までできることを紹介した。これにより、簡単なプログラミング業務はAIに置き換わっていく可能性があると語った。こうしたAIエージェントは、今後続々と身の回りに増え、さまざまな仕事がAIに置き換わっていくだろう。

マーケティング領域でも広がる生成AI活用。広告や検索体験がAIによって変わる

マーケティング領域においても、AIの活用領域は広がっている。馬渕氏は、その領域として以下の6領域をあげた。いずれもマーケティングに携わる人なら親しみのある領域であり、それぞれを得意とするAIサービスもある。すぐにチャレンジできるものもあるだろう。

  1. テキスト生成(キャッチフレーズ作成、A/Bテスト用バリエーション作成)
  2. 画像生成(広告バナー、キャンペーンコンテンツ)
  3. 動画生成(プロモーションビデオの素材)
  4. 音声生成(ナレーション)
  5. 音楽生成
  6. プログラミング(コーディングエージェント活用)
マーケティングにおける生成AIの6つの活用領域

今後は、デジタル広告にも構造的な変化が生じてくるのは明らかだ。たとえば、FacebookやGoogleなどのプラットフォームの管理画面はさらにAIによる自動化が進み、効率性の高いキャンペーン運用が可能になる。また、検索領域においてはAI OverviewsなどGoogleのAIサマリー機能により、ユーザーの検索行動が変わってきている。従来は検索結果を見てクリックしていたが、AIサマリーで情報を得て離脱するケースが増えている。SEOに加えて、AIエージェントに認識・引用されるための最適化(AIO)など、マーケティング戦略の根本的な見直しが必要だ。

AI革新により、大手企業の戦略も大きく変化している。GoogleではAI Overviews導入により検索結果の変化、Metaでは生成AIクリエイティブ機能やAIサンドボックスによるシミュレーション機能、AmazonではAI画像生成機能の導入などが進んでいる。主要プレイヤーのAI活用戦略を把握し、変化に対応していく必要がある。

生成AI活用には「言語化力」が重要。上手く言語化できるとさまざまな場面でAIが活用できる

では、マーケティングでどのように生成AIを活用していくのがよいのか。生成AI活用には次の3つのレベルがあり、まずはこれらを意識してAIを活用する方法を探るとよいという。

  1. ヒアリング(情報収集・調査での活用)
  2. ジェネレート(たたき台・クリエイティブのバリエーション制作)
  3. クリエイト(AIと協働しながら最終アウトプットを作りあげる)
生成AI活用の3レベル

また、AIの活用において不可欠な「プロンプトエンジニアリング(AIへの指示出し)」について、馬渕氏は「リーズニングモデルの登場により、プロンプトエンジニアリングの重要性は低下したという見方もあるが、うまくAIを活用していくためにはまだ重要だ」と語る。

生成AIとマーケターの相性が良いとされるのは、マーケターに必要な言語化力と生成AIの親和性が高いからだ。AI活用でまず重要なのは「問いを立てること」と先に述べたが、それは具体的には、ゴールを意識して、どういったものを作りたいのか言語化し、生成AIにリクエストするということだ。つまり、言語化力が非常に重要だ。上手く言語化できれば、テキスト、画像、映像などさまざまなアウトプットを生み出したり、ブレインストーミングによってキャンペーンを磨き込んだり、キャンペーンの結果を分析するといった場面で生成AIが活用できる。

プロンプトエンジニアリングのスキルを上げる9つの実践テクニック

馬渕氏は次の図にプロンプトエンジニアリングの9つの実践テクニックを示した。これらを組み合わせ、使い込んでいくことで、プロンプトエンジニアリングのスキルが上げられるという。

プロンプトエンジニアリングの9本柱

さらに9つの実践テクニックごとの具体的なプロンプト例を紹介した。以下の内容を参考にプロンプトエンジニアリングのスキルアップに取り組んでみて欲しい。

①役割明記②ゴール明記③アウトプット形式指定のプロンプト例
④遵守ルール⑤具体例⑥思考の連鎖のプロンプト例
⑦バリエーション出力⑧過去データ参照⑨フィードバック反映のプロンプト例

なお、生成AIサービスには、それぞれ得意・不得意があるため、目的に応じて使い分けることが必要だ。

生成AIの主要サービスの比較表

さまざまな生成AIサービスをどんどん試して、この用途にはこのサービスが使えると自分で発見していくのがとても大事。それが生成AIを使っている他者と差別化するポイントにもなるので、ぜひチャレンジして欲しい(馬渕氏)

Deep Researchと、NotebookLMを活用した2つの実践事例

続いて、馬渕氏は2つの実践事例を紹介した。1つ目は、Deep Researchを活用したリサーチ方法だ。競合調査やマーケット分析などに活用し、前述のテクニックを意識して磨き込んでいくことで、従来1〜2か月かかっていた作業を数時間で完了できるという。

実践事例①Deep Researchを活用したリサーチ方法

2つ目に競合分析の自動化としてGoogle NotebookLMを使ったIR情報分析方法を紹介した。馬渕氏の活用例として、飛行機に乗る前に読みたい論文をGoogle NotebookLMにソースとして登録し、音声を作成して、その音声を飛行機で聞くというTipsも紹介された。

実践事例②競合分析の自動化

気になるAIのリスク管理と、未来への展望

さらに馬渕氏は、AIを活用する上で重要となる「AIガバナンス」について説明した。倫理的・法的課題への対応として著作権やセキュリティの問題に触れ、「大手テック企業のAIモデルを使用する場合は、基本的にセキュリティは担保されているため、過度に心配する必要はない」と語った。

今後の課題として、企業が自社のAIエージェントやサービスのAI化を進める中で、ガイドラインの整備が追いついていない状況があると指摘した。それでも日本政府はAI領域において比較的早く動いており、AI事業者ガイドラインなどは既に発表されているという。今後も政府のガイドラインを参考にしながら、著作権やサイバーセキュリティなどに留意しながら活用していく必要がある。

生成AIの未来の展望として、「業界特化型のカスタムAI」の登場が予測されるという。既に日本の某広告代理店ではカスタムAIが作成され、マーケティング業務の自動化を試みる動きがあるという。オープンソースAIに自社情報を読み込ませ、新しいAIを作る試みも進んでいる。将来的には「1人1AI」の時代が来る可能性があり、デスクに1つのGPU(AIチップ)が搭載され、個人専用のAIが当たり前になるかもしれない。

今始めると、AI×マーケティング業界のパイオニアになれる

最後に馬渕氏は、「マーケターがAIをどう活用すべきか」というテーマについて「AIと人間がいかに共創していくかが重要」と述べた。「AIは効率性・分析力・再現性に優れ、人間は感性・想像力・判断力・実行力が強み。それぞれの得意分野を活かす共創関係が重要」と語った。

そして、AIエージェント時代の人間の働き方について、「AIを活用する上で重要なのは『入口と出口』であり、入口では問いを立てること、具体的な指示を出すことが人間の役割。中間の作業はAIが担当し、出口では人間がアウトプットを評価して実行に移すという流れが理想的」と語った。

AIエージェント時代の働き方

なお、AIを活用することで、マルチスレッド・マルチタスクでの作業が可能になり、複数の仕事を並行して進められるようになり、生産性が上がっていく。

最後に、明日から始められるAI活用のステップとして、以下の4ステップを提案した。

  1. 基礎理解からスタート
  2. 無料のツールで実践開始
  3. プロンプト力を鍛える
  4. リサーチから始めて効果を実感する

特にDeep Researchなど情報収集系の活用から始め、効率化の効果を体感することで、AIの使いこなし力と仕事の基礎力を同時に高められると説明し、「小さく始めて繰り返し改善していくアプローチ」の重要性を強調した。

馬渕氏は、「AIとの競争で、自分の強みやアイデンティを発揮する時代となることは間違いない。これからの10年〜15年はAIが席巻する時代になることは明らかで、今始めることでAI×マーケティング業界のパイオニアになれる」と語り、「AIとの共創で、自分のクリエイティビティを磨き込み、他者との差別化を図り、社会に貢献する力を身につけて欲しい」と激励し、セッションのまとめとした。

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