GA4で利用できるようになったMCP(Model Context Protocol)サーバー。Webアクセス解析にかかる工数を大幅に削減できると期待されている。そこで、「生成AI×マーケティングフォーラム 2025」に、Webアクセス解析の第一人者であるHAPPY ANALYTICSの小川卓氏が登壇。MCPサーバーを用いたAIとGA4 連携を軸に、設定手順、運用メリット、実演フロー、レポート自動化、活用プロンプト、制約などについて、デモを交えながら紹介した。
MCPサーバーを使えば、生成AIからWebアクセス解析が可能に
MCPサーバーは「AIがGA4のデータにアクセスするための橋渡し役」と小川氏が説明するように、MCPサーバーを設定しておけば、GA4を直接開かなくても、データ取得・分析・レポーティングまでが実行可能だ。しかも、生成AIの画面上で、自然言語による質問や指示をするだけでよい。
MCPサーバーの特徴は、次のように整理できる。
- データ取得:Google AnalyticsなどのAPIを通じてデータを取得
- セキュア連携:OAuth2(Open Authorization 2.0)などを使って安全に認証
- 自然言語の処理対応:AIからの質問をAPIリクエストに変換し、結果をわかりやすい形で返す
- リアルタイム対応:リアルタイムデータも取得可能(※対象システムによる)
MCPサーバー自体は基本的に無料で利用できる。しかし、生成AIサービス側に無料枠の制限があるため、利用状況によっては有償版の利用を検討したほうがいい。
メリットは、「今日のオーガニック検索からの流入量は?」「コンバージョンが増えた要因は?」などと、自然言語で質問して分析結果を得られることです。しかも、最初の設定さえ済ませてしまえば、以後は生成AIの画面から分析ができるようになります(小川氏)
初回の設定は30分〜1時間で完了。権限のみ注意が必要
続いて、MCPサーバーの設定方法が説明された。詳細な手順は小川氏のWebサイトにも掲載されているため、ここでは考え方と注意点を中心に整理する。
参考:
Google Analytics MCP Serverを利用し、AIで無料分析を開始する方法をわかりやすく解説(画像手順書付き)Claude編
まず、前提条件として以下が必要だ。
- Google Cloud アカウントと編集権限
- GA4の対象プロパティでユーザー権限付与が可能であること
- 生成AIサービスの登録:本講演ではClaude(クロード)を用いているが、Gemini(ジェミニ)やChatGPT(チャットジーピーティー)も対応可能
小川氏は、生成AIとしてClaudeを推奨。その理由として、「コマンドプロンプトやターミナル操作が不要でUIで設定できる点」「デスクトップアプリで利用できる点」「基本的に無料(有償版は月額20ドル)である点」をあげた。
以下が設定の主なステップだ。
- STEP1 Google Cloudプロジェクトの作成:Google Cloud上で新規プロジェクト(任意の英数字名)を作成する。
- STEP2 APIの有効化:ライブラリから「Google Analytics Data API」を検索し、有効化する。
- STEP3 デジタルキーの作成:サービスアカウントを作成し、デジタルキーを発行する。
- STEP4 認証情報ファイルのダウンロード:認証用の鍵ファイルを、推奨されているJSON(JavaScript Object Notation)形式で作成・ダウンロードする
- STEP5 GA4に権限の付与:JSONファイル内のclient_emailに含まれているメールアドレスをコピーし、GA4の対象プロパティに「アナリスト権限」で追加(管理者権限が必要)。
- STEP6 GA4からプロパティIDの取得:GA4のプロパティID(9桁の数字)をコピーして保存。トラッキングIDと混同しないよう注意する。
- STEP7 node.jsのインストール:ローカル環境にnode.js(LTS版)をインストールする。
- STEP8 Claude Desktopのインストール:あらかじめClaudeアカウントを作成し、Claude Desktopをインストール・起動する。
- STEP9 Claude Desktopでの設定:開発者メニューから「設定を編集」を選択し、claude_desktop_config.jsonを開いて以下の内容に差し替える。
html
{"mcpServers": {"google-analytics": {"command": "npx","args": ["-y", "mcp-server-google-analytics"],"env": {"GOOGLE_CLIENT_EMAIL": "your-service-account@project.iam.gserviceaccount.com","GOOGLE_PRIVATE_KEY": "-----BEGIN PRIVATE KEY-----¥nYOUR_PRIVATE_KEY_HERE¥n-----END PRIVATE KEY-----","GA_PROPERTY_ID": "123456789"}}}}
さらに、以下の3項目を、実際の情報に差し替えて保存する。
- GOOGLE_CLIENT_EMAILの部分を、STEP4でダウンロードしたJSONファイルの中身と差し替える
- GOOGLE_PRIVATE_KEYの部分を、同じくJSONファイル内のprivate_keyの値と差し替える
- GA_PROPERTY_IDの部分を、STEP6で取得したプロパティIDと差し替える
すべて保存したらClaude Desktopを終了し、念のため、タスクマネージャーでプロセスを終了し、再起動をする。コネクタ欄にGoogle Analyticsが接続済みと表示されれば設定完了だ。
なお、その他のAIサービスでの連携方法は以下になる。
Geminiでの設定方法:
https://www.siteengine.co.jp/blog/google-analytics-mcp-setting/
ChatGPTでの設定方法:
https://note.com/_shuji/n/n524034cc6c83
Webアクセス解析をしてみよう
設定が完了したら、いよいよレポートを作成してみよう。本講演では、2025年6月と7月のデータを比較し、全体の増減や重要なインサイトを抽出する一連の流れが、デモを交えて紹介された。
たとえば、Claudeで新規チャットを作成し、「コネクタで接続しているGA4データの2025年の7月と2025年6月の流入関連の指標を比較してください」と入力すると、ClaudeはGA4のデータを取得し、前月比較レポートを自動で作成する。
上図のように、全体の数字や主な変化点、注目すべき気づきなどをわかりやすく返してくれる。さらに、「数値が改善した理由を流入元やランディングページの観点から教えてください」と質問を続けることで、より深い分析をしていける。
デモでは、特定の記事の露出増加に伴い、ソーシャル・検索・外部流入が急増していることが明らかになった。そこで、その結果をもとに「これからどのようなコンテンツを増やしたら検索流入が増えるでしょうか? サイトの他のコンテンツも参考に案をいくつかください」と聞いてみると、参考URL付きで具体的なテーマ案が提案された。
さらに「これらのコンテンツを用意することで、どれくらいの流入が伸びそうか予測をしてください」と投げると、保守/現実/楽観の3つのシナリオ別に効果予測を出してくれた。
PowerPointのレポートを作成しよう
取得した分析結果を、上司やクライアントにわかりやすい形でレポート化することもできる。Claudeに、「ここまでの内容をまとめたうえで、PowerPointに落とし込める構造化ドキュメントを作成してください」と指示すると、ページごとのアウトライン構成を提案してくれ、しかもそれをダウンロードできる。
講演当日は、ちょうどClaudeがPowerPoint対応をリリースした直後ということもあり、実際にAIにスライド作成を依頼するデモも行われた(ただし、この時は時間を置いたものの生成できなかった。今後の安定に期待したい)。そこで、スライド生成に強みのあるGenspark(ジェンスパーク)やGamma(ガンマ)で事前に作成したスライドが紹介された。
さらに、その生成内容を見て、保守・現実・楽観の3シナリオの折れ線グラフ化など、修正を指示していくわけだ。Gammaを使えば、内容について、簡素化/長文化などの指示も簡単にできる。
ただし、プロンプトが悪いと良いアウトプットは得られない。小川氏は、AIによるレポート作成で注意すべき点を次のように語った。
分析の切り口を提示しないと、全体的な数字の増減を見て終わってしまい、改善案もSEOやUIなど一般論にとどまります。明確な示唆を得るためには、どの数字を・どのページで・どのように上げたいかを具体的に指示する必要があります。
また、PowerPoint資料作成においても、AIっぽさが残るアイコン、写真などは人の目で調整してください(小川氏)
気づき発見のための5つのプロンプトタイプ
では、人間がAIに提示すべき「切り口」とはどんなものだろうか? 小川氏は、分析を深めるための5つのプロンプトタイプを紹介した。
①グルーピング:テーマやカテゴリごとにまとめて分析
商品数の多いECサイトや、記事の多いオウンドメディアでは、ページ単位ではなくテーマ単位・ディレクトリ単位でグルーピングして集計を指示することがポイントになる。たとえば、「特集ページは/special/配下にあります。/special/配下の各ページを相対的に評価してください」とすれば、 比較対象にしたくないページを除外し、テーマごとの成果を整理できる。
②分割:粒度を細かくして行動の特徴を探る
チャネルやキャンペーン単位が大きすぎる場合は、細分化して比較する。「オーガニックの中でGoogle、Yahoo!、Bingを比較」「X、FB、YouTubeの広告キャンペーンの成果の比較」といった具合だ。あるいは、時間帯、曜日ごとに分割してユーザー行動の特徴の分析を指示するといい。
③比較:基準を置いて良し悪しを判断する
単一期間・単一ユーザー群の数字だけでは傾向が見えづらい。「平日/週末」「リニューアル前後」「四半期推移」など、比較対象を設定して違いを把握していく。
④仮説をあてる:意図を持ってAIに検証してもらう
自分が「こうなるはず」と想定している変化をAIに検証させる。たとえば、「記事Aの導線改善で過去の記事と比べて成果がでているかを確認して」「会員獲得キャンペーン実施月と他月を比較して」などを指示する。
⑤改善案の相談相手:次の施策を一緒に考える
これまで蓄積されたデータを活かして、これから実施する施策について意見を求めることができる。たとえば、翌月のFacebookでの会員獲得キャンペーンのクリエイティブの注意点、記事のキーワード提案、記事案の提案などを指示できる。
制約と限界を理解して、上手に付き合う
便利なMCPサーバーにも、いくつかの制約がある点には注意が必要だ。たとえば、GA4のセグメントやオーディエンス機能は利用できない。「購入2回のユーザー」と「購入10回のユーザー」の行動を比較するといった、ユーザー層ごとの動きを深掘りする分析は現状できないという。
また、ファネル分析や経路分析にも非対応だ。「フォーム登録完了までの遷移率」など、ページごとの離脱や推移を可視化したい場合は、生成AIで全体傾向をつかんだうえで、最終的にはGA4の探索機能あるいはBigQueryと生成AIをつないで確認するのが現実的だろう。
月次レポート用プロンプトを公開!
Webアクセス解析では、定期的にレポートを作成しているという人が多いだろう。このレポート作成に、AIとGA4を活用することでこれまで手作業で行っていた集計やレポート作成を大幅に効率化できる。
小川氏は講演内で、月次レポート作成用のプロンプトを公開した。以下からダウンロードが可能だ。
このプロンプトでは、基本指示として、期間、目的、比較対象、出力形式の指定をし、事前確認として、複数キーイベントのうちどれを使うかなどを聞いて回答するようになっている。
また、すぐに報告資料として活用できるように、エグゼクティブ・サマリー、改善施策一覧、10個の指標によるサイト評価、時系列の流入推移、重点取組などが含まれている。
このプロンプトをもとに、サイトにあわせて数値や指標、項目を自由に変更できる。出力された内容をGensparkなどのツールにアップロードすれば、スライド資料化まで可能だ。
初心者・中級者のWeb解析の工数を大幅削減できる生成AIレポートを活用しよう
ここでよくある質問に、小川氏が回答した。
Q:データの精度は?
A:基本的にはGA4と一致。ただし、1〜2%程度の差異が生じる場合があります。プロパティIDの設定ミスで異なる数字を収集することがあるので、初回は、GA4画面で数値の突合作業をしてほしい。
Q:どんなデータも取得できるのか?
A:探索系の高度機能(コホート/パス/ファネル/ユーザーエクスプローラーなど)は対象外。それ以外の基本的なレポート集計は可能です。
Q:複数のプロパティに対応できるのか?
A:可能です。JSONファイル内に追加をすることで対応できます。プロンプト送信時にどのプロパティかを入れてあげましょう。
最後に、小川氏は次のように話し、講演をしめくくった。
初期設定さえできれば、会話形式で分析でき、定型レポートの作成も可能なので、初心者~中級者が、GA4と生成AIを使って分析できるような世界観が実現できると思っています。まずはいろいろ質問をしてみて、改善案の精度をあげながら、自分にあった生成AIサービスを使ってください。現状では、この方法で分析・レポート作業の工数を大きく削減していけると思います(小川氏)
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