【レポート】デジタルマーケターズサミット2018 Summer

マーケティング新概念「パーセプションフロー・モデル」とは? 行動にともなう “認識・知覚” で消費者を分析

“消費者の行動・認識・知覚”に基づく「パーセプションフロー・モデル」をFICCの荻野英希氏が解説

消費者の「行動」をマーケティング視点で分析する手法として、「カスタマージャーニー」が普及している。しかし、その概念が登場したのは1990年とかなり古い。インターネットの普及を経て、今なお複雑化するデジタルマーケティングの世界で活用するには、限界もある。そんなカスタマージャーニーに対し、認識・知覚を加えてマーケティング分析を行おうという「パーセプションフロー・モデル」が近年注目されている。

「デジタルマーケターズサミット 2018 Summer」で登壇した、FICC inc.代表取締役社長の荻野英希氏。自らの体験を交えつつ、「パーセプションフロー・モデル」によるマーケティング新潮流を解説した。

FICC inc.代表取締役社長の荻野英希氏

消費者の“行動”を分析するカスタマージャーニーの限界

荻野氏は、講演冒頭に「95%」という数字を掲げた。この数字は何か? それは「米国のマーケターの95%がカスタマージャーニーを描けない」というものだった。

“カスタマージャーニー”はもともと、1990年に米国のIDEO社が、サービスデザインの改善のために、顧客の行動(ビヘイビア)を分析するための手法として開発されたもの。

それから時代は流れ、現在2018年では、日本で活動するマーケターにも、カスタマージャーニーの概念が広がったが、それでも米国マーケターの95%がカスタマージャーニーを描けないのだ。

(カスタマージャーニーが発明された当初は)テレビで商品を知り、店で買い、家に持って買って満足するのが普通の流れだった。ただ現代は、認知の経路、商品のバリエーション、店舗、決済の手法が無数に存在する。なので、“行動”を軸としていてはカスタマージャーニーを再現できない(荻野氏)

マーケティング技術が多様化しているだけでなく、それらの技術を開発・販売するベンダーも莫大な数に上る。分野ごとの専門家も著しい。認知・購買・口コミといった消費者行動の流れを一元管理すること自体、非常に難しくなっているのが実情だ。

デジタルマーケティングが極度に複雑化した現代では、カスタマージャーニー自体が課題を抱えている

「パーセプションフロー・モデル」は消費者の“認識・知覚”を分析

こういった課題の解決策として、荻野氏が高く評価し、そして自身の業務にも活かしているのが「パーセプションフロー・モデル」だ。このモデルを考案したのは、P&Gのマーケティングに長らく携わった後、資生堂でCMO(最高マーケティング責任者)も務めた音部大輔氏(Coup Marketing Company代表)。

「パーセプションフロー・モデル」は、消費者行動にともなう“認識・知覚の変化”を軸としたマーケティング・マネジメントの手法と定義されている。

単純に“行動”だけを観測するのではなく、行動にともなう“認知・知覚(パーセプション)”に注目するのが大きな特徴だ。「パーセプションフロー・モデル」が可能とすることは2つ。

1つ目 マーケティングの可視化

1つ目は「マーケティングの可視化」だ。マーケティングのプランニング、実行、効果測定までを一元的に管理できる。つまりマーケティングの設計図にあたる部分が作れる。「さまざまなベンダー、ステークホルダーがマーケティングに関わる中で、自分が一体どの部分を担っているかがわかるようになる」と荻野氏は言う。

2つ目 プロジェクトチームの意思疎通と連携

2つ目が「プロジェクトチームの意思疎通と連携」だ。たとえばマスマーケティングとデジタルマーケティングの領域では、用語や前提条件が異なり、コミュニケーションがスムーズにいかない場合がある。これを緩和する効果が期待できるという。

パーセプションフロー・モデルが可能にすること

荻野氏がパーセプションフロー・モデルに出会ったのは約10年前。とある食品メーカーのマーケティングに協力した際、パーセプションフロー・モデルが導入されており、その効果に驚かされたという。

パーセプションフロー・モデルの導入によるメリット

パーセプションフロー・モデルを構築するには、まずは戦略固めから

まず大前提として、パーセプションフロー・モデルは、マーケティングの“計画”を作成・管理する手法である。“戦略”は、パーセプションフロー云々の前にまず立てておかねばならない。荻野氏も「戦略の話をしだすと、2~3時間ではとても足りない」として、詳細には触れなかったが、ブランドの定義(ベネフィット、機能、性能)はしっかり行うべきだとアドバイスした。

パーセプションフロー・モデルの前に、まずはブランド定義とマーケティング戦略をしっかり固めておくことが重要

また、戦略立案で重要となるのは「競合」の存在だ。

「30代の主婦に買ってほしい」というような、ターゲットありきのマーケティング戦略は愚策。マーケティングは市場を作ること。そして市場とは、競合との競争環境のこと。我々はこの競合を「ソースオブビジネス」、つまり収益源と呼んでいる。なぜなら消費者の資金や時間は有限だから。商品を売るには、どこからか財貨を取ってこなければならない(荻野氏)

たとえば、高級志向で濃厚な味を売りにする「プレミアムアイス」などは、“帰宅後のひとときを贅沢に過ごす”というための商品だ。よって実際には、その競合はアイスクリームだけに限らない。プレミアムビールを好んで買うような層もターゲットになりうる。

この例でいくと、「プレミアムアイスを30代の主婦に売る」という戦略は到底立てられない。「プレミアムビールを買っているが、なんらかの不満や物足りなさを感じていて、プレミアムアイスの購入にスイッチしてくれそうな30代主婦に売る」という戦略なら、立てられる(荻野氏)

FICC inc.代表取締役社長の荻野英希氏

「パーセプションフロー・モデル」の作り方

ここからはパーセプションフロー・モデルの作り方を解説する。基本となるのは以下の図だ。本来の図はすべて空欄になっており、マーケティング対象となるべき商品サービスに応じて、自由に書き込むが、本講演では荻野氏が注釈を加えている。また講演では全ての段階が説明されたが、本記事では特に重要だと感じたポイントを抜粋して紹介している。

パーセプションフロー・モデルの構成要素
パーセプションフロー・モデルの全体像

横軸に並ぶのがパーセプションフロー・モデルの構成要素。「行動・態度」「パーセプション(認識・知覚)」「知覚刺激」「KPI」「メディア・媒体」の5つがある。

一方の縦軸は、顧客の状態だ。「現状」「認知」「興味」「購入」「使用」「満足」「再購入」「口コミ」の全8段階からなる。

1段目の「現状」の列を見ると、想定される客の「行動・態度」は、「競合を選び、使用している」とある。このときの「パーセプション」は「競合に満足はしていないが、他の機会や解決すべき問題を認識していない」だと考えられる。

この状態の消費者に対し、どのような「知覚刺激」を与えれば、次の段階へ移行してもらえるだろうか?

ここがまさに具体的な打ち手・施策となってくる。1段目の「現状」から2段目の「認知」の状態に移行してもらうために、必要な知覚刺激は「競合には提供・解決できない、より重大な機会や問題(の提起)」だ。「知覚刺激」の中身が決まれば、どんな「KPI」が必要か、どんな「メディア・媒体」を使うかも自ずと浮かび上がってくるわけだ。

現状から認知の変化

例:歯磨き粉のマーケティング

荻野氏は、「歯磨き粉でのマーケティング」に携わった際の体験を例に披露した。その歯磨き粉は、「研磨剤無配合」をアピールしていたが、それだけで消費者が買ってくれるかどうかが疑問だった。

「商品の特性をいくら説明しても、その特性によって解決できる問題を理解していなければ、消費者は買ってくれない」と荻野氏は指摘する。啓蒙的なメッセージを受け止めることで、それまで“なんとなく”“仕方なく”買っていた製品への支出について考えるようになり、他の製品を購入する可能性が出てくるという。

キーワードは「購買口実」と「社会便益」

このように、消費者の「行動・態度」および「パーセプション」に応じて、どのような「知覚刺激」を加えるかを考えていくことが、パーセプションフロー・モデルの基本的な流れである。そして、モデルを考えていくポイントとして、講演中に挙げられたものの1つに「購買口実」がある。

購買口実とは?

顧客の状態が「興味」から「購入」へ移行してもらう、つまり何かの商品を実際に買ってもらうには、そもそも店頭に商品があるか、棚に並んだとき、パッケージが目立っているかなどが重要なのは言うまでもない。これに対し、「購買口実」とは「その商品を買っていい理由」だ

たとえば、ある頭痛薬は、まったく同一の製品にも関わらず、パッケージの表記が「頭痛・生理痛」と「生理痛・頭痛」の2種類ある。

これは「生理痛」を大きく打ち出したパッケージの場合、男性だと手を伸ばしづらい、つまり口実が提供できないという知見に基づいている。荻野氏は「その人がいくら商品を買いたくても、最後に口実を提供できていなければ、購買に至らない」と、その重要性を指摘する。

購買口実は「興味」から「購入」へと移行させる際に重要

社会便益とは?

同時に「便益」も非常に重要な要素だという。「この商品を買えば、私はこうなれる、どういう気持ちになれる――それをどう“実感”させるか」が重要なのだ。「この頭髪用のコンディショナーを使えば、手ぐしの通りが良くなって、自分がちょっとカワイくなった気分になれる」。これはまさに商品購入による便益だ。

これを最大化するため、商品の説明書きにおいて、頭髪マッサージや正しいトリートメント法を解説することもまた、「知覚刺激」の一種である。

便益には種類があるが、最も意識すべきは「社会便益(ソーシャルベネフィット)」だ。「いい人だと思われたい」「他人に喜んでもらいたい」という意識は、人間の行動を大きく左右する。

「人は、自分のことなら多少は我慢するが、大切な人のためには行動する。自分のブランドが、消費者と別の消費者を結ぶのだと発想すべき」と荻野氏はコメントしている。

荻野氏が「今日はこれだけでも覚えて帰ってほしい」と猛アピールしていたのが「便益」。この商品サービスを買うと、どんな気持ちになるか? これを意識することが重要だという。

商品サービスを買ったときの「便益」を意識することが重要

日常的に利用する商品・サービスの場合は、繰り返し再購入してもらって、初めて便益が生まれるケースもある。たとえばFacebookでは、最近友達になった人の一覧や、これまでに投稿した写真などを再表示している。有料サービスではないが、荻野氏によれば、「Facebookに投資した時間を示すものであり、今Facebookを使い止めてしまってはもったいない」とユーザーにアピールするためのものという。つまり、これもまた継続利用のメリットを訴えるための「知覚刺激」なのだ。

会場の模様

パーセプションフロー・モデルでどう変わる?

パーセプションフロー・モデルを自社製品・サービスに合わせて構築するには、まず消費者の「購入」段階におけるパーセプションを描き、そこから逆算的に表を埋めていくのがオススメだという。

「このモデルは、競合を起点に問題提起を積み重ねていく手法のため、どうしても“機能”中心のフローになってしまいがち。なので表の途中のd.から考えるのがいい」と荻野氏は述べている。

同様に、パーセプションフロー・モデルは1つの商品ブランドに対してだけ適用してもメリットが薄い。なるべく多くの商品ブランドで試し、それぞれを比較しあうことで新しい視点を生むべきだともアドバイスする。

最後に荻野氏は、パーセプションフロー・モデルの導入による「マーケティングの一元管理」の重要性を改めて説く。

広告代理店に対して「パーセプションAからBに○○万人を○○%へ変容させるため、いくらの予算でやってください」というような、非常に高精度なブリーフィングができるようになる。こうなると代理店の動きも、本当に速くなる(荻野氏)

当然、代理店の提案に対するフィードバックも、「なんか気に入らないんだよね」的なあいまいな要素が排除され、あくまでデータに基づいて実施することとなる。パーセプションフロー・モデルをもとにすれば、施策の細かなチューニングも可能だ。

ここ10年ほどでマーケティングのチャネルは複雑化し、代理店1社に全部お任せ、という訳にいかなくなっている。分野別の専門ベンダーを集め、それぞれがコラボレーションするためにもパーセプションフロー・モデルは今後より重要になっていくだろう(荻野氏)

パーセプションフロー・モデル導入によるメリット
  • パーセプションフロー・モデルのテンプレートは頻繁にアップデートされている。最新のパーセプションフロー・モデルのテンプレートは、音部氏のサイトからダウンロード可能
    https://www.coupmarketing.jp/
  • FICC | デジタルエージェンシー
    https://www.ficc.jp/
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