【レポート】Web担当者Forumミーティング 2019 Spring

サイトリニューアル作業をスムーズに進めるための「要件定義」。仮説立案と合意形成の勘所を解説

サイトリニューアルに不慣れな企業では、制作・開発フェーズでの改善要望が相次ぎ、致命的な後戻りを余儀なくされることがしばしば起きる
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Web担当者にとって、「サイトリニューアル」は日常的に行う作業ではない。サイト運営やトラブル対応に豊富な経験があっても、サイトリニューアルの経験がない担当者は多いだろう。いざサイトリニューアルに直面した時、戸惑ってしまう担当者も少なくない。

Web担当者Forum ミーティング 2019 春」に登壇したNECマネジメントパートナーの山方氏は、いわばサイトリニューアルの専門家として、数多くの企業の作業に携わってきた。その山方氏が極めて重要だと指摘するのが「要件定義」である。

なぜ要件定義が重要なのか?

山方理佳子氏
NECマネジメントパートナー株式会社 マーケットコミュニケーション事業部ブランディング&マーケティングサービス部 シニアプロデューサー 山方理佳子氏

山方氏の本職はWebプロデューサーで、クライアント企業の公式サイトの戦略立案やコンサルティングを長らく担当してきた。今回の講演のテーマである「サイトリニューアル」についても豊富な知識を持つ。

クライアント企業にとって、公式サイトのリニューアル作業は毎年行うような作業ではない。多くは数年に一度実施される程度で、当然、実際のWeb担当者にとっては「初めてリニューアルに携わる」というケースも少なくない。そういった際に山方氏は、下記の図を使ってサイトリニューアルの流れを説明する。

サイトリニューアルのプロセス

このスライドが示す全7段階のうち、ヒアリング・課題設定・仮説立案までの前半3段階を山方氏は「要件定義」フェーズ、設計・デザイン・ページ制作・確認を「制作・開発」フェーズと定義している。

どのフェーズも重要な作業である事には変わらないが、中でも疎かにできないのが「要件定義」フェーズだと山方氏は言う。要件定義のフェーズでは、おもにWeb担当者が中心となってリニューアル方針を決めるものの、いざ制作・開発フェーズに移行した途端、他の部署から改善要望が上がってくることが往々にしてある。

要件定義の段階では、最終的にどんなWebサイトに仕上がるかが見えにくい。そのため、具体像が見えてくる「制作・開発」フェーズになって意見が出てくることが多い。しかし、7段階のうち後へ行けば行くほど、物事をやり直すにはコストも時間もかかってしまう。進め方などでもめる、いわゆる“炎上”状態になってしまうこともある。これを防ぐためにも要件定義が重要になる(山方氏)

要件定義がしっかりしていないと、致命的な後戻りが起きる“炎上”につながりやすい

要件定義、4つのステップ

要件定義とは、「誰に、何を見せて、どうなってもらう」かを定める作業だ。Webサイトリニューアルの目的を定め、コンセプトに落とし込むことが重要になる。

要件定義フェーズは具体的には4つのステップに分かれる

  1. 課題整理
  2. 仮説立案
  3. 合意形成
  4. 要件定義書(作成)

その① 課題整理

「課題整理」は、リニューアル対象のサイトを日々利用する顧客(エンドユーザー)を理解し、またサイト運営者は現状でどんな課題を抱えているか、確認するステップだ。リニューアルするサイトがどんな構成になっていて、どれくらいの量のコンテンツがあるか、そのコンテンツの公開にあたってどんな契約がなされているか(素材の著作権など)も洗い出す。

課題整理の概要

課題整理を進めるには、サイト運営者など関係者へのヒアリングから始めるが、それにも順序がある。山方氏の場合、まずは経営トップ層にヒアリングを行い、リニューアルに対する期待感や具体的なゴールを明確にするという。

つまり「今のサイトでは○○機能がないから欲しい」などといった、現場レベルの“Web課題”は後に回す。「経営課題」→「マーケティング課題」→「Web課題」という具合に、上位課題から下位へと落とし込んでいく流れだ。

Web課題では、運用体制やインフラについてもヒアリングを行う。いくら企画を立てても、それを満たせるだけの人員やサーバー環境でなければ、実現性は低くなってしまう。もちろんヒアリング以外にも、ログ分析をはじめさまざまな調査を行い、課題を洗い出し、整理していく。

経営上の課題から検討しはじめ、より下位の課題へと落とし込んでいく

その② 仮説立案

「リニューアル後のサイトで、エンドユーザーがどんなことを期待しているか、どんな体験を望んでいるか」という視点で、ペルソナやカスタマージャーニーマップ、ユーザーシナリオなどを策定する。ここが講演の本題でもあり、詳しくは後述する。

仮説立案

その③ 合意形成

立案した仮説について社内で検討し、社内合意をはかるフェーズだ。NECマネジメントパートナーでは、リニューアルを進めている企業の方に参加していただくワークショップを開催することが多い。こちらも後述する。

ワークショップで合意形成を図る

その④ 要件定義書

討議の結果を元に、決定した内容を書類にまとめる段階。目的、ターゲット、コンセプトのほか、スケジュールなども含め、エビデンスとするために書類化する。この段階で、トップページなど主要ページのワイヤーフレームやデザインを含むケースもあるという。

最終的には、この要件定義書を元に、関係者間でレビューを行い、最終決定権者(プロジェクトオーナー)の承認を得る。

要件定義書は、その後の個別施策を設計・開発する際に“立ち戻る場所”となる。結論だけでなく、なぜその結論に至ったかも極力書くようにすることで、エビデンスとしての意義が増す(山方氏)

要件定義書は、いわばエビデンス
◇◇◇

なお、サイトリニューアルを複数のWeb企画制作会社等が共同で行う場合は、各社が「どんな作業を」「どの範囲まで行うか」を決めておくことも重要だ。さらに「公式サイト」のリニューアルとした場合、その範囲に「公式SNS」を含むかどうかなどは、後の作業量にも影響が大きい。また、リニューアルを依頼する企業内にプロジェクトリーダーが存在しても、最終決定権者である「オーナー」が決まっておらず、結果としてスケジュール遅延に繋がるケースが多い。そういった場合、NECマネジメントパートナーでは「オーナー」を決めていただくサポートもしている。

仮説立案、その具体的手法

山方氏は、今回の講演の本題として「仮説立案」と「合意形成」を掘り下げて解説した。1つ前のステップにあたる「課題整理」については、やはり山方氏が登壇した2018年11月のイベントレポート「要件定義とは? Webサイトリニューアル成功のカギを握る「要件定義」の目的と作り方を紹介」において詳しく解説している。

仮説立案にあたってまずすべきは「お客様(エンドユーザー)とそのニーズを考える」ことだ。より具体的には、リニューアル後のサイトを訪れるユーザーのペルソナを作成し、それに合わせたカスタマージャーニーマップ、ユーザーシナリオを作ることが多いという。

ペルソナやカスタマージャーニーマップは、エンドユーザーを理解する上では便利なツール。ただ、それらを作って、「どういうお客様かを理解する」だけにとどまっては意味が無い。「サービスを利用するお客様がどういう気持ちで何をしたいのかを理解する」ところまで持っていく(山方氏)

ペルソナやカスタマージャーニーマップでユーザーを理解

例えば、エンドユーザー側に「製品のスペックは重視するが、比較検証のための時間が確保できない。サポートも欲しい」というニーズがあったとする。

リニューアルする企業はそれを踏まえて自社の強みを検討する。「サポートは非常に手厚いが、その分高価」「比較検証用の資料は社内にあるが、いろいろあって公表はできていない」などの自社の状況が浮かび上がってくる。

こうしたことを洗い出すと、施策やコンセプト立案がやりやすい。「サポートが高価な理由を説明する」「社内に埋没している資料を、表に出せるホワイトペーパーにまとめなおし、Webに掲載する」といった具合だ。最終的には、「手厚いサポートができる企業」といった内容をリニューアルのコンセプトに昇華させていくこともできる。

顧客のニーズから自社の強みを見つめ直し、ニーズを仮説にし、具体的な打ち手へと変えていく

コンセプトに連動する形で、やるべき施策は少しずつ決まっていく。「デザインを変えたい」「CMSを入れたい」など、アトランダムにアイデアが出てくるので、これに優先度を付けていく。全てが全て、できるとは限らないからだ。

夢を膨らませた後で、実際にやることを少しずつ絞り込んでいく。すべてを予算ありきで決めると、やれることが制限され、リニューアル自体がつまらないものになっていく。リニューアルは「コスト」ではなく、「投資」と考えるのが良い(山方氏)

優先度を決めていくことも重要だ

この後、NECマネジメントパートナーが担当した最新リニューアル事例をもとに、具体的なペルソナやユーザーシナリオシートを見せながらコンセプトや要件定義をどうまとめたかを解説した。

合意形成には「ワークショップ」が有効

仮説立案が終わったら、次は合意形成だ。合意形成において有効なのはなんといっても「ワークショップ」だと山方氏は言う。

手間をかけて作り上げた仮説を、会議のような場で詰めていくよりは、多くの人に集まってもらって活発に意見を交わしてもらった方がスムーズ。短時間で意見を集めたり、アイデアも出やすい。参加者に自分ゴトとして考えてもらえるし、上位層や他部門を巻き込むことによってその後の検討・進行が間違いなくやりやすくなる(山方氏)

ワークショップではさまざまな意見やアイデアが出やすい

もちろん、ワークショップを実施する上では注意すべき点もある。大前提は「決められた時間内で結論を出す」ということ。そのためにも、山方氏がワークショップに臨む場合は、事前の課題設定や時間配分を綿密に設計する。

例えば、参加者に出す事前課題は「自社サイトを見て、良いところを3つ、悪いところを3つ上げる」といったものでも良い。こうした事前課題を出すことで当事者意識が出てくる。またワークショップをやりっぱなしにせず、実施後のレポートも出す(山方氏)

また、ワークショップの議論を上手く展開させるには、ファシリテーターが重要だ。発言の少ない参加者をフォローしたり、集まった意見を集約させるなど、多方面の知識・ノウハウが必要になってくる。NECマネジメントパートナーでは、こうしたファシリテートが得意な人材も多く在籍しているという。

決められた時間内で結論を出すのが、ワークショップを実施する上でのポイント。そのためには準備もしっかりと

社内の宝をサイトリニューアルで顕在化させよう

山方氏が所属するWeb部門では「THE SHERPA」(山登りにおける荷物運び・案内人)という標語を掲げ、クライアント企業の方々をリード・サポートし、クライアント企業のビジネスの成功の後押しをしている。講演の最後、山方氏は「要件定義は、未来を思い描くシナリオ作り。今の課題を解決するだけのものではない」と述べ、その重要性を説いた。

クライアント企業に話を聞くと、実は大きな価値を秘めているのに「いや、他社もやっていますから」と謙遜されることが多い。貴重な宝は社内に埋まっていて、それはきっと差別化に繋がる。そうしたものを再発見して、Webサイトに反映させる。これが大きな価値になっていくはずだ(山方氏)

もちろん、サイトリニューアルで注意すべき点は、要件定義以外にもある。山方氏は、「NECマネジメントパートナーは、リニューアルに悩む担当者を全力でサポートしていく」とアピールし、講演を終えた。

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