Instagramを基軸としたブランドグロースと戦略設定の6ステップを公開
SNS、特にInstagramマーケティングに投資する企業が増えている。その一方、「売上の貢献度の可視化がしにくい」という課題を抱えている企業も多い。この課題に対してどのように取り組んでいくべきかという視点から、「Web担当者Forumミーティング 2021 秋」にて講演が行われた。
登壇したのはSNSを中心としたマーケティング戦略立案、クリエイティブ制作、アカウント運用などを通して顧客の課題解決を行うテテマーチの三島悠太氏。同社のこれまでの経験や定量データ分析などから導いた、Instagramを活用したブランドグロースと戦略策定について語った。
認知だけでなく、認識されるブランドになるためのInstagram活用
SNSの登場により、マスメディアを使ったブランド発の一方的な発信から、発信したブランドメッセージが、ユーザーの間で共感を持って伝播していくように変わってきている。「ブランドの成長には、認知、共感の両輪が必要」と三島氏は話す。
さらに、認知だけでなく、ブランド体験を通して、ユーザーにブランドが何者か、「認識=パーセプション」してもらうことがブランドの成長を加速させるという。
ブランドをどう認識させたいかで、コンテンツの見せ方が変わってきます。『知っている』ことは認知ですが、そこに『どう思っているか』が加わると、認識になります。おいしそうだけでなく、何がどんなふうにおいしいかがわかることで、顧客の購買行動が変わります。
Instagramは、ブランドのメッセージを一貫して表現できる場所であり、生活者のリアルな反応を得ることで、つながりを強化できます。最も効率よくブランドのコアメッセージを届けることができるプラットフォームの一つです(三島氏)
同時にInstagramはUGC(User Generated Content:ユーザーが作ったコンテンツ)を見せる場としても活用できる。UGCを通してユーザーは具体的に生活に取り入れるイメージをふくらませることができる。
保存機能は次に買いたい物や行きたい場所をまとめたウィッシュリストとして活用されることも多い。保存率の高いコンテンツを分析することで、購買の手前の情報としてどんな情報にニーズがあるか、欲しているかを知ることができ、商品の購買率を高めることにつなげられる。
Instagramは、情報収集だけでなく購買につながりやすいプラットフォームであることから、テテマーチでは新しい消費行動モデルとして「PERCARS(パーカーズ)」を提唱しており、Instagramではこのファネルを一気通貫したアプローチができる。
Instagramは、アルゴリズムでユーザーに適したコンテンツが表示されるので、パーソナライズされた場所でブランドと出会い、ブランドが伝えるメッセージを理解し、その先の購買につながっていきます。ユーザーとの関係構築ができていれば購買だけでなく、ファンになって共有もしてくれるようになります。
どのようなコンテンツで、どんなユーザーが反応するのか、どういう認識をして、どんな口コミをシェアするのか、ブランドによって変わるのがInstagramのおもしろいところです(三島氏)
続いてSNS活用、特にInstagramにおける重要なテーマとして以下の3点を挙げた。
- LTVの向上:ファンを生み出すためにSNSで強い関係を築けるようなコミュニケーションが重要
- 好感認知の向上:ただリーチさせるだけではなく、エンゲージメントされるコミュニケーションが重要
- 純粋想起率の向上:〇〇に困ったら、〇〇のことを知りたいときは、など、生活者のSNSの滞在時間の中で思い出させるためのコミュニケーションが重要
それぞれフォロワーとのコミュニケーションを通して、向上させていくことになる。
進化するInstagram。リンク挿入やキーワード検索が可能に
Instagramのユーザー規模について「Instagramは公式では日本国内ユーザーを3,300万人としているが(2019年3月時点)、2021年現在、ユーザーは大幅に増えており、Facebook、TikTokに大きく差をつけている」と三島氏は話す。
また、機能面も常に進化しており、2021年もさまざまな新機能の実装があった。その一つが、メインナビゲーションの「アクティビティ」が「ショップ」に変わったことだ。InstagramがECを強化していることがわかるアップデートとなっている。他にも、ショップフィードへの広告表示、地図検索機能などがあるが、注目するべきは「キーワード検索」の実装だ。
これまではハッシュタグ検索のみだったが、キーワードを複数組み合わせて検索できるようになりました。どのようなキーワードでコンテンツを表示させるか、ユーザーと接点を持つかを考えることが求められるようになるでしょう(三島氏)
もう一つ、ストーリーズにスタンプで外部リンクを挿入できるようになったことも注目したい。これまでは1万人以上のフォロワーを持つアカウントのみで可能だったが、2021年内または年明けにかけて、誰でもリンクを設置できるようになるという。
企業アカウントに限らず、誰でも外部サイトにリンクできるようになり、いろいろな情報をシェアできる場所になります。いずれ購買までのプロセスがInstagramで完結する時代が来ると思われ、国内でも2022年にはチェックアウト(決済)が実装されるのではないかと予想しています(三島氏)
売上貢献に関するデータを分析
冒頭で、SNSの売上貢献を計測するのが難しいと述べたが、同社では2021年「サキダチラボ」という研究所を設立、SNSのデータと購買データを照らし合わせて、どのような施策が有効か、可視化、検証する取り組みを開始した。
研究所の調査でいくつかの傾向が明らかになった。あるアウトドアブランドでは、InstagramのUGC投稿数と、オーガニック検索の数に相関が見られた。現状ではInstagram上で決済までできないので、UGCで商品を見て、そこから検索に切り替えてECサイトを見に行くようなカスタマージャーニーがあるのではないかと推測できるという。
コスメブランドでも同様に、UGCの数とオーガニック検索経由の購入に相関があったという。別のスキンケアブランドでは、インフルエンサーのPR投稿の数がECサイトへのアクセスに影響していることがわかった。こうしたデータをもとに、どのインフルエンサーにPRを依頼するのか、どのタイミングで行うか、綿密に設計して戦略に落とし込んでいくことが効果的だ。
もう一つ見逃せないのが保存機能に関するデータだ。保存数を指標にしている企業も多いと思うが、実際の購買への影響はどうなのか。
若い世代では、保存機能でウィッシュリストを作成しているユーザーが多い。保存数と購買の関係を調査したところ、相関係数はそれほど高くないことがわかりました。しかし保存数と購入金額には相関がありました。高い商品ほどよく考えてから購入するため、相関が出たと考えられます。
なお、保存されるコンテンツの傾向として、情報量の多いコンテンツ、どのようなシーンで活用されているかが伝わるコンテンツが保存されやすいです。ブランドによって変わるので目的に合わせて情報の出し方を変えることになります(三島氏)
さらにアンケート調査から、ブランドの店舗情報をInstagramで調べるユーザーは、購入金額や購入回数が高いことがわかった。こうした細かいデータの分析で、UGCや保存数、画像クリック数など間接的な指標から売上の貢献を可視化していくことができると三島氏は話す。ただし、業界やトレンドによって傾向が変わることには注意が必要だ。
Instagramの戦略策定の6ステップ
ここからは、具体的な戦略の立て方を説明していく。どのブランドも共通してやるべきことは、コミュニケーションの「質」と「量」を担保していくことだ。いいねやアンケートの回答だけでなく、コメント、ダイレクトメッセージ、Instagramライブでの質問など、ユーザーの声が聞こえるエンゲージメントを通して、ロイヤルティが高まると考えられる。
先程のPECARSをもとに戦略を落とし込むと次のようになる。それぞれのステップごとにやるべきことが異なるので、参考にしてほしい。
戦略ができたら、PDCAをまわしながら運用する。そのためのアクションを整理するワークシートが紹介されたので、ぜひ自社の場合のアクションを整理してみてほしい。
続いて具体的に戦略を考えるために必要なステップが紹介された。
ステップ①自社・競合・市場を知ること
テテマーチでは、他社を含めてフォロワー推移、エンゲージメント、リーチ数との相関などを計測できる「SINIS(サイニス)」を提供しているが、こうしたツールを活用して、競合の状況を知る必要がある。自社のフォロワーが求めていることを知るには、アンケートを行って期待しているコンテンツを見極める。さらに、業界のフォロワー、いいねなど各指標の平均を把握する。
ステップ②目標を定める
ステップ①で分析した指標を踏まえて、どんな指標が売上にインパクトがあるのかを押さえて、KPI設計、目標設定を行う。自社の状況や市場規模を踏まえて、何をKGI、KPIにするのかを考えていくと、投下するべき予算、体制も変わってくる。
ステップ③コンセプトをしっかり決める
差別化のポイントとユーザーのインサイトをかけ合わせて、アカウントコンセプトを考える。アカウントコンセプトを決めたら、それをプロフィールのストーリーズのハイライトなどで伝える。ユーザーがアカウントをフォローする時に、プロフィールが閲覧されることが多いので、明確にコンセプトを伝えて、フォローする意義を理解してもらうことが重要だ。
ステップ④届けるべき相手を具体的に想像する
年齢層、客層などのセグメントだけでなく、悩みや購入の決め手など、どんなカスタマージャーニーになるのかを整理して、どんなペルソナに対してコミュニケーション施策が必要なのかを考える。
ステップ⑤カスタマージャーニーを仮説として立て、指標と施策に整合性を持たせる
カスタマージャーニーを整理して、どのポイントでどの指標を設定するか、どんなコンテンツを出していくのかを考える。
ステップ⑥分析・振り返りを行い、PDCAを回す
整理した施策をもとにPDCAを回しながら実践していく。ターゲットによって行動が違うので、実践をもとに、再現性、シナジー、ニーズを把握し、指標へのインパクトを加味して、どこに予算やリソースを投下していくかを考えていく。
戦略を考える上での注意点として、「何を伝えるか」を考えがちですが、その前に「なぜブランドがそのコンテンツを伝えるのか」の理由を明確にしてください。ユーザーになぜこのブランドからこの情報を受け取るのかと考えさせないことです。これは最初に述べた、認識、パーセプションにつながります。
認知から購入までの間のコミュニケーションプロセスで、ブランドを利用したイメージを訴求できるかがポイントになります。常にユーザーのニーズを考えながら、ブランドが提供するべき価値を伝えて、SNSではユーザーが自らその体験を発信する場を作っていくことです(三島氏)
3テーマの再考:LTV向上、好感認知向上、純粋想起率の向上
そして冒頭で触れたLTV向上、好感認知向上、純粋想起率の向上という3つのテーマを振り返り、自社でこうしたテーマでSNS運用ができているかを見直し、マーケティングチーム全体で、リアル、デジタルを通して戦略設計をして、その上でInstagramがどんな役割を担うかを考えてほしいと述べた。
- LTVを引き上げるヒント:ブランドが成長していく過程で「新しい発見」と「驚き」を提供することで、ブランドを選び続けてもらえるようになる。
- 好感認知を上げるヒント:本気でブランドのことを理解してもらい、パーセプションチェンジを起こす。
- 純粋想起率を上げるヒント:広告だけではなく、UGCのフリークエンシーを高めて、いろいろなところに情報が出るようにして、どの情報をどのタイミングで届けるか、カスタマージャーニーに落とし込んでいく。
最後に、まとめてとして、次の10個のチェックリストを挙げ、講演を締めくくった。
- 認知のみではなく、認知+共感(同時並行)が必要である
- だだの認知ではなく認識(パーセプション)も意識したアプローチが必要である
- そのために必要なのは「ブランド体験」を届けること
- それによってLTV・好感認知・純粋想起率が高まると考えられる
- 結果、その相性がよいInstagramは売上への貢献度が可視化されやすくなる
- 加えて、Instagramが売上まで全てのファネルを網羅する時代が近づいている
- だからこそ戦略的にInstagramへ注力をしていく必要がある
- ポイントは「コミュニケーションの“量”と“質”」
- ユーザーを突き動かすブランドのストーリーを軸に発信すること
- ユーザーと向き合い続けることで実現することができる
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