【レポート】デジタルマーケターズサミット2025 Winter

大規模CMS成功の法則|事例で語る企業内コンセンサスの取り方

ユーザーのライフスタイルが変わり、Webサイトのあり方も変わるなかで、Webサイトの改善・対応は急務だ。大規模サイトのCMS導入時に、速やかに上司や関係者のコンセンサスを取るための進め方を解説する。
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大規模Webサイトを作成・改善しようとすると、上長や各部門の承認や合意を取るのに苦労することが多い。しかし、ユーザーのライフスタイルが変わり、Webサイトのあり方も変わるなかで、Webサイトの改善・対応は急務だ。

デジタルマーケターズサミット2025 Winter」では、キノトロープの生田昌弘氏が、30年以上にわたるWeb制作の実績をもとに、大規模サイトのCMS導入時に、速やかに企業内のコンセンサスを取るための進め方について、事例を踏まえて紹介した。

生田昌弘氏
株式会社キノトロープ 代表取締役社長 生田昌弘氏

ユーザーの変化がWebサイトに劇的な変化を与える

Webサイトを制作する際、デザインやコーディングといった構築作業以上に、意外と手間がかかるのが“企業内のコンセンサス”、つまり上司や関係者の共通合意を得ることだ。多くの場合、属人化されていることが多く、即効性のある解決策はまず見当たらない。しかし、キノトロープの生田氏は「戦略的な進め方を身につけることで、上司を説得し、社内のコンセンサスを取りながら順調に制作を進められるはず」と語る。

そのためには、まずWebサイトの世界の“激変”を理解しておくことが大切だ。スマートフォンの出現によってユーザーのライフスタイルが大きく変わり、Webサイトのあり方を根本から変えてしまった。

現在はインターネットユーザーの89%がスマートフォンでWebサイトを閲覧しており、うち55%はスマートフォンのみで閲覧している状況にある。つまり、スマートフォンでのサイトの見た目や使い勝手が重視されるというわけだ。

インターネットユーザーの89%がスマートフォンでWebサイトを閲覧している

もちろん、BtoBサイトなどPCでの閲覧が9割を占める場合もあるが、そうしたユーザーも仕事以外ではスマートフォンでサイトを見ており、そのインターフェイスに馴染んでいる。必然的に、スマートフォンでの見え方や使い勝手を意識する必要があり、求められるサービスやコンテンツも変わってくる。

ましてやZ世代ともなれば、テレビや雑誌だけでなくWebサイトすら見ず、SNSからの情報収集がメインだ。そこに情報を発信したいとなれば、WebサイトよりXやInstagramが重視されるのは当然だろう。

「スマートフォンファースト」でデザインにも変化

こうした「スマートフォンファースト」を受け、デザインにも大きな変化が生まれている。たとえば、Googleは「マテリアルデザイン」(自動販売機のような誰もが使えるわかりやすいデザイン)を提唱している。PCのリテラシーがない人でも、アプリケーションとして使えるようなデザインが求められているというわけだ。

誰もが使えるわかりやすい「マテリアルデザイン」

レイアウトについても、PinterestやInstagram、Facebookなどのように、スマートフォンでの閲覧を前提としたカード型や可変型の「グリッドレイアウト」が主流になりつつある。

カード型や可変型の「グリッドレイアウト」

サイト内の動線についても、かつてトップページからドリルダウンして見ていたものが、「いまや60~80%のユーザーが末尾から見始める」(生田氏)というように、見たいページに直接アクセスする形に変わってきた。かつては自社サイト内の導線が重視されていたが、今はSNSやGoogleの検索などからどう入ってくるのか、「ユーザーのスタート地点」を捉えることが重要だ。

ページを見る際にも、紙メディアのように詳細に読み込む「Z型」から、項目だけを見る「F型」を経て、スマートフォンで縦読みする「I型」へと変化している。

ユーザーの閲覧行動も「I型」へと変化

検索エンジンの変化により、“真面目にコンテンツを作る”時代に

検索エンジンも“賢く・合理的に”変化しており、以前は外部被リンクが多いページが優先されていたものが、有用と思われるコンテンツがまとまった「テーマページ(リストページ・ソリューションページ)」への誘導が優先されるようになりつつある。

生田氏は、「Googleのこの変化は、“真面目にコンテンツを作る”時代になるということだ」と指摘する。

つまり、コンテンツが“真っ当”であれば検索上位に上がる可能性が高まるということであり、それらのコンテンツを利用して、ユーザーの問題解決になるリストページを多数作成すれば、検索対策に効果がある。逆に言えば、ユーザーの問題解決になる詳細なコンテンツがなければ、どんなに被リンクを増やすなどの対策をとっても効果は上がらない。

ディレクトリの構造ではなくリンクの構造が重要

コンテンツが重要であり王様だと1990年代から言い続けてきたが、実際にはディレクトリ構造が重視され、コンテンツが置き去りにされてきた。そのため、カタログから作成したコンテンツや、イベントで使った動画などを寄せ集めてサイトを作るのが当たり前になっていた。しかし、これからはWeb用のコンテンツが重視される時代になる(生田氏)

国内外30ドメイン分の担当者から合意を取った「戦略Phase」とは

「ここまで紹介した変化は、過去30年の中でも最大であり、企業のWeb戦略の根本的な見直しが必要とされる理由だ」と生田氏は述べる。では、どうすればそうした状況を上長や他部門と共有し、Webサイトについてのコンセンサスを取れるのか、生田氏は総合機器メーカーでの事例を紹介した。プロジェクトの開始前、Webサイトとページの数は、国内で12ドメイン分の約11,000ページ、海外で18ドメイン分の1,500ページと推定され、各部門がバラバラにコンテンツを作成する状態だった。そのため、運用に手間がかかり、ユーザーの使い勝手も悪くなっていたにもかかわらず、上司や他部門と課題の解決策について協議も合意を取れずにいたという。

生田氏は、「このような状況下で重要なのは、適切に上司や関係者を説得する方法を考えること」と語る。コンセンサスがうまく取れないと、「あの人はインターネットがわかっていない」と不平不満が生まれ、対立構造を引き起こす。

そして、コンセンサスに最も重要なのは論理的な説明だ。たとえば、効果について「ブランド価値が上がる」など定性的に説明するのではなく、アクセス数の向上こそがブランド価値の高まりを意味すると定義した上で、定量的な数字で示すことが有効だ。

キノトロープの「戦略Phase」は、この論理的な説明に基づいて合意を取りながら、プロジェクトをスムーズに進める。

キノトロープの「戦略Phase」

戦略Phaseの概要

戦略Phaseでは、まず第1ステップとして、「要望・調査」で各部門や担当者へ詳細をヒアリングし、課題や実現したいことを整理する。さらに「現状調査」として、アクセスログや検索エンジンからの流入、キーワード、競合やブランドなどの数値調査を行ったうえで、それをまとめて提示する。外から見える事実を整理して可視化するというわけだ。

たとえば、ブランド価値は「固有名詞でどのくらいこのサイトに来ているか」で推し量ることができる。こうした定量的な数値とともに、ヒアリングで得た課題や要望などを合わせて、上司や他部門を説得するという。

現状分析・課題整理

第2ステップでは、「方向性の策定」として、ヒアリングや調査で得られた要望や課題をテーブルにあげ、根本的な問題点と改善の方向性を決める。ここでも最終的なゴールは定量的であることが望ましい。たとえば、目的が「ブランド価値を高める」ならば、具体的な訪問者数、オーガニック流入数などをゴールとするわけだ。

第3ステップでは、「ユーザー体験シナリオ」として、サイトに来訪したユーザーが目的の情報へ速やかに到達できる情報設計を考える。そのためには、ランディングページがユーザーのニーズごとに整理されている必要がある。

会社にとって、お客様が何よりも大切であることは間違いない。そこで、「お客様の困りごとを解消するため」というアプローチを図ると、上司や他部門に前向きに検討してもらえ、コンセンサスが取りやすくなる(生田氏)

「問題解決フロー」で、事象から問題点、改善の方向性を見出す

次に、Webサイトにおける根本的な問題点と改善の方向性を網羅的に検討する方法として、キノトロープの「問題解決フロー」が紹介された。

まず、ヒアリングや調査から抽出した事象に対し、その問題点を分類して根本的な問題を炙り出す。時に数百にもなる事象を、地道にカテゴライズすることから始まる。たとえば、何か1つ定性的な問題があったとして、それは誰か1人の感覚的なものかもしれない。しかし、10の証言や事象があれば、問題点として認識すべきというわけだ。

事象から根本的な問題点を導き出す

次に、問題解決フローで導き出された問題点に対して、どう改善していくか、改善の方向性と基本方針を決めていく。

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根本的な問題点から改善の方向性を決めていく

この繰り返しによって、根本的な問題を洗い出して整理し、やるべきことを俯瞰して見ることができる。“気になっていること”にバラバラと手を付けるのではなく、整理してまとめてから、優先順位をつけて改善することで効率性も上がる。さらに上長や他部門に対して、なぜその施策に取り組むのかがロジカルに説明しやすく、理解やコンセンサスが得られやすい(生田氏)

たとえば、現状調査から「らしさがない」「グループ力やシナジー効果などの訴求がない」などの事象を得て、問題点として「ブランド力の低下」を抽出。根本的な問題点として「ブランド訴求」を行うために、「カテゴリーをカテゴライズして、ユーザーが求める情報とコンテンツをマッチングさせる」「分類ごとにドメインルールを決める」などの施策を実施した。海外ドメインについても同様に整理を行った。

ブランドイメージの統一訴求による認知向上

国内も海外も、自分たちのプロダクトや事業部、工場などに愛着があり、それぞれにさまざまな要望がある。そのため、他の部門やプロダクトとの整合性が取れなくても、押し通そうとしがちだ。しかし、“お客様中心”に話を通すことで、納得はしてもらいやすい(生田氏)

また、それぞれの事業部は、自分たちにどの程度の自由度が与えられるかを気にすることが多い。そのため、デザインルールの範囲を示すことで理解が得やすくなる。他にも、「レスポンシブによるスマートフォン対応」「バラバラ運用から統一基盤への統合」などを提案し、多くの承認や合意を得て実施につなげることができたという。

方針検討から始めてステップを踏む「Step論」

こうした工夫や調整で、だいたいの場合コンセンサスが得られる。とはいえ、揉めることは決して少なくない。そうした場合、生田氏は「会いに行く」と決めている。過去、ホテルチェーンのサイト制作を行った際には、各ホテル担当者の意向が強く、まとまらなかったため、実際に30のホテルに赴いて対面で説明した。

会いに行って説明すると理解しようとしてくれるし、定量的・ロジカルな進め方について好意的に受け止められる。なお、フィードバックにはできるだけ対応するというスタンスで臨むことが大切(生田氏)

さらに、全ての施策を一気に進めようとするのではなく、方針検討からはじめて、国内や事業部、グローバルへと順に拡大していくステップを踏むとよい。その際は、最終ゴールを明確にしておくことで、「今手掛けていること」の目的や意味を理解してもらいやすいという。

コストや期間の制約もあり、長期的な開発には変動リスクが伴う。これを避けるには、最終目標と実現プロセスの共有が欠かせない。その上で、半年ごとに計画的なリリースを実施し、段階的に成果を積み上げていく必要がある。明確な方向性を示さなければ、部分的な評価に留まり、不満や改善要求が生じて、結果として混乱を招く。こうした問題を回避するためにも、戦略を明確化し、関係者間でゴールの共通認識を形成することが重要だ(生田氏)

その他、現状把握には分析のプロの手を借りること、CMSの選定・導入はゴールを明確にしてから、などのアドバイスがなされた。

生田氏の提唱する「Step論」

最後に生田氏は、「最も重要なのは、Webサイトを単なるツールではなく、ユーザーの問題解決に貢献するソリューションへと成長させること。そのためには、目的を共有し、具体的な数値を示して関係者の理解を得るプロセスが重要だ。ユーザーにとって有益なサイトへと進化させることを目指し、着実な戦略のもとに取り組んでほしい」と語り、セッションを終えた。

用語集
CMS / Facebook / Instagram / SNS / X / Z世代 / スマートフォン / セッション / ディレクトリ / フィード / ランディングページ / リンク / レスポンシブ / 検索エンジン / 被リンク / 訪問者
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