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AI時代に必要な「なめらかさ」とは? AIの専門家たちがAI開発のヒントと未来を語り合った「AI TALK NIGHT」

画像生成やノーコードなどのホットな話題から、AIの未来までをも専門家が議論(Ledge.aiニュースからの転載)。

AI(人工知能)のスペシャリストたちによるトークイベント「AI TALK NIGHT sponsored by Gravio」が、2022年9月12日、東京・恵比寿の株式会社アステリア本社オフィスにて開催されました。

トークセッションのテーマは「AI時代に必要な『なめらかさ』とは?」。AIのスペシャリストたちが、AIの現状や課題、未来について語り合いました。

なお、このイベントは、AI搭載IoT総合エッジウェア「Gravio」を開発・販売しているアステリアの提供により実現したもので、会場となったアステリアのオフィスは、2021年10月にニューノーマル時代の新しい働き方を推進するべく、「必要な時に、必要な人が集う場所」という概念で新設されたオフィスです。

登壇者は、ゲストとしてLINE株式会社 執行役員/AIカンパニーCEOの砂金信一郎氏、ゲームAI開発者で日本デジタルゲーム学会 理事 三宅陽一郎氏、株式会社Creator’s NEXT 代表取締役社長の窪田望氏というAIのスペシャリスト3名をお招きし、アステリアのCXO/首席エバンジェリストの中山五輪男氏と、同じくアステリアでGravio事業を統括する垂見智真氏がホスト役を担当。

ファシリテーターをつとめるのは、本メディアLedge.aiを運営する株式会社レッジ 執行役員の箕部和也です。

登壇者プロフィール

LINE株式会社 執行役員/AIカンパニーCEO
砂金 信一郎(いさご しんいちろう)


東京工業大学卒業後、日本オラクル、ローランド・ベルガー、マイクロソフトでのエバンジェリスト経験などを経て、2016年にLINE株式会社に入社。2020年2月より、人に寄り添う「ひとにやさしいAI」の社会実装を掲げる同社のAIカンパニーCEOに就任。2019年度より政府CIO補佐官、2021年9月よりデジタル庁プロジェクトマネージャーを兼任。

日本デジタルゲーム学会 理事
三宅 陽一郎(みやけ よういちろう)


ゲームAI研究者・開発者。京都大学で数学を専攻、大阪大学(物理学修士)、博士(工学、東京大学)。東京大学生産技術研究所特任教授、立教大学大学院人工知能科学研究科特任教授、九州大学客員教授。情報処理学会ゲーム情報学研究会運営委員、人工知能学会編集員会副委員長、日本デジタルゲーム学会理事。著書に『人工知能のための哲学塾』(ビー・エヌ・エヌ新社)、『戦略ゲームAI解体新書』(翔泳社)など多数。

株式会社Creator’s NEXT 代表取締役社長
窪田 望(くぼた のぞむ)

米国NY州生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。15歳の時に初めてプログラミング開発を行い、ユーザージェネレーテッドメディアを構築。 大学在学中の19歳の時に起業し、現在17年目。 東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻グローバル消費インテリジェンス寄附講座 / 松尾研究室(GCI 2019 Winter)を修了。 米国マサチューセッツ工科大学のビジネススクールであるMIT スローン経営⼤学院で「Artificial Intelligence: Implications for Business Strategy」を修了。 2019年、2020年には3万7000名の中から日本一のウェブ解析士(Best of the Best)として2年連続で選出。

アステリア株式会社 CXO(最高変革責任者)
ノーコード変革推進室 室長・首席エバンジェリスト
中山 五輪男(なかやま いわお)


1964年5月 長野県伊那市生まれ。法政大学工学部卒業。複数の外資系ITベンダーさらにはソフトバンク、富士通を経て、現在はアステリア社のCXO(最高変革責任者)および首席エバンジェリストとして幅広く活動中。様々な書籍の執筆活動や全国各地での講演活動を通じてビジネスユーザーへの訴求活動を実践している。

アステリア株式会社 グローバルGravio事業部 事業部長
垂見 智真(たるみ ともまさ)


アステリア株式会社にてAI・IoTミドルウェア製品「Gravio」事業を統括。大学卒業後、産業機器およびコンピューター関連外資系企業にてエンタープライズ向けのセールス、およびマーケティング活動に従事、トレーニングやセミナーの講師などを含む、様々な製品の展開を担当。2015年にアステリア株式会社に入社、基幹製品であるASTERIA Warpのマーケティングをリード、のち2018年より現職。

株式会社レッジ 執行役員/データストラテジー事業部 事業部長
箕部 和也(みのべ かずや)

インターネット広告代理店にてSNSを通じた企業と生活者のコミュニケーションデザインのプランニングに従事。その後オンラインのみではこれからのマーケティングに不十分であると感じIoT案件を多数手掛けるウフルに転籍。従来は取得できなかったフィジカル領域のビッグデータを活用したIoTビジネスのコンサルティングを行った。レッジ参画後は、AIをはじめとする先端技術を活用した自社内外の事業開発を推進している。

AIを「なめらかに」浸透させるキーワードが「ノーコード」


──今日は「なめらか」をキーワードにお話を伺っていきます。このトークイベントを開催するきっかけは、アステリアの垂見さんとお話をする中で、「AIがさらに発展し、普及するためには『なめらかであること』が大事ですね」と意見交換をしたことでした。

まずは、この「なめらか」をどう捉えているか、というところからトークを始めたいと思います。

アステリア グローバルGravio事業部 事業部長の垂見智真さん

垂見:私たちアステリアは、「ノーコード」が「なめらかさ」のカギになると考えています。ノーコードとは、ソースコードをいっさい記述せずにアプリケーションやWebサービスの開発が可能なサービスのこと。AIシステムを構築したいと思っても、開発が難しいかったら二の足を踏んでしまいます。古くから内製化や高速開発という手法がありましたが、最先端のAIでも同じことを実現していかなければいけないと考えています。ノーコードであれば、プログラミングの知識がない人でもAIシステムの開発が可能になります。

アステリア CXO/首席エバンジェリスト 中山 五輪男さん

中山:私はアステリアに5月に入ったばかりで、役職はCXO(Chief Transformation Officer/最高変革責任者)です。アステリアの平野洋一郎社長から、「最高変革責任者として、自社だけではなく、日本のソフトウェア文化を変革してほしい」と言われました。となると、やっぱりノーコードが、日本のソフトウェア文化を変革するカギになります。

9月1日に「ノーコード推進協会」を設立しましたが、日本はこれから確実にノーコードの時代に突入します。今まで日本では、システムが必要になったとき、SIer(システム開発会社)に依頼して開発してもらうことが多かったんですが、海外企業では、自社にプログラミングができる人がいて内製できるんです。日本は世界的に見てまだまだデジタル化が遅れているので、ノーコードにシフトすることでデジタル化を加速していきたいです。

垂見:もちろんSIerさんがアステリアのノーコードプラットフォーム「ASTERIA Warp」や「Gravio」を活用してくださることもありますので、適材適所のハイブリッドによって効率的にソリューションを実現できると思います。内製化する場合でも、SIerに開発を依頼する場合でも、ノーコードはどちらにもメリットがあるということで、私たちはノーコードを推しています。

専門知識がなくてもAIやIoTソリューションを使える

AI搭載IoT総合エッジウェア「Gravio」と各種センサー類

──AI搭載IoT総合エッジウェア「Gravio(グラヴィオ)」についてご紹介いただけますか。

垂見:「Gravio」はあらゆるデバイスをつなぐAI搭載IoT総合エッジウェアです。通常、エッジコンピューティングを行う場合、センサーのデータを捉えてデータベースに記録するためにPythonなどの言語でプログラムを書きますが、「Gravio」はそこを全部ノーコードでパッケージ化している製品です。さまざまなセンサー類も無償貸出可能でご用意しています。

AIとIoTを統合したエッジのプラットフォームという位置付けで、GUI(グラフィカルユーザーインターフェース)でセンサーを設定したり、データを保存するデータベースとつなげられます。実際に「Gravio」を活用されているのは、IT担当者よりも、製造業などの現場の担当者の方々のほうが多いです。ExcelやWordのように、マニュアルがなくても誰でも使える便利なツールになることを「Gravio」も目指しています。

──「専門知識を必要としない」というところが重要ですね。砂金さんは、ユーザー数の多いLINEというアプリケーションで、さまざまなAIサービスを開発されていらっしゃいますが、どのようなことを意識していますか?

LINE 執行役員/AIカンパニーCEO 砂金 信一郎さん

砂金:私たちLINE CLOVAは、LINEのユーザーの方々に「AIを意識させたら負け」だと考えています。見えない裏側ではAIによってさまざまな問題を解決しているけれど、ユーザーはごく自然に快適にサービスを利用できる、という状態を目指しています。

たとえば、LINEでテキストを何文字か打つと、スタンプがレコメンドされますよね、「あなたが送りたいスタンプはこれじゃないですか?」と。あれは日本語解析からのレコメンドですが、スタンプって絵柄だけではなく「気持ち」を贈ってるんだと思うんですね。なめらかなコミュニケーションを密かにサポートすることで、人と人の心の距離が縮められたら、僕らのAIが世の中に少し貢献できた、と。そういうことを意識しながらやっています。

LINE CLOVAでは、領収書や請求書に特化した「CLOVA OCR」という認識系サービスを提供しているんですが、読み取る対象は、一般の方のレシートなどです。スマホで撮影した画像なので、影が入っていたり、しわくちゃだったり、コーヒーのシミが付いていたりと画質は決してよくありません。それでも「読めない」とは言えない(笑)。どんな画質であっても読み取らなくてはいけません。

これが同じOCRでも、エンタープライズ向けのITソリューションであれば、スキャナーできれいに読み取られた画像から文字をピックアップすればいいわけですが、エンドユーザーが操作する場合、こちらの想定外のことがあります。難しい要求にも対応しなくてはいけませんが、汗をかくのは私たちで、ユーザーの方には、それこそ「なめらかに」何のストレスもなく使っていただけるようにしたいと考えています。

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ゲームのAIもノーコードで開発するトレンドに

ゲームAI研究者・開発者、日本デジタルゲーム学会 理事 三宅 陽一郎さん

──コミュニケーションの話題が出たので、三宅さんにゲーム領域でのお話を聞きたいと思います。ゲームにおいてAIはどのように開発されているのでしょうか?

三宅:ゲームの場合はエンターテインメントなので、「AIはユーザーにユニークな体験を与えるもの」として捉えています。ユニークな体験とは、面白いだけではなく「怖い」「泣いた」「何かを集めるのが楽しい」「成長していくのが嬉しい」など、ゲームごとのさまざまな楽しみ方のこと。それをできるだけ共通の仕組みで作っていきたいと考えています。たくさんのゲームを作らないといけないので、それぞれ作り方を変えていると大変だからです。

通常は、ゲームキャラクターの頭脳としての「キャラクターAI」、ゲーム全体をコントロールする「メタAI(神様AI)」、そして、ゲーム内の地形やオブジェクトを扱う「スパーシャル(空間型)AI」という3つを組み合わせて、自律・分散・協調システムを作っています。

実際のゲームのコンテンツを作るのは、エンジニアではなくデザイナーです。AIのキャラクターを作ってるのもデザイナーたちですね。エンジニアは何をするかというと、デザイナーたちがコードを書かなくてもAIが作れるような仕組みを作るんですね。まさしく「ノーコード」ですね。

──ゲームの世界も「ノーコード」なんですね。

三宅:『PlayStation3』(SIE、2006年発売)を作っているぐらいの頃から、コンテンツ側はコードを書かない方向に徐々にシフトしました。なぜかというと、それ以前はスクリプトを書いていましたが、そうするとバグがたくさん出てしまうんです。それでGUIツールを作って、バグが出ないような書き方しかできなくしたんですね。GUIでマウス操作だけで作れますと。そういうのをこの15年くらい、ゲーム産業はずっと推し進めてきました。

中山:ということは、ゲーム産業では、これからプログラマーは減っていくんですか?

三宅:基礎システム側ではむしろ増加する傾向にありますが、コンテンツ側では、減少する場合が増えています。「ゲームエンジン」というと、ゲームを動かしているエンジンというイメージがあるかもしれませんが、ゲームの開発エンジンのことなんです。開発環境そのものがツール化されています。なので、体力のある会社はツールから自社で作ることもありますが、たいていはゲーム開発エンジンを買って作ることが多いですね。たとえば「Unreal Engine(アンリアルエンジン)」「Unity 3D」などを使えば、GUIツールが完備されているので、簡単なゲームであれば、コードを書かなくても1週間くらいで作れてしまいます。

砂金:今のお話は本当にすごくて、テストが大変だろうなと思いました。自動でシナリオを生成する場合、全通りのテストとかって、もう不可能ですよね。

三宅:たとえば、ゲームは60分の1秒単位で動いていて、1フレームずれただけでロジックが全部変わります。そこでバグが出るということは結構あって、そうすると何通りのテストでは済みません。そこで、AIにプレイさせることで、バグを見つけています。

中山:すごい世界ですね。逆にゲームメーカーが作ったそのAIを、ゲーム世界だけではなくて、他の業界に展開しようという考えはないんですか?

三宅:ゲーム産業は、自分たちの技術が外で役に立つという感覚が、これまであまりありませんでした。とはいえ、高い技術力は持っていて、それが外に出たのが「Unreal Engine」「Unity 3D」のようなゲームエンジンで、映画産業でも使われていますね。

ゲーム業界のAI技術をビジネスシーンに活用すれば、大きな変化が起きる可能性が

砂金:今の三宅さんのお話には、大きなヒントがあると思いました。「エンタープライズIT村」と、「コンシューマWebアプリ村」と、ゲームを中心とした「ソフトウェア会社」は、近くにはいるんだけど、すれ違っていました。日本のゲーム業界は、コンテンツとして面白いものを作る能力がとても高いので、「エンタープライズIT」の人たちは、もっとリスペクトしてお互いに学び合うといいなと。

中山:ゲーム業界のAIがすごいことになってるのがわかりました。それがビジネスの世界に降りてきたら、大きな変化が起きると思います。

先日、聞いた話ですが、過去40年間で人類は5億個のアプリを作ってきましたが、今後のたった4年間で同じ5億個のアプリが作られると予測されているそうです。当然、人間のプログラマーだけでは対応できないので、ノーコードやAIが活躍すると考えています。今後は、プログラミングの勉強も大事ですが、それ以上に大事なのが、「デジタルと付き合うセンスをどう養うのか」ということになってきます。

垂見:どのツールを使ったら近道なのか、もしくは、やりたいことができるのかを選ぶスキルが求められるようになると思います。ITの恩恵を受けるエンドユーザーすべてが、その感覚を持っていないと遠回りすることになってしまいます。

砂金:AIは道具として優秀です。日本人が持っているユニークな価値観の1つに、「AIは攻撃してくる敵ではなく、親切な友だちでいつも隣にいてくれて、便利な道具を差し出して助けてくれる存在」という感覚があります。私たちは子どもの頃から『ドラえもん』のような漫画やアニメを見て育ってるので、あまりAIが怖いと思ってないんですよね。

それを仕組みの中に生かしていけば、AIがどんどん民主化されて、誰もがAIを使いこなすようになって、「めざすべき未来のビジョンは日本にあるぞ」と世界中で言われるような国になるという可能性は、十分にあると思います。

──ゲームAIの開発で、仲間としてのAIをどう設計されているんでしょうか?

三宅:仲間のAIは一番難しいです。AIが自然に振る舞える時間を「スコープ時間」と呼んでいて、昔はそのスコープ時間は3秒とか10秒でよかったのですが、今は30時間とか一緒にいるようになりました。そうすると、どうしてもボロが出てきます。

ユーザーの意図を先読みして行動を決定する仕組みを仲間のAIに入れていますが、数十時間にわたってきちんと振る舞うAIにするためには、高度にユーザーの意図を推定する必要があります。ユーザーに気づかれないように、なめらかに先を読んで、「この仲間といると心地いいな」という時間を作らないといけない。

砂金:ビジネスアプリケーションのチュートリアルが、そうなったらとてもいいですね。

画像生成AIのプロンプトエンジニアリングもノーコードの一種

AIアーティスト、Creator’s NEXT 代表取締役社長 窪田 望さん

──窪田さんはtiktokはじめ、さまざまなメディアでAIアーティストとして活躍されていますが、「なめらか」というキーワードは意識されますか?

窪田:個人的にも「なめらか」というキーワードにはすごく注目してます。というのは、今のAIでは、簡単に言うと、みんなにとって最適化したものが正解となります。趣味嗜好は人それぞれなのに、「他の人は嫌いかもしれないけど、自分だけは超好き!」というものは「外れ値」になってしまう。そこで、もっと「なめらかなAI」「パーソナライズされたAI」があってもいいんじゃないかと考えました。

先日、僕が特許をとった「パーソナライズドAI」では、これまでのAIでは外れ値と呼んで前処理していた「個人の情感」とか「個人の感動」こそが一番重要な因子と考えて開発しています。

垂見:通り一遍のAIではなく、「次の世界」は、カスタマイズAIとかテーラードAIが出てくるのは然るべきかなと思います。

「MONSTER EXHIBITION 2022」にて。窪田さんの作品『夜』は、窪田さんが特許を持つAI技術を活用して描かれた連作の1つ。「Kaiju(MONSTER)」をテーマに『顔のない街』という物語を創作し、その物語を絵画にしたもの。最優秀賞受賞。

窪田:これからAIを使ったアートは民主化すると思っています。注目していることの1つが「プロンプトエンジニアリング」です。文字を入れると画像が出てくるのがAIアートの特徴ですが、プロンプトエンジニアリングとはこの文字の入れ方のこと。これからは、何かを入力するところから、新たな人間の創作活動が始まるようになると考えています。

僕も参加した「MONSTER EXHIBITION 2022」という展覧会では、新しいプロンプトをデザインできないかと考えました。普通だと文字の量は決まっていますが、小説を書いて、書いた小説をAIに学習させて、7枚の連作絵画を作りました。いわゆる小説の挿絵のようなものです。

砂金:プロンプトエンジニアリングも、ノーコードの一種ですよね。プロンプティングがうまくできる人って想像力が豊かで、「こういう指示を出すと、いい結果が出そうだぞ」と未来を予測する特殊なスキルを持っていると思います。

窪田:確かにそうですね。今後、「問いを立てる能力」が重要になってくると思います。たとえば、芸術史の中ではマルセル・デュシャンが展覧会場に『泉(Fontaine)』(1917年)というタイトルをつけた便器を置くことで、ファインアートの新しい文脈を作りました。芸術史の中で次の革命を起こすのはAIアートだと思いますが、「どこにAIアートを位置づけるか」という問いが求められているんだと思っています。

文章生成AIや文章要約AIの活用は始まっている

ファシリテーターをつとめるレッジ執行役員の箕部和也

──窪田さんからAIアートの話題が出ましたが、最近は画像生成AIの「Stable Diffusion」「Midjourney」などが流行っています。海外では文章生成AIもニュースになっていますが、日本語ではいつごろ文章生成AIが登場しそうでしょうか?

砂金:まだ開発中でプロダクトに実装されてるわけではありませんが、私たちも文章生成AIにチャレンジしています。日本語のテキストを生成、作文する「HyperCLOVA(ハイパークローバ)」という大規模汎用言語モデルを作っていて、これができれば、業務連絡メールに役に立つと思います。

みなさん、業務メールのほとんどは、返事をしないといけないから「面倒だな」と思いながら(笑)、返信を書いていると思います。そこをAIがサポートできるようにしたいなと。

そんなに複雑な話ではなく、「この単語の後に、この単語が来る確率が高い」、つまり「人間にとってなめらかに感じる文章である」というのをAIに学習させるんです。テンプレートを使わなくても、AIによって言葉のつながりがなめらかになります。

逆に、とても長い文章をAIが要約することもできます。文章を要約するって大変な作業ですが、AIに「この長文を3行に要約して」と指示すると、パッと答えが出てきます。

中山:「要約するAI」は、すでにビジネスの世界でも使われていますね。たとえば新聞社は、記者が書いた記事を媒体ごとにパターンを変えて要約させています。紙の新聞に載るだけでなく、新聞社のWebサイト、駅の掲示板など、媒体によって要約する文字数を変えなければいけないんですが、AIなら一瞬でやってくれます。

──文章の要約は脳のリソースをすごい使うので、この作業を助けてもらえるのはとてもいいですね。

中山:本当に自然な要約になっています。人間がまとめたような違和感のないなめらかな原稿ができます。

砂金:ニュースメディアをスマホで閲覧することを考えたときに、決められた幅に表示できる、きちんとした日本語を生成しなければいけません。今は人間の力によって書いているわけですが、AI化の第一段階としては、AIにいくつか作文させて、その中から人間がよさそうなものを選択するようになると思います。

その先は、たとえば1000通りの文章をAIが作って、全部A/Bテストにかけて、一番CTR(クリック率)が高いものに集約させるということが考えられます。人間がついタップしたくなる表現をAIが学び出すと、広告の自動生成や自動運用ができるようになるでしょう。

とはいえ、どこまで行ってもクリエイターの表現や訴求ポイントといったアイデアの価値はなくならないと思います。AIは何らかの制約の中で処理するという作業に向いています。

──たとえば、今はWebサイトもノーコードで作れますが、「何を作りたいか」「なぜ作りたいのか」という部分がとても大事になっていると思います。

砂金:コンテンツを編集できる能力がある人は強いと思います。Webでも映画でも音楽でも、取捨選択して最後の仕上げができる感性を持った人は、AIを「候補を出してくれる道具」として使えばいいと思います。シンプルなバナーを作るといった作業はAIに任せて、みんなが心の底から表現したいことに向き合えるようになればいいな、と思います。

優れたAIとは? 5年後のAIはどうなる?


──最後に、観客の方から、何か質問がありましたら。

質問者Aさん:みなさんが考える「優れたAI」とは、どんなAIでしょうか?

砂金:「AIが裏で動いてるぞ」と思われたら負けなので、ユーザー体験の中に自然に溶け込ませる努力が必要です。もちろん、AIの認識モデルのスループットが速いとか、精度が高いということもあるんですが、「どういう課題を解決したいですか?」というユーザー体験に着目したAIプロダクトはすごいなと思います。

垂見:日本のお客様と顔認証AIや物体認識AIの話をすると、認識率の高い/低いで仕様が決まったり、入札の勝ち負けが決まることがあります。数値的な部分はもちろん大事なんですが、お客様にとっての最適な形で使えなければ役に立ちません。自動車が必要だからといって、必ずしも「高性能な車」が最適なわけではありません。近所のコンビニに行くだけのために、そのような車を求める必要はない、と。

とはいえ、やっぱり使っていただかないと、どんなにいいものでも持ち腐れになってしまうので、AIを使っていただく敷居を下げることが重要だと感じています。

中山:ちなみに私が一番欲しいのは、レベル5の自動運転車です(笑)。ゴルフ帰りに「自宅へ」と言って寝て帰られたらいいなと(笑)。

質問者Bさん:5年後のAIはどうなっていると思いますか?

砂金:AI業界は、2年ごとに企業や大学などの研究機関からエポックメイキングな論文が出て、世界中で盛り上がります。5年後だと、その波が2、3回あるわけで、5年後のAIはどうなっているか……もう、わからないですね(笑)。

前提として、今のディープニューラルネットワークは、なぜその結果になったのかを論理的に説明するのが難しいんです。それでも市場からはそれを説明しろ、というニーズがあります。特徴的なパターンは見つかるんですが、そのパターンに何の意味があるのかと問われるとよくわからない、というのが今のAIの実態です。そうすると、やっぱり納得感がないので、どうにか説明可能な状態にしようという努力はしてはいます。5年ぐらい経ったら、説明できるようになっているかもしれません。

ソフトウェアだけではなくて、ハードウェアも進化します。たとえば、Googleは自分たちのAIを動かすために、専用のチップセットを開発しています。今後、AIの計算だけをより効率的にするハードウェアができて、それがスマホに入るようになるかもしれません。エッジ側の性能は上がるでしょうね。

垂見:1つ言えるのは、5年後にみなさんは、今以上に意識せずにAIを使っているということです。気づかないうちにAI化されているものが増えて、その結果、5年後に受ける恩恵が増えていることは確実です。

トークセッションを終えて

濃厚なトークセッションで予定時間をオーバーして、とても盛り上がりました。実際に、最先端でAIを扱っているスペシャリストのトークは勉強になります。ゲームのAIがこんなにすごいことになっているのも知りませんでした。AIをなめらかに浸透させるためのヒントが満載でした。やはり今後は「ノーコード」の重要度は、さらに高まっていきそうです。

柳谷智宣
IT・ビジネス関連のライター。キャリアは23年目で、デジタルガジェットからWebサービス、コンシューマー製品からエンタープライズ製品まで幅広く手がけている。都内で飲食業「原価BAR」やウイスキー販売会社「トゥールビヨン」も経営しており、デジタル好きと経営者の両方の目線で製品やサービスを紹介するのが得意。

「AI:人工知能特化型メディア「Ledge.ai」」掲載のオリジナル版はこちらAI時代に必要な「なめらかさ」とは? AIの専門家たちがAI開発のヒントと未来を語り合った「AI TALK NIGHT sponsored by Gravio」レポート

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