2001年の創業から25周年を迎え、デジタルエクスペリエンスプラットフォームを提供するサイトコア。世界70カ国、32拠点で約1500人の社員を擁し、約3000のブランドに利用されている。
今回は、サイトコアで8年間にわたりプロダクトを牽引し、マーテック業界で20年の経験を持つChief Product Officer(最高製品責任者)、ロジャー・コノリー(Roger Connolly)氏にインタビューを実施。AIがもたらす体験設計の変化、そしてコンポーザブル時代のCMSの進化について話を伺った。
AI時代のWebサイトの役割とは?
3月10日に「Sitecore City Tour Japan 2026」都内で開催されました。講演タイトルにもある「Building for a World Beyond the Website(ウェブサイトを超えた世界)」とは、具体的にどのような顧客接点や意思決定プロセスを指しているのでしょうか?
ユーザーの意思決定プロセスが変化しています。従来は、キーワードを入力し検索、Webサイトをいくつか調べて意思決定していましたが、「AIが生成した回答」や「SNSのフィード」「レコメンデーション」を通じてブランドを発見するようになっています。
従来のように「ウェブサイトを作ってトラフィックを流し、コンバージョンさせる」という一連の流れはすでに機能しなくなっています。
もちろん、Webサイトは今後もブランドのアンカー(錨)としての役割を持ち続けますが、Webサイトの枠を超えて3つの方向で拡張していく必要があります。
- AEO最適化(Answer Engine Optimization:AI検索最適化):
AIが回答を生成する現代において、AIが生成する回答の中に、ブランドの情報がいかに現れやすくするかが重要です。 - 構造化データの制作:
人間だけでなく、機械(AI)も読み取りやすい構造化データを用いてコンテンツにしていく必要があります。ページ間を行き来させるのではなく、チャネル同士が連携していくことが不可欠です。 - パーソナライズの高度化:
パーソナライゼーションの要件も変わり、多様なタッチポイントの顧客データとコンテンツを1つのプラットフォームに集約し、意思決定できる環境を作ることが求められています。サイトコアの「SitecoreAI」は、これらの接点をオーケストレーション(統合管理)するために設計されています。
ユーザー行動が変わるなか、マーケターはどのような準備をするべきでしょうか?
マーケターの役割や施策は確実に変わります。ブランドがAIチャネル上に現れるための情報整備が急務です。生成AIは、企業が持つ多様な部門や製品の情報をすべて合成して回答を生成します。一方で、企業は複数の部門や商品を抱えています。もし、企業や製品内のメッセージに一貫性(ガバナンス)が保たれていないと、AIを通じて世の中に出るブランドイメージにズレが生じてしまいます。
第三者であるインフルエンサーやSNSによるクチコミ、他メディアのコンテンツなどがAIの出力に非常に大きな影響力を持つようになっています。したがって、今後のマーケターの重要な役割は、AIや第三者が自社ブランドについて「正しく語れる」ように、情報の一貫性を管理し、影響を与えていくことになります。
AIが「体験設計」のプロセスを根本から変える
SitecoreAIは、単なる業務効率化にとどまらず、意思決定や体験設計をどう変えるとお考えですか?
AIの導入により、作業の単なる高速化だけでなく「これまでできなかったこと」を可能にします。従来は「要件定義(ブリーフ)→レイアウト→テンプレート→コンテンツ作成」という直線的なプロセスでしたが、AIの登場でこの流れは崩壊します。
AIエージェント(エージェンティックAI)の登場により、マーケターは「最終的に何をしたいか(意図)」をAIに伝えるだけでアウトプットが自動生成され、測定まで行います。
ただし、人間の仕事が排除されるわけではなく、最終的な判断やガバナンスチェックは人間が行い、AIと共同しながら作っていきます。これにより、コンテンツ作成は民主化され、マーケターが数週間かけていた作業が数日で完了するようになります。
また、静的な体験ではなく、AIがリアルタイムでシグナルを発信し、ベストな体験を適用・調整していく「適応型」のエクスペリエンスデザインへと進化するでしょう。
ベストな体験を提供するために、Webサイトのデータだけでは不十分な場合、顧客データや売上データをどう統合すべきでしょうか?
私たちは「インテリジェント・セマンティック・グラフ(Intelligent Semantic Graph)」という仕組みを用意しています。この仕組みは、データの意味や文脈、関係性などをAIが理解できる形で構造化された基盤です。
この仕組みに、CRMにある顧客情報や広告・SNSのパフォーマンスデータ、そして顧客の行動データを統合して文脈を持たせることで、優れた体験を提供できます。
競合他社も似たような機能を提供していますが、サイトコアの強みは「エクスペリエンスの要はコンテンツである」と深く理解している点です。顧客データはあればあるだけ良いですが、それに基づいて「意味のあるコンテンツ」を作成できなければ価値がありません。サイトコアには長年培ってきたコンテンツ管理の歴史があります。コンテンツと顧客データを一緒に組み合わせて活用することで、非常に強力な顧客体験を生み出せるはずです。
コンポーザブル時代のCMSは「インテリジェンスハブ」へ
コンポーザブル・アーキテクチャ※が進む中、CMSの役割はどう進化していますか?
今後のCMSは、単なるコンテンツの保管庫ではなく、「インテリジェンスハブ」になっていくと予想しています。
現代のCMSはAIネイティブであることが求められ、「文脈」「意図(インテント)」「どのチャネル向けか」「どう適用されるか」をシステムが理解する必要があります。近年主流となった「コンポーザブル(組み合わせ可能)」なアーキテクチャは柔軟性をもたらしましたが、同時に「ツールが乱立し、UIがバラバラになる」という複雑さの課題も生みました。
SitecoreAIは、裏側の構造はコンポーザブルでありながら、ユーザー体験としては統一されたプラットフォームとして機能することで、この複雑さを解決する体験を提供します。
※コンポーザブル・アーキテクチャとは? システムやアプリケーションを小さな機能単位のコンポーネントに分割し、必要に応じてそれらを組み合わせて構築できる構造のこと
日本市場への期待と、3年後のデジタル基盤の未来
日本市場に対する期待や戦略について教えてください。
日本はサイトコアにとって非常に重要な市場です。日本の企業は品質に対して非常に高い基準を持っており、ガバナンスも厳格に効かせています。同時に、ローカライズに対する要求も高いのが特徴です。
サイトコアは2010年に日本市場に参入して以来、一貫してパートナー企業を重視してきました。長年の付き合いがある強力なパートナーエコシステムが、日本市場における私たちの大きな強みです。
近年「SaaSは死んだ」と極端なことを言われることもありますが、3年後のエンタープライズ企業のデジタル基盤はどう変わっていると予測しますか?
現在、AIによってソフトウェアを作ること自体が容易になっているため、シンプルな機能しか持たないSaaS企業は苦戦しています。
今後のデジタル基盤において圧倒的な差別化要因となるのは、「特定の領域に対する深い専門性(ドメイン知識)」です。サイトコアには25年の歴史があり、特定の業界にとどまらない多様で深い理解を持っています。これはAIに簡単に取って代わられるものではありません。
将来的には、現在の「ツール中心」の基盤から、「エージェント中心」の基盤へと移行していくと予想しています。AIエージェントが複数のプロダクトを横断的に動かすようになり、閉鎖的なエコシステムではなく、より幅広く外部へアクセスできる仕組みが求められるでしょう。
SitecoreAIは、顧客のブランドがより「発見(ディスカバー)」され、トラフィックを流し、コンバージョンに結びつけるための強力なツールです。今後のマーケティングにおいて重要になるのは、
- ディスカバー(発見)
- コネクト&コンバート(接続と変換)
- オーケストレーション(統合管理)
の3つです。私たちは、この新時代に向けて企業の成長を支援し続けます。
ありがとうございました。
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