【レポート】Web担当者Forumミーティング 2018 Autumn

「アニメ × マーケティング」を成功に導くために知っておきたいポイント

Webとの親和性の高いアニメのマーケ活用で押さえるべきポイントについて、アーチ株式会社の平澤氏と吉田氏が語った

動画コンテンツへの関心の高まりに伴い、アニメやゲームなどのコンテンツを自社のマーケティングやプロモーションに活用しようという企業が増えている。

しかし、コンテンツはその特性や業界慣習の複雑さなどから、企画立案、実施に際していくつか考えなければならないことがある。そこで、数多くの企業の「アニメ×マーケティング」のコラボレーションを手がけてきたアーチ株式会社の平澤 直 氏と吉田 華倫 氏が、「Web担当者Forum ミーティング 2018 秋」アニメ活用を成功に導くために知っておきたいポイントを示した。

代表取締役/CEOの平澤 直 氏とプロデューサーの吉田 華倫 氏

アニメ活用をしてみたい! その前に社内で理解を得るには?

最近、アニメやマンガ・ゲームとコラボレーションした企業コンテンツの事例を目にする機会が増えた。たとえば、株式会社丸井グループでは、2017年から2018年にかけてオリジナルアニメCMを軸に、同社の企業理念の浸透を目的にしたキャンペーンを実施。

関連書籍の販売やコラボカフェイベントなどリアルとネットの双方でプロモーションを展開した結果、公式Twitterは最大1.7万ものフォロワーを獲得し、YouTubeの再生数は320万回を数えた。

こうした「アニメ×異業種」の取り組みに加え、最近では3DCGで作成したバーチャル(仮想)キャラクターを使った「バーチャルYouTuber」(VTuber)など、新たな手法に対する関心も集まっている。

近年、アニメを活用したマーケティングは、クオリティの高いアニメーションや、オリジナルストーリー、有名声優・楽曲を起用した凝ったものに進化している(吉田氏)

一方で、自身の事業会社のマーケターとしての経験から、実際にアニメ活用を進める上で、何から始めてよいのかわからないマーケターは多いのではないかと指摘した。

そこで吉田氏は、自社のマーケティングやプロモーションにコンテンツを取り入れる際に、どのように社内の理解を得て、企画を考える際にどうすればよいか。企画のプレゼン時によく聞かれる質問とアピールの仕方をアドバイスした。

若い人にしか刺さらないのではないか?

アニメ視聴人口の実数が一番多い世代は40歳代という数字がある。現在の40歳代は、『宇宙戦艦ヤマト』『機動戦士ガンダム』など、人気アニメに触れてきた世代だ。アニメやゲームは、若い世代に限定されるものではなく、現在進行系で多くの世代に触れられているということを、上層部に気づかれていないケースがある。

アニメやゲームは多くの年代で触れられているコンテンツだ

拡散のためには有名人やインフルエンサーを起用した方がいいのではないか?

吉田氏は「アニメは関係者が多く、その一人ひとりにファンがついている」と説明した。

人気の漫画家、アニメ監督や声優の中には、フォロワーが100万人前後のTwitterアカウントの人もいる。これらを立体的に掛け合わせることで、特にインフルエンサーなどを起用しなくても、拡散を生み出すことができるのだ。

見るだけで行動せずに終わってしまうのではないか?

これについては、特にアニメに関心がない相手でもイメージしやすい事例としては、「ポケモンGO」が生み出した。「キャラクターを集めるために外に出てスポットにいく」「これまでアプリに触れることが少なかった世代にも、スマホアプリをダウンロードしてもらった」といった特徴がある。

吉田氏は、キャラクターの特徴や世界観が浸透しているアニメやゲームは、ユーザーにとって学習コストが低く、最低限の説明でも、積極的に使ってみようという行動を喚起する力があると説明した。

また、既存作品とのコラボの場合は特に、熱量の高いファンによるネガキャンペーンの可能性も指摘されることがあるが、そこは「作品ファンへの理解やクリエイターへのリスペクトをどれだけ持てるか」がカギを握ると説明。SNSなどでの一般的な炎上リスクは、アニメ、ゲームだからといって極端に高いわけではなく、普段から認識されるリスクと変わることがない。

企画を考える上でマーケターに求められる「3つの心構え」

続いて、吉田氏は、実際に企画を考える際のポイントを以下のように3つ示した。

ポイント1: 目的とターゲットを明確にして、タイトル・手法を検討する

まず、企画を考える上で大事なのは、「何を目的とするか?」だ。既存の作品やキャラクターとのコラボレーションについては、既に熱量のあるファンにリーチできるメリットがあるが、作品によって、ファンの数やコアとなる世代などの特性が異なり、また、権利者の監修が必要となるため、目的と世界観とのマッチングが重要になる。また、コスト面ではロイヤリティの発生を考慮する必要がある。

一方、オリジナル作品は、自社でコントロールできる範囲が広くなるメリットがあるものの、制作期間や効果が出るまでに時間が必要で、その意味から「社内の理解が得られにくい」点に注意を払う必要がある。

アニメ活用は、大きく既存作品とのコラボか、オリジナル作品の製作の2つに分かれる

また、「サービス・商品訴求」重視か、「ブランディング」重視かの目的によっても、最適な手法や、提携する関係者が変わる。

自社がアプローチしたいターゲットや年代、趣味嗜好などを明確にし、企画を検討することが重要です。一般論として、サービス・商品訴求の場合は既存作品とのコラボを、ブランディングにはオリジナル作品をおすすめします(吉田氏)

ポイント2: 良いプロデューサーが重要、多くの人との共同作業だと心得る

アニメ活用でも映像など「作品の制作」をともなう場合は、特に多くの関係者との共同作業になる。たとえば、企業がオリジナルアニメCMを作る場合、関係者は自社、メッセージを届けたい相手(お客様)、そしてアニメをはじめとするマーケティング素材をつくる人の3者となる。

アニメ映像を制作する場合、ステークホルダーが多くなる

そこで大事になるのが、事業会社の考え方や、やりたいことを理解し、間に立ってプロジェクトを牽引するプロデューサーの存在だ。そして、担当者は「つくる人」たちに歩み寄り、自社とお客様の間で多くの人と共同作業を進める心構えが求められる。

ポイント3: 担当者の愛の強さが成功のカギ

作品企画に対する愛着は、「深さ」よりも「強さ」が大事だと吉田氏は指摘する。プロジェクトを進める上で、アニメやゲームを好きという「愛」は重要だが、プロモーションに最適なタイトルを検討した結果、特に自分自身は知らない作品が選択肢になることもある。

また、個別の作品や声優さんが好きという想いだけで、企画を立てると客観性を失う可能性もある。要するに、作品に携わる人へのリスペクトや、ファン心理を理解することは大前提のうえで、担当者には「企画を実現して目的を達成する」という「強さ」が求められるのだ。

マーケ担当者は、アニメ制作の工程、特徴を踏まえる必要がある

続いて、TVアニメや劇場版などの一般的なアニメ作品に加えて、アニメ業界外企業の作品プロデュース経験も豊富な平澤氏より、どうすれば企画の成功確率が上がるかという観点で、実装・運用時のポイントが2点示された。

ポイント1: 作品はクリエイターや権利者にとって「我が子」である

まず、既存作品とのコラボをする場合のポイントは、作品に携わったクリエイターや権利者にとって、その作品は「タレント」であり「我が子」であるという感覚を持つことだ。既存作品とのコラボの場合、期間や内容、文言、使用イラストなど企画の全てに監修が必要になる場合がほとんどであり、「この感覚を大事にすると、コラボレーションを歓迎してくれる確率が高まる」と平澤氏は述べる。

各作品は、テレビやインターネット配信をするだけでなく、映画やラジオ、リアルイベントなど、様々なフォーマットや、型式で展開しており、公式サイトやSNSアカウントなども持っている。

そのため、コラボをしたいタイトルが大きくなればなるほど、プロモーションの手法は多く、チャネルも選択肢も複数になる。

次に、コラボ展開をする時期についての考え方だ。たとえば、マンガ単行本の売上累計○○冊突破などのタイミングや、TVアニメ、劇場版公開など、作品が露出を増やしたいタイミングに合わせて声掛けをすると、歓迎されるケースがある。

作品と自分たちの都合をどう組み合わせるかという立体的展開が大事だ(平澤氏)

プロモーションの手法、タイミングにも様々な選択肢がある

そして、関係者のどこへアプローチするかというのが重要なポイントだ。

コンテンツは版権ビジネスであり、多数の関係者が存在する。原作が売れているタイトルの場合、出版社にアプローチする方が良く、アニメがヒットした作品では、いわゆる「製作委員会」がキャスティングボードを握っているケースがある。

タイトルによってケースバイケースであり、その見極めが成功のカギを握るのだ。

ポイント2: オリジナル作品は長丁場の共同作業であり、信頼関係が大事

次に、オリジナルでアニメーションCMを作る場合の注意点だ。一般的なアニメ制作のワークフローは大きく分けると10工程ほどに分けられる。

すべての工程をインハウスで担当できるアニメスタジオは非常に少なく、多くは外部のパートナーを活用しながら作品を完成に導いていく。なお、30秒CM1本の制作期間は、既存アニメで4カ月以上、オリジナルで6カ月以上考えておく必要がある。

アニメ制作には多くの工程があり、ロングスパンであると心得たい

そして、開発形式は典型的なウォーターフォールモデルで、工程は後戻りせず、かつ各工程は作業単価ベースでコストが積み上げられるため、一度決めたワークフローを戻る、遡るリテイクを依頼するのは、信頼関係に悪影響を及ぼす。

クリエイターも声優などの出演者も、通常の作品制作が優先されます。そうした状況でクライアントの意図に沿ったキャスティングができるかはプロデューサー次第です(平澤氏)

クライアントの目的やターゲット、プロモーション効果を理解し、キャラクターやストーリー、テーマ、世界観などの構成要素を組み合わせてく視点がプロデューサーには求められるのだ。

翻せば、マーケ担当者にとっては、自社とクリエイターの双方のことを理解し、間に立ってプロジェクトを牽引するプロデューサーをいかに見つけるかが重要であるということになる。

アニメCMを作る場合にマーケティング担当者に知っておいてほしいこと3点

  1. 絵やストーリーなどの作風はスタジオによって得意・不得意がある
  2. 「◯◯監督のような作品を作りたい」のであれば、その監督のいるスタジオへお願いするのがベスト(スケジュールが空くのを待つという判断が必要な場合があることを理解する)
  3. 絵・セリフ・音楽などは緻密に計算されて構築されているため、「ちょっとここを直して」という依頼は、タイミングによっては大手術になることを理解する

そして、キャラクターの設定や脚本、キャスティングなど、担当者として決める項目は膨大にあり、それらはクライアント側の意図を反映して作り上げる要素であることから、マーケティング担当者は、すべての工程に積極的に参加し、効果が出るまでに辛抱強く忍耐する熱意を持って欲しいと平澤氏は述べた。

マーケ担当者にとっては、自社とクリエイターの双方のことを理解し、間に立ってプロジェクトを牽引するプロデューサーをいかに見つけるかが重要であるということになる。

アーチ株式会社では、総合的なマーケティングプランの立案やIPの育成からSNSアカウントの運用まで、アウトプットもハイクオリティなフルアニメーション映像によるCM制作だけでなく、ゲーム・キャラクター・マンガ・イラストなど、クライアントの要望や予算規模に合わせて多彩なプロデュースを手がけている。吉田氏と平澤氏は、「コンテンツを活用したマーケティング、プロモーションの相談があれば、ぜひお気軽にいただきたい」とセッションを締めくくった。

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