【レポート】Web担当者Forumミーティング 2025 秋

Webサイトを短期間で構築するための実践ノウハウ~事例で学ぶCMS活用とAIによる効率化~

Webサイトを短期間で構築するためのノウハウや、AIを活用したコンテンツ制作の効率化手法をジー・サーチとサイトコアが解説。

野本 纏花[執筆]

12月18日 7:05

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新規立ち上げにせよ、リニューアルにせよ、Webサイト制作関連のプロジェクトで、時間的な余裕があることは多くない。

たとえば、「新サービスのローンチやキャンペーン開始時期に間に合わせたい」「サーバーの保守切れ期限が迫っている」「企業合併や分社化によってロゴやドメインが使えなくなる」など、何かしらの、のっぴきならない“大人の事情”によって、リリース日が強制的に決まるところからスタートすることのほうがむしろ多いのではないか。

Web担当者Forum ミーティング 2025 秋」では、数々のCMS導入プロジェクトを手掛けてきたジー・サーチの高橋氏と、デジタルエクスペリエンスプラットフォーム「Sitecore(サイトコア)」を提供するサイトコアの森澤氏が登壇。Webサイトを短期間で構築するためのノウハウや、AIを活用したコンテンツ制作の効率化手法などが語られた。

株式会社ジー・サーチ コンテンツサービスグループ デジタルプロデュース部 マネージャー 高橋一夫氏(左)、サイトコア株式会社 ソリューションコンサルタント 森澤仁氏(右)
株式会社ジー・サーチ コンテンツサービスグループ デジタルプロデュース部 マネージャー 高橋一夫氏(左)、サイトコア株式会社 ソリューションコンサルタント 森澤仁氏(右)

3つの事例で見るWebサイト短期構築の勘所

最初に高橋氏は、過去に携わった顧客事例の中から3パターンを取り上げ、それぞれのケースにおいてどのように課題を解消していったかを解説した。

課題① 新事業・新サービスのリリースに合わせ、短期間でサイトを構築したい

新事業・新サービスの立ち上げに集中するあまり、Webサイト制作の着手が後回しになったケースである。新事業・新サービスのリリース日に合わせ、新ブランドサイトや商品サイトをリリースしなければならない。

この場合は、「新規ミニマム構築型」でサイトを制作する手法が取られた。新規コンテンツ(20~30ページ程度)を最小構成で作成し、クラウド環境上に構築。Bootstrapなどのフレームワークを活用して、デザイン作業の効率化を図る。

情シス部門が関与しないケースが多いため、企画部門主導で進められる構成とし、CMSのコンポーネントは必要最小限に抑え、開発手法はアジャイルを採用したという。

新規ミニマム構築型の例
新規ミニマム構築型の例

メリット

  • 短期間で構築可能
  • 新事業・新サービスのリリースに間に合わせられる

デメリット

  • 大量コンテンツの登録には向かないため、定型的な内容に限定するなどの調整が必要になる

課題② 資本変更により新環境へ、短期間で新規サイトを構築したい

親会社変更や分社化などの資本構造の変化により、既存環境やロゴ・ドメインなどが使えなくなったケースである。会社設立日までにWebサイトのリリースを間に合わせなくてはならない。

この場合は「現行ベースリニューアル型」がおすすめだ。ヘッダーとフッターのみ新デザインで刷新し、中身は既存コンテンツの単純移行で対応する。会社概要や役員紹介など、一部コンテンツの新規作成やスタイルシートの修正は必要になるが、比較的スピーディーに構築が可能となる。

CMS基盤はSaaSを採用。コンポーネントは汎用性を重視して、開発負荷を抑える。

現行ベースリニューアル型の例
現行ベースリニューアル型の例

メリット

  • 短期間で構築可能
  • 新デザイン・新ブランドイメージに刷新できる

デメリット

  • サイト構成は変更なし
  • CMSを変更する場合、動的な機能の完全移植は難しくなる

課題③ 現環境のOSやミドルウェア/CMSのサポート終了が迫り、急いで環境を再構築したい

オンプレミスまたはIaaS環境の老朽化により、セキュリティや運用リスクへの対応が急務となったケースである。EOL(サポート終了)予定日にWebサイトのリリース日を間に合わせなくてはならない。

この場合は、既存コンテンツを新CMSへ単純移行する「現行踏襲型」で対応する。CMS基盤はSaaSを採用し、コンポーネントは汎用的なものに限定する。リリース時は最低限の構成とするが、必要に応じて運用フェーズで順次改修やアドオン対応を進めていく。

現行踏襲型の例
現行踏襲型の例

メリット

  • 短期間で構築可能
  • コストを抑えられる
  • 既存コンテンツを活かした継続運用が可能

デメリット

  • 見た目は旧デザインのまま
  • 本格的にリニューアルする場合は、別プロジェクトとして再設計する必要がある
  • CMSを変更する場合、既存の動的機能がそのままでは使えない可能性がある

富士通・事例2つのWebサイトを3.5ヶ月でリリースできた理由

続いては、サイトコアの提供する、CMSと高度なデジタルマーケティング機能が統合したデジタルエクスペリエンスプラットフォーム(以下、DXP)「Sitecore(サイトコア)」を用いて、ジー・サーチの親会社である富士通の2つのWebサイトをわずか3.5ヶ月でリリースした実事例が紹介された。

ひとつは、2021年当時に富士通が立ち上げた新ブランド「Fujitsu Uvance(ユーバンス)」の専用サイトの新規構築であり、もうひとつは、150ページほどある既存ブログサイトの移行である。

3.5か月でサイトリリース
3.5か月でサイトリリース

富士通からジー・サーチに相談があった時点で、Webサイトのリリースまですでに4ヶ月を切っており、さらに新組織の編成前だったことからIT部門の関与が見込めず、CMSやインフラに関する知識を持つメンバーが不在の状態だった。

タイトなスケジュールではあったが、既存サイトが抱えていた「拠点によってデザインがバラバラで統一性がなく、メッセージにも一貫性がない」という課題を解消すべく、従来のCMSからSitecoreへとCMSを変更することになった。

当時はSitecoreにSaaS版がなかったため、「Sitecoreマネージドクラウド」を活用し、企画部門主導でも運用できる環境を短期間で構築した。また、Sitecoreのテンプレートやコンポーネントによって、グローバルで統一性のあるデザインと一貫性のあるメッセージを発信できるようになった。

結果、デジタルマーケティングなどに必要な機能拡張も容易になったほか、オンプレミスからクラウドに移行したことで運用者の負担が下がるなど、多くの効果が得られた。現在では、富士通のメインサイトでもSitecoreが採用されるようになったという。

流動的な要件にアジャイル開発で対応

今回のケースでは、新ブランドの立ち上げにともなうWebサイト構築という性質上、デザインはブランド戦略を専門とするコンサルティング会社が担当した。そのため、ジー・サーチがインフラやCMS基盤を構築しているのと並行して、デザインやサイト設計が進められた。

その後、テンプレートやコンポーネントなど必要な要素が出揃った段階で、クライアント側のサイトオーナーとジー・サーチの開発チームが密に連携しながら、CMS上でのコンテンツ実装と調整をアジャイル的に繰り返すプロセスへと移行していった。

ウォーターフォールとアジャイルの考え方
ウォーターフォールとアジャイルの考え方

こうした進め方は、短期間でサイトをリリースできるだけでなく、サイトオーナーが実際の画面を確認しながら進めていくため、最終的なアウトプットに対する満足度が高くなる傾向がある。

一方で、クライアント側もプロジェクトに深く関与することが求められるため、コミュニケーションコストが増大しやすい。また、Webサイトの規模が大きくなると、複数の開発チームを横断的に調整するための“スクラムマスター的な統括役”が不可欠になる。

フロントエンドとバックエンドを切り分けるヘッドレスCMS

今後はヘッドレスCMSとして、フロントエンド(サイト訪問者向けの公開部分)とバックエンド(管理者向けの非公開部分)を切り分けて、同時進行で開発を進めることが考えられる。

従来型CMSでは、フロントエンドもバックエンドもCMSの中で一体的に構築・運用していた。ヘッドレスCMSでは、CMSはあくまでもコンテンツを提供する役割に特化するため、フロントエンドはCMSのAPI経由でデータを取得して、ReactなどのJavaScriptフレームワークを用いてページを生成することになる。

そのためヘッドレスCMSにすると、下記のようなメリットがある。

  • 構築スピードが格段に向上する
  • 制作の分業がしやすい
  • 特定ベンダーへの依存度が下がる
  • UXやデザイン表現の柔軟性が高まる(CMSの制約から解放される)
  • セキュリティが高まる
  • サーバー負荷が軽減し、コスト削減にもつながる

一般的なヘッドレスCMSでは、コンテンツの表示部分(ビューアー)はCMSに含まれておらず、フロントエンド側で独自に構築する必要がある。だが、SitecoreはヘッドレスCMSでありながらも、見たまま編集できるビジュアルエディターを備えており、開発者だけでなくマーケターにもやさしい設計になっているという。

ヘッドレスCMSのメリット
ヘッドレスCMSのメリット

AIでWeb制作はどう進化するのか

次に、Sitecoreが提供するAI機能と、それによってもたらされるWebサイト制作の効率化について、森澤氏から紹介された。

2001年にデンマークのコペンハーゲンで誕生したSitecoreは、CMSを中心とした製品の提供を開始した。その後、2010年代に入り、パーソナライズ機能、マーケティングオートメーション、アナリティクスなどを統合し、DXPへと進化。これらの機能を既存のツールなどとも組み合わせて使えるよう個別に提供してきた背景がある。そして現在、AIを加え、新たに展開しているのが「Intelligent DXP」である。

具体的にIntelligent DXPで何ができるのか。森澤氏はデモを交えながら、SitecoreのAIを活用してWebサイトの制作・運用を効率化するいくつかの実例を示した。

  1. ブランドの一貫性をAIで保つ: ブランドガイドラインやトーン&マナー、サイトポリシーなどをAIに学習させることで、Sitecore上でコンテンツ編集やコピーライティングの際にガバナンスを効かせることができる。一般的な情報を活用しているわけではないので、ハルシネーションが起きにくい
  2. 翻訳をAIで簡略化: Webページの言語をAIが各言語に自動で翻訳する。事前に読み込ませたブランドガイドラインなどに基づいて翻訳されるため、表現の一貫性を保つことができる。人間による最終チェックは必須だが、これまでのように複数言語のWebページをそれぞれ手動で翻訳する手間を削減できる
  3. 作業タスク管理をAIがサポート: Webサイト制作に必要な作業タスクの作成をAIがサポートする。大まかなマイルストーンを入力すれば、細かい作業内容をAIが推論してリスト化してくれる
  4. AIとの対話でWebページ生成: 米国Gradial社との協業により、AIと対話しながらWebページの作成が可能になった。たとえば、「この素材を使ってハワイ旅行のキャンペーンページを作成して」といった要望を伝えると叩き台が自動生成される

この他、AIと対話しながらコンポーネントを開発する機能も現在開発中だという。

AIに学習させるブランドガイドラインというと、カッチリしたものでなければいけないように思われるかもしれないが、手書きのようなものでもなんでも構いません。あまり気負わず、気軽に試してもらえたらと思います(森澤氏)

このように、Sitecoreは、Intelligent DXPとしてWebサイト制作にまつわるマーケターの実務を支援してくれる。「Sitecoreを活用すれば、内製化も進めやすい」と高橋氏は説く。

近年注目のWebサイト内製化支援

ジー・サーチでは、Webサイトの戦略立案からUI/UX設計、構築、運用、さらにはデジタルマーケティングやコンテンツ制作まで、包括的なデジタルソリューションを提供しているほか、Webサイト構築後の内製化支援も行っている。

ジー・サーチのデジタルソリューション
ジー・サーチのデジタルソリューション

高橋氏は最後に、「ベンダーへの依存度が高いとコストアップが避けられないことから、近年、内製化に関するご相談を受けることも多い。Sitecoreではコンポーネントを組み合わせてテンプレートを作成できるため、技術レベルが高くなくても自社で運用することが可能だ。内製化をご検討の方はぜひ一度お問い合わせいただきたい」と語り、セッションを締めくくった。

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