アナログだった“THE営業組織”がマーケティング視点を取り入れ部門間連携に成功した秘訣とは?
事業拡大を目指すにあたって、営業部門とマーケ部門の連携は欠かせない。しかし、この「部門間連携」に課題を抱えている企業は多いのではないだろうか。MAツール「SATORI」を導入し、正面からこの課題に取り組んだリストインターナショナルリアルティの秋田裕未花氏が、パートナーとしてサポートするSATORIの小田あかり氏と共に「Web担当者Forumミーティング 2021 秋」に登壇し、強い組織に成長するためのセールス×マーケのあり方について紹介した。
アナログな“THE営業組織”がゼロからMAを導入
リストインターナショナルリアルティは、世界最大級のオークションハウス「サザビーズ」の不動産仲介ブランド「サザビーズ インターナショナル リアルティ®」の日本独占営業権を取得し、世界70以上の国と地域にわたるネットワークで、都心の物件、国内別荘地、海外不動産を中心に、世界中の高級物件を多数取り扱っている不動産仲介企業だ。
2015年に同社に入社した秋田氏は、広告戦略や販売促進業務に4年間従事し、現在は東京営業本部ウェルスマネジメント事業部銀座オフィスにて、営業組織の売り上げ向上を目指し新規顧客獲得と育成を行っている。
今でこそMAツールなどを駆使し、マーケティング視点を取り入れて成果を出している同社だが、少し前までは飛び込みの営業や架電など、営業担当一人ひとりの力量に頼った、所謂「アナログ営業」がメインの“THE営業組織”だった。
だが、時代の流れとともに営業効率を上げていくにはどうすればいいか考えた結果、徐々にデジタルの力を取り入れる、IT化が進んでいったという。
その鍵の一つとなったのがMAツール「SATORI」の導入だ。秋田氏が推進担当になり、MAの知識はほぼゼロに近かったが、今回登壇したSATORIの小田氏らの手厚い導入サポートのもと、さまざまな施策を実施していった。
最大の課題は「反響対応の取りこぼし」
同社の銀座オフィスでは月に1,000件を超える問い合わせを20人弱の営業部門で対応している。当然この人数ではリソースに限りがあるため、問い合わせ(不動産業界では反響と呼ぶ)があったのに、お客様ごとに合わせた適切なアプローチができず、結果的に取りこぼしてしまうこともあったという。
反響対応の取りこぼし原因①
顧客が持つ熱量の判別ができなかった
月1,000件の反響があったとしても、その熱量は顧客によってさまざまであり、検討度合いの進んでいる「今すぐ顧客」なのか、そうではない「そのうち客」なのかの判別も難しい。また、問合せ時点での検討度合いが高くなく、長期期間での検討を視野にしている顧客の場合、どうしても営業担当からの連絡頻度が少なくなってしまうこともあった。
本来は条件がマッチしていたら成約できていたはずのお客様に手が回らず取りこぼしてしまっていた。そのような方へのアプローチが手薄になっていたのが課題でした(秋田氏)
反響対応の取りこぼし原因②
営業部門の属人化による顧客情報・案件管理の徹底不足
営業スキルは知識やノウハウに左右されやすく、担当によってお客様に送る情報やアプローチ方法に隔たりがあるといった「営業の属人化」問題も大きかった。小田氏によると、これは「SATORI」導入の他の顧客にもよく見られる事象であるという。
反響対応の取りこぼし原因③
非効率な架電営業
MA導入以前は、手元にあるリストの上から順に1件ずつ架電してテレアポを行っており、業務効率化を図る必要があった。
課題を解決するために実施した施策・方法
こうした原因により発生していた「反響対応の取りこぼし」という大きな課題に対して秋田氏は「メール配信によるアプローチの強化」を考えた。
取りこぼし対策①
顧客の興味にマッチしたメール配信の強化
メール配信を行うために、まずは各媒体から取得した問い合わせ(反響)データを「SATORI」のDB上に取り入れる仕組みを構築、その上で顧客の興味にマッチした情報のメール配信をスタートした。
配信を行うと、「物件の内覧をしたい」「詳細な資料を見たい」といったより踏み込んだ返信が寄せられるため、このようなホットな顧客に絞って営業が対応することにより、生産性が大きく向上していった。
難しいことをやっているのかとよく聞かれるのですが、仕組みは非常にシンプルなことしかやっていません。でもこれで売り上げがアップしました(秋田氏)
取りこぼし対策②
自社サイト、ポータルサイトなどから得た顧客情報を「SATORI」のDBへ蓄積
MAツール「SATORI」を利用するにあたって、まずは顧客情報をDBに入力する必要があった。「SATORI」にはフォーム作成機能があるため、自社サイトから取得した情報に関しては、直接DBへ入力することが簡単にできた。
だが、不動産業界では外部の不動産ポータルサイトからの集客が多く、そこに「SATORI」のフォームを直接設置することはできないため、導入当初は月に100~200以上ある問い合わせを手作業でDBに入力していたという。
幸い、不動産ポータルサイトとリストインターナショナルリアルティの顧客管理システムはすでに接続されていたため、RPA(Robotic Process Automation)ツールを導入し自動化することができた。
また、Facebook広告に関しては、当初「SATORI」のフォームやLPに直接リンクしていたが、効果が薄かったためデジタルカタログをフックにリード獲得広告に変更、これも直接「SATORI」のDBには入れられなかったためSATORIの小田氏に相談し、「Zapier(ザピアー)」というツールを利用して自動的に入力できるよう仕組みを整えた。
すべてのお客様の情報を「SATORI」のDBに入力する仕組みを構築したことで、メール配信する際も一定の情報レベルを保って配信できるようになり、営業によって顧客に提供する内容が異なるということはなくなりました(秋田氏)
取りこぼし対策③
デジタルカタログをフックにしたFacebook広告で集客
現在リストインターナショナルリアルティが月1,000件ほど入手している顧客情報の8割がFacebookリード獲得広告からの集客である。重要なリード獲得チャネルだが、仕組みは極めてシンプル。氏名とメールアドレスの入力だけでリゾート不動産や都心部の物件を網羅したデジタルブック(カタログ)をプレゼントするというものだ。
ご存知のとおりフォームの入力項目は多ければ多いほどコンバージョン率は下がる。この施策のミソは入力する項目を氏名とメールアドレスという最低限の2つに絞ったことだ。
もちろん顧客の希望条件や詳細情報を取得できるのは理想的ですが弊社の事例だと、まずは新規顧客獲得に重点を置き、最低限の入力項目に絞りました。デジタルカタログの広告を打つ際にあらかじめセグメント分けを行って広告配信しているので、ターゲットがずれたリードは入ってきませんし、ある程度何に興味があるお客様なのかを把握することができていました(秋田氏)
たとえば、リゾート・別荘の広告配信であれば、それに興味がある顧客であることは自明だ。また、Facebook広告には「類似オーディエンス」という既存顧客と似た特性を持ち、ビジネスに関心を示す可能性が高いと思われる利用者にリーチを広げる機能があるため、予算感が大きく外れた顧客は流入してこない。そのためフォームの項目を絞って、獲得後に顧客育成をしていこうという戦略にシフトしたのだ。
この施策により、以前は不動産ポータルサイトからの集客がメインだったが、現在は自社コンテンツから新規顧客を獲得することができるようになった。「そこから売上にもつながっているので、ただ集客するだけではなく、その後にしっかりMAを活用して顧客の検討段階を引き上げることが重要」と秋田氏は強調した。
取りこぼし対策④
タグ付けで顧客の情報を振り分け
このような集客施策で獲得した顧客に対し、内容がマッチしたメールを配信するという施策を行っているが、顧客情報は「SATORI」の中でどのように管理しているのだろうか。
各データには、エリア、予算、言語、セミナー、イベント、反響媒体といった大まかに属性がわかるようなタグが、フォームに入る際に自動的にタグ付けされるよう仕組み化しています(秋田氏)
とはいえ、実際に日々のメール配信で活用するタグは多くはないそうだ。顧客の興味がリゾートなのか都心なのかは請求されたデジタルブックの種類で判別できるうえ、予算に関しては「いい物件があれば購入したい」という顧客が多く、万一乖離があった場合は配信停止の手続きをしてもらうようにしているため、あまり細かいセグメント分けの必要はないという判断だ。
メール配信施策の高い成果
メール配信で行っている施策でいちばん力を入れているのが、ポータルサイトやホームページに掲載されていない「未公開の物件」メールだ。写真映えするような物件を選び、HTMLメールを使って画像をきれいに組み込んだり、動画をリンクにつけたりするなどの工夫をしているという。
「このメールを見て、現地を見てみたい、詳細な資料がほしいといったお客様からメール返信をいただき、契約につながるといったことが多いです」と秋田氏。HTMLメールに関してはツール内に用意されたテンプレートもあるが、自社ならではのテンプレートにするため、社内のコーダーに独自のテンプレ化を依頼し、それをきっかけに秋田氏も自らHTMLやCSSを独学して運用しているという。
メール配信の頻度はほぼ毎日、とはいえセグメントがあるので顧客から見ると2~3日間隔。開封率は極めて高く25%以上、ときには40%を越えることもあるという。配信停止率も0.1%以下と低く、顧客からの返信件数は1通につき約7~8件、成約件数も月に1~2件あるという。
顧客から能動的に返信があった場合だけ営業が追客するが、返信がなくても配信停止手続きがされない限りメールでの情報提供はし続けている。
以前は返信、成約があった顧客にはメールの配信を停止していたが、ターゲットに富裕層が多いこともあり「いい新着物件があれば検討したい」といった声が多かったため一律で継続するようになったとのことだ。
このように継続的に顧客にアプローチできる仕組みが完成したため、契約につながる顧客の取りこぼしや、無意味な無差別テレアポなどの課題は解決した。また、顧客に優先順位がついたため、営業も顧客対応以外の契約業務などにも多く時間を割けるようになったという。
効率的な営業組織を作るために
当初は“THE営業組織”といった状態で多くの課題を抱えていたリストインターナショナルリアルティだが、MAをはじめ、さまざまな仕組みを整えていくことによって組織が強化・改善され、より多くの成果を出すことができるようになっていった。この経験を踏まえて秋田氏は「効率的な営業組織」についてポイントをあげて説明した。
営業組織の効率化のポイント①
DXツールを活用した営業の効率化
銀座オフィスの扱うエリアは、都内はもちろん北海道から沖縄まで日本国内をカバーするだけではなく、アジアやハワイなど海外物件も含まれているうえ、売買、賃貸、投資など扱う業務の幅も広いにも関わらずほぼすべてを20人弱で回しているという。通常この2~3倍の営業リソースが必要なので、メールを使った施策をはじめ、さまざまな営業の効率化を図る必要があった。
また、コロナ禍で対面での接客機会が減ったので、3Dパノラマ映像やドローンを使った動画、VRモデルルームといった物件の様子がその場にいなくてもリアルに伝わるような営業ツールを使っての接客に力を入れ、現地に営業が足を運ぶ機会をなるべく減らし効率化を図っている。
さらに、地方物件については現地にいる契約エージェントとの連携を強化したというのも大きかったという。
緊急事態宣言が発令されたときに沖縄の物件をご検討いただいていたお客様がいらっしゃったのですが、訪問できない状況にあったため、現地エージェントとテレビ電話で会話、成約に至るという事例もございました(秋田氏)
このように、時代の変化に合わせて営業のアプローチも変え、効率化を成功させた。
機能する営業組織の効率化のポイント②
部門間の距離を近づける
営業部門とマーケ部門の距離を近づけることは、メール配信の内容のブラッシュアップなど、実施する施策に好影響を与えるという。秋田氏自身、2021年から営業本部に転属し営業と近い立場になった。これにより、営業担当との日常会話の中で「この物件はオーシャンビューが魅力」ということを聞いたら、メールの内容をすぐに変更するなど、スピーディにマーケティング施策に反映でき、仕事がしやすくなったという。
営業組織の効率化のポイント③
ターゲットの明確化とプロダクトの見直し
MAツール導入後ある程度の結果はすぐに出たものの、少し伸び悩んだ時期もあった。そこで実施したことは「ターゲットの明確化」だ。
以前は2億円以下の物件もメール配信のターゲットに入れていたのだが、今年から予算2億円以上の富裕層ユーザーに絞ってアプローチしていくという方向に大きく舵を切ったのだ。
もちろん最初は「低価格物件についてもメールを送ったほうがいいのではないか」「もう少しターゲットを広げたほうがいいのではないか」という不安はありました。しかし、ここで大きく決断し、方向性を変えたことでハイグレードな不動産をご購入いただける富裕層顧客との接点が大きくなり、リピートや紹介にもつながり、売上がさらにアップするという成果が上がったので結果的には非常によかったと思っています(秋田氏)
「変化を恐れず即断即決」という社風があったことも功を奏した。いずれにせよ時代の流れに沿って社員一同、変化を恐れず柔軟に対応していくということが非常に重要だ。
営業組織の効率化のポイント④
自社コンテンツの最大活用
最後に秋田氏はもう一点重要なこととして、自社コンテンツの最大活用を挙げた。
前述の通りデジタルカタログのプレゼントをフックにターゲティングされたFacebookのリード広告を実施、獲得した顧客に対してもMAを活用してしっかり継続的にメール配信を行うことにより、多くの成約にまでつなげている。また、ハイグレード不動産に特化したオリジナルアプリも好評だ。
まとめ:ツールの導入や活用をきっかけに全社でマーケティングに取り組むことが肝要
最後に“THE営業組織”からの脱却を目指す視聴者に対し「ひとことアドバイス」を請われた秋田氏。
マーケ視点を取り入れていく中で「SATORI」をはじめ、いろいろなシステムやツールを取り入れた際に、多くのツールは多機能であれもこれもやりたくなる。まずは複雑なことよりできる範囲のシンプルな機能をちゃんと使いこなすことが大事だと指摘。最後に「自社のコンテンツでなにかフックになるものが一つでもあれば、よりMAツールを活用できると思います」と強調し講演を終えた。
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