要件定義で必要な4ステップとは? Webサイトリニューアルで失敗しない進め方
B2B・B2Cに関わらず、オンラインでビジネスを展開する企業にとって、自社Webサイトの出来/不出来は、売上に直結する重要ファクターだ。ただ、改善を施したくても、日々の運用を停めず、かつ関係者の意見を集約して、さらに開発実務を短期間で完了させるのは至難の業だろう。
オンラインで行われた「Web担当者Forum ミーティング 2020 春」のセッションで、NECマネジメントパートナーの山方理佳子氏は、Webサイトリニューアルのために気を付けるポイントは、ズバリ「要件定義」だと説く。はたして、その心とは?
コロナ問題が変える「コミュニケーション」
山方氏は大規模Webサイトのプロデューサー経験が長く、とりわけ「Webサイトのリニューアル」についての造詣が深い。Web担当者Forumのイベントにも度々登壇し、Webサイトリニューアルにおけるコミュニケーションの重要性を繰り返し指摘しているが、山方氏は、今般の新型コロナウイルス問題はその状況に更なる一石を投じたと語る。
コロナ問題によって、コミュニケーションが変わった。Web担当者Forumミーティングがオンライン開催になったことも象徴的だが、普段の仕事でも客先へ営業に行けない事態にもなった。ただ一方で(テレビ会議などの)デジタルを駆使することで、遠方の顧客と打ち合わせがしやすくなった側面もある(山方氏)
そして、コミュニケーションの質や、その在り方が変わったということは、Webサイトに求められる機能もまた変わっていくことになるだろうと続ける。
そうした状況下で、すでに運用されているWebサイトをどうリニューアルしていくかは、会社としてのビジネスの方向性を決定づける重要事項であり、それだけに社内関係者の調整は難しい。トップダウン起点だろうと、ボトムアップ起点だろうと、解決すべき課題やトレンド、競合の状況を踏まえた目的や意義などをもとに合意を得てから要件定義に入る必要がある。
リニューアルのプロセス中で重要な「要件定義」
山方氏の定義によれば、Webサイトのリニューアル作業は全部で10のステップから構成される。
設計に入る前には「要件定義」を行う
なかでも特に重要であり、本講演のメインテーマにもなっているのが前半の4ステップに相当する「要件定義フェーズ」だ。サイトの開発実務を行うのは後半の「サイト構築フェーズ」の6ステップに入ってからになる。
リニューアルのコンセプト、大枠の施策、対応範囲、概算などを、サイト構築作業がスタートする前にあらかじめ決めるのが、要件定義フェーズの目的である。
ただ、これはNECマネジメントパートナー流の捉え方であり、一般的なWebサイト制作会社がいう要件定義、たとえば次のようなものとは、異なる取り組みであることは注意してほしい。
- Webのプログラミングにどの言語を使うか
- データベースの項目をどう設計するか
なぜ上記の図のようなプロセスを踏んでいるかというと、Webサイトリニューアルをいきなり「サイト構築フェーズ」から行うのは、それこそ関係者の“炎上”のタネを蒔く行為そのものだからだという。
- 「なぜこのサイトデザインにしたのか?」
- 「スケジュールをもっと前倒ししてほしい」
- 「これも一緒にリニューアルしてほしい」
- 「そもそもなぜリニューアルするのか」
など、リニューアルではそもそも議論が百出しやすい。その度に再検討をしていては時間もコストもかかってしまうのだ。
3年後にどうありたいかを思い描いて「要件定義」を行う
また、一般的なサイトリニューアルには計画から完成まで半年から1年程度かかる。そして、デザインや機能の鮮度を考慮すると、リニューアル後のサイトは3~5年に亘って使い続けることになる。その間、従業員は日々コンテンツを追加したり、保守をしたり、リニューアルには至らないまでもなんらかの新しいマーケティングツールを組み込む等の作業が発生する。「リニューアル数年後にサイトがどうありたいか」についても、要件定義における重要な視点だという。
「要件定義」全4ステップ
要件定義のフローは、次の4つのステップに沿って解説された。なお、本稿における「顧客」「お客様」とは、Webサイトリニューアルを検討している企業にとっての商売相手(おおむねエンドユーザー)を指す。
- 課題整理
- 戦略策定
- 合意形成
- 要件定義書
1. 課題整理
現時点での顧客を理解し、そのうえでビジネス上の課題の洗い出しを行う。これが要件定義で真っ先に行うべき、1つ目のステップだ。もちろんビジネス上の課題がすべてWebサイト刷新だけで解決できるわけではない。リニューアルによってできること・やるべきこと・できないことについても、ここで整理するのだという。
NECマネジメントパートナーがリニューアルのコンサルティングを行う場合は、ここで会社上層部や担当者に対してのヒアリングを実施している。特に現在はコロナ対応、あるいはその先の“アフターコロナ”時代を見据えて各企業が戦略変更を進めているタイミングでもある。そのため、この時点でのヒアリングが重要なのだ。
また競合他社、市場動向の分析もこの段階で行う。同様に、現行のWebサイトのボリューム(ページ数、コンテンツ量、今後のコンテンツ作成指標)についても把握しておく。
2. 戦略策定
洗い出した課題をもとに、リニューアル実施後にどんな顧客を獲得したいのか、顧客視点での価値付けを行うステップになる。より具体的には「誰に対して、どんな施策を、いつやるか」を仮説レベルでまとめる。
NECマネジメントパートナーではこの「戦略策定」のフェーズで再度ヒアリングを行う。「課題整理」段階でのヒアリングとは異なり、専門家視点からまとめた改善案を示すことで、更なる理解を深められる利点があるという。
山方氏はここでも「3年後にはどんな顧客をお迎えするのか」を意識すべきだと助言する。ただやはり気になるのがコロナ禍の対応だ。テレビ会議の急速な普及は最たる例だが、これをきっかけに顧客はますますWebを重視し、営業担当者の説明を聞くまでもなく、大型投資案件を進めるといった行動変容も予見される。
そこで徹底すべきは「顧客の視点」を意識することだ。ペルソナ、カスタマージャーニーマップ、ユーザーシナリオなどは顧客を理解する上で確かに重要だが、理解しただけでは意味がない。その顧客が、(リニューアル後の)Webサイトにどんな価値を見出してくれるのか、競合他社ではなくなぜ我が社を選んでくれるのか。そこにはどんなブランド戦略が必要なのか。といったことまで、考えなければならないと山方氏は語る。
3. 合意形成
これまでの検討内容について、社内合意を図るステップだ。合意形成にはワークショップの開催が効果的だという。
ワークショップのメリットは、人が集まって一緒に検討することで、合意形成がスムーズにいくこと。比較的短時間ででき、自分ゴト化してもらいやすく、部門の垣根を超えた議論がしやすい。ただ、決められた時間内できっちりと盛り上がりのポイントを作って、最後に結論を出すことが重要。そのためにはワークショップ開催の進め方、ファシリテーターの配置、さらには席順までも綿密に設計すべき(山方氏)
コロナ禍で非常事態宣言が出され、出社禁止・原則リモートワークの措置がとられていた企業は少なくないが、山方氏らはそれでもmiro(オンラインホワイトボードサービス)、Zoom、Microsoft Teamsなどのツールを用いてワークショップの実践に努めてきたという。顔を突き合わせられないデメリットがある一方で、場所や時間を問わずに参加でき、手書きではなくキーボード入力が主体になることで、ディスカッションに時間を割けるといったメリットもある。
NECマネジメントパートナーでは、ワークショップにかける時間を1回あたり3時間程度としているが、オンラインワークショップではそこまでの長時間は難しいため、分散開催をするなどの方法をとっている。
4. 要件定義書
最終的に、リニューアル方針・施策等を要件定義書として文書化する。これを根拠に「サイト構築フェーズ」でより詳細な設計を行ったり、問題が発生した場合の対処案を練る原点にもなったりする。なお、ハイレベルサイトマップやワイヤーフレーム、デザインなどもこの定義書に含めておくべきだという。
リニューアルの開発作業は期間が長くかかるので、「最初に何を決めたのか」で迷うときも出てくる。そうした場合に要件定義書が効果を発揮する。「立ち戻る場所」になる(山方氏)
リニューアルの鍵は「将来、何をやりたいか」
山方氏は解説を終え、Webリニューアルの要件定義について、今一度こう振り返った。
Webサイトを活用して、「今なにをやるか、将来何をやるか」が要件定義の本質(山方氏)
その上で、要件定義で押さえておく5つのポイントとして、以下を挙げた。
- 会社の方向と合っているか?
- お客様の期待に応えているか?
- 企画に一貫性はあるか?
- プロジェクトメンバーの合意は得られているか?
- 実行可能か?
NECマネジメントパートナーでは、Webサイトのリニューアルはもちろん、運用をも踏まえた各種支援サービスを展開している。
最後に山方氏は「要件定義は、未来を思い描くシナリオ作り。クライアント様と1つのチームを組んで、成功をお手伝いしたい」と述べ、講演を終えた。
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