【レポート】Web担当者Forumミーティング 2025 秋

わかりづらいサイトから脱却! キリンが全社を巻き込み進めたサイトリニューアルの全貌と次の一手

キリンホールディングスは2025年6月、コーポレートサイトをリニューアルした。同社の担当者が登壇し、リニューアルプロジェクトの全容とオウンドメディア連携という次の一手について解説した。

森田秀一[執筆], ササキミホ[編集]

7:05

キリンホールディングスは「欲しい情報がどこにあるのか分からない」と社内外から指摘されたコーポレートサイトを、1年以上かけてリニューアルした。どのようにプロジェクトを進め、社内を動かしたのか。

Web担当者Forum ミーティング2025 秋」にキリンホールディングスの戸所氏と平尾氏が登壇し、リニューアルプロジェクトの全容と、オウンドメディア連携という次の一手について解説した。

(左から)キリンホールディングス株式会社 コーポレートコミュニケーション部 主務 戸所 恵利 氏、平尾 沙有里 氏

コーポレートサイトとオウンドメディアは、本店と支店の関係性

キリングループは食・ヘルスサイエンス・医薬の3領域で事業を展開している。祖業であるビール事業を展開するキリンビールを筆頭に、清涼飲料事業のキリンビバレッジ、医薬品の協和キリン、化粧品のファンケルなどがキリングループを構成する。

キリングループは、2019年に発表された長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027」で、「食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV先進企業となる」という目標を掲げている。CSVとは、「Creating Shared Value」の頭文字をとったものだ。「社会と共有できる価値の創造」と訳され、社会問題の解決に主体的に取り組み、社会的価値と経済的価値を創出し、社会と共に持続的な成長を続けるとの想いが込められている。

キリングループが掲げる経営理念・長期経営構想

講演の前半では、戸所氏がコーポレートサイトのリニューアルの取り組みを紹介した。戸所氏は本題に入る前に、キリングループのコーポレートサイトとオウンドメディアの関係について説明した。

コーポレートサイトは、主に企業情報サイトや、商品情報サイトを指す。一方、オウンドメディアは、製品開発者や著名人のインタビューなどを掲載する「KIRINto」や、キリン公式noteに加え、Xをはじめとする各種SNSアカウントも含まれる。

コーポレートサイトを「本店」、オウンドメディアを「支店」という関係性で整理しています。コーポレートサイトは公式メディアの第一の拠点であり、欲しい情報を求めてお客様がご来店されるという意味で、プル型です。一方のオウンドメディアはnoteやInstagramなど、人のいるところへ出店しているようなことからプッシュ型で、「支店」としています(戸所氏)

キリングループにおける、コーポレートサイトとオウンドメディアの位置付け

リニューアル前のサイトは、社内外からわかりづらい・イライラするといった声が寄せられた

コーポレートサイトのうち企業情報サイトのリニューアルプロジェクトは2024年に開始し、2025年6月25日に公開した。前回のリニューアルは2021年公開であったが、海外のデジタルマーケティングの代理店にサイト評価を依頼したところ、以下の厳しいコメントがあった。

「Domains(事業領域)」や「Drivers(組織能力)」といった主要なラベルは、多くの訪問者にとって一目で明確ではなく、補助ページを見るためにモバイルスタイルのドロップダウンメニューをもう一度クリックすることを強制されると、より効率的なアプローチに慣れている世界中のユーザーをいらだたせることになります

戸所氏も「ここまで酷評されるのか」と驚いたそうだ。さらに、外部だけでなく社内からもイライラの声が上がっていた。

社内から寄せられたイライラの声

一体、どんなサイトだったのか。戸所氏は2021年リニューアル時のグローバルナビゲーション(以降、グロナビ)を示した。二段構成になっており、一段目に企業情報・IR情報・採用情報といった、よく見る項目が並んでいる。しかし、二段目には「パーパス」「社会との価値共創」「組織能力」など、聞きなじみのない言葉が大きな文字で並ぶ。

多くの訪問者にとって、どんなコンテンツがあるかわかりづらい。だが、この表現としたのには、社内議論を経ての明確な理由があった。

2021年リニューアル時のグロナビ

「キリンとは?」をわかりやすく伝えるためには、統合報告書をベースにしたらよいのではというコンセプトを置いていました。グループでは毎年、グループ全体を網羅し、パーパスや戦略を伝えるために統合報告書を公表しています。ならば、それをベースにWebサイトを作ろうと。そのうえで、商品情報サイトは一般のお客様、企業情報サイトは機関投資家をメインユーザーとしました(戸所氏)

この結果、グロナビの二段目のカテゴリ名は、統合報告書を踏襲し、わかりづらいオリジナル名称となった。この他、「企業情報」や「IR情報」などアクセスが多いページへのリンクが小さな文字である点も、使いづらい要因となった。つまり、キリンが読んでほしい情報を伝える設計になっており、サイトを訪問するユーザーニーズに合ったつくりになっていなかった。

馴染みのない文言が大きく、アクセスの多いカテゴリが小さく表示されている

目的に「すべてのユーザーにとってアクセスしやすく使いやすいサイトへの進化」を掲げ、2024年からリニューアルを始動

こうした背景から、リニューアルプロジェクトが動き出す前に企業情報サイトと統合報告書の関係を議論し、両メディアはイコールではないと結論づけた。企業情報サイトは企業情報の開示媒体であり、提供すべき全情報を網羅するもの。統合報告書はキリングループ全体の方向性をコンパクトに、かつスナップショット的にまとめるものと整理した。

リニューアル始動に先駆け、企業情報サイトと統合報告書はイコールではないと整理

上記の結論を受け、国内外すべてのユーザーにとってアクセスしやすく使いやすいサイトへの進化を目的に、グローバルスタンダードに適うサイト構造・ページ名称の再編を第一課題に掲げ、リニューアルに臨んだ。2024年1月に部内検討を開始。関係部署にプロジェクトメンバー選出を依頼し、同年7月に正式にキックオフした。情報設計に5か月、サイト制作に6か月をかけ、2025年6月に公開した。

プロジェクトメンバーは、サイトにコンテンツを掲載する部署から最低1人以上の選出を依頼した。結果的に20名以上となり、キリンホールディングスのほぼ全部署からメンバーが集まることとなった。この他、情報設計にあたっては外部コンサルタントを頼り、サイト制作フェーズでは制作会社も加わった。

プロジェクト体制

わかりにくいと評されたサイト構造は、ページ名称を含む変更が行われた。その新旧をまとめたのが以下の図だ。「パーパス」、「企業情報」、「事業領域」の3項目は「キリングループについて」に集約。そして、「社会との価値共創(CSV)」は「サステナビリティ」に変更した。

新旧サイト構造・ページ名称

説得に時間がかかった「CSV」から「サステナビリティ」への変更。2つの説得ポイント

「社会との価値共創(CSV)」から「サステナビリティ」への変更は、社内では相当な議論があったという。定例会で参加者が承諾しても、部門に持ち帰って議論がぶり返すという具合だ。

(変更に関する議論は)時間がかかったテーマでした。CSVはキリンの軸であり、長期経営構想でも掲げられています。この言葉が見えにくくなってよいのかという声や、CSVとサステナビリティでは意味が異なるといった声も多かったです(戸所氏)

戸所氏は説得ポイントとして2点をあげた。1点目は「グローバルナビゲーションは案内板である」という点だ。道案内と同じで、初めての訪問者でも内容を想像できることが何より重要だと訴えた。サステナビリティという言葉が国内外で定着し、情報開示フレームワークの一つとして正式に採用されていることを挙げ、だからこそ多くの企業サイトでトップメニューに表記されていることを伝えていった。

最終的には、外部コンサルの力も借りました。口を変えて、外部の方に説明してもらうことで、納得を得られたところもあります(戸所氏)

説得ポイントの2点目は、グロナビからはCSVはなくなるが、キリングループとしてCSVは重要であるため、サイトで強調訴求することをプロジェクトやステークホルダーに約束したことだ。そして、リニューアル後のグロナビは、次の画像のようになった。

リニューアル後のグロナビ

社内外から高評価を獲得。今後の重要課題はオウンドメディアとの連携

リニューアル後、再度、海外の同じ会社に評価を依頼したところ、ナビゲーションについて高評価を得ることができた。以下はその評文だ。

第一階層のナビゲーションは、企業戦略、サステナビリティ、イノベーション、ブランド、キャリア、投資家向け広報、ニュースに分かれている。この構成は、指標で上位スコアを獲得している企業のサイトに見られる論理的で一貫した構成と同じであり、ステークホルダー関連の主なコンテンツに簡単にアクセスできるようになっている

社内からの評価も改善。さらに、国内の調査会社による「サステナビリティサイトランキング2025」 で、6位にランクインした。戸所氏はプロジェクトを振り返り、今回のリニューアルは多くの部署からメンバーを募って全社的な取り組みとし、合意形成に挑戦した。これにより、理解者・味方が増えた点が功を奏したという。

加えて、外の視点をもつことが重要。我々の部署は、広報部隊です。広報は軸足を外に持て、野党であれとも、よく言われます。社内の常識が、必ずしも世の中の常識ではないことを意識することが必要だったと思います(戸所氏)

とはいえ、まだリニューアルは道半ば、基礎工事が完了した段階だという。今後はオウンドメディアとの連携が重要課題の一つだ。


コーポレートサイトとオウンドメディアを「キリンジャーナル」がつなぐ

コーポレートサイトとオウンドメディアのつなぎ役を担うのが、キリンジャーナルだ。キリンジャーナルは商品情報サイトの配下にあるコンテンツで、お客様に商品情報だけでなく、キリンのCSV活動や企業の取り組みを知ってもらうために作ったという。

キリンジャーナルはコーポレートサイトとオウンドメディアのつなぎ役

続いて、平尾氏からオウンドメディアの取り組みが解説された。キリングループが運用するオウンドメディアは、SNSを除くと、「KIRIN公式note」と「KIRINto」の2つがある。noteは、従業員や関係者のリアルな声を起点に、商品や取り組みの背景にある想いやストーリーを丁寧に伝える場として活用している。KIRINtoはより広い視座で社会や文化をメインテーマとし、社会に対してキリンが何をできるか、新しい視点や価値観を提供する場としている。

キリンジャーナルは、CSVという大切な考えを軸に、各オウンドメディアの記事をまとめるハブとしての役割があります(平尾氏)

各オウンドメディアの特徴は、早見表にまとめている。たとえば、何か企画があった時にどのメディアに掲載するのが最適か判断する際に活用しているという。次の画像はnoteの早見表だが、「読者(ターゲット)」「コンテンツ企画」「評価(KPI)」に加え、NG内容といった項目を整理している。

noteのメディア早見表

大きな学びがあった、終戦80周年キリンビール広島工場の被爆体験記録記事

では、どんなコンテンツを制作しているのか。平尾氏は、コンテンツ作りを「課題曲」と「自由曲」で捉えているという。課題曲とは、社内オーダーを起点とする記事だ。たとえば、マーケティング部から広告では伝えきれない新商品の開発者の想いを伝える企画や、人事部から就活生へキリンで働くロールモデルを紹介する企画をしたいといった相談が当てはまる。

自由曲は、キリンとしてのオリジナリティを表現するための記事だ。運営の現実として、課題曲的なコンテンツは多くなる。だが、自由曲的なコンテンツで大きな学びがあった記事があるという。それは、終戦80周年キリンビール広島工場の被爆体験記録記事だ。

noteに掲載した終戦80周年キリンビール広島工場の被爆体験記録記事

この記事は、キリンホールディングスの歴史を収集・収集するアーカイブ室の社内への発信がきっかけで生まれた。戦中に政府からビール醸造を辞め工業用アルコールの生産を要請されたり、被爆の10日後には爆心地近くのビアホールでビールが振る舞われたりしたなど、今はなき広島工場の50年史がPDFに収められていた。記事はこのPDFを紹介するもので、noteに掲載して大きな反響を得た。Web社内報にも同じ内容が掲載され、社内からも大きな反響があった。

1つの記事が社外・社内のどちらにも響くことがある、というのが大きな学びでした。掲載の発端は、社外の人に伝えたいというのがまずありましたが、結果的に役員クラスの方からも「取り上げてくれてありがとう」という声がありました。オウンドメディアは社外発信だけでなく、社内にも共感と理解を呼ぶ、経営資産にもなり得ると感じました(平尾氏)


キリンジャーナルをコンテンツのハブ、そしてポータルサイトに

平尾氏によると、キリングループの従業員は、本店たるコーポレートサイトを相当な頻度で見ているという。よって、社外だけでなく社内向けのコンテンツも、集約することに意義は十分ある。

複数オウンドメディアを運営していると、「あの記事良かったけど、どのメディアに掲載されている?」という問い合わせがかなりあります。これも、ユーザーをイライラさせる側面の1つかもしれません。キリンジャーナルを(全てのコンテンツが集まる)ハブとしてさらに機能させ、キリンのことをもっと知って、好きになってもらうきっかけにしていきたいです(平尾氏)

目指すのは、キリン関連コンテンツのポータルサイトとしてのキリンジャーナルの確立だ。平尾氏は最後にそう語り、講演を締めくくった。

キリンジャーナルをキリングループ運用メディアコンテンツのポータルサイトへ

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