AI活用でマーケティングはどう変化する? AIを学ぶ4ステップと8種類の活用例
現在、AIの活用が多分野で本格化しつつある。AIの学術研究フェーズはすでに終わり、GoogleやAmazonといった先駆者企業は、省力化・生産性向上といった目に見える成果を得ているとも評される。これは、マーケティングの世界でも例外ではない。
AIは「作る」から「活用」に変わってきており、マーケターはAIが活用できるようになった方が良いと語るのは、ZOZOグループでAIプロジェクトを手がけている、ZOZOテクノロジーズの野口竜司氏だ。オンラインで行われた「Web担当者Forum ミーティング 2020 春」に、登壇した同氏は、現場マーケターの業務にAIがどう寄与するのか、AIを学ぶための4ステップ、AIの種類について、わかりやすく解説した。
日本企業のAI活用レベルは、まだレベル1か2?
ZOZOテクノロジーズは、ファッション通販大手「ZOZO」グループのサービス運用・技術開発を担う会社だ。野口氏は同社のAI関連プロジェクトを推進する立場であると同時に、対外的活動にも積極的で、著書も多数ある。2019年12月には、『文系AI人材になる』(東洋経済新報社)を出版した。
セッションのテーマであるAIは、もはやITビジネスの域を遥かに超え、社会的な注目を集める概念へと成長している。野口氏が「日本企業の目指すべきAI戦略」を学ぶ上で参考にしたのが、安宅和人氏の著書『シン・ニホン AI×データ時代における日本の再生と人材育成』(NewsPicksパブリッシング)だ。
同書では、アリババやアルファベット(Google)、Amazonなどの海外企業がすでにAIを事業へ組み込んでいるのに対し、日本企業は圧倒的に遅れをとっていると指摘している。経団連が発表した、下図の「AI-ready化ガイドラインの五段階」に当てはめた場合、海外先進企業は最高のレベル5であるのに対し、日本企業の大半はAIにそもそも取り組んでいないレベル1、あるいはごく初歩的な取り組みを開始したレベル2にとどまっている。
野口氏は同書の主張を借りる形で、AI活用の第1フェーズはすでに終わったと説明する。
AIの誕生期はもう終わっていて、たとえば米国・中国を中心としたAIプラットフォームの主導権争いについても、すでに決着がついたと考える人は多い。次はどうやってAIを活用するかを考えるフェーズ。AI活用の必要性が高まっている(野口氏)
AIは「作る」から「使う」へ
AI活用を考えるフェーズになっているという前提から、野口氏は「人とAIが共働きする時代」はすでに始まっているとも指摘した。AIと人間の分業パターンは、AIの活用度に応じて以下の図の5つに類型化できる。
- 一型……旧来通り、人だけで仕事をする(変わらない仕事)
- T型……人の仕事をAIが補助する(人ができていたことをAIで効率化する)
- O型……人の仕事をAIが拡張する(人ができなかったことをAIができるようにする)
- 逆T型……AIの仕事を人が補助する(AIができないことを人が助ける)
- I型……人の仕事を完全にAIが代行する(AIによってなくなる仕事)
一型からI型へ行くにつれ、「人」中心から「AI」中心になる。「一型」には、マネジメントや経営業務、クリエイティブなデザインや創作業務など、人だけで行う業務があたる。そして「I型」の代表格は、まったく人が介在しないロボット倉庫だろう。また、画像解析による不良品検出業務はAIによってほぼ全て担える状態なので、「I型」に含まれる。
人の仕事をAIが補助する「T型」は、AIが一部の業務を代行し、業務のメインは人が遂行する。これには、接客や営業をしてくれる会話系のAIがあてはまる。
「逆T型」はAIの仕事を人が補助するので、たとえば、機械が作業をする前に人が前準備する必要があったり、最終的な仕上げやチェックを人が行ったりすることがそれだ。
そして、マーケティング領域における予測分析などは、AIによって予測を立てて人の業務を拡張するような状態の「O型」になっていくことが予想される。
このように、浸透度に差こそあれ、ありとあらゆる産業において、AI活用が進むというのが野口氏の主張だ。そして同時に、AI活用を推進するには、AIのベースとなる機械学習に明るい専門エンジニアの力だけでは達成されないだろうとも野口氏は予想している。
この予想の基となっているのは、「AIを作る人間と使う人間が今後分かれていく」という視点だ。たとえば、車は多くの人々に使われているが、その全員が車にどんな技術が使われていて、どうやって作るのか知る訳ではない。AIもまた同様に、AIそのものを開発するエンジニアがいて、AIを使う側もいる。
つまりマーケターがAIを作る必要はなく、AIを使って各種予測作業の高度化や顧客体験向上ができるようになることが、望ましいAI活用の姿だ。
マーケターが覚えるべき「AIの基礎学」。AIを学ぶ4ステップ
では、マーケターはどうすればAIを使いこなせるようになるのだろうか? “文系”を自認する野口氏は、自身がAIを学んだ際の経験則から、以下の4つのステップを順に踏むことが得策だという。
- AIの基礎学を学ぶ
- AI構築を体感する
- AI事例を学習する
- AIプランニング力を磨く
セッションでは、ステップ1の「AIの基礎学を学ぶ」にフォーカスして解説を行った。特に今回は、理系的なプログラミングなどの要素を極力排した基礎中の基礎だけに内容を絞りこんでいるので、野口氏は「理屈を考えずとにかく“丸暗記”してほしい」と聴講者に呼び掛けた。
まず野口氏が述べるのは、AI(機械学習やディープラーニング)と呼ばれる技術は「特徴づかみの名人」であるという点だ。
例として、新卒入社した社員が「将来出世するかどうか」を機械学習で判定させたいとする。これはデータさえあれば十分実現できる分析だ。入社3年以内に職位が上がることを出世と定義し、そのうえで新入社員に以下の5つの項目で評価を付ける。
- 挨拶(する・しない)
- 性格(明るい・暗い)
- 悪口(言う・言わない)
- 勉強(する・しない)
- 営業(得意・不得意)
そして、これからの項目に出世の結果を紐付けておく。
- 挨拶をする、性格明るい、悪口言わない、勉強家、営業得意 → 出世した
- 挨拶をしない、性格暗い、悪口言う、勉強しない、営業不得意 → 出世しない
この従業員データを数十人・数百人分と蓄積し、それを機械学習にかければ、出世する人に共通する“特徴”を抽出し、その“法則性”を見つけてくれる。これが「モデル化」である。
モデル化ができれば、後の判断は簡単だ。「挨拶する」「性格普通」「悪口を言わない」「勉強しない」「営業が得意」な新入社員が入ってきたとして、モデルに適合させて出世する・しないが機械学習によって判断される。
ただし、現代のAIは「挨拶する・しない」など個別データ項目の意味自体は理解できない。人間の感情的には「挨拶しない新人が出世するはずもない」と考えるが、AIは「0か1かのデジタル処理をしているだけだ」ということを、忘れてはならない。
AIの機能別4タイプと8種類の活用例
このようにAIには得意・不得意な部分がある。そして、AIの機能は「識別系」「予測系」「会話系」「実行系」の4タイプ×人間代行型/人間拡張型の以下8種類に分類される。
たとえば、SNSの投稿からNGワードや不正画像を検出するのは「識別系AI・人間代行型」、莫大な医療画像の中から医師でも気付かないような共通性を発見するのは「識別系AI・人間拡張型」だ。そして、チャットボットなら「会話系AI・人間代行型」という括りになる。
野口氏によれば、今、世に知られているAIの多くはこのどれかに当てはまるという。同氏は「この分類を意識することで、情報を理解する上での解像度がグッと上がる」と捕捉した。8種類のどれもがAIであることは間違いないが、用途が全く違い、構造・構築法がまったく異なるということを理解しておこう。
充実するAIプラットフォーム、マーケターは「選ぶだけ」「使うだけ」でもいい
実際に、Amazonなどの企業はAIの8分類ほぼ全ての領域で、なんらかのサービスを実用化し、外部企業にも販売・提供している。
野口氏が「AIは作るから使うへ」と指摘するのは、まさにこうした背景があるからだ。
AIはここ2年だけでも相当状況が変わった。スクラッチでAIを構築するという時代もあったが、予測系・識別系のAIは、ドラッグ&ドロップのGUIベースで簡単に構築できるし、さらには(基礎となるビッグデータを入力済みの)構築済みAIサービスすらある(野口氏)
マーケターは、AIを(専門家に発注して)自作することもできるし、既成のAIをすぐさま使うという選択肢もある。カスタマイズ性などには当然差異があるが、用途・納期などに応じて、必要なAIサービスを選択できるのだ。そして、自作AIか、既製品AIかを選ぶ・使い分けるための“目利き力”もまた、マーケターに求められている。
AIを作るにしても使うにしても、ハードルは下がってきている。その中で、マーケターは『AIを使うプロ』になるべきではないか(野口氏)
では、AIを活用するには、何から始めるといいのだろうか? 野口氏は、マーケティング分野におけるAI活用は「予測系AI」から始めるのが良いと言う。具体的にはCVの予測、施策によるリフトアップの予測、さらには需要予測、売上予測などが該当する。
普段の分析業務の延長として、予測系AIを使ってみるのが良いだろう。なにより分析をしている以上、(機械学習には不可欠の)データが揃っているはずだ(野口氏)
ユーザーの購入予測についても、予測系AIの範疇で十分に実用化されている。データ量・データ成型精度によるところは大きいものの、AIプラットフォームの性能向上などもあって実証正解率80%を達成することも珍しくないそうだ。
最後に野口氏は、AI類型8分類などを参考に「AIに何ができて、何ができないかを知る」ことが重要だと説明した。
そしてAIを「作る」のではなく「使う」という観点を改めて持ち、日々のマーケティング業務に活かしてほしいと述べ、講演を締めくくった。
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