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アカデミックとビジネスをつなぐ研究者たち【サイバーエージェント×楽天×大阪大学】

「エキスパートと考える、最先端研究とビジネスの接合」をテーマとしたセミナーから、3者の対談をレポート。

レッジは2018年11月「AI TALK NIGHT」の第5回目を、サイバーエージェントの会場をお借りして開催しました。

AI TALK NIGHTとは?
成長著しいAIソリューションは、どのようにして自社の業務やサービスに活かせるのか? AI TALK NIGHTは、AI導入を検討する企業が持つ悩みを、ゲストに直接ぶつけられるトークイベントです。業界のスペシャリストを招き、最先端の情報に触れる機会を提供します。

セミナータイトルは「エキスパートと考える、最先端研究とビジネスの接合」。2018年はAIの分野で多くの企業内研究所や関連組織が立ち上がり、研究をビジネスに活かすにはどうすればいいのか? という課題が顕在化してきたことが背景にあります。

サイバーエージェントもそんな組織を持つ企業のひとつ。AIを専門に研究を行う研究組織「AI Lab」を立ち上げ、研究をビジネスへ活かす取り組みを積極的に進めています。産学連携も積極的に行っており、大阪大学の石黒研究室との実証実験や、早稲田大学の田中 宗准教授との産学連携を開始したこともニュースになりました。

サイバーエージェントから登壇したAI Labの山口氏は、サイバーエージェント入社前は東北大学の教員で、画像認識の分野を専門に研究していた人物。サイバーエージェント入社を機に民間へと活動の場を移し、研究をビジネスへ適用する活動を行っています。

今回のAI TALK NIGHTでは、前述の山口氏に加え、大阪大学石黒研究室で、サイバーエージェントと共にチャットやロボットを使った対話エージェントの実証実験を行う小川氏、筑波大学との産学連携を積極的に行い、筑波大学の教授としても活躍する楽天技術研究所の益子氏の3名を招聘しました。

3名とも大学教員という職歴を持ちますが、現在は民間企業、アカデミア、その両方と別々の立場にいます。3名の対談は、研究者のあり方や企業の立場が絡む、興味深い議論となりました。

登壇者
株式会社サイバーエージェント AI Labリサーチサイエンティスト
山口 光太氏

株式会社サイバーエージェントAI LabのResearch Scientist.コンピュータビジョン,機械学習を用いたWebメディアの分析研究に従事.2014年から2017年まで東北大学大学院情報科学研究科助教.2014年米国ニューヨーク州Stony Brook大学にてコンピュータ科学のPh.D.取得.2008年東京大学大学院情報理工学系研究科修士課程修了,2006年東京大学工学部計数工学科卒業.
楽天株式会社 楽天技術研究所 未来店舗デザイン研究室 室長
益子 宗氏

IPA未踏ソフトウェア創造事業・開発代表者、日本学術振興会・特別研究員としてエンタテインメントコンピューティングやCGの研究に従事し、2008年筑波大学大学院システム情報工学研究科にて博士(工学)を取得。同年、楽天株式会社楽天技術研究所に入社し、コンピュータビジョンやHCIの研究領域のマネージメントを経験。IoTやAI技術のサービス応用や、領域横断的な産学連携を推進。2016年より筑波大学芸術系客員准教授(兼任)として、未来店舗デザイン研究室の設立に携わる。2019年より筑波大学芸術系教授。
大阪大学 基礎工学研究科 講師
小川 浩平氏

2008年よりATR知能ロボティクス研究所にて,ヒューマンロボットインタラクションに関する研究に従事.2010年,公立はこだて未来大学博士後期課程修了.システム情報科学博士.2012年より大阪大学基礎工学研究科助教,2017年より同大学講師.ロボットを用いた対話研究に一貫して興味をもち,フィールド実験を通じたロボットの実用化技術に関して多数の研究を発表している.

画像認識、エンターテイメントコンピューティング、対話。多様な経歴と興味

多様な経歴を持ちつつ、研究という共通点を持つ3名。はじめに、自己紹介として個々の経歴や興味領域を語ってもらいました。

――山口
「2017年にリサーチサイエンティストとしてサイバーエージェントにジョインしました。前職は東北大学の教員で、専門は画像認識の分野です。現在は広告クリエイティブにおいて、どうすれば人の心に刺さる広告が作れるのかを日々研究しています。

サイバーエージェントはデジタル広告が主な事業です。デジタル広告はパーソナライズが可能なのが利点の一方、広告を作る側に膨大な製作コストがかかる。そこを機械学習で効率的に、かつ刺さる広告を作ることが我々のミッションです。

現在は、複雑なデータの自動生成や、少量のデータからの学習などに注目しています。機械学習で簡単なスケッチを描く、などは今も技術的には可能ですが、実際の広告に掲載できるクオリティには届きません。そこをどうしていくかが今の課題です」

――益子
「元々の専門はエンターテインメントコンピューティングという分野で、VTuberみたいなCGアバターのアニメーション生成や、仮想的に服を試着できるバーチャルファッションシステムを作ったりしていました。

現在は楽天技術研究所でさまざまなサービスに先進的な機能や技術を提案しています。最近では『未来店舗デザイン研究室』を立ち上げ、「新しいショッピング体験の創出を通じて、人々と社会をエンパワーメントする」というミッションのもと、楽天市場の出店店舗の皆様との共創の取り組みを進めています」

――小川
「大阪大学で講師をやっており、サイバーエージェントさんとも共同講座を立ち上げるなど仲良くさせていただいている、石黒研究室に所属しています。

もともとATR知能ロボティクス研究所というところにおり、興味領域は一貫して人とバーチャルエージェントとの対話です。研究のやり方として、まずはまともに動く便利なものを社会に発表し、フィードバックを受けてさらに分析する手法を取っています。

どんなに仮説検証を重ねても、社会の中に置いて初めて分かる知見があると思っています」

研究者は課題を“創る”存在

ロボットを作ってはいるが、興味領域はあくまで対話である、と小川氏がディスカッションの口火を切ります。

――小川
「実験でロボットを使うことは多いですが、あくまで興味があるのは対話です。卒論では『イタコシステム』と呼んでいるバーチャルエージェントが、偉人を呼び出して人間と対話するシステムを作っていました。

人だろうがロボットだろうが、見た目さえしっかりしていれば人は対話ができると、人そっくりのロボットを使って証明したかったんです」

対話を研究する実験の例として挙げられたのは、ゼンショーのレストランで行われた実証実験。テーブルにロボットを置き、会話を楽しんでもらうというものです。ユーザーの評判も上々で「ロボットと食という新しい研究分野が開拓できた」と小川氏は語っていました。

小川氏が所属する石黒研究室は、企業から依頼され実証実験を行うことも多いそう。しかし「ほとんどの企業は課題を明確化できていない」と小川氏。

――小川
「そもそも、すべての企業課題はスペシフィックじゃありません。『なんかロボット使いたいな』とかその程度。

研究者としては自分で課題設定からできるので、課題が明確でない状況は望む所です。研究者と企業の違いは、まだ世の中にない課題を自分で創ることなので。

自分が立てた仮説を証明して自分が一番だ! と思いたい。課題をクリエイトするのが研究者だと思っています」

研究者は本質的にエゴの塊であり、自ら課題を創り出し、仮説検証ができる実験は大好物だといいます。

では、企業の中にいる研究者のモチベーションは何なのか。山口氏は、研究者のモチベーションは2つ、と話します。

――山口
「ひとつはエンジニアリング的な、明確な課題を解決したい場合。もうひとつはアカデミックな、この課題は解けそうかどうか見極めて考え抜きたいモチベーションの2タイプです。

企業はどうしても短期的な利益が優先されるので、その枠内で長期的な研究をやろうとするとモチベーションの維持が難しい。企業に勤める研究者は、自分がどちらのタイプか見極める必要があります」

研究者が企業でやりたい研究をやるには、工夫が必要。楽天技術研究所の益子氏は、研究者が企業でサバイバルする方法を語ります。

――益子
「企業内研究者はいわゆるサラリーマンなんですよね。多数のステークホルダーがいる中で研究活動を行っています。企業内研究者の研究への向き合い方は大きく2つあると思っています。
  • 課題をクリエイトする
  • ビジネス側からの課題に研究的アプローチで対処する

後者は顕在化した課題に応える形なので比較的やりやすいですが、前者の課題をクリエイトする潜在的な意義をビジネス側にわかってもらうのが難しい。研究者のエゴにならないように、できるだけ目線を合わせてプロジェクトを進める必要があります。

一方的に提案すると『KPIはどうするんだ?』と言われうまくいきませんが、一緒になってお互いの課題を理解しあうことで進みやすくなることが多いです。あと、まず動くプロトタイプを持っていき、実際にいいねと思ってもらうことが大事かと」

――山口
「確かに。ビジネスサイドは何が解けて何が解けないのか、判断する知識がない場合があるので、そこを明確にするアドバイスをするのが研究者の存在意義だと思っています。

その上で、投資としてどこに張ればいいのかまでアドバイスできるといいですね」

2人が語る研究者とビジネスサイドの壁は、そのままユーザー企業とAIベンダーにも当てはまります。

とりあえず、データがあるから実証実験を』のスタンスでAIベンダーに依頼する企業は、ベンダーの悩みの種でもあります。企業にはデータの量はあるかもしれませんが、すべてがAIで使えるかというとそうではない。

お互いの目線を合わせることは、クライアントとベンダーという関係であっても同様に不可欠です。

対話の設計しだいで人の意思決定を誘導できる

小川氏の研究エピソードも興味深いものでした。アンドロイド接客システムをデパートの店舗に置く実証実験のお話。

――小川
「アンドロイドで接客するシステムを作り、そのアンドロイドがリアル店舗で25人中売上6位になるという成果も出せました。

一方課題もあり、騒音がある場所での音声認識が難しかったり、デパートに来るおばちゃんの関西弁を認識できなかったりしたんです。そこでタッチパネルを作り、ユーザーが選んだ選択肢にディスプレイを介して返答するシステムにしたところ、いいことが2つありました。

まず音声認識がいらない。ディスプレイから音声が出るので、音声認識ができる“風”なだけですが、人間は自分が喋った気になるんです。

また、この方法では選択肢を提示することで、喋ることを制限はしますが、複数の中から『選択』するため、自分の自由意志は担保されていると思える。そのため『もちろんだよ』『うん買うよ』の選択肢しか出さなくても、購買した人からのクレームは0でした。

アンドロイドとの対話で、人間の意思決定を自由に誘導できることが分かったんです」

アンドロイドとの対話で人の意思決定を変えるという点は、サイバーエージェントのAI Labと、ジュエリーショップ4℃を運営するFDCプロダクツとの実証実験「プレゼント相談ボット」に活かされています。

webサイトで4℃のジュエリーを購入する際に、チャットボットへ相談できるというもので、小川氏の取り組み同様「選択式対話」を取り入れています。

web接客の世界では、サイトのページ右下にチャット開始ボタンを表示した場合、実際にチャットが開始される割合はわずか約1%と低いのが現状。

サイバーエージェントとFDCプロダクツの実証実験の結果、チャットを開いて対話に至るユーザーは全体で約40%に上り、対話を開始したユーザーは、対話をしないユーザーに比べて購入率が約1.5倍高い、という結果が出たとのこと。

ユーザーとチャットボットのインタラクション設計次第で、ここまで成果を上げることができる。接客の世界はチャット、リアル店舗、電話、とチャネルは多いので、大きなビジネスが生まれる可能性は大きいです。

研究者人材を取り巻くアカデミアの現状と課題

3名とも研究者ということもあり、話題は研究者を目指す博士人材のキャリアにも及びました。日本では、博士課程に進んでもキャリアには活きないという声が多いようですが……?

――小川
「一時期に比べ博士課程に進む人材は激減しました。そもそも出生率が減っているのに加えて、研究者になりたくてもポストがないので、現状、研究者になろうとしても基本的にはなれない状況です」

――山口
「日本では予算がボトルネックですよね。大学組織は大きいのですが、予算は役所が握っているので、人口減少の影響で予算は毎年何%かずつ減っていきます。そのため組織としては活気がないので、学生からも魅力的に映らないのは課題だと思います」
――益子
「博士課程に進むことが疎まれるのはちょっともったいないなと思いますね。学生からも良く聞かれるのですが、もし研究に興味があって、進める環境であれば進学をオススメしています。

研究者としての就職先をアカデミックに絞るとポストは確かに少ない気がしますが、国内外の企業研究所なども視野にいれれば門戸は広そうです。余裕があれば数年かけてじっくりと博士号を取るのも悪くないと思います。自分はそれがあったから、自分なりの考えるフレームワークや自分がやりたいことを考えられたので」

博士課程は本来であれば疎まれるべきではない。3人が口々に話していたのは、

  • ドキュメント力、まとめる力がつく
  • 考える力がつく
  • ただし相当しんどい

といったこと。興味領域の分野に向き合い、考え抜いて論文を書く。この作業を経ることでつく力は、企業人としても大きく活きてくるものです。

サイバーエージェントでは博士課程まで進む人材に大きな可能性を見出し、2018年、博士課程に在学中の学生を対象に、月額50万円の支給と海外のトップカンファレンスへの論文投稿・採択を目指す研究サマーインターンシップを実施しています。

若手研究者が、実際に企業で研究者として働いてみる経験はとても重要で、若手研究者の進路の可能性を広げたり、アカデミックや企業で働く研究者を目指す人が増えるよいきっかけだと思います。

アカデミックの素地を持つ人材の価値を改めて見直すことが、研究とビジネスを接合し、成果を生み出す近道なのかもしれません。

高島 圭介
by 高島 圭介    Twitter  Facebook
前職では、PRコンサルタントとしてBtoB企業を中心に、数々の企業のメディアリレーションを担当。Ledge.aiでは最先端のAIビジネス活用を取材するとともに、レッジ自体の広報活動も行なっている。

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