ネットの違法広告への法規制厳罰化、広告担当者は「モラル・収益・法律」をどう考えるべきか
ネットを閲覧していると「医師がおすすめ」などの広告表現を目にする機会がある。こうした広告は薬機法などに違反する疑いが強いが、これまで事実上放置されてきたネット広告の違法な広告表現の規制が厳格化される流れが加速している。
「Web担当者Forum ミーティング 2021 秋」に登壇したのは、違法広告の問題を追及するデトリタス 代表取締役の土橋 一夫 氏と、消費者庁での検討委員も務める池本法律事務所 弁護士の池本 誠司 氏、日本経済新聞社 DX推進室 部次長の小林 秀次 氏(モデレーター)の3名。ネット広告の現状や背景、ネット広告に携わる担当者が気をつけるべきことは何かについて語った。
ネット広告は違法広告が“野放し”になっている
薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)で課徴金制度が始まり、景表法(景品表示法)も含めてネット広告に対する法的規制が厳格化している。
冒頭、小林氏はネット広告の現状について「法律を守っている企業の方が、収益的に損をしてしまうケースが多く存在している」と言及した。これまでも、違法な広告表現がサイト閲覧者のユーザー体験を損なったり、広告主が意図しない掲載先に広告が表示されたりすることで、ブランド毀損がたびたび問題となってきた。
たとえば違法な海賊版サイト「漫画村」に広告が掲載された問題については、広告代理店の掲載基準や倫理、モラルが問題視された。また、NHKの「クローズアップ現代」などの報道番組などでも、海賊版サイトへの広告掲載や、不正な広告費を水増しする「アドフラウド」などの詐欺的手法について対策強化していく取り組み、課題などが取り上げられた。
特に、記事下などにオススメの広告を表示する「レコメンドウィジェット」などの広告配信プラットフォームでは、法律やルールを守らない事業者が野放しになっている状況だ。小林氏は「業界団体に参加している大企業だけの取り組みではなく、広告を配信するプラットフォームやメディアなど業界全体で取り組んでいかないと問題の解決は難しい」と指摘した。
土橋氏は、「プレジデントオンライン」にて、「医師がおすすめ」といった薬機法違反が疑われる広告表現が放置されている現状や、広告枠を管理するレコメンドウィジェットの問題点を追及する記事を執筆している。
記事の反響について小林氏から問われた土橋氏は「体感としてはそれほど反響は大きくなかった」とした上で、「どちらかというと違法な事業者は記事について沈黙を守っており、モラルある事業者からは我が意を得たりといった好意的な反響があった」と話した。
「角栓」に関する違法広告の事例
続いて、「ネット広告の実情」としてどんなLPやクリエイティブが存在しているかが示された。一つ目はネットユーザーおなじみの「角栓」の広告だ。
上図右側LPの上の写真は、薬機法で体験談を使った効果保証表現が禁止されているため「薬機法違反」に該当する恐れがあるという。
下の写真は、Yahoo! ニュースを模したUIになっているが、実際にはYahoo! ニュースには掲載されていないと思われる。そのため、景表法上の優良誤認表示に該当し「景表法違反」に該当する恐れがあると、土橋氏は指摘する。
また、フッター部分に「キャンペーン終了まであと何分」という表示があるが、これも実態がなければ景表法上の有利誤認に該当する恐れがあると説明した。
池本氏は、体験談を使った効果保証表現の禁止について「たとえば、使用前・使用後の比較写真を掲載する例や、体験談のようなものをクリエイティブに使う例があるが、個人の感想であり個別の効力を保証しないと謳っていても、全体としてのデータの裏付けがなければ優良誤認表示の問題になる可能性が高い」と解説した。
社会的に信頼性の高いメディアでも違法な広告が載っている
続いての事例は「時事ドットコム」の事例だ。土橋氏は「非常に社会的信頼性の高いメディアでも違法な広告が載ってしまっている」と話した。
「能動的ではないにせよ、実態として違法な広告が掲載され、ユーザーがこれをクリックして得られた収入は結果的に時事ドットコムにも入っている」と土橋氏は述べ、「得た収入を返還する行動も確認されておらず、時事ドットコムが違法な広告の収益に支えられているのは事実だ」と憂慮を示した。
また、このクリエイティブはGoogleアドセンスの広告であるが「Googleに関しては2021年3月までは違法広告のない、きれいな状態で運営されていたものの、4月以降、違法な広告が大量に流入するようになった」と土橋氏は指摘した。
CNNに掲載された違法広告の事例
そして、右側はオーソドックスな薬機法違反のケースで、「自社宣伝のために他社製品を誹謗してはいけない」という規定に抵触する違法広告だ。
小林氏は「メディア運営のために、Googleの広告収益にある程度依存しているメディアが少なからずある。しかしGoogleの広告を信用しすぎるのではなく、メディア側も違法広告の掲載が検知されたら、速やかに掲載取り下げなどの措置を取る必要があった」と話した。土橋氏も「収益が下がる話になるので、シビアな話になると思うが、メディア側も違法広告を出すアドセンスは切る判断も必要になるのではないか」と応じた。
次の事例はCNNのサイトだ。
サイトに表示されたレコメンドウィジェットから右側のLPに遷移するのだが、LPの上の表現は薬機法上の体験談を用いた違法表現に当たる。また、下も薬機法の違法表現にあたり、「この断面図は角質層までであること」を明記する必要がある。
よく見ると、丸で囲んだ右下にうっすらと書かれているが「行政側は、この書き方では明記されているとみなさないだろう」と土橋氏は指摘した。
なぜネット広告にはガバナンスが効かないのか
こうした状況が続くと、消費者の広告離れはますます進んでいくだろう。では、ネットの違法広告がなくならない背景には何があるのか。小林氏はネット広告のテクノロジーの変遷について次のように整理した。
2000年以前は「予約型広告」、いわゆる純広告が広告主とメディアの1対1の関係で枠を購入し運用されていた。2002年になると検索連動型広告が登場、2008年にはディスプレイ広告を束ねたアドネットワークが伸長する。
2010年に入るとプログラマティック広告が登場し、枠とクリエイティブが多対多の関係で取引が進み、2012年にはDMPが登場、ターゲティングデータが拡大し、「広告枠から人へ」の動きが加速した。
そして、現在はクッキーレスおよび個人情報保護の流れの中でターゲティングから「面」や「文脈(コンテキスト)」のシフトが加速している。こうした変化をメディア視点で見るとどうなるか。予約型広告の時代は、ポータル・セカンドポータルなど一部の企業が運営するメディアの時代だった。
これが技術の進化により、誰でも簡単にサイトが作れるようになるとサイトが増え、アドネットワークのタグを貼るだけで誰でも広告を掲出できるようになった。メディア・コンテンツが乱立し、モバイルアプリも爆発的に増え、SNSプラットフォームも乱立、自動取引が加速することで業界団体のガバナンスがきかない世界になったといえる。
これまでの「4マス時代」は、基本的にマスメディアは業界団体に加盟していて、団体として明確な掲載基準があり、掲載先が限定され目が行き届く状態だった。今は、広告主から代理店への発注後、ASPやDSPを経由し、さまざまなプラットフォームを介してメディアも、コンテンツも乱立した状態にあるといえる。つまり「どこが、何の責任を持っているか不明瞭になっている」のだ。
違法広告に対する法的規制の厳格化が進んでいる
こうした状況に対して、行政側では法規制を厳格化、厳罰化させようとしている。代表的な事例が、2017年の「イソフラボン措置命令事件(行政処分事例)」だ。
「葛の花イソフラボン」を由来とする機能性食品の製造販売業者16社が措置命令を受けたもので、池本氏は「成分そのものが内臓脂肪を減少させる効果があることは研究結果の裏付けがあるが、その成分が個々の製品に含有された量で、効能効果があるように表示するのは、全体の裏付けがあるとはいえないと措置命令を受けた」と解説した。
問題はその先で、措置命令を受けた16社のうち9社はより重い課徴金納付命令が課されたのだ。
「問題後に広告表示を取り下げることや解約返品に応じるなど、広告の適正化に向けて、表示開始後の段階でも管理する取り組みを行ったことなどが考慮されて、その事業者には課徴金のペナルティが課されなかったとみられる」と池本氏は説明した。
続いては、2021年に消費者庁の措置命令が出されたアフィリエイト広告の事例だ。アフィリエイトサイトに「有名大学がマウス実験で実証」などとする発毛効果を謳った広告が表示されたものだ。池本氏は「事業者は裏付けのある資料だと主張したが、大学のマウス実験で成分自体に効果の存在が実証されても、広告に記載された効能効果の裏付けとしては不十分だと消費者庁は判断した」と解説した。
さらに池本氏は、「詐欺的な定期購入の問題」についても言及した。「消費者白書」(2021年版)によれば、定期購入トラブルの相談件数は2016年13,673件だったものが2020年には59,172件と急増している。
こうした状況に対して、2022年6月頃に施行が予定される特定商取引法では、次のような改正事項が盛り込まれるという。
- 事業者の申込画面による通信販売の申込みに「商品の分量・対価・支払時期・引渡し時期・解除条件」の表示義務や、誤認させる表示の禁止が加わる。
- 違反行為に対し、行政処分のほかに「刑事罰則や誤認を招く申込画面により契約した消費者に契約の取消権」が加わる。
特に、アフィリエイト広告については、「アフィリエイター・ASPは、広告規制が直接及ばないため、成功報酬を狙って虚偽誇大広告を繰り返しやすい」問題があり、通信販売業者は、アフィリエイターが行う表示内容に目が届かない問題がある。
この問題に対しては、2021年12月に消費者庁の検討結果をまとめた報告書が出される見込み※で、委託先・再委託先の不当表示についても委託元の販売業者が責任を負うことが明確なルールとして打ち出されるということだ。
ネット広告に携わる人が今日からできること
今後、広告主や代理店、メディア、プラットフォームは「モラル・収益・法律」の3点をどのように考えたらいいのか。
土橋氏は「私見ではレコメンドウィジェットの業界はすでにゲームオーバーを迎えている」とした上で、メディア、代理店、配信プラットフォーム、広告主はまず、自社の広告の何%が違法広告か、実態の数字を把握することがスタートラインだとした。
数字で現状を把握し、改善後の状況を数字で示すことが必要で、その上で「法律」「モラル」については、「法律すら守っていない人にモラルを求めるのは不可能だろうと思う。まずは、社会人として仕事をする上で最低限の基本的な教育が必要だろう」とした。
池本氏は、消費者庁の議論の中でも「景表法上の最終責任を負うのは広告主であることが明確に示される流れにある」として、広告制作に必要な外部のクリエイター選定に、「プロとして」広告代理店が関与すべきだと話した。
「適切に法律を守れるか、約束が守れない事業者であれば委託をすぐ切るということを代理店が日常的に見ていく、そして、法的な責任を持つ広告主が適正な代理店を選んでいくことがスタートラインだろう」ということだ。
小林氏は、「広告主は、自分たちがどういうメッセージ、クリエイティブを作っているか、気を配る必要がある。オウンドサイトだけでなく中間サイトでも委託を受けた代理店任せにせず、広告主と同じ思いで広告キャンペーンを運用していくべきだ」と提言した。
JAAやJAAA、JIAAといった業界団体もJICDAQ(一般社団法人 デジタル広告品質認証機構)というデジタル広告の品質認証機構を設立して加盟者を増やしている。モラルや法律を守り、消費者にとって有益な正しい広告プロモーションを進めていこう――、小林氏はこのように述べてセッションを締めくくった。
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