デジマ4つのマイルール

得意なはずの対人関係で挫折。「全員に好かれなくていい」と気づいたLIFULLマーケターの等身大マネジメント

仕事がうまく回りはじめるのは、考え方を変えたとき。LIFULLのマーケターが実践する、組織とマーケティングに効く4つのルールを紹介する。

久保 佳那[執筆], 小沢トモノリ[撮影], 前田佳保里[デザイン], 井上薫[編集]

7:05

「良かれと思ってしたことが空回りする」
「全員に好かれようとして疲弊する」

そんな感覚に覚えがある人も多いのではないだろうか。周囲に気を配り、丁寧に向き合っているつもりなのに、なぜかうまくいかない。その違和感や焦燥感は、働くうえで誰もが直面しうるものだ。

株式会社LIFULLのマーケター・畠山氏も、かつて同じ壁にぶつかった一人である。転職先で上司との関係に悩み、得意だったはずのコミュニケーションが通用しない。しかしその挫折経験こそが、彼を大きく変える転機となった。

悩み抜いた末に行き着いたのは、人間関係と組織づくり、そしてマーケティングに共通する真理だった。本記事では、あえて不完全な自分をさらけ出して心理的安全性を育む等身大のマネジメント術と、現場で培われた「4つのマイルール」をひも解く。

株式会社LIFULL LIFULL HOME'S コンシューマーマーケティング部 副部長 畠山 大樹氏

得意だったはずの人間関係で直面した「壁」

4つのマイルール

ルール1「2:6:2の法則」で、全員に好かれるを手放す

畠山氏は大学卒業後、総合広告代理店のデジタルエージェンシーに就職。総合代理店での出向を経て、2019年にLIFULLに入社した。そこで、これまでに直面しなかった課題にぶつかる。

学生時代はサークルの代表を務めるなど、人間関係をうまく築けるタイプだと思っていました。ただ、当時の上司とはどうしても合わなかったんです。僕はオープンでラフなコミュニケーションを好むタイプですが、上司は厳密さや正確性を重視するタイプ。これまでは、合わない相手とも自分から距離を縮めることで関係を築いてきましたが、歩み寄ろうとするほど、むしろ距離が広がっていきました(畠山氏)

初めて人間関係で壁にぶつかり、思い悩むなかで出会ったのが「2:6:2の法則」だった。一般的には、集団の2割が高い成果を上げ、6割が平均的、残り2割が低いという考え方だが、「人間関係にも当てはまる」と感じたという。自分を好意的に受け止める人が2割、中立が6割、合わない人が2割いる——そう捉えることで、気持ちが楽になった。

そこから、アプローチを変えた。無理に関係を改善しようとするのではなく、まずは自分が価値を発揮できる領域で信頼を積み上げていくことにしたのだ。

上司の見ている領域が広かったため、手が届いていない業務を積極的に引き受けました。たまたま担当が不在の領域があり、未経験ながら手を挙げて担当しました。すると、「この領域は畠山が詳しい」という認識が広がり、その評価が上司にも伝わっていきました(畠山氏)

周囲からの評価が高まるにつれ、上司との関係も変化していった。

振り返ると、その上司から学んだことは大きかったです。代理店的なノリが強かった僕に、事業会社のマーケターとしての仕事の進め方や、社内提案のあり方を厳しく教えてくれた存在でした (畠山氏)

その後、LIFULLで企業ブランディングを担当するなかで、畠山氏は「2:6:2の法則」がブランディングやマーケティングにも通じると実感する。LIFULLが掲げる企業メッセージ「あらゆるLIFEを、FULLに。」のもと、「しなきゃ、なんてない。という既成概念にとらわれず、あらゆる人が自分らしく生きられる社会をつくる」という思想を発信した。

一方で、SNS上では「きれいごとだ」といった批判的な声も上がった。そうした反応に、チームメンバーが戸惑う場面もあったという。

みんなに向けたメッセージは、結果的に誰の心にも深くは刺さりにくいものです。全員に支持されることは難しい。それよりも、共感してくれる2割のファンを大切にし、無関心な6割にどう共感してもらうかが重要です。見方を変えれば、批判的な人はコメントを書くことでストレスを発散しているのかもしれない。それはそれでいいと思っています(畠山氏)

こうした視点を持つことで、本当に向き合うべき相手が明確になる。人間関係でもマーケティングでも、「全員に好かれることは難しい」と受け入れることが、本質的な行動につながるのだ

これまでのキャリア

心理的安全性のあるチームは、どうつくる?

ルール2「完成された上司」を演じない

2021年10月、畠山氏はグループ長に昇進し、管理職になった。そのとき自らに課したのは、「かっこつけないこと」だった。

自分が過去、好きだった上司は、仕事ができるだけでなく人間味のある人ばかりでした。ミスを笑い飛ばしたり、自分の失敗談を話してくれたり。僕自身も失敗を恐れずにチャレンジする姿を見せながら、お互いの失敗を許容できるチームをつくりたいと思いました。マネージャーも不完全ですし、言っていることが必ずしも正しいとは限らない。完璧なマネージャーを演じるよりも、一緒に組織をつくっていくスタンスでいたいです(畠山氏)

その姿勢は、日々の小さな場面にも表れている。たとえば朝会では、業務進捗の確認はあえて行わない。代わりに、ニュースを題材にした雑談テーマを持ち寄り、チーム全員が笑える時間をつくることを重視している。テーマは持ち回りにし、発言が特定の人に偏らないよう工夫しているという。

朝会で笑いが起きると、1日をポジティブに始められますし、心理的安全性も高まります。もし表情が曇っている人がいれば、その後に個別で声をかけるきっかけにもなります(畠山氏)

1on1でも、仕事の進捗を細かく確認することはほとんどない。必要があればメンバーの側から話が出てくるという前提で、まずは相手の話をよく聞くことに徹する。完璧さを装うのではなく、不完全さを開いた状態で関わること。その積み重ねが、変化に強い組織をつくる土台になると畠山氏は考えている。

取材中も、自身の失敗や葛藤も隠さず、オープンかつフランクに語る姿が印象的だった

企画に“強度”を持たせる手法

ルール3アウトプットの質は「スループット」で決まる

マネージャーに就任して2年後の2023年、畠山氏のチームは大きなプロジェクトに取り組んでいた。既成概念にとらわれない生き方「しなきゃ、なんてない。」を表現するもので、インフルエンサーのフワちゃんを起用した。

その内容は、SNSでキャンペーンに応募すると、AI生成された多様なフワちゃんの画像がランダムで1枚届くというもの。画像は1万種類におよび、当時はまだAI活用が一般的でなかったこともあり、大きな話題を呼んだ。

LIFULL『しなきゃ、なんてない。』AI 10,000変化

このキャンペーンが成功した背景には、徹底した準備プロセスがあった。AIで生成した画像は2万5千枚以上。それらをすべて社内でチェックし、最終的に1万枚へと絞り込んでいる。チェックには、年齢や性別の異なる9人のメンバーが関わった。肌の露出や合成の違和感など、多様な視点から検証を重ね、どの層が見ても不快に感じないクオリティを担保していった。

こうした経験を通じて、畠山氏はアウトプットの質は単なるインプットの量や質だけでは決まらないと実感する。重要なのは、それぞれが持ち寄ったインプットをどう解釈し、どう価値を付加するかというプロセスにある

この考え方を、畠山氏は「インプット×スループット=アウトプットの質の向上」と捉えている。スループットとは、インプットを複数の視点で解釈し直し、新たな価値を与えるプロセスのことだ。実際にプロジェクトを通じて、畠山氏は異なる価値観や視点を通すことの重要性を強く感じたという。

多様な価値観を持つメンバーがそれぞれの解釈を持ち寄ることで、チャレンジングな企画を炎上することなく成功させることができました。アウトプットするためにはインプットが必要だと言われますが、一人ひとりがいくら良質なインプットをしても、それを同じ視点で解釈するだけでは、アウトプットは予定調和に収まります。「スループット」の過程を挟むことで、アウトプットの質が大きく変わると実感しました(畠山氏)

「インプットだけでは足りない」と語る畠山氏。アウトプットの質を左右するのは、その解釈プロセスにある

くやしさをバネに、挑戦を生み出す場をつくる

ルール4失敗を歓迎する

畠山氏がマネジメントに取り入れている手法のひとつが「失敗パーティー」だ。「最近、何か失敗したことがある人は?」と問いかけ、チームで失敗を明るく共有する場を設けている。共有された失敗は、そのままにせず、3つに分類して捉えるという。

失敗を共有したうえで、3種類に分けて考えます。1つ目は注意すれば避けられたケアレスミス、2つ目は仕組みの問題から発生した失敗、3つ目はそもそも予測・回避が難しかった失敗です。予測できなかったものは次に生かせばいいですし、仕組みが問題であれば仕組みを変える。ケアレスミスは声かけで減らせばいい。そうやって整理することで、失敗が次のアクションにつながりやすくなります(畠山氏)

失敗をオープンに扱うことで、チーム内には提案や挑戦が生まれやすくなるという。この取り組みを始めたきっかけは、外資系製薬会社の事例を知ったことだった。まずは定例会議で試し、メンバーの反応を見ながら継続を判断するつもりだったが、反応は想像以上に良く、そのまま定着した。

こうした「失敗を歓迎する」姿勢の背景には、畠山氏自身の原体験がある。

若手の頃は失敗ばかりしていました。代理店の営業時代には、自動車メーカーのイベントで展示車の鍵を前日に持ち帰ったまま当日遅刻してしまい、イベント開始後も来場客がそのクライアントの車に乗れなかったこともあります。ほかにも細かなミスを重ねたことで、担当していたプロジェクトから外され、後輩が代わりにプロジェクトに入ったこともあります。そのたびに反省し、くやしさを感じながら改善を重ねてきました。だからこそ、メンバーには失敗を恐れずに挑戦してほしいと伝えています(畠山氏)

畠山氏は2025年、社内のベストマネージャー賞を受賞。その後、同年10月には企業ブランディングから事業側のマーケティング組織へと異動した。現在は新たな環境でも、これまでのマネジメント手法を実践している。

事業のマーケティング部署は、どうしても目標数字に意識が向きがちです。だからこそ、朝会での雑談や失敗の共有、スループットの考え方を新しいチームにも根付かせていきたい。そうすることで、より強い組織にしていけると思っています(畠山氏)

4つのマイルール(再掲)

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