100円ショップ国内最大手のダイソーは、自社商品がSNSで話題になっていることを承知のうえ、一歩踏み込み、自前のファンコミュニティサイト「DAISOの輪」を立ち上げた。SNSだけに頼らずに、なぜ自前サイトを選択したのか? 大創産業の山田亜梨沙氏が「Web担当者Forumミーティング 2025 」で講演を行った。
「消費者」から「共創パートナー」へ
ダイソー(DAISO)といえば、屈指の知名度と規模を誇る100円ショップチェーンだ。大創産業によって、日本を含む世界26の国と地域で事業展開されている。店舗数は国内だけで4625、海外で1045と、合計5670店舗に上る(2025年2月末時点)。近年は、ダイソーだけでなく、商品コンセプトや価格帯が異なる「Standard Products」「THREEPPY」のブランドも手がけている。
山田氏は2018年に新卒で大創産業へ入社。店長職を経験後、2021年からは店舗のオペレーション標準化や研修などの業務に従事してきた。そして2023年12月には、本講演のメインテーマであるファンコミュニティ「DAISOの輪」を立ち上げた。
顧客、ひいてはファンと企業がどう関わっていくか、その姿勢は企業ごとに異なる。ではダイソーは、どんな発想からファンコミュニティを運営するに至ったのか。山田氏はその背景、周辺事情を解説していった。
なぜファンコミュニティを運営することになったのか?
ダイソーが店舗販売する商品のバリエーションは膨大で、約4万7000点にもおよぶ。そして毎月、1300種類もの新商品がリリースされている。もはや、現場の従業員がすべてを把握しきれないレベルである。山田氏も「毎日膨大な商品と情報に向き合っており、商品1つ1つの価値を伝え切れていないのが現状」と認める。
ただし、そうした中でも一部の顧客は、SNSを通じて商品の魅力をクチコミとして発信してくれていた。企業としては、そうした熱意に報いたいところだが、人的リソースや、いわゆる炎上への懸念などから積極的な方策はとっていなかった。こうした懸念を解消しつつ、ファンと交流しようというのがDAISOの輪の狙いだ。
ダイソーの場合、お客様とSNSを通じた相互交流はしていませんでした。DAISOの輪ができて初めて、双方向の情報交換ができるようになりました(山田氏)
「ホンネデータ」がコミュニティに集まる
DAISOの輪は、ダイソー、Standard Products、THREEPPYの3ブランドのファンが集う公式コミュニティサイトである。おすすめ商品や買い物記録を写真付きで投稿できる「みんなでシェア!」、一風変わった使い道を紹介する「アレンジ投稿」、テーマ別の交流機能「DAISOの輪サークル」などのメニューを用意した。また、読み物コーナーでは各種の募集企画を実施し、ダイソーの社員・従業員もたびたび登場している。
DAISOの輪では、企業とファン、あるいはファンどうしが相互に、しかも“顔の見える関係”での交流を促進する役割が期待されている。
コミュニティサイトを作るにあたって、ファンの方に実際にお会いして話を聞いたんですが、「ダイソーは大好きだけど、どんな人が働いているか、どんな人が商品を作っているか、中の人のことが全然見えない」といわれ、今後はしっかり伝えていくべきだと考えました。“顔が見える関係性”は、コミュニティサイト開設の重要なテーマでした(山田氏)
加えて、ファンと良好な関係を築いた先に、企業と顧客の壁を越えて“いつでも相談し合える”こと──いわば、共創のパートナーの域にまで昇華させることが目標だったという。
もちろん、関係性は一夜で構築できるものではない。DAISOの輪の立ち上げから1年間は、特にファンとの交流に全力投球。店舗ツアー、ランチ会などの対面交流企画を複数回実施した。
こうした交流が積み重なっていけば、企業側が全く想定していなかった用途で商品が使われ、それが投稿として顕在化する可能性がある。山田氏はDAISOの輪に対して、「ホンネ(本音)データ」が浮かび上がる場としても、期待を寄せる。
顧客アンケートや購買金額分析ではわからない、定性的なインサイト、利用シーンのような情報を私たちは「ホンネデータ」と呼んでいます。
たとえば「かずカード」という商品は、お子様が数字を勉強するときに使う知育玩具なんですが、英語学習にも使えるという話がありました。他にも、リング式ノートのリングを外すのにパンク修理道具(タイヤレバー)が役立つそうです(山田氏)
「ホンネデータ」に価値がある
開設2年目のDAISOの輪では、集まったホンネデータを事業貢献につなげるべく、詳細に分析し、商品開発会議におけるデータソースとしても使い始めている。
では、具体的な事例を見ていこう。
【事例1】商品開発
「プチブロック」は、パッケージに封入されている所定のブロックを組み合わせ、動物や乗り物の玩具を作る製品。1つ110円という低価格が魅力だ。これらを複数組み合わせ、アニメを思わせる巨大ロボットを作ったり、果てはオセロゲームの駒や盤に作り替えたりする例もあるという。
これを受け、DAISOの輪ではアイデア募集企画を実施。ファンの熱量が改めて確認できたとして、リアルな製品企画へと発展した。生産メーカー担当者を交えてのファン座談会は、1時間の予定が2時間半に延びるほどの盛り上がりをみせた。この企画の製品は、2026年春に販売される予定だ。
【事例2】売り場改善
同じくプチブロックでは、新商品の発売にあたって商品のキャッチコピーを募集。これを売り場POPに採用した。当初からPOPは制作される予定だったが、商品画像だけだった。そこにファン作成のキャッチコピーを付け加えた。
さらにPOPにはQRコードが表示されており、これを読み取ると、ファンの作例がまとめられた特設Webサイトへアクセスできるようにした。
自分の作品がダイソーの売り場で紹介されていることに、大変喜んでいただけました。ダイソーに貢献した、ダイソーのためになった、今後またたくさん作品を作ろうという想いになってくださり、エンゲージメントの向上にもつながったと思います(山田氏)
この他、完成したプチブロックを保管するためのチャック付き小袋や、ブロックを整理するために仕切り付きボックスを購入しているというファンの声を聞きつけ、これらをプチブロック売り場に陳列。POPで紹介したところ、売上が1.3倍にアップした。
【事例3】アプリ戦略
ダイソーは2024年2月、公式アプリをリリースした。ファンコミュニティへの導線のほか、商品検索、店舗在庫の検索に対応する。このアプリの正式公開前には、商品・店舗在庫検索機能面についてDAISOの輪を通じてファンにベータ版を触ってもらった。
約30名から意見を聞き、結果的に2つの機能を追加実装した。1つ目は買い物忘れを防ぐ「お買い物リスト」機能、「他の商品に目移りして、本来買うべき商品を忘れてしまう」という顧客目線の“あるある”への対策だ。保存機能のボタンを押すという単純なお気に入りリストではなく、「子供用」「キッチン用」等、複数のリストを作って切り替えられるようにした。
そして2つ目の機能として、 リストに登録した商品がどの店舗にあるのかも検索できるようにした。この2機能を組み合わせると、リストに登録してある商品が、ある特定店舗でどれだけ一度に揃えられるか、事前に把握できる。こうした機能の実装前後で、アプリのMAU(Monthly Active Users)は10万以上増加した。
ダイソー発信のメディアにファンも出演
ダイソーが発信するメディアにファンが出演し、発信してくれることで、共感性・信頼性も向上している。
たとえば、Standard Productsファンの自宅へ訪問した模様を記事化し、DAISOの輪で公開した。結果、おしゃれな商品の使い方が知りたいというファンのニーズにも応えることができ、通常の記事と比較して、いいねやコメントなどのアクション数が2倍を記録した。
さらには、ダイソーの公式YouTubeチャンネルや、店内放送されているラジオ番組にもファンが出演している。これらの出演をDAISOの輪を取り上げた際には、サイトの新規登録者数が月間ベースで1.8倍となった。
店内ラジオへの出演は、DAISOの輪を通じてしか提供できない体験です。ラジオ出演がファンの方々のモチベーションにもつながり、とても良かったと思います(山田氏)
そしてDAISOの輪における取り組みは、ダイソーが従業員向けに別途運営しているコミュニティサイトを通じて、社内共有されている。
9月にダイソーとしての公式キャラクター「だいぞう」が発表されたが、ファンの中にはいちはやくだいぞうのぬいぐるみを作った方がいた。この情報は従業員コミュニティで報告され、担当者からは喜びの声が上がったという。
貢献実感がコミュニティを動かす
現在、DAISOの輪のユーザーは約2万人。今後は、休眠ユーザーの活性化にも取り組んでいく。
盛り上がっている方がいる一方で、見る専門や、(いいねなどの)アクションを全くしなくなった方がいます。そうした方にも改めてDAISOの輪を楽しんでいただきたいので、エンタメ系の企画などに取り組んでいます(山田氏)
そのうえで、事業との関連性もしっかりもたせていく工夫を行っている。質問に答えていくと自分の性格や行動傾向がわかるという、いわゆる“診断”は定番の企画だが、これがたとえば「お買い物タイプ診断」であれば、ユーザーの過去投稿、登録プロフィールなどとの連携によって顧客の深掘りができる。いずれは調査のためのモニター選定などにも波及させたいという。
山田氏は、約2年間、ファンコミュニティの運営に携わってきた経験を、こう振り返る。
「ファンの方々が貢献を実感いただけること」──これが一番重要だと感じています。ポイントやクーポンを配ってアンケートに回答してもらう例は、世の中にたくさんありますが、それではホンネデータを拾いきれていないのではないか、と思います。(経済的恩典は)一時的な起爆剤になるかもしれませんが、継続は難しいでしょう。
「DAISOの輪」で展開してきた、「ファンの方々の声を、商品開発に活かす、またPOPにして売場づくりに参加いただくなど「自分のアイデアが採用された」「自分の投稿が売り場で紹介された」というような、ダイソーのために何かできたというファンの方の実感が、一番のインセンティブと感じていただけているのではないでしょうか(山田氏)

