【レポート】デジタルマーケターズサミット2021 Summer

JALが実践する“ソーシャルリスニング”の勘所「SNSに埋もれるたった1人の声をどう活かす?」

消費者の生の声が集積されたSNSから商品・サービスの改善に役立つ声を聞く。企業のSNSとの付き合い方、アプローチについて日本航空の山名敏雄氏とデコムの大松孝弘氏が議論した。

Twitter、Facebook、InstagramなどのSNSは日本でもすっかり定着した。生活者は日々、それこそ朝から晩まであらゆるシーンでテキストや写真を投稿し、楽しんでいる。つまりSNSには、消費者の生の声が集積されている。商品・サービスの改善に役立つ声を、膨大なSNS投稿の中から発見しようというのが“ソーシャルリスニング”のアプローチだ。

デジタルマーケターズサミット 2021 Summer」に登壇した日本航空株式会社の山名敏雄氏によれば、同社ではTwitterの投稿を徹底的に分析し、わずか1人から寄せられた意見をも、サービス改善に活かしているという。山名氏と株式会社デコムの大松孝弘氏の2人が、企業とSNSの付き合い方について議論した。

(左)日本航空株式会社 広報部 Webコミュニケーショングループ長 山名敏雄氏
(右)株式会社デコム 代表取締役社長 大松孝弘氏

顧客の声をSNSから分析。インタビューやアンケートとどう違う?

大松氏が社長を務めるデコムでは、2009年からソーシャルリスリングに取り組んでいる。そもそもソーシャルリスニングとは、消費者理解を深めるための手法の一つで、端的には“一般消費者によるSNS投稿を観察・分析する”ことである。

消費者のふるまいや行動を理解するためのリサーチ手法は、手段と目的の組み合わせによって4種類に分類される。“仮説を見つけるために定性調査(主に消費者インタビュー調査)を行う”、“別調査で見つけた仮説が本当に正しいのか、定量調査(アンケートによる統計調査など)で検証する”といった具合だ。

顧客リサーチの方法は、手段と目的の組み合わせによって4種類存在する

また、分析のためのデータ収集法は2種類ある。Askingは“集めるデータ”のことで、リサーチャーが何らかの意図をもって収集するデータである。データとしては集めやすいが、消費者に対して聞いたこと以上のことはわからない。

対してListeningは“集まるデータ”であり、リサーチャーの意図が介在しない、生のデータに近いが、構造化されていないため分析が難しく、ノイズが混じっている可能性も高い。ただし想定外の(仮説の)発見も得られる。

AskingとListeningの違い

ソーシャルリスニングの用途は広く、中でも仮説検証の領域で幅広く利用されているという。自社ないし競合他社の製品評価を把握したり、プロモーション効果をSNSの投稿数で測定したりするといったものだ。だが大松氏は、仮説の探索――新たに提供すべき商品やサービスのアイデアを導き出す用途にも、ソーシャルリスニングは威力を発揮できると主張する。

ソーシャルリスニングは仮説の検証だけでなく仮説の探索にも効果的

毎日1,000件超のツイートを目視で確認、問題があればすぐ関連部署に連絡

では、実際にSNS分析はどのように行われているのだろうか。まずは各種の分析ツールなどを用いて、キーワードを設定してデータを抽出。botによる自動投稿などを取り除いたデータに対し、分析をかけていく。その手法も定性分析と定量分析の2種類があるが、日本航空ではそのどちらにもチャレンジしているという。ここからは山名氏が解説した。

JALにとってのソーシャルリスニング

山名氏は新卒で日本航空に入社。IT企画部門への配属を経て、成田空港における国際線旅客ハンドリング業務、航空券予約サイトの企画運営など、幅広いジャンルの業務を担当。2016年4月からは広報部で現在の職務に就いている。

ソーシャルリスニングを徹底する以上、あらゆるSNSを観察・分析するのが理想だが、JALではTwitterに重点を置いている。Facebookだと、API経由で閲覧データを収集できるのがFacebookページにだけ制限されていて、Facebookアカウントの投稿は把握できず、そもそも分析が難しい。またInstagramは写真の投稿が中心で、テキスト分析には向かず、加えて“鍵付き”のアカウントで他者に投稿を見せないユーザーの比率が高い傾向にあるという。

その点Twitterは、匿名利用が中心で“鍵付き”は比較的少なく、全体の7割程度のユーザーの投稿を分析できる。前述のキーワード設定で「JAL」「日本航空」を登録しておけば、十分な数のツイートが集まる。なお、コーポレートブランドや商品ブランドを複数抱える企業では、その分登録キーワードを増やす必要があるため、分析に労力がかかるという。

こうして山名氏は毎日、1日あたり1,000~1,500件程度、JALに関するツイートを全て目視で確認している。データはTソーシャルリスニングツールのUI上で直接見るのではなく、CSVデータをダウンロードして、それを見ることにより少しでも閲覧にかかる時間を節約している。

先に述べた定性調査とは、本来ならば消費者との対面インタビューでその心理・行動を探るものだ。しかし山名氏が実施している手法は、莫大な量の定性調査を簡易ながら毎日実施している――そう表現してもいいだろう。

JALに言及されたツイートを毎日1,000~1,500件程度、山名氏自身が目視で確認している。素早く見られるように表計算ソフトも活用

1人の声は、あらゆる顧客を代表する声かもしれない

目視確認した内容については、関連部門に連絡して改善対応に繋げるなど、リスク管理にも活かしている。全件目視チェックは相当なハードルに思えるが、効果は大きいようだ。

全件目視チェックが動画広告で、リスクヘッジにつながった事例がある。その動画広告は、お預かりしたお手荷物を丁寧に取り扱っている旨を伝える内容だったのだが、預けるスーツケースの中にiPadを収納している場面があった。iPadはリチウムイオンバッテリーを搭載するため、機内持ち込みはOKだが、預け荷物にしてはいけない。これを指摘するツイートが1件、実際に投稿されていたので、この動画広告は関連部門に連絡して即日配信停止にした実例がある(山名氏)

SNS分析結果の活用体制

“n=1”というマーケティング用語がある(n1、N1とも)。統計調査などを元に「○○代の女性は□□が好き」といった仮説・結論を導き出すのは一般的だが、n=1とは顧客属性に関係ない、ある特定の個人を意味する。

多数意見を重視して効率を追求するマーケティング的な発想からは、n=1の意見は軽く見られがちだ。しかし、ある1件・1名のツイートをきっかけに、現場のサービス仕様が変えられた例もJALでは多々ある。JALのラウンジ内トイレのペーパーがシングルロールなので切れやすいという声に対しては、翌月からペーパーの仕様をシングルロールからダブルロールに変えた。

またビジネスクラスの機内食でフレンチトーストを提供していたところ、実際に食べたと思われる顧客から「想像していたフレンチトーストと違う」というツイートがあった。これについても関係部門と調整し、提供名を実際に変更した。

あまりの徹底ぶりに驚かされるが、わずか1件のツイートにも大きな意味があると山名氏は語る。

SNSで発信するのは全体のほんの一握りの方だとは思うが、しかしその発信と同じようなことを感じている人は沢山いると思う。『(たった)1人の人だけが言っていることだ』とスルーするのは、やはり違うのではないか(山名氏)

ソーシャルリスニングを進めた結果、たとえばJALがラウンジで提供しているカレーライスの評判が高いこともわかった。「機内食よりもこのカレーを楽しみにしている」という声すら聞かれ、写真付きでツイートしている顧客が多いことを発見。それならばと“写真映え”を考え、カレー皿の仕様をオーソドックスな白皿からJALの鶴丸マーク入り黒皿に変更した。結果、関連ツイート数が増えたという。

JAL関連のSNS投稿をしたユーザーに対して、JAL公式アカウントから直接「いいね」やリプライをする取り組みも行っているが、これもやはりソーシャルリスニングから得た知見が原点にある。

SNS分析で重要な“キーワード設定”問題

対象ツイートの中から、キーワードの登場回数・頻度などを計測する定量分析もまた、ソーシャルリスニングが得意とするところだ。JALでは、一般ユーザーの投稿に加え、自社公式SNSアカウントでの発信、TVや新聞などのメディアで取り上げられた履歴などもBI(Business Intelligence)ツールに集約し、並列的に評価している。

JAL自身で実施した施策や、あるいはSNSで頻出するキーワードなどは集計され、それらに対する消費者の反応の大きさをスコア化し、影響度が評価される。この結果をもとに、次回の施策を練り直しや深掘りをする取り組みもすでに行っている。

BIツールを用いて、SNS投稿の反応などを定量的に調査している

このようにJALはソーシャルリスニングを使いこなしているが、多くの企業においてはSNS分析にあたってキーワード設定をどうするかが大きな壁なのだという。

『JAL』『日本航空』というように、分析したいキーワードがハッキリしていればいいが、たとえばジャンル名や生活カテゴリーに対する“新しい(仮説の)発見”をしようとすると、非常に難しい(大松氏)

SNS分析の“キーワード問題”

その解決策としては、データ抽出のためのキーワード設定の前にキーワード探索調査を行う方法がある。デコムが6月に提供を開始したソーシャル・スプラウトは、まさにそのためのサービスだ。

このサービスでは、国内数百万人のモニターパネルからSNS投稿データを収集。その中から、盛り上がりを見せつつあるキーワード25個をピックアップする。キーワードは一見するとバラバラだが、深い分析によって思わぬ共通点が見つかると大松氏は主張する。

ソーシャル・スプラウトの概要

たとえば「#パンケーキシリアル」は、いまSNSで注目を集め始めているハッシュタグだという。一口大のパンケーキをたくさん焼き、シリアルのような感覚で食べる行為で、海外のInstagramが発信元とされる。

「#パンケーキシリアル」について投稿した、ある特定の1人(n=1)がわかれば、その前後のSNS投稿歴がわかる。そして、これらを投稿人数分繰り返していけば、「#パンケーキシリアル」がどんな世代、性別の人たちから人気を集めているかが明らかになっていく。

これらの分析結果から、大松氏は「これまでの朝食は、時短や栄養摂取の効率性が重視されてきたが、それに加えてかわいさ・楽しさなどの情緒価値が求められているのではないか」との仮説を導き出した。

「#パンケーキシリアル」

同様に「#○○図解」は、専門書や哲学書で解説される難しい内容を、一目でわかるようにイラストや図形でサマライズするムーブメントのことだ。最近では「#子育て図解」「#読書図解」など、対象領域が広がっている。「読書に代表される地道な手法以外に、“映える”手法で知的好奇心を満たしたいのではないか」という仮説が成り立つ。

「#○○図解」

「#パンケーキシリアル」「#○○図解」は、お互いに関係がないように見える。しかし「ただタスクをこなすだけのつまらない時間を、かわいい/映えるものしたい」という人々の願望が、兆しとして現れているのかもしれない。

「こうした洞察があれば、機能性優先だった場面に楽しさを持ち込めないかといった議論ができるようになる」と、大松氏は解説する。講演冒頭でも述べた「ソーシャルリスニングによる仮説の発見」を、まさに体現できるとした。

1人の声を疎かにせず、有用性を見極める

山名氏はソーシャルリスニングの効能について「はじめはツールの使い方を学ぶところからはじめて苦労も多かったが、今思えば『やれるところからやってみる』ことが非常に重要だった」と振り返る。データの正確性を挙げるための除外キーワード設定などは難しいが、多くの企業にソーシャルリスニングを試してみてほしいと呼び掛けた。

毎日見ている約1,000件のデータは、JAL全体に対する意見が集約されている。どの部門に所属しているか関係なく見てほしい、他の部門にも目を向けてほしいとの願いから、300件分くらいに絞り込んで、メーリングリストで一斉配信している。最近は、さらに絞り込んだ要約版を1週間に1回週報として配信、役員にも見せている(山名氏)

一方で、「ある特定のユーザーからたった1回出された投稿を、なぜそこまで重要視するのか。変わった人の変わった投稿に過ぎないのではないか」という疑念は、大松氏のもとにもよく届くという。

確かに、たった1人が行った1回の投稿だ。しかし山名氏が指摘するように「多くのユーザーの声を代表する投稿」である可能性もまた捨てきれない。1人の声かもしれないが、なんらかのかたちで評価し、有用ならば意思決定に活かす。n=1を“取るに足らない”と頭ごなしに否定せず、しっかり見極めるべきだと訴え、講演を締めくくった。

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