要件定義とは? Webサイトリニューアル成功のカギを握る「要件定義」の目的と作り方を紹介
Webサイトリニューアルを進めるうち、あちこちから意見が出始め、プロジェクトがうまく進まなくなることが多い。場合によっては、想定より作業量・改修箇所が増えてしまったり、リニューアル期間が長くなると「何のためにリニューアルをするのか、ゴールは何なのか」わからなくなってしまうことがある。そうならないためには、最初の工程である「要件定義」をしっかり実施しておくことが重要だ。
「Web担当者Forumミーティング 2018 秋」に登壇したNECマネジメントパートナーの山方氏は、「そもそも要件定義ってどんなもの? それは必要なの?」「経営層にWeb施策を話しても、なかなか理解されない」「リニューアルプロジェクトを任されたが、複数部門の調整が難しい」といった担当者の悩みを解決するポイントを解説した。
Webリニューアルにおける企業の悩み2つ
企業のデジタルマーケティングを支援するNECマネジメントパートナーが、Webサイトのリニューアルについて相談を受ける時、その担当者の悩みは大きく分けて2つだと山方氏は言う。
- 人に関わる悩み
- プロジェクトマネージャーがいない
- 複数部門で要望がバラバラ
- 上層部を説得できない
- 協力体制ができていない
- 進め方の悩み
- リニューアルの進め方がわからない
- やりたいことと予算・スケジュールが合わない
- 目的が決められない
同社では、進め方がわからないという企業には以下のような図で説明する。
これは、作業や成果物、推進体制をひとつにまとめた図だが、赤枠で囲んだ部分(ヒアリング・課題設定・仮説立案)が「要件定義フェーズ」である。
この要件定義以降の、実際の構築・ページ作成のフェーズに入ると、関係部門からさまざまな意見が出て話がまとまらず、作業が止まってしまうということもよくある。その理由について山方氏は、「要件定義フェーズできちんと決めていない曖昧さが問題。さらに言えば、ご担当者の方はリニューアルが初めてなので、要件定義で決めるべきことへの理解が難しいのでは」と言う。
「やるべきことを決める」のは、裏を返せば「やらないことを決める」ということでもあります。「Webで何をやり、何をやらないかを決めるのも、要件定義のひとつ」です(山方氏)
要件定義で決めるべきこと
要件定義で決めるべきことは、「誰に、何を見せて、どうなってもらうサイトなのか」ということ。具体的には、以下のようなことを明確化する。
- 誰に:リニューアル後のターゲット像は?
- 何を:どのようなコンテンツ/体験で?
- どうしてもらう:どのようなアクションを起こしてもらう?
続いて、確定しなければならないことが2つある。「条件」と「コンセプト」だ。
- 条件
- リニューアル範囲
- スケジュール
- 予算
- インフラ環境
- システム
- コンセプト
- リニューアルの目的
- イメージ(世界観)
- 施策
- 設計方針
- 運用方法
この2つのうち、より重要なのは、どのようなサイトにするのかというコンセプトだ。
サイトリニューアルというと、いきなり「トップはどのようなデザインになるのか、上層部から『見たい』という要望があるので提出して欲しい」と言われることがあるが、重要なのは「何のためのサイトなのか」というサイトの目的を決めることです(山方氏)
また、きちんと要件定義を実施することによってその後の作業フェーズがスムーズに進められるだけではなく、場合によっては「この目的・内容で進めるために、増額してもきちんと実施しよう」と予算が増えたり、「さらに別の施策やプロモーション等を実施することによって当初の目的をより達成できる」といった波及効果も得られるという。
その他、山方氏は以下のような点をWebサイトリニューアルにおける重要なポイントとして挙げた。
- リニューアルはゴールではあるが、次のステップに進むためのスタートでもある。リニューアル後の運用をどうするかも、要件定義できちんと決めることが必要
- リニューアルは目的ではなく手段
要件定義の4段階、ヒアリングは上位課題から
要件定義の進め方は4段階に分けて説明できる。
- 課題整理
- 仮説立案
- 合意形成
- 要件定義書(作成)
その① 課題整理
まず、課題整理の作業としては、「現状把握(材料集め)」「カテゴライズ」「優先順位」がある。
現状把握というと、ログ分析、競合他社分析、マーケット分析、ユーザー調査、サイト内のHTMLデータ調査などが思い浮かぶかもしれない。しかし山方氏は、「まずヒアリングから行う」という。対象は、Webの担当者だけでなく関係各部署や経営層、可能であればその企業のエンドユーザーまで幅広くアンケートやヒアリングを行う。
ヒアリングでは、Webの課題を明確化するだけではなく、経営層からは経営課題を、マーケティング部門や営業部門からはマーケティング課題を引きだす。これによって、期待していることや、何をゴールと考えるかが明らかにできる。
ポイントは、ヒアリングは「上位課題から行う」こと。Web担当者は目の前の課題に目がいき、課題解決の打ち手ばかり考えてしまいがちだが、企業としてありたい姿から、Webサイトをどうしたいかに落とし込むことが重要だ。
また、山方氏はヒアリングのポイントとして以下の点を挙げた。
- 思いを汲み取る、言葉の真意を考える
- 経営者の意向を引き出す
- 社内の関係性を把握する
- 課題ごとにまとめる
ヒアリングを実施し、経営層から「企業の将来像」や「事業ビジョン」、お客様や社員に対する思いなどを引き出し、それを元に将来ありたい姿を明確にしていく。ヒアリングでは部門間で意見が相反することもあるが、「共通の施策」などを見出し、将来ありたい姿と現状とのギャップを埋めていく施策を考えていけば、Webで実現すべきことはブレにくい。必要なら、施策に対する体制作りやコンテンツの棚卸しも実施していく。
課題が整理できたら、一枚のシートにまとめる。以下のような順番で、上が自社の将来像や価値・課題、下がWebの現状と課題になるようにすると、Webの課題を解決していけば自社の将来像につながっていくという構図にできる。
- 自社の将来像
- 自社の課題
- 現在のターゲット、サイト目的
- Webサイトの課題
その② 仮説立案
課題整理の次は、仮説立案である。まず課題を整理したシートを基に、リニューアル目的や実施する施策案のツリーを作る。たとえば、Webサイトリニューアルの目的が「リード獲得型のサイトにして新規見込み客を増やす」とした場合、施策の方針としてはUI/UX改善や顧客接点増加、運用効率化を挙げ、個々の施策として以下の図のようなものを想定した。
また、この施策ツリーは、ヒアリングで明確にした経営のゴールやWebサイトのゴールとつながっている必要がある。
次に、個々の施策について、予算やスケジュール、使用しているプラットフォーム、移設する(利用できる)コンテンツのボリュームや、スケジュールが難しければ段階的な公開が可能かどうかといった条件を検討する。スケジュールや予算等によっては、実施したい施策のすべてを実行できないこともあり、重要度や緊急度、難易度によって、優先順位を決める。
その③ 合意形成
仮説立案では、ワークショップを行うなど合意形成も重要だ。NECマネジメントパートナーではワークショップを実施することが多く、時には経営層も巻き込んだワークショップを行う。
社内関係者と一緒に課題や仮説を創りあげることで、気づきや相互理解、自分ゴト化ができます(山方氏)
その④ 要件定義書
最後に、要件定義書にまとめる。リニューアルの目的、ターゲット、施策、条件、施策を設計するための方針など、仮説立案・合意形成したものを文書化する。その後の制作工程で迷いがないように、立ち戻る場所となる文書を作っておく。
これは、制作フェーズが別プロジェクトの場合の企画書やコンペの提案依頼書にもなる。
最後に山方氏は、経営層に理解してもらうために要件定義で押さえておくポイントとして以下の点を挙げた。
- 会社の方向と合っているか
- お客様の期待に応えているか
- 企画に一貫性はあるか
- プロジェクトメンバーの合意は得られているか
- 実行可能か
山方氏は、「Webサイトリニューアルの“要件定義”とは、発展していく企業像に合わせて『未来を思い描くシナリオ作り』だと考えています」と語り、「企業サイトのリニューアル成功とPDCAの推進をお手伝いしていきたい」と述べて、講演を終えた。
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