生成AIやSNS、動画プラットフォームなど、情報収集チャネルが多様化したいま、生活者はどのように商品・サービスを選び、購入に至っているのか。ヴァリューズの近藤佳大氏がWeb担当者Forumミーティング 2025 秋で、情報チャネルとしてのAIの利用実態と、カスタマージャーニーから購買プロセスを調査する手法について解説した。

マーケティングコンサルタント 近藤佳大氏
生成AIは「情報収集チャネル」としてどこまで浸透したのか
ヴァリューズでは15歳以上の男女3万7,000人の自社モニターを対象に、日常の情報収集で利用しているツールについて調査した。Google検索、Yahoo!検索、YouTube、各種SNSと並べて生成AIも選択肢に入れたところ、生成AIを「情報収集に使っている」と答えた人は全体で約17%だったという。
Google検索は7割程度、YouTubeは6割強、InstagramやX、TikTokといったSNSは3割前後の利用率です。その中で生成AIはまだ2割弱。ただし、SNSの半分くらいまではすでに来ていて、浸透スピードはかなり速いと感じています(近藤氏)
年代別に見ると、20代〜30代では生成AIを情報収集に使う人が約3割に達しており、若年層を中心に情報収集チャネルの1つとして組み込まれつつある状況が見えてきた。一方、「最もよく使うツール」を1つだけ選ばせる設問では、GoogleやYouTubeが強く、生成AIをメインで使う人は1.7%にとどまる。
現状の位置づけとしては、Google検索やYouTubeをメインに使いながら、サブチャネルとして生成AIも併用しているユーザーが多いと言えます(近藤氏)
購買プロセスでの生成AI活用はまだ「これから」
同じ調査で、生成AIをどんな目的で使っているのかも複数回答で調査した。その結果、利用目的として最も多かったのは「専門知識・学習」で約1割。次いで「仕事で使う情報の収集」だった。
一方で、「商品・サービスの比較検討」「お店や施設探し」といった購買プロセスに直結する目的での利用はまだ約5%程度にとどまる。年代別に見ても、若年層で7%前後と、SNS(20%台)と比べるとまだ距離がある。
少なくとも現時点では、購買プロセスとしては、AIよりも検索、動画、SNSのほうが優先度は高いのが実態です。ただし、家電・デジタル製品や旅行、スキルアップ系のサービスなど、「あまり専門知識がないけど、詳しい説明がほしい」ジャンルでは、生成AIで比較検討する動きも見え始めています(近藤氏)
こうしたデータから近藤氏は、「生成AIの購買プロセスへの影響はまだ限定的だが、特定のカテゴリーや若年層を中心にじわじわと浸透しており、今後もモニタリングが必要」とまとめた。
カスタマージャーニーは「一直線」ではなく、点在する接点の集合体
生成AIの調査結果を踏まえたうえで、話題はカスタマージャーニーへと移っていく。近藤氏はカスタマージャーニーを、「顧客が商品・サービスを認知し、検討し、購入に至るまでの過程や体験を可視化してわかりやすくまとめるためのフレームワーク」と定義したうえで、なぜいま改めて注目されているのかを以下のように整理した。
- 製品・サービスのコモディティ化が進み、体験価値を設計する必要が高まっている
- 1人の顧客でも検索、SNS、動画、マスメディアなど複数のタッチポイントを行き来しており、チャネルやプロセスが多様化している
しかし実務の場では、「社内でジャーニーマップを作ったが、部署ごとに認識がバラバラ」「アンケートの結果と、現場の肌感覚が合わない」「作ったものの、施策に落とし込めない」といった悩みの声も多い。
原因の1つは、オンラインとオフラインが混在する今のカスタマージャーニーを、どちらか片方のデータだけで見ようとしてしまうことです。自社サイト内の行動だけを見る、あるいはアンケートだけで判断すると、どうしても腹落ち感が出にくくなります(近藤氏)
また、アンケートなど「聞くデータ」は、どうしても仮説に沿った設計になりがちで、新しい発見よりも検証の色合いが強くなることも多い。そこでヴァリューズが重視しているのが、観察型データ(インターネット行動ログ)と、聴取型データ(アンケート・インタビュー)を掛け合わせてジャーニーを描くことだ。
250万人のWeb行動ログから見える「生活者のリアル」
ヴァリューズは許諾を得た約250万人分のWeb行動ログを属性情報付きで保有している。
いわば「オンライン上の行動観察データ」です。アンケートではなかなか出てこない、生活者のリアルな本音や感情の揺れまで読み解けるのが特徴です(近藤氏)
たとえば、30代後半の女性ユーザーに下記のような行動があったとする。
- 「ダイエット中 どうしても何か食べたい」と検索
- 「甘いもの食べたい 罪悪感 少ないおやつ」といった記事を閲覧
- さらにさかのぼると「結婚式前 残り2週間」などの検索履歴がある
これらを連続して見ることで、「結婚式を控えたボディメイク目的のダイエット」という背景や、「ダイエット中でも楽しめるご褒美を探している」といった心理まで見えてくる。
アンケートで「ダイエットの目的は?」と聞いても、「体重を落としたいから」くらいの回答で止まりがちです。行動履歴から時系列で読み解くことで、「結婚式前の特別な2週間」といった文脈まで見えてくる。これが観察型データの強みです(近藤氏)
こうしたログデータにアンケートの意識データを掛け合わせることで、検証だけでなく新しい仮説発見にもつながるカスタマージャーニーが描けるようになる。
「探る」と「固める」――パルス型ジャーニーという考え方
ヴァリューズでは生活者のオンライン行動を「探る」「固める」という2つのモチベーションに分けて分析している。
- 「探る」行動:「おすすめ」「ランキング」「比較」といったキーワード検索や、選択肢を広げ、新しい情報を取り込む動きを指す。
- 「固める」行動:「最安値」「◯◯公式サイト」「◯◯ 評判」といった指名・絞り込み検索や、候補を絞り、購入に向けて決断を近づける動きを指す。
たとえば、化粧品のEC購入者の行動は次の通り。
- 「化粧水 ランキング」「乳液 ランキング」で候補を広げる
- 「化粧下地 おすすめ」などで自分に合いそうな商品を探る
- 「ファンデーション 最安値」「崩れないファンデ」などで絞り込む
- 最終的に特定ブランドの商品名を検索し、ECで購入
上記のように「探る→固める」のプロセスを何度か往復しながら進んでいく。
従来のように、認知から購入までを右肩上がりの一直線で描くのではなく、「探る」と「固める」を行き来しながら、あるタイミングでパルスのように購買行動が起こる。そんなジャーニーが今のリアルに近いと考えています(近藤氏)
この考え方を前提にすると、特定のステップだけを最適化するのではなく、「探る」「固める」の局面で効果的な接点をそれぞれ押さえ、点在する接点の集合体としてジャーニーを設計する必要がある。
事例1:リアルなユーザー像を社内で共有するワークショップ(パナソニック)
ヴァリューズはパナソニックとの共同プロジェクトとして、社内の解像度を上げる「行動ログ読解ワークショップ」を実施した。家電領域におけるデジタルマーケティングの底上げと、顧客起点の施策立案を目的に、実際のユーザーのWeb行動ログをZoom上で共有しながら読み解いた。
リアルな行動ログをみることで、ユーザーの解像度を上げてもらいます。たとえば、「掃除の記事を読んでいるから、大掃除の時期で掃除機を買い替えたくなったのかも」といった具合に、ユーザーの生活シーンまで想像してもらうのが狙いです(近藤氏)
ワークショップからは、次のような気づきが生まれたという。
- 複数の家電を同時並行で検討しているユーザーが多い
- 年末の大掃除やふるさと納税をきっかけに、掃除機の検討が始まるケースが目立つ
- 「掃除機スタンド」など、インテリア視点の検索も重要なタッチポイントになっている
印象的だったのがある男性ユーザーの事例だ。このユーザーはもともとパナソニックの掃除機を使っていたが、最終的には日立のスティック掃除機を量販店ECで購入している。行動ログを時系列で追うと、「妊娠30週 ベビーベッド」「床 シート 貼るだけで綺麗」といった検索が掃除機の検討と並行して行われていた。
ログを読み解くと、おそらくお子さんが生まれるタイミングで、赤ちゃんを迎える新生活の準備として床材や照明、車まで含めて生活全体を見直していることが見えてきました。掃除機はその中の1つのピースに過ぎない。スペック比較だけでなく、「新しい家族を迎える生活」という文脈でどう寄り添うかが重要だと気づかされた事例でした(近藤氏)
ワークショップ後には、「従来のアンケートやビッグデータだけでは見えない、ユーザーの感情や生活背景まで感じられた」といった声が多く上がり、「自分が消費者だったらこう考える」という視点で、施策を発想しやすくなったという。
事例2:取りこぼしていたユーザーのジャーニーを可視化する(リノベる)
中古マンションのリノベーションで知られる「リノベる」の課題は、リノベるのサイトに訪問しているにもかかわらず、最終的な問い合わせや資料請求は競合に流れてしまうユーザーが一定数いることだった。
ヴァリューズでは自社のログデータから、上記に当てはまるユーザーを抽出し、彼らの行動を最初の情報収集段階からさかのぼって分析した。すると、あるユーザーに次のような行動履歴が見られた。
- 当初は「新宿 新築分譲マンション」などを検索し、購入か賃貸か、新築か中古かを含めて広く検討していた
- メルマガや記事を通じて、不動産投資セミナーやリフォーム事例に触れ、「中古×リノベ」という選択肢を知る
- 検討が進むにつれ、「中古マンション リノベーション 売却」「地価」など、資産性に関するキーワードの検索が増えていく
- 最終的には、築年数に対する不安を解消してくれるコンテンツを持つ競合サイトで資料請求・問い合わせをしていた
検討が深まったフェーズでは、「築年数が古くても本当に大丈夫なのか」という不安にきちんと答えるコンテンツが求められていることがわかりました(近藤氏)
このインサイトを踏まえ、リノベるでは、下記のような施策に取り組んでいる。
- 初期検討層向けには、「毎月払い続けている家賃が1年でこれだけ消える」といったクリエイティブで、「賃貸」から「資産化」へ意識を切り替えてもらう広告を制作
- 検討が深まった層に向けて、「築年数が古い物件でも、構造上・資産性の面でどう問題をクリアできるのか」を丁寧に説明するコンテンツを拡充
共感できるレベルまで「生活者の物語」を描く
セッションの最後に、近藤氏は改めてこう呼びかけた。
自社のデータだけを見ていても、なかなか十分な消費者理解にはたどり着きません。特に、認知から興味関心の初期段階や、比較検討の手前の段階は、自社データだけでは見えづらい領域です(近藤氏)
そこで重要になるのが、オンライン行動を含む観察型データで、無意識の行動や文脈を捉えることだ。また、アンケートやインタビューなどの聴取型データで、意識・態度の裏付けを取ることも重要だ。また、それらを掛け合わせて、「そうそう、こういう人いるよね」と自分ごと化できるレベルまでジャーニーを描くことだ。
形式的にそれっぽいジャーニーマップを作るだけでは、施策にはつながりません。「孫がハイハイする床をきれいにしたいから掃除機を買い替える」「将来の資産性が不安で築古物件をためらう」といった具体的な生活の断片まで共有できて、初めてマーケティング施策も具体的になります(近藤氏)
生成AIの登場もあり、今後の購買プロセスはさらに複雑化していくだろう。だからこそ、目的に応じて必要なデータを選び取り、「リアルとWebの両方を横断して生活者を理解する」ことが、これからのカスタマージャーニー設計の前提条件になっていきそうだ。