AI時代のマーケターは「創る人」になる――クリエイティブから分析までを1人で完結させる4つの事例
日進月歩で進化する生成AI。つい最近まで「まだ実用的ではない」と評されていた動画生成の分野でも品質が格段に向上し、クリエイティブ業務での活用が現実味を帯びてきている。そんな生成AI時代にマーケターに求められるのは「創る力」だ。AIを活用することで、これまでデザイナーやエンジニアに依頼していた領域を、マーケター自らの手で担えると訴えるのは、Brazeの吉永敦氏である。
「生成AI × マーケティング フォーラム 2025」に登壇した吉永氏は、マーケターとAIの協働が生み出す新たな価値、そしてカスタマーエンゲージメントプラットフォームである同社の「Braze」を活用して、顧客体験を「創る」プロセスを解説した。

AIを標準搭載したカスタマーエンゲージメントプラットフォーム「Braze」
2011年に米ニューヨークで創業したBrazeは、現在グローバルで拠点を拡大中だ。世界全体では2,200社以上、延べ72億人の月間アクティブユーザーを擁し、日本でも2020年から事業を展開、リテールから金融まで幅広い業界で100社以上が導入している。
「Braze」は、AIを標準搭載したカスタマーエンゲージメントプラットフォームだ。メール、アプリプッシュ通知、LINE、SMSなど、複数のチャネルを単一のプラットフォーム上で統合的に管理できる。搭載されたAIは、メッセージ文面の作成やトーン調整、配信パターンの提案といったクリエイティブ支援に加え、配信タイミングやチャネルの最適化まで可能だ。さらに、自動A/Bテストやカスタマージャーニー全体の最適化もAIが判断し、顧客体験の質を高めていく。
顧客接点のさまざまなデータをBrazeが処理し、人間とAIの意思決定に活用することで、顧客にとって最適なタイミング、文脈、チャネルでメッセージを届け、よりよい顧客体験の実現を支援します(吉永氏)
多様なコネクタやSDKも標準搭載されており、データの取り込みから配信までを平均約1.1秒で処理できる高いパフォーマンスが特徴だ。データ形式も柔軟で、後からの追加・修正も容易である。さらに、多様な拡張にも対応しており(MCP:Model Context Protocol)、150以上のパートナー連携と100以上のAPIを備えている。
「創る力」がマーケターの武器になる。AI活用の4事例
従来、マーケターはデザイン、実装、配信、データ分析をそれぞれの担当部署に依頼して施策を実行するのが一般的であった。しかし、生成AIの登場によって、このワークフローが大きく変わろうとしている。
生成AI時代では、創る力と適切な問い(プロンプト)を武器にすれば、マーケター自身が、制作から施策実行、分析までを1人で完結できるようになります。他の人に依頼せず、制作から施策実行までをすべて自分で完結できるという意味で、今こそ最高のマーケターになれる時代が来ています(吉永氏)
吉永氏はそう語り、AI活用の具体例を以下の4点に分類し、AI時代に求められる「創る力」と「プロンプト設計力」について、実例を交えて解説した。
- メール/クリエイティブ作成
- メール配信
- 配信メールの分析
- 業務効率化
AI活用の具体例①HTMLメール/クリエイティブ作成
架空ブランドのオンボーディングHTMLメール作成
使用生成AIモデル:ChatGPT-5 Thinking
吉永氏は、架空のブランド「AstraLoop」を想定し、ChatGPT-5 Thinkingモデルを使って実施した施策を紹介した。生成AIは、ブランドロゴやエレベーターピッチの提案まで生成してくれる。生成AIにAstraLoopの新規サブスク会員向けオンボーディングメールのHTMLを依頼すると、以下のような案が即座に出力された。
出力されたHTMLのテキストをコピーしてBrazeに貼り付ければ、ロゴイメージやメッセージ、受信者の氏名を差し込むBrazeのパーソナライズタグまで挿入されたメールが瞬時に完成した。
実物写真+ブランドメッセージからクリエイティブ作成
使用生成AIモデル:Gemini 2.5
続いて吉永氏は、沖縄で購入したというボディミストの写真とブランドメッセージを用いて、Gemini 2.5で広告用バナーを生成した事例を紹介した。使用したプロンプトは次の通りだ。
この商品を自社のEC内でプロモーションするバナーを作りたいと思います。商品の特徴は爽快感と沖縄を思い出すようなシークワーサーの香りです。背景を綺麗な珊瑚が溢れた沖縄っぽい海岸沿いにしつつ、買いたいと思わせるような爽快感を演出してください。 また、バナーの上部には右側の写真のメッセージを使ってください。
実際のプロモーションに使っても遜色ない画像が生成されました。プロンプトには、カットしたシークワーサーのイメージの挿入を指定していませんでしたが、AIが判断して商品の横に追加していました。このように、HTMLメールも広告クリエイティブも、わずかな指示で簡単に作成できる時代になっています(吉永氏)
AI活用の具体例②メッセージ配信
メールやクリエイティブを制作したら、ターゲットへ届けることを考えるフェーズとなる。AI時代は、顧客自身も大量の情報に触れているが、その中で目に留まるためには、適切なタイミングとメッセージが重要だと吉永氏は話す。マーケター自身が、多様なパターンを検証しながらコミュニケーションを設計する必要があるが、これが難しいのが現状だ。
同社が行った調査によると、ブランドからのLINEメッセージ体験において、メッセージの「内容(What)」については一定評価される一方、「興味との一致」と「タイミングのよさ(How)」は低評価だった。
こうした課題に対し、BrazeのAIが大きな役割を果たす。人手では難しい最適化をAIが支援し、次の3つの効果を実現する。
- AIによる文面提案で、作成時間を短縮
- 個々のユーザーに合わせた送信タイミングの最適化で、エンゲージメントを向上
- ユーザースコアリングによる、送信相手の選定・特定
いつ、誰に、何を送るかを決めた後は、シナリオの設計が重要です。Brazeでは、直感的なUIでシナリオを構築でき、配信と同時にA/Bテストを重ねながら勝ち筋を見つけていくことができます。AIはその結果を学習し、タイトルやコンテンツを自動で差し替えながら、最適な組み合わせを自律的に意思決定できるようになります。
BrazeAIを活用することで、いわゆる4R(Right Message[適切なメッセージ]・Right Timing[適切なタイミング]・Right Context[適切な文脈]・Right Channel[適切なチャネル])を実現する顧客コミュニケーションの世界が、すぐそこまで来ています(吉永氏)
AI活用の具体例③配信メッセージの分析
配信を終えたあとは、結果を分析するフェーズに入る。これまでデータ分析は専門家に依頼することが多かったが、AIの登場によりそのハードルは大きく下がったと吉永氏は語る。
先進的なマーケターの中には、すでに生成AIに問いを投げかけて分析を行っている人もいる。たとえば、施策のパフォーマンスデータをCSVなどで出力し、スプレッドシートに集約する。そのデータを生成AIにインポートし、競合調査や最新トレンドを踏まえて、施策効果の分析を自然言語で行うというものだ。
分析結果を踏まえて、次のアクションを決めるプロセスにAIを活用している事例があります。Claude、Grok、Gemini、ChatGPTなど複数のAIエージェントに並行で使い提案させて、それぞれの結果を比較することも現実的になっています。つまり、分析した結果から、AIと次の一手を考えるという世界観です(吉永氏)
こうした流れを支援するために、BrazeはMCPサーバー(Model Context Protocol Server)の提供を開始している。
自然言語で質問するだけで、パフォーマンスの傾向や次のアクションの提案を受けられます。結果を一覧で出力するだけでなく、グラフ化などのビジュアライズも可能です。また、日本語をはじめとする各国語に対応しているのも使いやすい点です。MCPはBrazeだけでなく、NotionやFigmaなども公開しており、連携させることでさらに可能性が広がり、生産性の向上につながります(吉永氏)
AI活用の具体例④業務効率化
しかし日々の業務に追われて、「創る時間なんてない」というマーケターもいるかもしれない。そんな人に吉永氏が提案するのが、自分で業務効率化ツールを作成するという発想だ。背景には、OpenAIが「ソフトウェアはオンデマンドで作る時代が来た」と述べていること、また一本でCodex などのコード生成に特化したAIモデルを提供し始めていることも関係している。
吉永氏は、「自分専用メッセージ生成アプリ」の作成フローを紹介した。このアプリは、キャンペーン名、ターゲット、目的を入力すると、メール、プッシュ通知、SNS投稿などを一括で生成できるというものだ。
吉永氏が用いたのは下図のプロンプト例で示したテキストだ。
もちろん、1発のプロンプトで完璧なアプリが作れるわけではない。実際には途中でエラーが出たため、その修正をAIに指示しながら、チャンネル切り替えや提案数の追加、コピー用ボタンの実装などの仕様変更を繰り返した。しかし、わずか30分ほどでツールが完成したという。
完成したアプリでは、キャンペーン内容に応じて各チャネル向けのメッセージが自動生成される。吉永氏はこれを「自分専用ソフトウェアをオンデマンドで創ること」と表現した。
「バイブコーディング(Vibe Coding)」と呼ばれるこの手法を使えば、日常業務で繰り返している作業を効率化するツールを、自分自身で作成できます(吉永氏)
創るマーケターになるための第一歩を踏み出そう
生成AIの登場によって、これまで分業に依存していたマーケターのワークフローが大きく変わりつつある。吉永氏は、AIによって「創る力」を軸に自分で完結できるようになった今が、マーケターにとって最高の時代だと力を込める。
AI時代に適応するためには、AIを活用して創造と実行を一貫して行える、オーケストレーション人材になることが求められます(吉永氏)
できるところからAIを使ってみることが第一歩だという。たとえば、分析やメッセージ作成、スライド作成など、すぐに着手できる領域から始めてみることを吉永氏は提案する。また、クリエイティブの生成は情報が豊富にあるため、実際に手を動かして試すことがおすすめだ。
一方で、配信や効果測定などの最適化には、Brazeのような専用ソリューションを活用するのが現実的だ。予算が限られている場合は、ツールを自作することで十分に代替できる可能性がある。
日常の業務や外部に依頼しているタスクの中に、AIで代替できるものがないかを見直してみましょう。AIで創れる範囲は日々広がっています。だからこそ、創る力を身につけていくことが大切です(吉永氏)
最後に吉永氏は、今回紹介した資料の一部をGensparkをベースに作成したと明かし、個人がAIを使って創る力を身につけることの重要性を改めて強調して、講演を締めくくった。
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