台湾が新型コロナ封じ込めに成功した3つの理由。天才IT大臣オードリー・タン氏が語る“デジタルを駆使したコロナ対策最前線”
2016年に台湾史上最年少の35歳で入閣した台湾デジタル担当大臣のオードリー・タン(唐鳳)氏。最近では、台湾における新型コロナウイルス感染症(COVID‑19)対策を成功に導いた立役者として注目を浴びている。
ネットアップ合同会社は2月25日、マルチクラウド環境のデータ活用やデータ管理の最新情報などを紹介するイベント「NetApp INSIGHT Japan 2021」を開催した。本イベントでは台湾IT担当大臣(政務委員)のオードリー・タン氏による基調講演「デジタルを駆使したコロナ対策の最前線、及びDXを推進するためのポイント」が実施された。
オードリー・タン氏は基調講演の冒頭で、ソーシャルイノベーションの三本柱は「素早く」「公平に」「楽しく」であると述べた。台湾が新型コロナウイルス感染症対策に成功したのは、この三本柱を重要視したからだと考えられる。
この記事では「素早く」「公平に」「楽しく」の3つのキーワードを軸に、台湾が新型コロナウイルス感染症の感染拡大の封じ込めに成功した3つの理由を紹介していきたい。まずは「素早く」からだ。
投稿の翌日に乗客全員の検疫開始「台湾の人たちを救った」
オードリー・タン氏によると、「素早く」は集合知に基づくスピード感のある取り組みを意味するという。
たとえば、台湾には「PTT」という投稿サイトがある。2019年12月、台湾の若い医師が武漢の李医師による内部告発を投稿した。投稿には「武漢の海鮮市場で新型SARSが7件発症」と書かれていたという。この投稿の翌日、2020年1月1日には、台湾は武漢から到着する乗客全員の検疫を開始した。
オードリー・タン氏は「李医師は間違いなく、台湾の人たちを救いました」と語る。若き医師を含むPTTの投稿者たちは、オードリー・タン氏が指摘する集合知の促進に貢献していると言えるだろう。
また、このようなスピーディな対応は市民へのまなざしにもおよぶ。中央感染症指揮センター 本部長の陳時中氏は毎日、定例記者会見を生配信し、市民からのアイデアを取り上げた。
なかでも、2020年4月に起きたエピソードは有名だ。ある男の子がホットラインに「クラスの男子は全員、青色のマスクを着けているのに、配給されたマスクはピンク色。それを着けて登校したくない」と相談した。その翌日の会見では、このようなジェンダーバイアスを打ち消すため、スタッフ全員がピンク色のマスクで記者会見に臨んだのだ。このスピード感は特筆すべきだろう。
オードリー・タン氏は本対応について、「ジェンダー平等と連帯をアピールするだけでなく、コロナ対策本部に改善要望があれば、誰でも提案ができることを知ってもらう良い機会になりました」と振り返っている。
マスク在庫状況を30秒ごとに更新「共創を感じてもらった」
「公平に」の具体例としては、マスクマップが挙げられる。台湾では薬局のマスク在庫状況を30秒ごとに更新し、オープンAPI化。多くの人たちと連携し、在庫をリアルタイムに表示するツールが100個以上作成された。
オードリー・タン氏は「市民を信頼してオープンデータを提供し、マスクの列に並ぶ間に、目で確認できるインフラを共創していることを感じてもらいました。農村部で薬局に到着したら閉店していたなどの情報があれば、変更や修正も提案してもらえます」と話している。
本取り組みは、民間の支援を後押しできる分析にもつながった。2020年4月頃にはマスクを事前に注文し、近隣のコンビニに配達してもらう仕組みが広がり、当初問題だった薬局での行列を完全に解決できたという。このようにして、台湾では国民が公平にマスクを入手できる環境を実現したのだ。
オードリー・タン氏「意外に楽しくも重要」
最後のキーワードは打って変わって「楽しく」だ。これまでの「素早く」「公平に」とは大きくイメージが異なるものの、オードリー・タン氏は「意外に楽しくも重要です」と話す。
日本だけではなく、台湾でも2020年4月にトイレットペーパーの買い占めが起きた。しかし、行政院長が「お尻はみんな一つしか持っていない」と書いた絵を使いアピールし、事態は収束したという。
オードリー・タン氏は「言葉遊びなのですが、北京語でティッシュペーパーなどの『買い占め』を『トゥウィン』と発音します。『お尻』も『トゥウィン』と発音するため、拡散されました」と説明する。
また、各省庁にはスポークスパーソンがいるが、衛生福利部のイメージキャラクターは犬だった。そこで、衛生福利部は「室内では柴犬(しばいぬ)3匹分、屋外では柴犬2匹分の距離を相手と取りましょう」と呼びかけた。
もちろん、このような取り組みは単に「楽しい」だけではない。オードリー・タン氏によると、台湾ではこのような取り組みも傾向と反応をリアルタイムで見て、平均60分で展開できるというのだ。
日本への助言は「台湾のように事前に行動しておく」こと
では、このような理念を保てるような状況にするために、まず日本は何をすべきか。オードリー・タン氏は「日本のみならず世界に向けたアドバイスは、2003年のSARS直後、2004年の台湾の取り組みをすることです」と語る。
台湾では2004年には、中央感染症指揮センター、新伝染病防治法など、新しい組織や法的枠組みなどを整備していた。オードリー・タン氏は、当時すでに対応はこのような対応をしていたこともあり、新型コロナウイルス感染症が世界で感染拡大した際にも、台湾では緊急事態宣言を発令せずに済んだと主張している。
オードリー・タン氏は日本はもちろん、世界に対して「感染拡大中に新たなデータ収集地点を展開するのは困難です。今回の台湾のように、SARSプレイブックをもとに、事前に行動しておくのです」と呼びかけた。
台湾はソーシャルイノベーションの三本柱である「素早く」「公平に」「楽しく」といった理念を重要視したからこそ、新型コロナウイルス感染症対策に成功したと言える。
新型コロナウイルス感染症が広がる以前から、人類は感染症との戦いを繰り返してきたとされる。日本社会も次なる危機に備え、2004年の台湾がそうであったように今すぐ行動を起こすべきだろう。
「AI:人工知能特化型メディア「Ledge.ai」」掲載のオリジナル版はこちら台湾が新型コロナ封じ込めに成功した3つの理由 天才IT大臣オードリー・タン氏が語る2021/03/08
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