Webサイトリニューアル特集

子どもがワクワクするWebサイトをどう作ったか? 三菱自動車「クルマづくりマイスター」がリニューアル

子どもの心をつかむポイントについて、リニューアルを担当した三菱自動車工業の菊地麻衣氏に聞いた。

柏木恵子[執筆], 佐々木雅久[撮影]

7:05

三菱自動車工業の子ども向けWebコンテンツ「クルマづくりマイスター」が、「第13回Webグランプリ 企業グランプリ部門」で「企業BtoCサイト賞」のグランプリを受賞した。三菱自動車にとって、2017年の「プロモーションサイト賞」以来、8年ぶり3度目の受賞となる。

今回はリニューアルを担当した三菱自動車工業の菊地麻衣氏(総務渉外部 地域・社会貢献室 主任)に、その背景や成功の秘訣を聞いた。

Webサイトの制作業務は未経験だった

三菱自動車には、元々「なぜ?なぜ?クルマづくり調査団」という子ども向けサイトがあった。それを全面リニューアルして、「クルマづくりマイスター」として2025年3月28日にオープンした。

メニュー画面
  1. 「クルマが届くまで」
    クルマがどのように造られて、販売されるのかをわかりやすく紹介。
  2. 「バーチャル工場見学」
    1台のクルマがどのように組み立てられるのか、をバーチャルで体験できるコンテンツ。
  3. 「クイズモーターレース」
    クルマに関するクイズに答えながら進むレースゲーム。
  4. 「クルマの自由研究」
    クルマについて楽しく学べる、夏休みの自由研究にぴったりなテーマを提案。
  5. 「クルマカード」
    1~4の各コンテンツを終えるとカードを獲得できる。

菊地氏は普段、事業所のある自治体との連携、工場見学の企画・運営、次世代育成に向けた教育支援、教員研修の受け入れなどの業務を担当している。小学校への出張授業なども行っており、子ども向けサイトのリニューアルを担当することになったのは、その流れからだ。それまでWebサイトを担当したことはなかったという。

三菱自動車工業 菊地麻衣氏

「情報を見るサイト」から「自分で体験するサイト」へ

リニューアル前の主な課題は、ページ数の多さと階層の深さだった。旧サイトは128ページ、7階層と深く、必要な情報にたどり着くまでに段階が多い構造になっていた。

毎年更新を重ねてきた結果、個々のコンテンツには意味がある一方で、サイト全体としてはやや複雑で、子どもにとって直感的に入りにくい面がありました。また、「情報を見るサイト」としては成立しているものの、「体験するサイト」としての設計には、伸ばせる余地があると感じていました(菊地氏)

そこで、階層は7階層から3階層に、ページ数は128ページから45ページにまとめ、知りたいことに到達しやすく整理した。

また、単に見た目を新しくするのではなく、情報設計そのものを見直した。子どもたちが迷わず・楽しく・自然に学べる構造へ再設計することを狙ったものだ。

直感的に入り込めるもの、そして飽きずに見続けたくなるもの、そしてその先に自然と学びがあることを重視しました(菊地氏)

リニューアルの中心メンバーは、総務渉外部 地域・社会貢献室から菊地氏を含めて2名、そして旧サイトから制作を担当している社外パートナーのメンバーが数人。コンテンツの中身については、工場やデザイン、技術分野に携わる社員および技術フェローにインタビューし、内容の確認をしてもらった。

見た瞬間にワクワクするか、途中で飽きずに入り込めるか

「クルマづくりマイスター」のターゲットは、小学校高学年から中学生をメインにしている。小学校のカリキュラムでは小学5年生の社会科で自動車産業について学ぶとのことで、工場見学の申し込みも毎年殺到するそうだ。また、中学生になると将来どのような職業があるかを考え始める。同時に、教師や保護者も想定読者としている。

リニューアルの主な目的として、菊地氏は以下の3点を挙げる。

  1. 子どもたちが直感的に楽しめるサイトにする
  2. 遊びを通じて自然に学べる体験をつくる
  3. 工場見学や体験授業など、リアルな施策とつながるハブにする

大人向けサイトであれば、情報の整理や分かりやすさが重要ですが、子ども向けサイトではそれに加えて、「最初に見た瞬間にワクワクするか」「途中で飽きずに入り込めるか」が非常に重要だと感じました。そのため特にこだわったのは、ファーストインプレッション、没入感、直感的に進められることです(菊地氏)

子どもは理屈より先に「楽しそう」「やってみたい」で動くことが多いため、最初の入り口でしっかり惹きつけること、そして途中で離脱せずに自然と学びにつながる流れをつくることを強く意識した。通常のWebリニューアル以上に、情報設計だけでなく体験設計の比重が大きかったという。

「特にこだわったのは、ファーストインプレッション、没入感、直感的に進められること」

子どもが次に進みたくなるデザインを追求

実は、制作担当の社外パートナーが最初に出してきたデザイン案は、いかにも小学生向けの、児童書のようなデザインだった。菊地氏は「これは何か違う」と思ったものの、強く駄目出しするとその先の仕事がうまくいかないかもしれないと、一旦躊躇したという。

悩みに悩んだ末、思い切って「違う」と伝えたところ、それならデザインから考えましょうということになり、今の小学生には何が流行っているかの調査から始めた。まずは菊地氏自身のお子さん(当時小4と小6)にどのようなテイストがいいか選んでもらい、できあがったサイトについて協力会社が保護者、教師、子どもたちの約50名を対象にユーザーテストを行った。

アニメやゲームのようなストーリー性のあるものと、直感的に「かわいい」と思うものをAとBで集めて、どちらがいいか聞きました。すると、ぱっと目を引くには直感的にかわいいもの、そして少し面白みのあるデザインがいいということになりました(菊地氏)

子ども向けと企業イメージ、折り合いのつけ方

子ども向けということで、デザインには企業イメージとの兼ね合いにも苦労があった。三菱グループには、信頼感や落ち着いた企業イメージがあるため、子ども向けの親しみやすいデザインが企業イメージに合うのかどうか、慎重に検討すべきだという考えもあった。

ここで、50人を対象に行った調査が役に立った。集めたデータを説得材料にして、「子ども向けなので、三菱自動車らしさを抑えても、こちらの方が見てもらえる」と納得してもらえた。

あとは広報やブランドを見ている部署にも相談して、子ども向けサイトは大丈夫だろうと言ってもらえたら、もうこちらのものです(菊地氏)

Webリニューアルが初めてだった菊地氏にとっては、これほど多くの承認を経なければならないのは、想定外だったという。

没入感のための仕掛け、インタラクティブと「自慢したい欲」

大人向けサイトと子ども向けサイトで、何が違うのか。やさしい漢字を使い、必ずルビをふるというのは当然だ。文字が多いと子どもは飽きてしまうので、イラストや写真を多用する。

そして菊地氏がこだわったのが「没入感」だという。

たとえば、バーチャル工場見学というコンテンツがあります。以前はボタンを押して工場で働いている人の動画を見るという作りでしたが、新サイトでは、レバーを押すと自分が操作してクルマづくりに関わっているような体験ができるようにしました(菊地氏)

また、カスタマージャーニーを考えるうえでは、子どもの特性をかなり意識した。学んだことに対してご褒美があると次もやりたくなるという点から、コンテンツを進めるとカードが手に入り、達成感を持てるようにした。ゲットしたカードはカードホルダー画面に7日間保存可能で、コンプリート欲を刺激する。

モーターレースゲームでは、良い点数が取れると「誰かに言いたい」「自慢したい」と思う気持ちを想定している。走りながらクルマに関するクイズに答えたり、最終的には障害物を避けたりするレースゲームになる。実は難易度を高く設定してあり、簡単にはクリアできない。これは、何度も挑戦してもらうための仕掛けだ。

今の小学生は、一人一台タブレットを使っていて、休み時間には自由に使っていい場合もあります。出張授業に行った時に子どもたちの様子を見ていると、集めたカードを友だちに見せたり、ゲームのハイスコアを自慢したりしていました(菊地氏)

遊びながら熱中できる要素として組み込んでいるゲームが、友だちとのコミュニケーションのきっかけにもなっている。もちろん、掲載されている情報は正確で、かなり専門的な内容も含まれる。全体としては「楽しそう→やってみる→続けたくなる→気づいたら学んでいる」という流れを意識したとのことで、かなり成功していると言えそうだ。

ちなみに、デザインには昭和レトロな雰囲気も取り入れられている。これは菊地氏自身のこだわりで、自分が楽しいと思えなければ、子どもが楽しいわけがない。さらには、保護者などの大人にも楽しんでもらいたいということだ。

子どもは「教える相手」ではなく「体験する主体」

大人も楽しむという意味では、社内でも「やってみた、面白かった」という声をかなりもらえたという。Webグランプリ受賞についても、社長や当時の副社長から直接メールをもらえたそうで、仕事をするうえでかなり励みになったという。

今回のリニューアルで菊地氏自身が得た学びは、「何かを作りたいと思ったら、熱量が大事」ということだ。それは、上司や他部署からさまざまな意見が出たとしても、自分のやりたいことを理解してもらうための努力や工夫を怠らないということ。誰かとぶつからないように要望を受け入れ続けると、結果的につまらないものができてしまう。また、一緒に作ってもらう外部パートナーも同じ気持ちでいることが大事だ。

こういうものが作りたいという構想とストーリーを作り、近い感覚を外部パートナーにも持ってもらうことがすごく大事。全部丸投げしたら、いいものはできない(菊地氏)

最後に、子ども向けサイトを改善する企業へのアドバイスを聞いたところ、以下のような答えが返ってきた。

大切なのは、子どもを「教える相手」ではなく、「体験する主体」として考えることだと思います。そのうえで、直感的に触りたくなること、飽きずに入り込めること、やってみた先に学びがあることを意識すると、自然と良い体験につながるのではないかと思います(菊地氏)

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