【レポート】デジタルマーケターズサミット2018 Summer

年間6億円の収益を生む“データを使った物語”、リクルートライフスタイルが実践したダッシュボードとは

データ活用で成果を上げるダッシュボードの作り方・チームの回し方を、リクルートライフスタイルが解説。

Web担当者Forumでは、“ビジネスを動かすデジタルマーケター”に向けて、デジタル戦略の本質的理解を深めるためのセミナーイベント「デジタルマーケターズサミット」を開催している。8月24日に東京で開催された「デジタルマーケターズサミット 2018 Summer」でも、さまざまな活用事例や最新動向が紹介された。

そのなかから、リクルートライフスタイル(テクノロジープラットホームユニット データマネジメントグループ データプロデュースチーム)の板谷越英美(いたやごし えみ)氏によるオープニング基調講演「組織がデータを活用できるようになる鍵『データストーリーテリング』~年間6億円の収益を生み出したダッシュボードと、データドリブンで本当に大切なこと」の内容を紹介する。

リクルートライフスタイル 板谷越英美氏

年間6億円の収益を生み出す「データストーリーテリング」誕生の背景

リクルートライフスタイルは、「ホットペッパービューティー」や「じゃらん」などの生活者向けポータルサービスを展開しているが、近年ではテクノロジーやデータを活用した業務・経営支援ソリューションにも注力している。今回の公演では、ダッシュボードを使ったデータ活用で年間6億円の収益を生み出したケースについて語られた。

その背景にあるのが「データストーリーテリング」という考え方だ。データストーリーテリングとは、「データを使った物語で、伝え、期待するアクションを得る技術」だと言える。

もともと板谷越氏は、「テクノロジープラットホームユニット」という技術系部署で、データプロデュースチームの立ち上げを進めていた。そのとき、ある部署から次のような依頼を受けた。

クライアント(記事掲載企業)向けの業務支援サービスを新規にリリースしたが、翌年の契約更新率に不安がある。データを活用した新機能で商品価値を高めることはできないか。4か月で成果を出してほしい

この事業のクライアントは主に中小事業者が多く、データ活用はあまり進んでいない環境にあったため、多くは、勘や経験ベースで、計画や打ち手を決めていることがわかった。このため板谷越氏は、「データドリブンな『新しい武器』があれば、クライアントの意思決定や打ち手の精度が上がり、サービスの契約更新に繋がる新機能となり得るのでは」と考えた。

実現すべきゴールは明確で、クライアントが「契約更新する」と言ってくれる機能を追加すること。「ゴールが明確であることは、当時は追い詰められた状況だったが、結果的にはよかった」と板谷越氏は言う。契約更新というゴールを「データを使った何か」で目指すわけだが、その達成手段として考えたのが「ダッシュボード レポートX(仮称)」である。

セッションではまず、作り方全体像の図が示された。ここでは以下の3つが、重要なポイントとして提示された。

  • 1. 明確なゴールとストーリー
  • 2. 適切なデザイン
  • 3. ロールプレイングを繰り返す
収益を生むダッシュボードレポートの作り方全体像

どんなにいいツールでも、使われなければ意味がない

「レポートX」の制作は、まずデータプロデュースチームだけでスタートした。しかし、できあがったダッシュボードを見て板谷越氏は「これでは営業担当は使わない」と判断した。

「いいデータだし、高度な予測モデルも使っているが、見ただけではわかりにくい集計表になっている」と感じたという。しかし、エンジニアはいいツールを作ったと自負があり、なかなか話が噛み合わない

そこで、営業企画や事業推進のメンバーに、実際使えそうかシミュレーションをしてもらうことにした。営業担当役とクライアント役になって、そのダッシュボードを使った営業トークで契約更新してもらえるか、ロールプレイで試してみるというものだ。その結果、百戦錬磨の元営業マンである事業推進の社員ですら、「契約更新する」という言葉は引き出せず、ゴールにたどり着かなかった。

これにより、「これでは、営業は使わないし、使えない」という共通認識が生まれた。事業部系の部署とサービス開発の部署は、一般的に仲が良くないことも多い。このロールプレイング大会でも「最初は微妙な空気だった」(板谷越氏)という。しかし「ゴールに向かうために、必死にシミュレーションをしていくうちに、最終的にはいい空気になれる」という感触も得た。

ゴールに向けたストーリーに沿ったレポートを作る

初期バージョンのレポートXでは、なぜゴールにたどり着けなかったのだろうか? たとえば、シミュレーションではレポートを見ながら次のようにトークが進んでいく。

  • 貴社の状況は○○です
  • ユーザーニーズは△△です
  • ユーザーは木曜日に貴社のページを見ています

さて、これに続けて

  • 契約を更新してください

と言ったら、顧客は契約を更新してくれるだろうか? つながりがなくて意味不明だろう。

ゴールにたどりつけないストーリー

「データストーリーテリング」ではこうなる

そこで、どのように話していけばゴールにたどり着くかというシナリオを先に作り、そのストーリーに合わせて必要なデータをレポートにするという考え方に変更した。

修正されたトークでは、次のように進んだ。

  • 30代の男性は、見ているけれどコンバージョンが低いですね
  • 競合と比較すると、貴社の弱みは○○です
  • だから××の手を打ち、結果をレポートXで振り返りましょう
  • データに基づいたPDCAを行うためにも、サービスの契約を更新しませんか
営業トークシナリオに沿って再構成

これなら、ストーリーとしてつながりがある。“データを使った物語”で伝え、契約更新という“期待するアクション”を得るというこの手法が、「データストーリーテリング」だ。なお板谷越氏によれば、「データストーリーテリングは、日本ではまだ研究や実践が少ないので、事例検索するときは英語のほうがいい」とのこと。

ストーリーはつながったが、問題は他にもある。初期版ではデザインに課題があり、データの意味や見方を説明したうえで分析結果を伝えなければわかってもらえず、時間がかかっていた。そこで、他チームのデザイナーに頼み込んで手伝ってもらい、すっきりとわかりやすいデザインに変更した。バージョンアップは、38回行ったという。

熱弁を振るう板谷越氏

だが、こうして何度もバージョンアップしてできあがったいいツールでも、実際に使われなければ意味がない。営業担当は忙しく、ツールもたくさん使っているので、使いやすいと思ってもらえなければ絶対に使ってもらえない。

そこで板谷越氏は、全国の営業担当が集まったロールプレイング大会や練習期間をとったという。4か月という期限になんとか間に合って、クライアントへの展開を開始した。結果は上々で、レポートの活用率が98%、サービスの継続率もかなり上がり、年間約6億円の売り上げに寄与している。

収益を生むデータ活用、そのまとめ

「レポートX」は、収益を生むダッシュボードレポートとして成功した事例だが、それを実現するためのノウハウとしては、以下の6点があげられる。

  • 1. プロセスはアジャイルで
  • 2. データ活用チームの中間目標は置かず、事業における最終目標だけを置く
  • 3. 「明確なゴールとストーリー」を、構造に沿って明確に言語化する
  • 4. 「適切なデザイン」を実現するには、状況に応じた手段をとる
  • 5. チーム一丸となってデータストーリーテリングを磨き込む
  • 6. 使わないデータは思い切って捨てる

1. プロセスはアジャイルで

以下の図は、従来型のデータ活用プロセス(上)とレポートXのデータ活用プロセス(下)を比較したものだ。

データ活用のプロセスの比較

従来型のプロセスは、システム開発で「ウォーターフォール型」と呼ばれるアプローチと同じだ。一方レポートXのプロセスは、従来型のプロセスを何度も繰り返す「アジャイル的なアプローチ」だといえる。レポートXのプロセスでは、以下のような特徴に注目してほしい。

  • 作り終わってからではなく、作っている途中でシミュレーションする
  • 可視化する(シミュレーションするにはある程度、形になっている必要がある)
  • Quick-Winにプロセスを何度も回す

何度もシミュレーションを繰り返すこの方法は、手間がかかって効率が悪いと感じるかもしれないが、「営業社員の数を増やす、新しくサービスを開発するなど、売り上げを伸ばす方法は他にもあるが、データ活用にアジャイル型で取り組むのは、事業的にもROIのいいプロセス」(板谷越氏)だと言える。

ちなみにレポートXでは、可視化においてBIツール「Tableau」を活用したとのこと。「Webの画面のように、きれいに簡単にダッシュボードを作れる」と板谷越氏はコメントしている。

2. データ活用チームの中間目標は置かず、事業における最終目標だけを置く

データ活用チームではツールを作ることをゴールに置きがちだが、「事業・営業部門」という他部門のゴールを、一緒に目指すように目標設定して、チーム形成するのが重要だ。

3. 「明確なゴールとストーリー」を、構造に沿って明確に言語化する

収益を生むダッシュボードレポートにおいては、「明確なゴールとストーリー」が必須ポイントだ。そして「明確なゴールとストーリー」においては、「ゴールは何か?」「ゴールを達成する為のストーリーとデータは何か?」「レポートゴールを最大化するためのその他指標は何か?」という3つの要設計事項について、明確に言語化すべきだ。

「明確なゴールとストーリー」を構造に沿って言語化する

4. 「適切なデザイン」を実現するには、状況に応じた手段をとる

適切なデザインを実現しようとしたとき、「アサイン可能なデザイナがいる」「アサイン可能なデザイナがいない」という2つの状況がありえる。どちらの状況でも、それぞれに応じた手段をとることが大切だ。

適切なデザインの実現には、状況に応じた手段をとる

5. チーム一丸となってデータストーリーテリングを磨き込む

One Team、すなわちチーム一丸となってデータストーリーテリングを磨き込むべきだ。営業など事業の主体となる部門と、データ活用部門をチームとして組んだうえで、データ部門のメンバーをトップにすると動きやすい。ダッシュボード活用者のパターンによって、シミュレーションを誰にやってもらうかは、図を参考にしてほしい。

ダッシュボード活用者のパターンに応じて対処する

「レポートX」の場合は、実際に利用するのはクライアントや営業なので、営業トークのロールプレイングを営業経験者が行うのが最も成功率が上がると考えた。それ以外でも、事情を知らない第三者にシミュレーションしてもらうのも効果的だろう。

6. 使わないデータは思い切って捨てる

一生懸命作ったいいデータでも、シミュレーションで使わなかったなら捨てるべきだ。

最後に

なお板谷越氏は、Facebookにおいて「データストーリーテリング実践の会」グループを開催している。興味のある方は、以下のFacebookまで連絡してほしいとのこと。

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