デジタルマーケターが知っておくべき景品表示法とネット広告動向
急速に拡大するネット広告分野の課題が顕在化し対応が求められる中、2021年6月から消費者庁はアフィリエイト広告等に関する検討会を開始し、法整備などが進められつつある。
そうした動向を踏まえ、検討会の委員でもある日本アフィリエイト協議会の笠井北斗氏が「デジタルマーケターズサミット 2021 Summer」に登壇。景品表示法(以下、景表法)についてデジタルマーケターが知っておくべき法律とネット広告業界の最新動向について解説した。
笠井氏は、「まず現状として」と前置きし「広告を取り巻く環境が整備されたことで、問題のあるアフィリエイト事業者を選んでいた広告主が続々と退場しており、信頼できるアフィリエイターやASP、広告代理店を選んでいる広告主は売上と評判が上昇している。
つまり、アフィリエイトについては選択次第で売上や評価アップが可能になっており、景品表示法や特定商取引法などの行政処分リスクも見られないクリーンな状態になっている」と語る。とはいえ、「選択を間違えると行政処分や逮捕等のリスクがあることを忘れてはならない」と注意喚起も行った。
広告主の責任が明確化。ネット広告を安心して使える環境へ
法整備の状況、そしてそれに伴うネット広告業界の動向はどうなっているのかの話をする前に、まず、景品表示表とは何かから解説した。
景品表示法
景品表示法とは、消費者が良い商品・サービスを安心して選べる環境を守るための法律である。事業者が自己の供給する商品・サービスの取引について不当な表示を行うことを禁止している。その中で、特に強く注意を喚起しているのが次の2つだ。
優良誤認表示
商品やサービスの品質、規格などの内容について、実際のものや事実に相違して競争事業者のものより著しく優良であると一般消費者に誤認される表示のこと。以下のような謳い文句は優良誤認表示にあたり、広告その他に使うことは禁止されている。
- 該当する例:「ダイエットサプリメントを飲むだけで簡単に痩せる」という謳い文句
有利誤認表示
商品やサービスの価格などの取引条件について、実際のものや事実に相違して競争事業者のものより著しく有利であると一般消費者に誤認される表示のこと。以下のような根拠のないコピーは、有利誤認表示にあたり、広告その他に使うことは禁止されている。
- 例:根拠のない「満足度ランキングNo.1」
事業者の責任が明確化
注意すべきなのが、広告主体である事業者が自ら作成した広告はもちろん、アフィリエイトへの表示やインフルエンサー、YouTuberなど、広告主として費用を支払い、広告表示を委ねているものも全て事業者側の責任の対象となることだ。
もっともアフィリエイトについては、2012年頃より法律内での留意事項として出されている。消費者庁による「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」では“アフィリエイトバナーの表現”、“健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項”では“健康食品のアフィリエイター”について、それぞれ広告主の責任が明記されている。
ここで、「どうして第三者の広告内容について、自分たちが責任を負わなければならないのか」と憤慨する人もいるだろう。しかし、広告主側はアフィリエイト目的でインフルエンサーやYouTuberに広告原稿を用意し、広告掲載の許可や報酬支払の決定を行える。そうした権限を持っているにも関わらず、問題のある表示を行わせたことに対して責任が発生するというわけだ。
つまり、悪質なアフィリエイターが誇大広告に手を染めているとすれば、それを選んだ広告主に責任があるとされる。そもそも広告主は、利用するASPや広告代理店を選択し、アフィリエイトサイトの内容や運営者を確認し、提携を承認するかどうかを決められる。
さらに、アフィリエイト経由で売上が発生した場合も、どのサイトから流入したか、どのような紹介のされ方だったかを確認し、成果を承認できる。アフィリエイターが誇大広告やウソの体験談記事などの悪質行為で売上を獲得していた場合、その仕組みや利用規約上“広告主が許可したもの”とみなされるわけだ。
笠井氏は「裏を返せば、さまざまな仕組みや法律上の“防波堤”で、アフィリエイターに悪質な広告を掲載させないことが可能であり、安心して使える広告の仕組みといえる」と強調した。
リスクをはらむアドアフィリエイトが問題に
2021年、行政のネット広告業界への注目度はますます高まっている。同年4月には政府のデジタル市場競争会議でネット広告分野の課題や対応が最終報告に盛り込まれ、6月からは消費者庁ではアフィリエイト広告等に関する検討会が開始された。
これらの取り組みは、「決して広告活動を規制するためのものではない」と笠井氏は評し、「さまざまな行政会合・会議へ参加し傍聴して思うのは、行政側も広告市場をより良いものに拡大していこうという意図がある」と強調した。
なおアフィリエイトの広告主の責任はすでに“前提”になっており、不当表示の未然防止策として、責任があることを知らない事業者や取り組みを行っていない事業者をどうしていくかという議論に移っている。思い当たる事業者はすぐにでも対応した方がいいだろう。
そもそも行政が注目しているのは、国内のアフィリエイト市場が拡大しているからだ。矢野経済研究所の発表によると前年比プラス10%前後の成長を続けており、これから先も非常に高い成長率を続けていくと予測されている。
その中で、「個人のブログ」や「特定のテーマサイト」、ポイントサイトの媒体のような「還元系サイト」、「SNSアフィリエイト」などは、仕組み的にペナルティを受ける可能性はほぼゼロだという。
サイト運営者がアドネットワークに自ら出稿する「アドアフィリエイト」は要注意
しかし、アドネットワークやリスティング広告にアフィリエイターが出稿して自身が運営するページに集客をする「アドアフィリエイト」に関しては、「身銭を切る分、不当表示を行うインセンティブが働きやすく、消費者トラブルになるリスクが大きい」とも評されている。
もちろん、アドアフィリエイトについても広告主が許可しない限り、アドネットワークにアフィリエイターが広告出稿を行うことはない。しかし近年、そうしたことを検証できていない広告主や、契約している広告代理店などが広告主の許可なく展開した結果、虚偽誇大なアフィリエイトサイトの責任を問われる事案が発生しているという。
アドアフィリエイトに取り組むならば、代理店や制作会社などに代行してもらう場合にも、指示書や素材を準備したり、掲載前にクリエイティブチェックを行ったりすることが必要だ。
アドアフィリエイトきっかけの注意喚起
実際に、アドアフィリエイトをきっかけとした注意喚起や措置命令が起こっている。たとえば、2021年3月1日、株式会社Libeiro(リベロ)が販売する「エゴイプセビライズ」と株式会社シズカニューヨークが販売する「シズカゲル」という2つの商品が虚偽誇大なアフィリエイト広告に該当するとして、注意喚起の対象となった。
2021年3月3日にはT.Sコーポレーションの育毛剤も景表法違反に問われている。その際、伊藤明子消費者庁長官は「今後ともアフィリエイト広告上の表示を含めて、法律に違反する表示があれば厳正に対処していきたい」としている。
悪質なアドアフィリエイトを回避するためには「選択」が必須
日本アフィリエイト協議会の調査結果でも、直近2年ほどで行政処分を科せられた通販会社はいずれもアドアフィリエイトに関するものだ。なお消費者庁が、Libeiro社とシズカニューヨーク社の2社を合わせて公表したのは、同じ悪質アフィリエイターを活用していたことが判明したからだ。
つまり、広告主が悪質なアフィリエイターを排除し、アドアフィリエイトを禁止し、さらにASPでの審査やチェック、アフィリエイターの表示内容の確認と選択をしていれば、行政処分を回避できたというわけだ。対応としては以下の2点を押さえれば、アドアフィリエイトのリスクを回避できる。
- 悪質アフィリエイターを排除しているASPを選択する
- アフィリエイターの表示内容を確認し、問題のあるサイトとは提携しない
基本的には、日本アフィリエイト協議会の加盟ASPはもちろん、一般的なASPの大半は、問題のあるアドアフィリエイトの関係者を排除している。しかしながら、国内のアフィリエイト事業者100社以上のうち、約5社の虚偽誇大広告の黙認が判明している※。そうしたASPを選ばないこと、そして、そのようなASPを推薦してくる広告代理店やコンサル会社を選ばないことが重要だ。
笠井氏は「アフィリエイトを使うと処分されるのではないかと考えるのは誤り。リスクは選択次第で回避できる。デジタルマーケターとしてネット広告を運用管理する上で、アフィリエイトも含め、どんな広告も一番重要になのは『パートナー選び』に尽きる。信頼できるASP、代理店、コンサル会社を選び、適正な成果報酬の設定や掲載用の素材提供を用意するか、もしくは代理店や制作会社に用意させることが必要」と語った。
さらに、法律やルールを守り、信頼できるアフィリエイトサイト、インフルエンサー、YouTuberなど優良な出稿先と提携し、できれば素材を提供するだけではなく、商品やサービスを体験できる機会を提供することも重要だ。笠井氏は「そのためにも日本アフィリエイト協議会の審査を通過して、正会員として登録しているASPから選んでほしい」と訴えた。
会員以外から選ぶならば、自社でASPとの契約時にアフィリエイトやサイトのチェック体制などを確認し、アドアフィリエイトをASPとして「許可をしているか」「許可をしているなら審査やパトロールがなされているか」などを確認する必要がある。
実際に協議会に寄せられた相談では、広告主は真っ当に広告出稿運用していても、発注先の代理店が虚偽誇大な手法に手を染めていたことがあったという。それも大手代理店が自社で違法サイトを運営して、広告主から不当に広告費を払わせていたというから驚きだ。
数年前にさかのぼって確認し、ネガティブ訴求などもチェックすべき
こうしたリスク回避策は、アフィリエイト以外のマーケティング活動でも同じことが言える。2年前の広告表示にペナルティが課せられる例も生じており、過去にそうした事案がなかったか確認する必要がある。
そこで、代理店に過去にさかのぼってLPを提出してもらい、薬機法違反やフェイク広告のデータベースに照らし合わせてみるとよい。また行政処分された広告主が利用していたASPはもちろん、そしてそのASPを展開している代理店も警戒したほうがいい。提携しているアフィリエイトサイトが行政処分された商品を紹介していないかどうかも確認しておこう。
なお、アフィリエイターの中には誘導施策のひとつとして非常にネガティブな内容を書く人もいる。ネガティブ訴求は、通常の検索時にもネガティブなキーワードが多く並んで悪影響を及ぼすため、そうしたアフィリエイターと提携していないかも確認する必要があるだろう。
加えて、景表法の勉強会への積極的な参加も有効だ。東京都などの行政、日本広告審査機構(JARO)なども定期的に開催しているので参加してみるといいだろう。また協議会でも、アフィリエイトの運用担当者同士の勉強会や情報交換会などを定期的に開催している。
笠井氏は「ASPや代理店の選択について集中的に話したのは、自身で表示物を制作しないデジタルマーケターにとって、景表法は表示のの責任を問われる法律というよりも、提携する広告制作会社の選択の責任を問われる法律だからだ。パートナーの選択を間違わないことが、現在のネット広告業界では非常に重要になっていることをぜひ認識いただきたい」と改めて強調し、「アフィリエイトも選択を間違えない限り、安心安全に出稿が可能で、売上と評判を積み上げられるビジネスだ。だからこそ皆さんには、選択を間違わずに、アフィリエイトの仕組みを通じて売り上げと評価を高めていただきたいと願っている」と語った。
\Web担主催リアルイベントが“オンデマンド配信”決定!/
満席で申し込みできなかった講演も聞ける【12/13(金)18:00まで視聴可能】
ソーシャルもやってます!