スマホの普及に伴ってWebサイトのスマホ表示対応が当たり前になったように、AI時代にはWebサイトのAI対応が必要ではないか――。そう悩んでいるWeb担当者は多いのではないだろうか。Webサイト制作会社として長らく多くの企業を支援してきたミツエーリンクスの藤田氏が、Web担当者Forumミーティング 2025 秋で、AIの現状とこれからの企業Webサイトのあり方について解説した。
藤田 拓氏
AIの進化が速すぎて、サイトリニューアル方針が決められない?!
(1990年代後半の)あの時代、世の中がすごく変わったと私は感じましたが、そんなものでは済まない波が、いま来ているのです(藤田氏)
1995年、最初期のWebブラウザー開発企業であるNetscapeのIPO(株式公開)以降、コンピューティング関連の特許の取得・認可が増加し、2003年以降は微増で落ち着いていたが、2024年に激増した。要因の1つと考えられるのが、2022年のChatGPT誕生と、その後のAI開発競争である。インターネット普及時にあたる1995年~2003年の8年間の特許認可件数が約6300件だったのに対し、2023年~2024年の1年間で約6000件の特許が認可されたという驚異的なペースだ。
AIの活用はすでにさまざまな領域で進んでいる。たとえば、LLM(Large Language Model/大規模言語モデル)による文章の解析や生成、画像に何が写っているか判別するコンピュータビジョンや、推薦システムを利用した商品購入傾向に応じたレコメンドなどだ。
AIの登場によって仕事の生産性は明らかに上がっています。運用回転率は上がり、データ連携も容易で集客にも効果がある。では、それを支える基盤としての企業Webサイトをどうしたらいいか。そこが悩みどころになっています(藤田氏)
これまでは人にとって使いやすいWebサイトを設計し、主要な検索エンジンでのSEOが行われてきた。これからはそこにAIが加わってくる。藤田氏によれば、AIの進化のあまりの速さにリニューアル方針が定まらず、計画がペンディングになる事態も起きているという。
AIでできること、意外とできないこと
今後1、2年でAIは加速度的に進化していくだろうが、現状はLLMを中心としたAIをどう使いこなすべきかを考えていくことになる。藤田氏は現状のAIで効果が出る領域を以下のようにまとめた。
- コーディング(ミドル層の生産性が大幅向上)
- 文章作成(下書き、校正、要約が高速化)
- 画像・動画編集(素材の生成や加工の効率化)
- データ分析(レポート作成の自動化)
一方で、AIについて誤解されやすい点、気をつけておきたい点として、以下の4つを挙げた。
- ドメイン知識ゼロの人が即戦力化するわけではない
- トップ層が必ずしもさらに伸びるわけでもない
- プロンプト設計・検証スキルが新たに必要
- AIの出力を適切に評価できる専門性が前提
藤田氏は今回の講演にあたって64ページ分のスライドを作成したが、ほぼすべてをAIで作成したという。ただし、すべての生産工程がAIで効率化するかは別の話だ。
本当の創造性以上の成果物は難しいが、一般的な生産性の底上げにつながっていることは確かでしょう(藤田氏)
AIをめぐるリスクとは
活用メリットの多いAIだが、リスクもある。藤田氏はAI活用におけるリスクとして、以下の3点を挙げた。
① コストと環境負荷
LLMをはじめとするAIの稼働には大量の電力が必要だ。AIサーバーを設置するためのデータセンターの電力消費は、2022年は460TWhだが、2026年には1000TWh超と約2倍になるという推計が出ている。
Google検索とAI検索をエネルギーコストで比較すると、60倍か70倍という話もあります。AI活用はエコではないという側面があります(藤田氏)
② 著作権・法的リスク
AIで著作権に触れるコンテンツを生成できてしまうことが問題であると同時に、生成のベースとなる学習データ段階で著作権侵害が発生してしまうのではないかという疑念は尽きない。著作については類似性(創作的表現が似ているかどうか)と、依拠性(既存の著作物をもとに作られたかどうか)の2点に該当すると著作権侵害となるが、利用者が元の著作物を知らなくても、AIが学習していれば依拠性が推認される可能性がある。
AIの提供事業者側の中には、ユーザーが著作権侵害で訴えられた場合の損害を一部補償するプログラムを用意している事業者もあるのでAIを活用するにあたっては、権利関係をクリアした学習モデルのAIを意識的に採用するなどの努力が求められる。
③ セキュリティ
セキュリティについてはすでに多くの問題が確認されている。たとえば「プロンプトインジェクション」。AIがデータと指示(プロンプト)の区別ができないことを悪用し、一見見えないように埋め込まれた指示によってAIをだまし、開発者が意図しない動作を実行させる攻撃のことだ。また、学習データや連携するサプライチェーンの中にAIをだますような細工を仕込むサプライチェーン攻撃も増加しており、今まで安心とされていた部分にも警戒が必要になった。
AIを巡るセキュリティリスクはこれだけではない。メールやチャットなどと連携して、さまざまな操作が自動でできてしまうAIエージェントの利用が広がることで、取得すべきでないデータの取得や意図に反する操作が実行される危険性もある。
こうしたAIエージェント的な機能については、ユーザーに自由にさせない、かなり厳しめの権限設定をしておくことが必要。「最小権限の原則」を徹底すべきです(藤田氏)
「AI Overviews」がもたらしたもの
Googleは日本において2024年8月から、検索結果画面において「AI Overviews」の表示を開始した。一部の検索ワードについて、単一ないし複数のページをAIが要約し、検索結果の最上部に表示するものだ。この結果、Googleから外部サイトへの遷移が減った(ゼロクリックが増えた)。AI Overviewsが表示されない検索結果ではゼロクリック率が59.6%だったのに対し、AI Overviewsが表示された検索結果のゼロクリック率は79.9%という調査がある。
藤田氏は、ユーザーの検索行動がそもそも変化していると指摘する。従来はキーワードを並べて検索することが多かったが、自然な質問文を入力する会話型が増えてきた。また、ユーザーが求める検索結果の質も変わってきている。藤田氏はこれをData(データ)、Information(情報)、Knowledge(知識)、Wisdom(知恵)からなる「DIKW」フレームワークで解説した。
従来の検索では、ユーザーはデータとしてのキーワードを入力して情報を得る。そのうえでさらに複数のキーワード検索の結果などを自分なりにまとめて知識とする。何らかの行動を起こすのはその次のステップだ。
これに対してAI時代は、検索エンジンなどに情報をキーワード羅列ではなく自然な文章で与える。すると、AIは知識と呼べるだけの検索結果を出す。質問次第では知識を超えた知恵レベルの回答も可能になっていく。しかしこれにより、従来はなかった感情が引き起こされることになる。
検索キーワードの結果が間違っていても不快感は少ないが、自然な会話形式のAIの回答が間違っていると不快になる。現状、AI時代のWebサイトもSEOの延長にあるが、今後は信頼性の高い権威ある情報が一層重要になるでしょう(藤田氏)
ヘッドレスCMSは万能か
一方、AIフレンドリーなWebサイト構築として、コンテンツの管理機能と表示機能の分離したヘッドレスCMSに注目が集まっている。藤田氏によれば
- 一般的なCMSは「ページ志向」: ページを単位にしてHTMLやCSS、そしてデータ(コンテンツ)を混在させる。
- ヘッドレスCMSは「データ志向」: コンテンツは構造化されたデータとして独立し、AIや検索エンジンが正確に理解できる形を目指す。
ただし、ヘッドレスCMSであっても、使い方を誤れば従来のCMSと変わらないことになってしまう。どんなデータをどう登録するのか、しっかりとした設計が必要だ。
Webサイト運用の面でもAIは効率化をもたらしている。効果的なプロンプト設計、いわゆるプロンプトエンジニアリング次第では、コンテンツの大量生成や、最新のAIツールやサービスの活用アイデアをリストアップすることなどに威力を発揮する。GoogleのGeminiにおけるカスタマイズ機能「Gem」なども、そうした状況を後押ししている。
生成AIプラットフォームのコスト比較
AIを企業で導入する際には、Amazon Web Servicesの「Amazon Bedrock」、Microsoft Azureの「Azure AI Foundry(現Microsoft Foundry)」、Google Cloudの「Vertex AI」の主要3社に加え、さまざまなLLMを横断的に扱える「OpenRouter」、自社内サーバーで運用できる「ローカルLLM」等を選択できる。藤田氏はそれぞれの特徴について表にまとめた。
しかし、LLMは導入して終わりではない。生成精度を高めるには外部情報を連携させるためのRAG(Retrieval-Augmented Generation)や、回答のスタイルや正確性を一貫させるための「ファインチューニング」を行う必要がある。手軽に行うならRAGだが、自社のビジネスに合うよう口調やスタイルを調整したい場合にはファインチューニングが必要だ。
人にもAIにもフレンドリーなWebサイトを
AIについてその進化が急速であることから、さらなるゲームチェンジャーが登場する可能性もあるが、今後の方向性として藤田氏は、「Webサイトをこれまで以上にマシンフレンドリーな設計にしていく必要がある」とした。
WebサイトリニューアルやCMS更新にあたっては、HTMLをそのまま引き継ぐ例もあるが、ユーザー行動もまたAI時代で変化している。AIを活用するユーザーが増えるなら、AIに適したマシンフレンドリーなWebサイト、つまりAIのデータ収集対象として優れたWebサイトを用意する必要性は高いと言える。
よりAIフレンドリーなWeb構築が求められるでしょう(藤田氏)
AIで生成されたコンテンツが増えてきことにより、「AI臭いな」という感覚が起きる時代において、藤田氏が提唱するのが「DICE」モデルだ。前述した「DIKW」と同様、DはData(データ)、IはInformation(情報)を示すが、そこにContents(コンテンツ)とExperience(体験)が入る。
「D」と「I」はAIで自動化が進み、コンテンツ制作も可能になっています。しかし、デザインは、いまだに「AIっぽい」と思われがちで、人が満足するには、人の力が欠かせません(藤田氏)
これまでは、人間にとって見やすく美しいことがWebサイトの必須条件だった。ミツエーリンクスではこれからのAI時代、人間が使いやすいだけでなく、マシンにとっても読みやすい、AIフレンドリーなサイト構築を目指し、顧客をサポートしていくと呼び掛け、藤田氏は講演を締めくくった。
