ぐるなび、リクルート、freee、シックス・アパートの担当者が語る「オウンドメディアの立ち上げ方からやめ方まで」
「オウンドメディアをどう立ち上げ、撤退するか」現役オウンドメディア編集長たちが語った。
「Web担当者Forum ミーティング 2018 秋」では、現役オウンドメディア編集長4名によるパネルディスカッションが行われ、ぐるなびの伊東周晃氏がモデレータを務めた。パネリストはリクルートの横関崇志氏、freeeの中山順司氏、シックス・アパートの壽かおり氏だ。
登壇した4名は立ち上げる際のKPI設定からCMSの選定をはじめ、さらには撤退までについて赤裸々に語った。
オウンドメディア編集長4名が登壇
冒頭ではまず、登壇者4名がどのような立場でオウンドメディアに携わっているかを自己紹介形式で説明していった。
横関氏はリクルートの不動産サイト「SUUMO」のマーケティングを担当している。SUUMO関連のオウンドメディアは「MY HOME STORY」「SUUMOジャーナル」「住まいのお役立ち記事」など数多くあるが、横関氏自身は「SUUMOタウン」の立ち上げに携わった。
中山氏が所属するfreeeは、クラウド型会計ソフトの開発・提供で知られる企業。オウンドメディア「経営ハッカー」では、経理担当者、経営者、フリーランス、起業希望者向けの記事を数多く掲載しているおり、中山氏はその3代目編集長を務めている。
壽氏は、ブログ構築・企業向けCMSプラットフォーム「Movable Type」でおなじみのシックス・アパートにおいて、広報業務に従事。その一方、同社公式ブログの編集長も努めている。更新ペースこそ不定期だが、「オウンドメディア運営者向けのオウンドメディア」という一風変わった立ち位置が特徴だ。
モデレータの伊東氏は、ぐるなびのマーケティング施策の一環でオウンドメディア「みんなのごはん」の運営に携わる。
このように、参加した4人は業種や立場が異なれど、いずれもオウンドメディアに実務で関わっている。ここからは伊東氏が挙げたテーマに沿って、1つ1つ意見を交わしていった。
テーマ1. サイトのテーマと目的ってどう決める、 KPIは?
一般に、オウンドメディアは自社製品の認知拡大などを目的に、開設・運営されるケースが多い。しかし、実際のサイトとして形にする以上は、主軸となるテーマを打ち出したり、KPIを設定したりしなければ、組織が予算を投じるのは難しい。
中山氏は、企業がメディアを運営する際の宿命として、「自社製品を知ってもらいたい・買ってもらいたい」という発想が先行しがちだと指摘する。しかし、それでは読者に「売りたいが前面に出たメディアだな」と見透かされてしまう。
読者の課題を解決するためのメディアにならなければ。これはオウンドメディアかを問わず、メディアにとって不変の考えだと思う(中山氏)
そのためには、運営方針をあらかじめ社内で決めておくことが重要だという。掲載記事のテーマがぶれると、結局は読者に不審を抱かせてしまう。
たとえば、上司から何の気なしに「(売るために)こういう記事を載せてよ」と言われた際、運営方針はハッキリしていれば「いや、これは方針に反するのでダメです」と断ることができる。
KPIについては、時期によっても変えるべきという。それこそ検索順位のアップなどは一朝一夕でできるものではない。立ち上げ直後は「3カ月で何本の記事を載せる」などの記事本数などをKPIとしておき、後々に、競合との検索順位比較などへと広げていく。
壽氏もまた、サイト運営方針などについては中山氏とほほ同じ考えという。ただ壽氏は広報職が本業であるため、KPIの設定はやや異なる。
記事の掲載数以外にも、オウンドメディアがきっかけとなったセミナー登壇の回数、外部メディアへの寄稿、SNSにおけるフォロワー数、メルマガの読者数などもKPIにしている。
テーマ2. CMSはどう選定すべき?
今回登壇した4氏のうち、壽氏を除く3氏はいずれもはてな社のCMSでオウンドメディアを運用中。これはいわゆるSaaS型のCMSで、月額料金を払って利用するタイプだ。なぜSaaSを選択したのだろうか?
中山氏らはもともとWordPressを使っていたが、セキュリティパッチの更新作業などが重荷となっていた。CMSのメンテが本業ではない社内エンジニアを借り出すといった事態も多くなってしまったため、2018年の2月になってからSaaS型CMSへ移行した。
「やはり我々はメディアなので、メディア運営だけに集中したかった」と中山氏は振り返る。ただ、コストの高さはネックだと認める。
壽氏は、言わばCMSを販売する側だが、近年の傾向として、ライセンスを購入してユーザー自らサーバーにインストールするよりも、クラウドないしフルマネージドのCMSを選択する企業が増えているという。
サーバーなどの足回り部分はもう『餅は餅屋』に任せた方が良い、と考える企業が増えているようだ(壽氏)
テーマ3. コンテンツ、誰がどう作るの? 過去記事の活かし方は?
オウンドメディアに初挑戦する企業の場合は、はたしてどうやってコンテンツを日々大量に制作していくかにも、興味が沸くところだろう。
ライターは外部派
伊東氏の場合は、社内に編集担当者のみをおき、原稿のライティングは外部のライターに任せている。
また横関氏も基本的に同じだが、稀に自身でも「勘が鈍るから」と原稿を書くようにしている。SUUMOではフリーペーパーを発刊していることもあり、ライティング以外に校正の専門会社にも頼っている。
校正では字句の修正以外に「駅まで自転車で30分と書いてあるが、(自転車の標準的な速度と距離の関係上)無理ではないのか」といった指摘もあり、原稿執筆の奥深さを感じることがある(横関氏)
中山氏は、自身で原稿の企画を考え、ライティングはやはり外部のライターや編集プロダクションに任せる形。ただ、クラウドソーシングでの発注は「打率1割」、つまり良い原稿が集まりにくい印象のため、現状では利用していない。特に原稿修正に伴うコミュニケーションコストが難点だとした。
全部内製派
壽氏らの公式ブログは基本的に内製。ただし、更新頻度は原則不定期としている。また製品利用者コミュニティのメンバーから出てきた質問に対し、壽氏もしくは別のコミュニティメンバーが回答するという記事もある。
記事公開後の悩み
このテーマでは、横関氏から「記事をいったん公開したものの、法律改正や制度変更にともなって内容が古くなってしまった時にどう対処すべきか悩んでいる」との声が漏れた。SUUMOが扱う住宅ローンは、年度によって変化が大きいため、特に大きな影響が出やすい側面もあるようだ。
中山氏の領域でも、たとえば減税措置の変更などが年度で大きく変わる。修正量が多くても回るように、編集部で抱えずにリライトをお願いできる人・会社に任せるようにしているそうだ。
テーマ4. オウンドメディアのやめ方、実際にやめた理由って?
中山氏は「起業ハッカー」というオウンドメディアを2016年6月頃に立ち上げたものの3か月でクローズした経験がある。本筋である経営ハッカーのスピンオフ的な位置付けであった。早期終了は、あらかじめ決めておいたルールによるところが大きい。
ダラダラ続けるのではなく、まず3カ月、それで手応えがわからなければまた3カ月、そこで継続を判断しようと社内で決めていた(中山氏)
実際にはPVの多少ではなく、検索上位を狙ったキーワードに対して、徐々に改善がみられるかを検証した。そこで見込みがなかったことから、結局3カ月でやめた。ちなみにサイト立ち上げ当初の時点で、公開した記事の振り分け先(再公開サイト)すら決めていたという。
終了したオウンドメディアの記事をどうするかは、関係者の悩みどころだ。面白い事例として壽氏が挙げたのが、家電ベンチャーのcerevoが運営していた「カデーニャ」。メディア閉鎖ではなく、公開記事をインプレスの家電専門Webメディア「家電Watch」へと“移転”させた例があるという。
では、更新を終了したものの、サーバー自体は動かしたままにするのはどうか。この場合、セキュリティ脆弱性を放置したままのサイトとして踏み台にされてしまう。また、SaaSでは毎月コストがかかってしまう。「サイト立ち上げのときに撤退の事を考える人はいないが、サイトには必ず寿命がある。手離れの良さも考慮すべき」だと壽氏はアドバイスする。
テーマ5. 今後チャネルをどうしていくか?(ブログなのか、動画なのか、Twitter、NewsPics)
オウンドメディアは、Webブラウザーで表示される。しかしインターネットは当然Webだけで完結しない。FacebookやTwitterといったSNS、YouTubeのような動画サイトもまた、それぞれが企業と顧客を結ぶチャネルとして機能している。オウンドメディアへの集客を図る以上、どんなチャネルを併用するかは、検討すべき課題となってくる。
壽氏がシックス・アパートで実践しているのは、ユーザーコミュニティとオウンドメディアの連携だ。CMSにしろ、MAにしろ、法人向けデジタルマーケティング製品では、開発者から一方的に情報提供するだけでなく、ユーザー同士が連携して使い方などを研鑽するコミュニティの文化がある。
たとえば開発者とコミュニティの交流会レポートなどをオウンドメディアに載せるとなれば、交流会の現場でユーザーの声を直接聞けるといった発展性も出てくる。 伊東氏は、今、改めてメルマガに注目しているという。
旧来の方法と思われるかも知れないが、海外でマーケティング関連のカンファレンスに出てみると、「Email Marketer」という肩書の名刺をもらうことがしばしばあり、専門職種として定着しているのだなと感じる。またMAにおいてメールでのナーチャリングが重要なことは、皆さん何となくお気づきになっているのではないか(伊東氏)
ここでいうメルマガとは、最新情報へのリンク集のようなものをルーチンで配信するのではなく、記事を書くのと同じぐらいの力をかけた「お便り」を送ることを通じて、読者との関係を強固にする意味に近いという。
※一人ひとりにマニュアルで別の内容のものを送るという趣旨ではない
またメールは、栄枯盛衰あるSNSとは違い、突然サービスが終了したりする心配がなく、マーケターが送信先リストを完全に握っておける。
さらに伊東氏は「SNSだとアカウント凍結が発生することもある。メルマガはそういった心配なく、コミュニケーションしたいときにコミュニケーションできる」と述べ、メリットは少なくないとした。
ここで約1時間のディスカッションは終了。聴講客からの拍手が上がる中、4名は会場を後にした。
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