【レポート】Web担当者Forumミーティング 2021 秋

「セクシー大根抱き枕」はどう生まれた? フェリシモ流話題を作るストーリーの作り方

SNSで話題の商品、その背景には「ストーリー」あり! フェリシモ「YOU+MORE!」責任者・豊川氏が明かす製品開発事情。

「セクシー大根抱き枕」「抱っこ牡蠣」で知られる生活雑貨ブランド「YOU+MORE! 」(ユーモア)は、インパクト抜群の製品でたびたびSNSで話題になっている。

話題となる企画を連発している株式会社フェリシモの豊川紗代氏が「Web担当者Forumミーティング 2021 秋」に登壇。その開発の舞台裏や制作過程のこだわりなどを語った。

株式会社フェリシモの豊川紗代氏
(生活雑貨事業部 ブランド推進2課 ユーモアグループ リーダー/株式会社2時 取締役)

ひとりで楽しむのではなく、楽しさをシェアするブランドが「YOU+MORE! 」

フェリシモの源流となる企業の創立は1965年。ファッション・雑貨類の一般消費者向け通販を主力としており、月1回定期的に商品を届ける「定期便」のサービスが特徴である。

豊川氏は、フェリシモの生活雑貨事業部に在籍しつつ、関連会社である株式会社2時の取締役を務めている。フェリシモから発売されている商品のうち、生活雑貨系の一部ブランドで企画・開発を主導する立場にあり、YOU+MORE! については初期の立ち上げから携わっている。

豊川氏はもともと新聞社の広告営業に従事していたが、後にフェリシモへ転職。ここでファッションのカタログ制作業務に就き、商品宣伝画像などの作り方を学んだ。こうした経験を踏まえて、雑貨の商品企画に深く関わるようになったという。

現在は、統括するブランドのプロモーション施策を検討・実施を行う傍ら、商品開発プランナーの育成を担当している。今回の講演ではそうした業務のうちの1つであるBtoBパートナー連携、いわゆる“外部企業とのコラボレーション”の実態について、YOU+MORE! ブランドの実例を交えながら詳しく解説した。

「YOU+MORE! 」ブランド概要

YOU+MORE! のコンセプト

YOU+MORE! は「すっかり見慣れた日常が、もっと楽しく、もっと笑えるように」をコンセプトに掲げる雑貨ブランド。そこにはフェリシモの経営理念「ともにしあわせになるしあわせ」が反映されている。

ひとりで楽しむのでなく、誰かとシェアできる、シェアしたくなるものとは何かを大事にしている。『ただ面白く』を狙ってしまうとブラックユーモア的なものも範疇に含まれてしまうが、YOU+MORE! ではそうしたものをなるべく作らず、みんなが笑えたり、楽しんだりできるものにしたい(豊川氏)

たとえば、ステンドグラス調のデザインが施された傘は、色合いや独特のデザイン性が魅力だが、利用者本人だけでなく、それを見る周囲の人も楽しめるようにという考えが根底にある。

(左側)ステンドグラスをモチーフにした傘。光の透け具合など、周りの人たちも楽しめる

    YOU+MORE! の強み

    フェリシモ、そしてYOU+MORE! だからこそ持ち合わせる強みとして、豊川氏は以下を挙げる。

    1. 集客を兼ね備えた企画立案
    2. リアルな形状を再現する立体造形
    3. 誰かにシェアしたくなる表現
    4. SNSと自社通販ツールを使った告知

    特に「集客を兼ね備えた企画立案力」は、コロナ禍においてはイベントの実施が難しく、いかにオンライン上で集客するかはビジネス的に大変重要なポイントだ。YOU+MORE! では、画像1つで顧客を惹きつけられるだけのポテンシャルをもった製品作りをはじめから意識しており、話題性の高い商品を作りたいという企業とのコラボレーションも積極的に展開している。また、その企画を現実のモノとしてしっかり仕上げきる立体造形ノウハウも、強みの1つという。

    YOU+MORE! 流製品開発3つのポイント

    YOU+MORE! が商品開発を行ううえで重視しているポイントは3つあるという。

    1. 誰が、何を伝えたいのか。ストーリーを大事にする。

    YOU+MORE! が発売した製品の中でも特に話題を集めたのが、2018年発売の「セクシー大根抱き枕」。野菜の収穫シーズンになると、巨大だったり、変わった形だったりの野菜が一般ニュース番組などで取り上げられるが、それをヒントにプランナーが企画したという。また「抱っこ牡蠣」は、牡蠣を赤ちゃんほどのサイズにまで巨大化させたクッションで、これは広島出身プランナーの“牡蠣愛”があふれ出た結果だった。

    「セクシー大根抱き枕」
    「抱っこ牡蠣」

    両製品に共通するのは「プランナーが好きだからこそ作った」という点だ。これが豊川氏のいうストーリーの一例だ。単純に「作れそうだから作った」ではなく、商品が世に出る前にどんな紆余曲折があったか。あるいは、顧客はそれをどう受けとめたか。製品にまつわる、さまざまな観点のストーリーがあることで、各商品の価値は高まっていく。

    「オウサマペンギン3変化ぬいぐるみ」というプロダクトでは、大阪市にある水族館「海遊館」とコラボした。水族館側は「動物の生態をより伝える」ことを命題としており、卵状態・成鳥状態のリバーシブル仕様のぬいぐるみを考えていた。そうした想いをYOU+MORE! 側で汲み取り、ヒナ状態も加えた3段階変身にすることとなった。これもまさにストーリーである。

    「オウサマペンギン3変化ぬいぐるみ」

    2. 本当はやってみたいけどやれないことを実現

    「羊の毛刈りぬいぐるみ」は、神戸市の「六甲山牧場」とのコラボ製品。羊の毛に当たる部分が着ぐるみ状なっており、これを外すことで毛刈りを終えたばかりの羊にも変身するという仕組みになっている。羊の毛刈りは春シーズンにメディアでよく取り上げられるが、一般人が気軽に試せるものではない。ならば疑似体験できる製品を作ろう……という発想だ。

    「羊の毛刈りぬいぐるみ」

    「タカアシガニ脱皮ぬいぐるみ」は比較的リアルな造型が特徴だが、水族館飼育員の知見が大いに反映されたのが特徴。人間には真似できないし、そもそも見る機会が少ない「カニの脱皮」の疑似体験を意図して企画された。「脱皮後のカニの甲羅は柔らかい」というエピソードをもとに脱皮前・脱皮後のぬいぐるみの素材感も変えている。

    ★画像をいれよう!

    3. 仕上げるパワー

    抱っこ牡蠣、脱皮ぬいぐるみに代表されるように、ある種“ぶっ飛んだ”製品企画力で評判を勝ち取ってきたYOU+MORE! だが、それを現実にモノとして作り上げる・仕上げるだけの体制も当然重要だと豊川氏は指摘する。

    牡蠣のポーチでは、牡蠣の殻をイメージさせる外見だけでもインパクトがあるが、中には牡蠣の身にあたるポーチ、さらには真珠、レモン(絞り汁をかけて食べるイメージ)に相当する小物まで付属する。また、実際にポーチとして使いやすいよう、サイズ感などは徹底的に調整したという。

    「牡蠣のポーチ」

    「ぎゅうぎゅう集まって眠るハムスターのボックスティッシュカバー」では、複数匹のハムスターが密集している愛らしさが鍵なだけに、仕上げには何度もサンプル製作を作り直した。1体1体独立しているのに密集している配置、色合い、表情でも試行錯誤。豊川氏も「ちょっとしたことの積み上げが感動する商品を呼び寄せるはずと信じて、やりきった」と開発当時を振り返った。

    「ぎゅうぎゅう集まって眠るハムスターのボックスティッシュカバー」の最終製品版
    最初期の試作版。ぎゅうぎゅう寄り集まっている感が少ないか?
    着色前。形状的には最終盤にかなり近い
    表情なども徹底的に調整した

    最後の仕上げこそ、パートナーの力を生かして

    YOU+MORE! では水族館・動物園とのコラボ製品が多く、現場で働く飼育員の知識量に驚かされるという。そうした専門家の知見は、商品開発の「仕上げ」のクオリティアップはもちろん、それ自体がストーリーとしても機能する。YOU+MORE! がもともと発売していたカワウソ型のポーチについては、水族館飼育員とTwitterで公開やりとりをし、頭頂部の凹みや尻尾形状を変更した新バージョンを発売したケースすらある。

    カワウソ型ポーチは、飼育員の声を元に改良していった

    豊川氏が繰り返し強調するように、企業と企業の関係はそれ自体がストーリーであり、第三者の関心を惹くうえでのパワーにもなる。そのストーリーをどう楽しい表現にするか、面白くできるかがYOU+MORE! としての腕の見せ所という。

    また、動物ファンなら一度は「ゴリラに抱きついてみたい」と思うものの、現実には相当難しい。ならばせめて疑似体験をと、ゴリラと一緒に眠っているかのようなクッションを製作したところ、好評を得た。夢を叶える・想いを実現するための製品作りは、YOU+MORE! ならずとも参考になりそうな部分だ。

    発案は大事だが、開発過程で最後にどう仕上げ、どうお客様に伝えるかが最も重要です(豊川氏)

    そのためにも、コラボレーション相手となるパートナー企業の力を大いに頼るべきと訴え、講演を締めくくった。

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    Web担主催イベント

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    「これから求められるBtoBマーケティング」「GA4でワンランク上の解析術」「明日から使えるAI活用術」など(一部、配信がない講演もあります)
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