AIを使ってみたけれど、一般的な回答しか返ってこずガッカリした――そんな経験はないだろうか? 実はそれはAIの性能不足ではなく、こちらの「育て方」が足りないだけかもしれない。レポート作成や施策立案に追われるデジタルマーケターにとって、AIはもはや夢のツールではなく、現実的な分析パートナーになりつつある。そんな中、Webサイト分析の現場では、一体どのようにAIを活用できるだろうか?
「Web担当者Forum ミーティング 2025 秋」の本セッションでは、分析AIエージェントを搭載したWeb解析ツール「Content Analytics」を展開するUNCOVER TRUTHが登壇。AIを“優秀なアナリスト”として育てるためのデータ設計から、プロンプトの工夫、業務への組み込み、そしてセキュリティ対策まで、明日から使えるAI活用のヒントを紹介した。
分析AIエージェント機能を搭載したWeb解析ツール「Content Analytics」とは?
分析AIエージェント搭載のWeb解析ツールは、従来のアクセス解析ツールとどう違うのか。
セッションは、UNCOVER TRUTHが提供するWebサイト分析ツール「Content Analytics」の紹介から始まった。ページ内のユーザー行動とコンテンツ要素を可視化し、分析AIエージェントにより自動で分析・改善提案まで一気通貫で行えるツールだ。
特に、2025年6月に搭載された分析AIエージェント機能により、専門知識がない担当者でも専属アナリストがそばにいるような分析体験が得られる設計が特徴だという。
自然文で簡単な質問をするだけで、AIが分析要件を整理してくれて、データのサマリーやそこから導き出せる特徴などを示し、さらには考察や提案まで出してくれる。「時間も人手も足りない」と感じている担当者にとっては、AIが分析から改善案まで出してくれれば、かなり助かるだろう。
マーケティング担当者が抱くAIへの期待と不安
マーケティング担当者はAIに大きな可能性を感じている反面、不安も感じているだろう。五戸氏によれば、一般的に次のような期待と不安があると言う。
AIに期待されていること
- 業務工数の削減:データ分析やレポート作成など、これまで人が手作業で行っていた業務の工数を大幅に減らすこと
- 実用に耐えうるクオリティ:AIの分析や提案が、マーケティング施策として実行に移せるレベルであること
- 人間にはない発見:人間にはできない多角的なデータ分析や新たな発見をしてくれること
AI活用における不安
- 情報の確かさ:AIが出す分析結果の信頼性や、裏付けとなるデータソースへの不安、あるいはハルシネーション(もっともらしい嘘)への懸念
- アウトプットの質:指示(プロンプト)の仕方によって結果が変わり、思ったようなアウトプットが出ない。その修正に時間がかかるケースもある
- セキュリティへの心配:自社の機密情報がAIの学習に使われてしまうのではないかという懸念
こうした不安は現場でも必ず話題になると、Web解析の専門家・小川氏も同意し、さらにクライアント業務でAIを使う場合には、NDA(機密保持契約)の締結や事前の説明など、丁寧なコミュニケーションが不可欠であると強調する。
AIを導入する企業にとって、これらの課題は避けて通れないもの。セッションの後半では、こうした課題への向き合い方や解決のヒントが紹介された。
AIを「優秀なアナリスト」に育てるための3つのポイント
実際のところ、課題はあるもののAIはとても便利なもの。それを単なるツールに終わらせずに、ビジネスに貢献する優秀なアナリストとして機能させるためにはコツがあるとして、次の解決策3点が示された。
- データ精度の向上:分析の土台を強化
- プロンプトとプロセスの整備:アウトプットの質を保証
- セキュリティの確保:安心して利用できる環境整備
それぞれ詳細に見てみよう。
解決策① データ精度の向上
小川氏によれば、AIの分析力はインプットされるデータの質に大きく左右されるという。そこでAIの分析精度を高める方法として、次の2点を挙げた。
AIの分析精度を高める方法
必要なデータをきちんと読み込ませること
たとえば、読了率を計測していなければ、記事が最後まで読まれているかは判断できない。そのため、記事末に関連記事リンクを設置しても、なぜクリックされないのか原因を特定できない。ユーザー行動をより詳細に取得することで、AIに質の高いデータを入力でき、複数の要因を判別できるようになる。
上図の内容はあくまで一例だが、「本当に必要なデータを設定すればするだけ分析の精度は上がる。ただなんでも取得すればよいわけではなく、施策に活かせるデータなのか? という観点は忘れないようにしよう」と、小川氏は語る。
計測設計書などの背景情報も伝えること
どういうデータを取っているか、どんなURL構造なのか、何がゴールなのかなど、通常のWebサイト分析と同じように、AIにもそれら周辺情報を投入すると分析精度が上がる。カスタムでのイベント情報や属性情報を伝えてあげることが大事だ。
さらに仁藤氏は、「Content Analytics」の特徴を交えて、次のようにデータ精度を向上させるためのポイントを解説した。
「Content Analytics」でのデータ精度向上のポイント
ユーザー行動の詳細なトラッキング
ページ単位だけではなく、ユーザーがページ内の「どの情報を見て」「どのように行動(コンバージョン・離脱)したか」までを記録。サイトに掲載されたテキストや段落情報、画像やalt属性などをタグごとに分解し、構造化されたデータとして保持している。ユーザー単位での詳細な履歴追跡も可能だ。
AIとの連携設計
Content Analyticsでは、収集された構造化データはGoogle Cloud上のGemini APIを活用し、AIが膨大なデータを集計し、プロンプトと組み合わせて分析を実行する。単なる数値レポートではなく、そのデータ傾向のユーザー心理や背景まで考察してくれる。
GA4ではURL単位の分析が主で、ページ内の詳細な情報までは生成AIが自動で把握はできない。一方、「Content Analytics」ではUNCOVER TRUTHが長年Webサイト分析をしてきた分析ナレッジがベースプロンプトに組み込まれており、複雑なプロンプト指示をしなくてもAIが効果的な分析を行ってくれる点が強みだ。
解決策② アウトプットの質を高めるプロンプトやプロセス整備
前の話題にも関連するが、AIを効果的に活用するためにはプロンプトも重要だと小川氏は強調する。そして実務に則したアウトプットを得るためには、AIに対して、人間が分析する際に必要な前提情報と同レベルの情報を伝える必要がある。
アウトプットの質を上げるポイント
背景情報の提供が不可欠
URL構造、コンテンツの配置、改善したい箇所の優先順位など、サイトの構造的・戦略的な情報、施策を実行できない箇所をAIに伝えることで、実現可能性の高い改善案に近づく。
人間の分析と同様の「ヒアリング」情報が必要
AIにビジネスモデル、過去の施策、制約条件、季節変動などを伝えることで、現実的な提案のアウトプットが可能になる。クライアントにヒアリングするのと同レベルの情報のインプットが必要。
「この条件の中でベストを尽くして」という枠組みを明示することが重要
AIに対しても、「制約条件」や「目的」を提示することで、無駄な試行錯誤を減らし、実務に活かせるアウトプットがスピーディーに得られる可能性が高まる。
プロンプトやインプットする情報が不十分な場合、AIは業界や予算、実行可能性を考慮せずに、抽象的で実現性の低いアウトプットを提示しがちなので、気をつけたい。
また、仁藤氏は「AIの分析結果は、業務プロセスへの組み込み度合いによっても変わる」と指摘する。分析結果を「出すだけ」で終わらせず、業務改善や施策立案に活かすことや、その運用にのせるための仕組みづくりも大切だ。
そして「Content Analytics」のプロンプトの工夫として、次の点を挙げた。
「Content Analytics」でのプロンプトの工夫
AIに役割を明示し、分析方法をインプットする
「あなたは優秀なアナリストです」とAIにインプットするだけではなく、同社が長年蓄積してきた分析ノウハウや分析手順(データ確認→考察→改善提案)をAIにインプットしている。
アウトプットの最適化
結論ファーストでわかりやすくする。「CVに寄与しているのは何?」「ボトルネックは何?」など、サイトを改善するのに重要な考察・提案をするように指示済みだ。また、できないこともインプットし、質問に無理矢理回答しないなど、極力ハルシネーションを起こさせないようAIに制約も設けている。
データの指定と指標の定義
どのデータを使うか整理したり、指標の定義や重視するかどうかを明確に伝えたりすることで、数字の解釈のズレを防ぐ。たとえば「ヘッダーが最も見られる=良い」とは限らないなど、構造的な前提や優先順位をAIにインプットしていることで、より実践的な分析が可能になる。
これまで同社が培った分析コンサルティングのノウハウをAIに学習させ、AIのアウトプットを確認しながらプロンプトをチューニングしてきた。AIを活用するのであれば、ポテンシャルの高い新人を育成するように、AIをマネジメントしていくことが大切だと仁藤氏は語る。
さらに、業務プロセスへの組み込みに関して、今後リリースされる機能についても披露された。
「Content Analytics」での業務プロセスへの組み込みの新機能
社内共有機能
新たに社内共有機能を搭載。データと考察をチームで一緒に確認できるので、改善アクションへの判断が速やかに行える。
自動レポート生成機能
週次レポートや月次レポート、キャンペーン終了後の即時レポートなどをあらかじめ設定しておけば、自動でAIが生成してくれる機能。このような機能があれば、PDCAも大きな負担なく回せるようになりそうだ。
解決策③ AI活用におけるセキュリティ対策と社内外のルール整備
AIは便利だと分かっていても、実際にAIで会社の機密情報を扱うことには不安を感じる人もいるだろう。ここでは、AIを業務に活用する際に欠かせない「セキュリティ対策」について、小川氏が具体的なポイントを解説した。
セキュリティ対策の主なポイント
ツール側での設定管理
外部へのデータ送信を極力防ぐ設定(例:MCPサーバーによるローカル運用)を活用。また、初期設定がONになっている外部送信機能や学習として利用する旨をOFFにするなど、ツールの基本設定を必ず確認する。
社内外ルールの整理と合意形成
個人情報の利用目的や取り扱いといった社内の各種ルールを確認する。そもそもツールには個人情報を含めない設計を徹底することも大事。また、クライアントとは契約書・NDA・覚書を取り交わし、AIを使った分析であることを事前に説明・了承を得ることも、のちのトラブルを防ぐことにつながる。
納品物やアウトプットの透明性確保
AIが生成した要約や提案を納品物に含める場合はその旨を明記するとともに、社内レビューを通じて内容の妥当性を確認する。思わぬ誤情報や不適切な表現が含まれるリスクを防ぐため、第三者のチェックを推奨。
ログ管理と履歴の可視化
履歴保存モードや検証ログ、ドライブ共有機能などを活用し、誰が・いつ・どのようにAIを使ったかを記録する。
加えて仁藤氏も、次のように続けた。
プライベート環境での利用
パブリッククラウド上にアップロードされないような閉じた仕組みであることが大前提。
透明性を担保したセキュリティチェック体制構築
AIサービスのセキュリティポリシーの確認と、社内関係者に対してAI活用の透明性を担保する体制づくりが必要。機密情報の取り扱いや社内ルールの遵守が不可欠であり、実務での活用には社内外のステークホルダーとの事前合意や情報共有が重要。
なお、「Content Analytics」の利用規約では、Gemini APIの学習に計測しているデータが使われることはない点を明記しているということだ。
AI活用の未来像と今後の展望
最後にWebマーケティングへのAI活用の未来像と今後の展望について、小川氏・仁藤氏の見解が示された。
いまのAIは「忠実な新人のような存在」。2026年には、おそらく「幻滅期」がやってくるだろう。AIでも意外と難しい、できないなと思うタイミングが来ると予測する。AIは人間と同様に、段階的にスキルを高めていく存在として捉えることが重要で、「私が育てた最強のAI」というように、人が愛着を持って育てる姿勢が未来を拓く(小川氏)
AIはこれからも進化していくが、今後は機能特化型のAIエージェントが増えて、それらを組み合わせて業務に使っていく時代になるのではないか。当社は「分析」に特化したAIエージェントを提供しているが、導入企業の中には人材育成にも活用しているところもある。分析初心者がAIを活用するにあたり、AIが提示した内容を自己検証するといった形で自身の分析能力を高めているのだ。そうしたニーズも踏まえ、これからもユーザーに寄り添いながら、導入しやすいAIエージェントの開発を目指す(仁藤氏)
AIを単なるツールではなく、共に成長する「相棒」として育てていくことで、Webサイト改善の精度とスピードを底上げするだけでなく、マーケターの日々の業務を支える力にもなってくれそうだ。
