Webマーケティングで「会話データ」が重要って、どういう事?
リアル店舗のような接客ができないWebにおいて、「会話データ」が重要だという。会話データとは一体、どういうことか?
「Web担当者Forum ミーティング 2018 秋」に登壇した、ギブリーの大熊勇樹氏は、会話データを集められるチャットボット型のマーケティングツールの可能性について語った。
「会話データ」がなぜ重要なのか?
ギブリーが手がける「SYNALIO(シナリオ)」は、いわゆるチャットボット型のマーケティングツールだ。2017年11月の誕生以来、改善を続けており、2018年5月には全面リニューアルを実施した。導入企業は250社に達する。
現在のSYNALIOの開発コンセプトはズバリ「Conversation Tech(会話科学)」。FinTech(フィンテック)、HRTech(HRテック)など、さまざまな○○テックが世に溢れているが、ギブリーはまさに「会話データを科学する」という位置付けである。
では、そもそも「会話データ」とはどんなものなのだろうか? その定義を大熊氏は「単一方向ではなくインタラクティブにコミュニケーションをとることで生まれるデータ」としている。
ここで重要なのはインタラクティブだという点だ。
たとえば、こういった講演の会場で、講師の私に対して聴講側の皆さんがウンウンと頷いていくのもインタラクティブ。日常会話もそうだ。こうして生まれたものをデータとして、捉えようという発想だ(大熊氏)
ギブリーは「Society 5.0」の時代を見据えている。狩猟、農耕、工業、情報社会に続く5番目の新たな社会像・概念として、日本でも内閣府を中心にSociety 5.0の議論が進んでいる。そこではサイバー空間とフィジカル空間の高度な融合――より具体的にはAI、IoT、ロボット、ドローンなどの活用が標榜されている。
加えて、大熊氏は「データ駆動型社会」への転換を予測する。たとえば、スマートスピーカーは、AIやIoTの実装例として少しずつ普及が進んでいる。そのおかげで検索も、キーワードを文字で入力する方法だけでなく、自然な音声言語入力ができるようになった。
文字入力検索と音声検索の違いとは?
文字入力検索と音声検索には、大きな違いがある。「近くの美味しい居酒屋さんは?」と検索したとき、文字入力検索であればディスプレイに検索結果が羅列される。関連度で順位付けはされているものの、人間がどの結果を選択するかはあくまで任意だ。
しかしスマートスピーカーでの音声検索となると、結果を表示するためのディスプレイはなく、結果として、最も適している検索結果“1つだけ”を答えとして出す。
Society 5.0の時代になると、AIが最適な答えを1つだけ提案してくれる。ユーザーにとってはより手軽で利便性も高いが、サービスを提供する企業にとっては大きな変化になる。検索結果の1つとして表示さえされれば「選ばれる可能性」はあるが、AIが入ることで接点はむしろ狭まるかもしれない。マーケティングの在り方について、今後考えていく必要があるだろう(大熊氏)
こうして、ユーザーの行動は「自分で探す」から「提案をもらう」へと変わっていく。となれば、典型的なペルソナを前提としたマーケティングではなく、完全に顧客一人ひとりに最適化したOne to Oneなマーケティングの重要性は増す。当然、顧客のニーズやインサイトのヒアリング、さらには対話が重要になる。だからこそ「会話データ」が必要という訳だ。
リアル店舗における店員と客の会話をデジタルの世界にも持ち込む
会話以外、つまり「行動データ」もまた重要な概念だ。リアル店舗であれば客の動き、どの商品を手に取ったか、値札を見たか等を判断し、店員は接客を変える。会員データなどをもとに過去の購買履歴を参照することもあるだろう。
ただ店の中に客がいても、店員が声をかけなければ予算状況、購入したい時期などはわからない。リアル店舗における店員と客の会話を、デジタルの世界にも持ち込むことが重要なのではないかと大熊氏は指摘する。
会話データと行動データの組み合わせとしては、主に2つある
① 「行動データ」を「会話データ」で補完する
会話データと行動データの組み合わせ、その1つ目は「行動データ」を「会話データ」で補完することだ。
たとえば、Webサイトのアクセス解析で「1ページしか見てくれない」「3ページ見てくれたがその後再訪問してくれない」といった、そもそも行動が少ないユーザーに対しては、企業側はなかなかアプローチができない。行動が少ないということは、つまり会員登録などもしておらず、名前や属性、メールアドレスも把握できていない匿名状態である可能性が高い。
ただ、スマホの普及によって、何を買うにも行動するにもまずネットで調べる「デジタルファースト」な時代へ転換していることは明らかだ。目的をもってサイトを訪れてくれる「顕在層」だけでなく、「準顕在層」「潜在層」「無関心層」が偶然サイトにやってくる可能性も高まった。マーケティングはそこをいかに拾い取って、どのように将来顧客になってもらうかが重要になってくる。
サイト来訪者の購買意欲を育成させるための手段としては、他には、MAがよく知られる。ただ大熊氏はMAの利便性を認めつつも、それは「実名顧客」を対象としたものであって、名前もメールアドレスもわからない匿名顧客に対してはアプローチしにくいと説明。
結果、無料サンプルのプレゼントなどによって名前やメールアドレスを集め、とりあえず実名顧客のリストを作ったものの、それ以上の細かなターゲティングへ発展させられないと悩む企業も多いという。
そこで、ちょっと視点を変えてみたい。そもそも実名化させる必要はあるのか? 匿名顧客であっても購買意欲の高い客はたくさんいる(大熊氏)
一般的に、サイトを訪れる全顧客に対し、実名顧客の割合は高くても5%だと大熊氏は指摘。残り95%はすべて匿名顧客で、相対的に数は多い。実名顧客対策だけに全精力を注ぐのではなく、匿名顧客をしっかり分析して対策すれば、十分な伸び代になると考えられる。
② 「行動データ」と「会話データ」を掛け合わせる
2つ目に挙げられる組み合わせとしては、「行動データ」と「会話データ」を掛け合わせることだ。
たとえば、ECサイトにおいて客が「商品カテゴリ」→「よくある質問」→「商品詳細」の順にページを閲覧した場合、「態度変容する可能性がある客」と判断するとしよう。このようにサイト遷移のルートはマーケティング上、非常に重要である。
ただ、そのルートを辿っていても離脱する客は当然いる。そこで何かしらのツールを使い、今まさに離脱しようとしている客に対し「この商品は気に入りましたか? 今なら送料無料なのですが」などのメッセージをサイト上で投げかける。こういった事は技術的にすでに可能だ。
サイト上であっても客に話しかけられれば、そこで会話データが生まれる。そして会話データは行動データを補完したり、掛け合わせたりすることで、顧客の“温度感”を知ることができる(大熊氏)
PVなどの数値だけでは推し量れない、別ベクトルの分析指標としての有効性を訴えた。
チャットボットは主に2種類「言語認識型」と「オートリプライ型」
会話データを得る、つまりサイト上で顧客に話しかけるための手段として、すでに流行期を迎えているのがチャットボットだ。ギブリーのSYNALIOも、まさにそのチャットボットである。
チャットボットは通常、Webサイトの隅にコンパクトに表示されるが、実際には2つの種類に分けられるという。
言語認識型
AIあるいは人間がまさにチャットで問い合わせに対応する方式である。大熊氏によれば、カスタマーサポート用途に比較的向いている。
オートリプライ型
こちらは一定のルール・シナリオを用意しておき、客に選択肢などを選ばせていく方式である。
コンバージョンの向上、会話データの取得目的に適しているのはオートリプライ型だ。そして、その設計は非常に重要になってくる。大熊氏は次にあげる3つのポイントを特に意識すべきだと指摘する。
- 誰に使ってもらいたいチャットボットか
- チャットを使う理由は何か
- チャットのゴールはどこか
たとえば、匿名顧客の会話データが欲しいのか、実名顧客の会話データが欲しいのかによって、チャットボットのシナリオは変わる。
SYNALIOはマーケティングにフォーカスしたチャットボットであり、匿名顧客の会話データ取得を特に重視している。
チャットボットをなぜ導入するのか? それはCVRの向上だけが目的ではない。顧客満足度を上げるためだけでもない。「会話データ」を取得し、各社のKPIに合わせて活用することが重要(大熊氏)
SYNALIOができること
SYNALIOでは実際のユーザー行動を踏まえ、「サイトを何秒間閲覧したか」「ページをどれくらいスクロールしたか」といった条件でまずチャットウィンドウをポップアップさせる。そこで「どんな情報が欲しいのか?」などの質問を投げかける。こうして「離脱しそうな客と会話する」のである。
むろん、これだけで離脱する客を100%引き留めることはできない。しかし、その履歴はcookieに保存される。そして、何らかの理由でユーザーが再訪問した時、過去の会話データを活かしてWeb接客を行う。離脱を許容しつつ、それでいて匿名顧客のフォローをしっかり行うのがSYNALIOの哲学だ。
大熊氏は最後のまとめとして、ユーザーの実名・メールアドレスを知ることより、むしろ匿名であっても年代・家族の数・趣味などの属性情報が多い客を掴むことのほうが重要だと力説。SYNALIOをぜひその一助にしてほしいとアピールし、講演を締めくくった。
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