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Google検索流入4割減の予測。AI時代にメディアが問われる「独自性」と「人間ならでは」の価値

AI時代のメディア生存戦略とは? 独自性や現場取材など、AIに要約されない「人間ならでは」の価値とどう向き合うか。AIとメディアが共存するためのビジネスモデルとは。

7:05

本記事は、ロイター研究所(Reuters Institute)が毎年発行している著名なレポート『Journalism, Media, and Technology Trends and Predictions 2026』を翻訳しています。前回の記事では、下記9項目のサマリーを紹介した。今回からは、前編・中編・後編に分けてそれぞれの項目を詳しく紹介していきます。前回記事はこちら。

前編:検索流入40%減の衝撃★本記事

1. ジャーナリズムへの圧力の増大
2. 検索エンジンとアクセスへの影響
3. コンテンツ戦略は「独自性」へとシフト

中編

4. SNSの「中年期の危機」と全コンテンツの動画化
5. クリエイターの波に、どう向き合うか
6. AIスロップ、ディープフェイク、そして誤情報の拡大

後編

7. ニュースルームにおけるAI活用の最新事例
8. 変わりゆくビジネスモデルと、イノベーションの壁
9. テクノロジーの次に来るもの

1.  ジャーナリズムへの圧力の増大

多くのパブリッシャーが自社の取り組みには一定の手応えを感じている一方で、ジャーナリズム全体の将来に対する見方は依然として厳しいことが、今年の調査から明らかになりました。ジャーナリズムの先行きに「自信がある」と答えた人は38%にとどまり、2022年の調査から22ポイントも低下しています。逆に、「自信がない」とする回答は、同期間で8ポイントも増加しました。

今後1年間のジャーナリズムに対して自信を持っているのは38%

自由回答を分析すると、こうした変化の背景には主に3つの要因があることがわかります。

  • 理由① AIの急速な導入に対する不透明感と、検索エンジンやSNS経由での露出がさらに減るのではないかという懸念です。この点については、次章で詳しく解説します。

AI主導の変化が展開されるペースを予測するのは困難ですが、その影響が否定できないものになるのは間違いありません。 —— ヤン・ウィレム・サンダース(オランダ、Follow the Money マネジング・ディレクター)

  • 理由② 伝統的メディアが、若年層やニュースへの関心が低い人たちを含む一部の層との接点を失いつつある、という危機感です。回答者の多くは、ニュースの接触先がSNSに偏り、クリエイターやインフルエンサーといった非ジャーナリストの発信に依存する度合いが高まることで、こうした層が質の低い、信頼性に欠ける情報にさらされやすくなる点を懸念しています。

SNSがフェイクニュースや有害なコンテンツであふれている今こそ、ジャーナリズムがその価値を証明すべき時です。 —— レ・クオック・ミン(ベトナム、ニャンザン紙 編集長)

  • 理由③ 一部の政治家が、監視や批判をかわすための戦略の一環として、ジャーナリズムを軽視したり、攻撃したり、弱体化させようとしていることへの懸念です。こうした手法は国や地域を超えて広がっており、回答者の多くが問題視しています。

ポピュリストの政治家は、伝統的メディアに「フェイクニュース」というラベルを貼り、法的措置を脅かしたり実行したりすることで、その役割を排除する方法を見つけ出しました。これにより、メディア組織とそのビジネスモデルにさらなる圧力がかかっています。 —— 南米の主要メディア企業社長


国境なき記者団(RSF)は、「2025年版 世界報道自由度指数」において、世界の報道の自由が、調査を開始以来もっとも低い水準になったと結論づけています。RSFによると、その主な背景にあるのは広告収入や読者収入の減少による、メディアの経営悪化です。経済的に追い込まれたニュースメディアが、政府や政権支持者への依存を強めざるを得なくなっている点が問題視されています。

さらに、多くの国で、外国代理人法やサイバー犯罪法、国家安全保障法といった既存または新たな法律が、ジャーナリストの活動を制限したり、危険にさらしたりする目的で使われていると指摘しています。

こうした状況のなか、政治家による動きも活発化しています。正当なジャーナリズムを「フェイクニュース」と決めつける発信が強まり、その主張はSNS上の支持者ネットワークによって拡散・増幅されています。実際、ドナルド・トランプ氏による長年のメディア批判は近年さらに激しさを増しており、ホワイトハウスは最近、報道が歪曲されていると主張するメディアを名指しで批判する新たなウェブページを公開しました。

このウェブページには、ワシントン・ポスト、CBSニュース、CNN、MSNBC(現在はMS Nowとして知られる)といったブランドが並び、それらの記事には「偏向している」あるいは「左翼の狂気」といったラベルが貼られています。これは、ウォール・ストリート・ジャーナルやニューヨーク・タイムズに対する継続的な訴訟、そしてABCやCBSとの法的和解に続く動きです。

公共放送(パブリック・サービス・メディア)もまた、厳しい状況に置かれています。政治家との対立が表面化していることに加え、政治やガザ情勢、トランスジェンダーの権利といったテーマをめぐり、報道の公平性に対する疑念が強まっているためです。その象徴的な例が、ドナルド・トランプ氏の演説の編集をめぐる論争です。この問題は、BBCの会長とニュース部門CEOの辞任に発展したほか、100億ドル規模の損害賠償請求にもつながりました。

欧州では、公共放送への圧力がさらに広がっています。英国のリフォーム党やドイツのAfD(ドイツのための選択肢)、スウェーデン民主党といったポピュリスト政党は、公共放送の役割縮小や予算削減を公然と求めています。またスイスでは、今年実施予定の国民投票で、年間受信料を3分の1以上削減する案が提案されています。可決されれば、公共放送の収入はほぼ半減する可能性があります。

こうした厳しい状況のなかでも、一部のパブリッシャーは引き続き前向きな姿勢を見せています。北欧や北米を中心に、主にサブスクリプションモデルを採用する限られた出版社では、財務面でもオーディエンス面でも、これまでになく好調だと報告されています。また、多くのメディア幹部は、AIによる粗悪なコンテンツやディープフェイク、SNS上の有害な議論があふれる時代だからこそ、信頼できる、高品質で正確なニュースの価値はむしろ高まっていると考えています。

今はニュースやジャーナリズムに携わる上で素晴らしい時代だと思います。国民は信頼できるニュースや情報を求めているのです。—— ジャスティン・スティーブンス(オーストラリア、ABC ニュース・ディレクター)

今年起こりうること

政治家が「オウンドメディア」の存在感をさらに強化する

ナレンドラ・モディ首相やドナルド・トランプ氏など、多くの政治家はすでに、自身のSNSを通じて数億人規模のオーディエンスに直接メッセージを届けています。中には、インターネット配信の記者会見などを通じて、メディアを介さずに情報発信を行うケースもあります。

その次の段階として注目されているのが、政治家自身がポッドキャストやYouTube番組を運営する動きです。米カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事は、2025年2月にポッドキャストを開始しました。この取り組みは、全米規模での政治的影響力を高める狙いがあると広く受け止められています。

英国でも同様の動きが見られます。緑の党のザック・ポランスキー氏は、現職の党首として初めて、デジタル志向の強い若年層をターゲットにした定期ポッドキャスト『Bold Politics』を立ち上げました。一方、短期間で退任したリズ・トラス元首相も自身のYouTube番組を開設しましたが、こちらは批評家から厳しい評価を受けています。

こうした流れを踏まえると、2026年には、現職の国家首脳が支持者に直接、無編集のメッセージを届ける手段として、ポッドキャストや動画番組に参入しても不思議ではありません。伝統的なメディアという「ゲートキーパー」を介さずに発信する動きは、今後さらに広がりそうです。

ジャーナリズムの逆襲

これまで、ジャーナリズムの価値を伝える取り組みは、各メディアがそれぞれのブランド単位で行ってきました。しかし、広がり続けるネガティブな言説に対抗するには、業界全体で連携したアプローチが必要になる可能性があります。

実際、米国の最近の世論調査では、10代の過半数がジャーナリストに否定的な印象を持っていることが明らかになりました。彼らは「偽物」「嘘」「偏向」といった言葉が、ジャーナリストの仕事を最もよく表していると考えています。さらに、ジャーナリストが引用を捏造している、コンテンツクリエイターより中立性に欠ける、民主主義を守るどころか害を与えている――といった認識が広く共有されています。

こうした見方は、若年層や米国に限ったものではありません。本調査でも、同様の不信感が各国に広がっていることが示されました。

AIによる生成コンテンツが今後さらに増えるなかで、プロフェッショナルによって検証されたニュースの価値を伝える取り組みや、メディアリテラシーを高める活動が活発になると見られています。また、失われた信頼を取り戻すためには、政治家からの法的な圧力や脅しに屈しない、覚悟を持ったメディアオーナーの存在も欠かせないでしょう。

2. 検索エンジンとアクセスへの影響

パブリッシャーは、ソーシャルメディアからの流入が急減したことに続き、検索エンジンからのトラフィックも今後3年間で約4割(-43%)減少すると予測しています。なかでも懸念が集中しているのが、Googleの「AI Overviews(AIによる概要表示)」です。これは現在、米国では検索結果の約10%で最上部に表示されており、他の地域でも急速に展開が進んでいます。

複数の調査によると、AIによる概要が表示されることで、ユーザーがどのWebサイトもクリックしない「ゼロクリック検索」の割合が大幅に増加することがわかっています。さらに、検索結果とは別に表示される「AIモード」タブは、すでに120の国と地域で利用可能となっています。Gemini 3のフルマルチモーダル機能も加わり、ユーザーが「検索」から「AI」へと行動を移す動きを後押ししています。

こうした変化の影響については見方が分かれています。楽観的な見方では、検索トラフィックへのマイナス影響は20%未満にとどまるとされています。一方で、調査回答者のおよそ5分の1は、検索トラフィックの75%以上を失うと予想しており、危機感は決して小さくありません。

パブリッシャーは検索トラフィックの減少を予測している

長期的な影響は深刻になる可能性が高いものの、現時点のデータは必ずしも一方向を示しているわけではありません。実際、一部のパブリッシャーからは検索トラフィックが大幅に減少したという報告がある一方で、「ほとんど変化はない」とする声もあります。

本レポートのために分析会社Chartbeatが提供した集計データによると、2,500以上のサイトを対象にしたGoogleのオーガニック検索からのトラフィックは、2024年11月から2025年11月にかけて、世界全体で33%、米国では38%減少しました。ただし、この減少のうち、どの程度がAI Overviewsの影響によるものかは現時点では明確ではありません

Googleでは、政治や事件などの「ハードニュース」に関する検索クエリは、いわゆるAIのハルシネーション(事実誤認)への懸念から、AIによる概要表示の対象から外されています。

一方で、影響を受けやすいのは、天気、テレビ番組表、占いといったライフスタイル系・実用系コンテンツを主軸とするパブリッシャーです。こうした分野では、AIによる要約表示がユーザーの情報取得を完結させてしまい、サイトへの流入減少につながりやすいと見られています。また、Androidの普及率が高いグローバル市場で特に重要とされてきたGoogle Discoverからのトラフィックも減少傾向にあります。ただし、SNSからのリファラルは過去1年間で概ね横ばいとなり、急激な悪化は見られていません。

Google検索からのリファラル(参照)トラフィックが減少しており、Google Discoverからのトラフィックも同様に落ち込んでいる
米国Chartbeatネットワークにおけるパブリッシャーサイトへのリファラル(参照)数
各プラットフォームからのリファラル(流入)
比較時期:2024年11月~2025年11月
各プラットフォームからのリファラル(流入)
比較時期:2023年5月~2025年11月

 

検索流入減少の先にある新たな脅威

もっとも、パブリッシャーが直面している課題は、Googleからの流入減少だけではありません。ChatGPTは週間アクティブユーザー数(WAU)約8億人を抱え、史上最も急速に成長したアプリの一つとなっています。

ロイター研究所の調査によれば、情報検索は現在、最も広く利用されているAI機能の一つであり、最新ニュースの探索もその用途に含まれています。ChatGPTなどのチャットボットでは、より深く情報を知りたいユーザー向けに、元の情報源へ遷移できる「引用(citations)」ボタンが設けられています。

Chartbeatのデータでは、ChatGPTからのリファラルが急増していることが確認されていますが、全体に占める割合は依然としてごくわずかです。検索経由の流入だけを比べても、GoogleはChatGPTの約500倍のリファラルをパブリッシャーに送り出しています。さらに、Google Discoverを含めると、その差は約1,300倍にまで広がります。

ChatGPTおよびPerplexityから、出版社(メディア)のウェブサイトに送られたリファラル(流入)数
全リファラル(流入)トラフィックに占めるシェア(割合)

 

一方でパブリッシャーは、プラットフォームとの関係をどう築くべきか、いまだに明確な答えを見いだせずにいます。訴訟で対抗するのか、視認性や収益機会を得るために提携(ディール)を選ぶのか、あるいはその両方を並行して進めるのか。判断は分かれています。

Tow Centerの「AI Deals and Disputes トラッカー」によると、訴訟を継続する企業がある一方で、2025年にはOpenAIと主要パブリッシャーとの新たな契約が相次ぎました。ガーディアン、シブステッド・メディア・グループ、Axiosなどがその例です。

同様の動きは他のテック企業にも広がっています。Amazonは、ニューヨーク・タイムズ、コンデナスト、ハーストといった大手パブリッシャーとAIライセンス契約を締結。コンテンツをAIの学習に活用するだけでなく、Alexaなど自社プロダクトの機能強化にも役立てています。

12月にはGoogleもこの流れに加わりました。ただし同社は、提供する資金がAIライセンス料そのものではなく、パートナーシップ・プログラムの次の段階の一環である点を強調しています。同時に、「人々を信頼できる情報源につなげる」ことを目的として、優先ソース機能や引用に追加の文脈を付与する新機能を発表しました。

契約の中身は依然として不透明です。コンテンツのライセンス提供を含むものもあれば、収益分配や露出の優遇、共同でのイノベーション、あるいはAIの学習用データとしてのアクセス提供に重点を置いたものもあります。ただし全体として、パブリッシャーの見方はかなり現実的です。調査では、こうした契約が重要な収益源になると考える回答者は2割(20%)にとどまり、同じく2割(20%)は「ほとんど、あるいはまったく期待できない」と回答しました。残る約半数(49%)は、収益への影響はごく限定的なものにとどまると見ています。

3年後にAIプラットフォームから期待できる収益に関する、パブリッシャー(メディア運営者)の予測

今年起こりうること
公平な競争環境の整備

これまでに結ばれてきた大規模な契約の多くは、高級紙や通信社が中心で、地域メディアや独立系ニュースメディアが取り残されるのではないかという懸念が広がっています。こうした格差を是正するため、今年は一部の業界団体が、集団として利益を代表する動きに乗り出す可能性があります。

新たなアプローチとして注目されているのが、「Really Simple Licensing(RSL)」です。RSLは、パブリッシャー自身が支払い条件や帰属表示のルールを設定できる仕組みで、昨年9月にスタートしました。規模の大小を問わず、パブリッシャーやクリエイターがコンテンツの権利を管理できる、拡張性と持続性を備えた仕組みを目指しています。

さらに、パブリッシャーとプラットフォームの非対称な関係に対応するため、国際的な枠組みを求める声も出ています。元Google幹部のマドハヴ・チナッパ氏は、エコシステム全体に利益をもたらす形でコンテンツの適正価格を実現するため、パブリッシャー同士が連携する「NATO for News(ニュースのためのNATO)」という構想を提唱しています。ここには、記事そのもののライセンスだけでなく、AI企業にとって価値の高いデータフィードなど「アクセス」への対価も含まれる可能性があります。

回答エンジン最適化(AEO)サービスの急拡大

契約交渉や訴訟を超え、今年は「コンテンツがチャットボットや概要表示、各種回答エンジンでどのように使われているのか」を把握する動きが加速しそうです。目的は、単にブランド露出を測定することだけでなく、こうした新しい仕組みに合わせてコンテンツを最適化することにあります。

すでに多くのデジタルマーケティング代理店が、AEO(Answer Engine Optimization)やGEO(Generative Engine Optimization)を取り込む形でサービスを再編し始めています。今後は、これらを専門とするコンサルティング会社や分析ツールの登場も見込まれます。

GEO(生成AI最適化)とAEO(回答エンジン最適化)の新世界

AEOやGEOはSEOと似た側面を持ちますが、コンテンツの作り方や書き方には異なるポイントもあります。SEOと同様に、時間が経つにつれて、こうした最適化手法が「どのようなコンテンツが作られ、どのように消費されるのか」を少なからず左右していくことになるでしょう。

3. コンテンツ戦略は「独自性」へとシフト

AIがほぼ無制限に、しかも高度にパーソナライズされたコンテンツを生み出せる時代に入り、パブリッシャーは「どこで、どのようにAIと競うべきか」を改めて問い直しています。

調査では、今後とくに重視すべき領域として、現場取材(「増やす」が「減らす」を91ポイント上回る)を筆頭に、分析やフレーミング(+82)、ライブイベントなどのコミュニティ形成(+75)、人間味のあるストーリーテリング(+72)、ファクトチェックや検証(+63)、意見・論評(+55)が挙げられました。いずれも、機械には代替しにくい「人間ならでは」の価値です。

一方で、実用情報を中心とするサービス・ジャーナリズム(-42)や、旅行ガイド、製品レビュー、「今夜のテレビ番組は?」といったエバーグリーン・コンテンツ(-32)への注力は減らす方向にあります。たとえ元となるデータを自ら取材・制作していたとしても、将来的には、こうした問いへの回答はAIチャットボットのほうが効率的になる──多くのパブリッシャーがそう認識しています。

全体を見ると、調査に参加したメディア幹部の大多数は、一定のリーチを失い、一般ニュースの量を減らすことになったとしても、将来の成功は「より個性的であること」にかかっていると考えています。ウォール・ストリート・ジャーナルのデジタル責任者、タネス・エヴァンス氏は「ジャーナリズムにとって最善の対応は、私たちを価値ある唯一無二の存在にしている要素を、さらに強化することだ」と語ります。「今年は、品質や独創性、そしてオーディエンスとの直接的で意味のある関係の重要性に、多くの人が気づいた年だった」とも指摘しています。

スウェーデンのアフトンブラーデットでAI戦略を担当するマルティン・スコーリ氏も、「AIプラットフォームは今後も私たちのコンテンツをスクレイピングし、再パッケージ化し続けるだろう。だからこそ、『3つの箇条書き』では要約できないジャーナリズムに注力すべきだ」と述べています。

AI時代において、コンテンツの焦点をどのように再設定すべきかに関するパブリッシャーの認識

こうした流れは、新興国・途上国を含むグローバル・マジョリティの国々でも同様です。インドのニュースメディア「The Quint」の共同創設者兼専務理事、リトゥ・カプール氏は、「私たちは、意味のある深掘り報道や分析にリソースを集中させ、網羅的なニュース報道からは距離を置いている」と話します。

通信社にとっては、必ずしも同じ戦略が取れるわけではありませんが、方向性は似ています。AFP通信のラテンアメリカ局長、マリア・ロレンテ・エストラーダ氏は、「不安定なサードパーティ・プラットフォームから離れ、読者との関係を自分たちで完全にコントロールできる、直接的なオーディエンスやコミュニティの構築に移行している」と説明します。今後は、プレミアムな調査報道やニュースレターに加え、舞台裏へのアクセスや現場取材など、独自性の高いコンテンツを拡充していく計画だといいます。

もっとも、テクノロジーの変化があまりにも大きいため、「独自性を高めるだけでは足りない」と見る声もあります。デア・シュピーゲルの退任CEO、シュテファン・オトリッツ氏は、「新たに登場するAI主導のUIエコシステムでは、発見されやすさ(ディスカバラビリティ)とユーザー維持戦略が極めて重要になる」と指摘します。「私たちが慣れ親しんできたプラットフォームは、音声やチャットといった、まったく新しい体験によって挑戦を受けている」とも述べています。

パブリッシャーにとっての課題は、単にニュースを届けることではありません。読者に「習慣的に使われる」体験をどう設計するかが問われています。オーストラリアのナイン紙でシニア・オーディエンス・エディターを務めるソフィア・ファン氏は、「検索流入が減り続けるなか、ニュースレターやポッドキャスト、パズルといった形で読者と直接つながり、自社ブランドを日常の一部にしていく方法を見つける必要がある」と語っています。

今年起こりうること
動画・音声フォーマットへのシフトがさらに加速

調査回答者の4分の3以上(79%)が、AIの脅威に対する直接的な対応として「動画への投資拡大が重要」と答えています。音声フォーマットについても、過半数(71%)が拡充を検討しています。

デア・シュピーゲルのチーフ・プロダクト・オフィサー、クリストフ・ツィマー氏は次のように語ります。

テキスト制作のコストがほぼゼロになれば、残酷なまでに新しい競争が生まれる

AIチャットボットはテキストを容易に要約・再構成できますが、構造化された“リニア”(最初から最後まで順を追って視聴する必要がある)な動画や音声は、比較的そのままの形でリンクされ、消費されやすいと考えられています。少なくとも理論上は、そうした優位性があるという見方です。もっとも、フォーマットが変わっても本質は同じです。「一般的なニュースは、もはや通用しない。現場に足を運び、ニュースを掘り起こし、新しい視点を提示することが重要だ。それは常に私たちの軸だった」と、ツィマー氏は強調します。

AIの影響により、動画、音声、およびテキストへの注力を「増やすべき」または「減らすべき」と考えるメディアリーダーの割合

さらなる自動化は、もう一つの成功ルートになるのか

「独自性」を軸にした戦略が有効なパブリッシャーがある一方で、規模と効率性を重視し、意図的にAI活用へと舵を切る動きもあります。

英国の大手地方紙グループ、ニュースクエスト(Newsquest)では、傘下メディアに30人以上の「AIアシスト記者」を配置。自社開発のAIツール「News Creator」を使い、1人あたり1日最大30本の記事の下書きを作成し、それを人間がチェック・補足しています。この手法は、大量生産型のビジネスモデルを支えると同時に、他の記者がより独自性の高いジャーナリズムに集中する余地を生んでいます。

さらに極端な例が、Velora Cycling(ヴェローラ・サイクリング)です。ここは、かつてなら大規模な編集部が必要だった専門ニュースやデータ報道を、実質的に1人で運営しているニュースルームです。複数の情報源からニュースを選定し、AIが下書き管理、画像選定、タグ付け、SNS投稿の生成、ファクトチェックの補助までを担当。最終的には、元『Cycling News』編集者が監修し、自身の専門知識や論評を加えています。

こうした低コストかつ高効率なモデルは、今年、特に専門メディアや地方ニュースの分野で広がる可能性があります。
AIが情報収集や下書き、配信を担い、1人の専門エディターが判断と価値付けを行う――いわば「AIファースト」な運営モデルです。

AIを核としたワンマンニュース運営

全体として見えてくるのは、一方に「人間の独自性を極限まで磨く戦略」、もう一方に「高度な自動化によるスケール戦略」が並び立つ構図です。この両極が強まる現象は、「バーベル効果(Barbell effect)」に例えられるかもしれません。その中間に位置するパブリッシャーは、オーディエンス獲得でも収益面でも、より厳しい立場に追い込まれる可能性があります。
 

次回は、中編を公開します。

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