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やりたいことを「できる」へ。唐突にアニメを創った さくらインターネットのインナーブランディング戦略

なぜさくらインターネットが(思いっきりガチな)アニメーションを創ることになったのか。実際に企画と実行に携わったコアメンバーに話を伺ってきました。

はいこんにちは。ナカムラです。

今回は僕自身も思いっきりディレクターとして関わらせていただいた案件なんですが、先日唐突に公開された「さくらインターネット20周年記念アニメーション」の裏側について。

なぜサーバー屋であるはずの さくらインターネットが、(思いっきりガチな)アニメーションを創ることになったのか。実際に企画と実行に携わったコアメンバーに話を伺ってきました。

上記が公開されたさくらインターネットのコンセプトアニメーション。各キャラ毎に前日譚となる小説まで用意する気合の入りようで、パッと見ると「なんで?」と言いたくなる全力クオリティ。

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なぜアニメ?なぜこのストーリー?一見「?」だらけなプロジェクトの意図

―とりあえずまずは「なぜ?」の部分でしょうか。20周年を記念するコンセプトムービーにアニメを起用した理由について教えていただければ。

さくらインターネット アニメ製作委員会

マーケティング部部長でもある櫻井 裕さんがメインとなってさくらインターネット内の若手3名(左から田名部さん、伊東さん、宮本さん)と立ち上げた特設チーム。実はそれぞれの所属も嗜好もバラバラな超混成チーム。なぜそんな構成にしたのか…?は、以下ご覧ください。

―櫻井
もちろん「ただアニメが作りたかった」というわけでは無いんですよ?(笑)

もともとは『20周年を機にブランドを考え直そう』という動きが2年くらい前からあって、さくらとしてどうブランドを発信していくべきか?という課題が僕らの中にあったんです。

そう切り出してくれたのは、マーケティング部の部長にして『さくらインターネットブランド委員会』発足時リーダー。櫻井さん。

ブランド委員会というある種の密室の中で生まれるスローガンを、様々な形で社員に伝播させていく ”インナーブランディング” の一環として今回のアニメ製作に乗り出したのがはじまりだったんだとか。

―櫻井
20周年記念…というタイミングもあったんですが、それ以前から抱えていた『さくら ”らしさ” ってなんだ?』みたいな課題感を、全社的にクリアにしたかった…というのが大きな理由ですね。

なにしろ急に100人近く社員が増えた時期でしたし、海外クラウドベンダーが元気良すぎて『俺らどう戦おう?』みたいなものもまだうまく文章に落とせていなかったので。

どんどん複雑化していく市場において、自社の価値をどう発信していくべきか。ある程度以上の規模になれば、どんな企業だって悩まされる命題ですよねぇ…。

実際、件のブランド委員会が立ち上がった時点で既に「企業ビジョン」と呼ばれるものは存在したそうなのですが、それそのものが割と長い上に、一気に増えた社員に浸透できているかどうか?となるとちょっと渋い顔になってしまう状況だったんだとか。

―櫻井
さくらってすごく長く働く人が多いんですね。
それはそれでとても良いことなんですが、ここに一気に100人とか新しい人が入ってきてしまうとどうしても一度グチャっとなってしまう。

その場その場の最適解を探してしまって、「さくららしさとは何か?」みたいな、本来僕らにとっての大きな武器が薄くなってしまうんじゃないか?という危機感があったんですよね。

なるほど。

何よりも『そこに危機感を抱く』ということ自体がなんだか「さすが」って感じがしてしまいますが…。

で、そこから急に(?)『アニメやろう!』だったんですか?

―櫻井
なんだかその流れでいくとさもノリと勢いで決めた!みたいな感じしちゃいますけど、違いますからね?(苦笑)
今回の企画に込められた「クリエイターを応援する」的なメッセージに共感したっていうのもありますが、何より僕らのブランドメッセージ

「やりたいこと」を「できる」に変える

これとの相性の良さを感じたのが大きかったんですよね。

今回のアニメーション製作においては、株式会社アニメイトラボが主導する『GUILD』という枠組みが採用されている。
分かりやすく言うと「アニメーション製作会社の空きリソースを上手いこと使って短期でハイクオリティなジャパニメーション動画を作成する」というプラットフォームのようなもの。
いわゆる1クールものと違い製作期間も短く、製作会社側にとっても利益があげやすくクリエイターに還元しやすいというメリットがある。

『やりたい気持ちに大それたきっかけなんてない』ストーリーに込められた若手メンバーのリアルな心境

―ちなみに今回のアニメーション、ストーリーがかなり迂遠な表現をしているというか。直接的なメッセージでは無いように感じましたが、意図などをお聞きしても?

―櫻井
今回の場合、社内の人間向けに作られたコンセプトムービーとしての意味合いが当初強かったので、そこまで直接的な表現…例えば『さくら最高!』みたいなのはいらないと考えていたんですよ。

で、アニメーションを表現の一つとして採用するにあたって、通常のプロモーション設計より、もろもろの設計をかなりピーキーに設定した。というのが本音だったりします。

と、そう語る櫻井さん。

実際にストーリーを策定する際には、田名部さん、伊東さん、宮本さんの若手3人を主体として設定。

実際のシナリオ作成やコンテ作成は専門家に任せたものの、ストーリーの原案とも言うべき部分は本当に若手3人がメインとなって決めていったんだとか。

―宮本
本当にブレストの場でもほぼほぼ僕らばっかり発言して、シナリオライターさんと打ち合わせていったので、ストーリーが決まっていく過程ではかなりドキドキしました(笑)本当にこれでいいんですか?と。
―田名部
私も同じくです(苦笑)初回のブレストで私が言った『やりたい気持ちに大それたきっかけなんてない』て言葉が、その後の流れを結構大きく決めてしまったみたいで…。

いいのかな?とちょっと戸惑ったりもしました。楽しかったですけどね。

やりたい気持ちに大それたきっかけなんてない。なるほど。

確かに今回公開された各キャラクターは、自分自身のやりたいことに向き合うというタイミング…というか、シーンをメインで描かれていますが、どれもそれほど大きなキッカケは描かれていないですね。

―伊東
実際、僕ら自身にもそれぞれ『人生の転機』と、後になれば言えるようなシーンはいくつかあったんです。

でもそれをリアルに思い返して深掘りしていくと、別にドラマチックなものではなかったんですよね。本当、ふとした小さな出来事とか、自分自身の小さな気持ちの変化とか。
それをリアルに描けないか?というのが企画段階のメインとしてあったんです。

確かに。現実の世界での「やりたいこと」への向き合うきっかけって、実際そんなもんかも知れないですね。

しかし…なんというか、そこまでこう、フラットというか。リアルによせすぎた展開をアニメーションにするのは、ちょっと勇気がいるのでは?

どうしても「せっかくだしアニメらしい展開を!」なんて考えてしまいそうですが…。

―櫻井
ですね。それはそうだと思います。でも、「だからこそ」だったんですよね。
僕らが発したメッセージを誰に受け取ってほしいか?と言えば、彼らのような若い人達がやっぱりメインなんです。

なので、僕自身を含め、30歳以上の人にとっては『よくわからない』くらいの価値観と表現を込めなければ何も伝わらないんじゃないか?と、そう考えたんです。

なるほど。それで『ピーキーな設計』ですか。

確かに、管理する立場から見て「理解できない」ものに許可を出す…というか、もはやそれをあえて求めて表現に落としていったってことですもんね。

いやはや…改めてすごい勇気と思い切り。ですね。

さくらインターネット20周年と「これから」の話

―さて、そうしてついにリリースされたさくら20周年記念アニメーションですが、せっかくですのでラストに「これから」についても語っていただければと。

―櫻井
期待を込めて…てな話にはりますが、こうしてせっかくピーキーな感じで世の中に打ち出したブランドイメージとコンセプトですし、これが社内から浸透して染み出していってくれると。。。ですかね。やっぱり。

―櫻井
例えばサービスの設計などに落とし込むのであれば、やっぱり「コミュニケーションの相手(≒ユーザーなど)にとってはどうか?」みたいな形で、我々一人一人が考えていくことを求めていかないといけないんですよ。

で、それってトップダウンだけじゃやっぱり難しいと思っていて。今回のプロジェクトしかりボトムアップで作るものとのバランスが非常に重要だと、僕は考えているんです。

なるほど。確かに今回のアニメプロジェクトも、決めたのはトップで中身はボトム。と、キレイに切り分けられていましたね。

一つ一つのプロジェクトにおいて、そういったスタンスを外部的にも内部的にもどう見せていくか?みたいなところがテーマになっていた感じですかね?

―宮本
―宮本
まさにそんな感じでしたね。
本当に「軽い案出し」くらいのつもりで呼ばれたと思っていたのに、最終的にはガッツリ入らせてもらって。
―田名部
私もそんな感じでした。いつの間にか。
裏にある意図もある程度分かっていたんで、これは責任重大だぞ…!なんてドキドキしてましたね。
―伊東
僕らが作った…というよりは、僕らにやらせてくれたさくらの風土をうまくクリエイティブを通じて伝えられればいいなぁ…なんて、ちょっと偉そうですけど、今はそう思ってます。
やってる最中は本当に夢中って感じでしたけどね(笑)

なるほど。トップが決めて、ボトムからの意見を形にして、そして世に放ってみる。そして大事なのはその後。つまりこれからブランドとしてどう見せていくか?の部分については、個々人の中から滲ませなければ意味がない。と。

そんな企業としてのスタンスと意思を内外に示すための施策…だったんですね。

皆様、お忙しいなかありがとうございました。

取材後記

実際、今回は僕自身も思いっきり参画させていただいたプロジェクトの話でしたので、なんとなくインタビューというよりはいつもの会議。みたいな感じになってしまいましたが。

一体何を求めてさくらインターネットのアニメ制作なんてプロジェクトが走ることになったのか。その裏側にある意図とはなんだったのか?

みたいなものを一人でも多くの方に知ってもらえれば嬉しいな。と。

インナーブランディング手法の一つとしても使える?新しいデジマチャネルとして「ジャパニメーション」が選ばれる…なんて未来も、また面白そうですよね。

ではまたー。

中村 健太 by 中村 健太
数多くのメディアコンサルとコンテンツクリエイティブに関わってきた経験を持つ株式会社ビットエーのCMO。KaizenPlatformのグロースコンサルとしても知られ、2014年より一般社団法人日本ディレクション協会の会長を務める。主な著書に「Webディレクターの教科書」「Webディレクション最新常識」など。

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