チャットボットの積極活用でCVR・直帰率を改善! 行動データ×会話データで実現する1to1施策
ECサイトなどで、「チャットボット」の導入が進んでいる。自然な会話、あるいは選択肢を選ぶ簡単操作で、適切な回答を自動返答できることから、ユーザーサポート目的で採用される例が多い。しかしそのチャットボットを、いわば“攻めのマーケティングツール”として活用できると訴えるのが、ギブリーの大熊勇樹氏だ。
「Web担当者Forum ミーティング 2019 秋」に登壇した大熊氏は、オンラインにおける顧客体験が転換期を迎えた昨今、チャットボットは「会話データ」を得るために有効な手段だとし、具体的な活用例をあげて匿名顧客への1to1施策について解説した。
良いモノを作っても売れない時代と価値観
ギブリーは2009年に創業。大熊氏は同社の「Conversation Tech」(カンバセーションテック)部門の責任者を務める。そして、同部門が開発に力を入れているのが、講演のメインテーマでもあるチャットボット型マーケティングツール「SYNALIO(シナリオ)」だ。
チャットボットは、Webサイトやアプリにおいて、ユーザーとのコミュニケーションを文字通りチャットベースで実現するソリューションとして、着実な普及を見せている。SYNALIO開発を開始した2年前は、国産の競合ベンダーは20社ほどと少なかったが、それが今や100社を超えることからも注目度の高さが伺えるだろう。そうしたなか、ギブリーでは、チャットボットを顧客との体験的価値の向上を実現する手段として活用し、CVをあげていこうとしている。
チャットボットは、あくまで(目的ではなく)「手段」だ。それも、「顧客との体験的価値の向上」を実現するための手段だ(大熊氏)
現代はまさに「良いものを作っただけでは売れない時代」だ。これはマーケティングの専門家ではなくとも、誰もが実感する現象だろう。品質に優れていても、それが世間に知られ、各ユーザーが納得いく製品でなければ拡販には繋がらない。
物質的価値と金銭的価値
顧客がモノやサービスを買うとき、そこには必ず何かしらの「価値」を見出しているはずだ。この価値にはいくつかの類型がある。
物質的価値
「物質的価値」とは、車を買ったらいろんな場所に行ける、スマホがあれば連絡がとりやすくなる等、プロダクトそのものの機能性・利便性に価値があると感じるからこそ買うという視点だ。
金銭的価値
「金銭的価値」とは、セールで安く買えそうだから買う、などが該当する。期間限定キャンペーンなどは、金銭的価値に訴える方法だといえる。
ユーザーの情報収集手段が変化し、既存コンテンツの価値が低下
この「物質的価値」と「金銭的価値」のどちらか、あるいは両方が満たされれば、顧客は購買に至るはずだ。にも関わらず売れないことがある。それはなぜだろうか?
大熊氏はその要因の1つに、「ユーザーの情報収集手段の変化」をあげた。ある商品・サービスの購入を検討する際の情報収集先は、その商品・サービスの公式サイトだけであるはずがない。検索、通販サイト、ブログ、SNS、YouTube等さまざまな媒体を通じて情報を集めるのが現在の一般的な方法だ。
こうした状況になる前までは、企業・製品・ブランドの公式サイトには“希少性”があり、顧客の意思決定に与えるインパクトは大きかった。しかし、検索・SNS等、あまりにも多くのメディアが林立する――いわば“過剰性”によって、既存コンテンツの価値が低下してしまったのだ。
たとえば、販路などが限定される商品が口コミで話題になる。すると、それに似たような製品があるという話題もまた拡散する。顧客にとっては選択肢が増えるので喜ばしいが、事業者にとっては、製品価値が低下することになる(大熊氏)
第3の価値「体験的価値」こそが差別化要因に
こうした状況下で重要となるのが、「物質的価値」「金銭的価値」に続く第3の価値「体験的価値」だ。商品やサービスを通じて得られる“体験”から生まれる価値のことであり、モノそれ自体に加え「持つこと自体が憧れ」「持っている自分を誇れる」といった価値観である。
この考えは、高級服飾品ブランドなどでまさに実践されてきた。大熊氏はどの企業もこうしたブランド的価値観――自社と顧客がどうお付き合いをするか、その先に顧客にはどんなメリットがあるかを訴えていかねばならないという。
ユーザーを囲うのではなく、好きになってもらう。買わなくてもいいから「ココいいよね」といってもらえるようにすることが重要になっていく(大熊氏)
1to1施策のために必要な「会話データ」
大熊氏が例示したアンケート結果によれば、レストラン・飲食店に「また行こう」と思ってもらえる要素でナンバー1だったのが「スタッフの対応が良い」ことだ。「料金的なコストパフォーマンス」をはるかに上回っていた。
レストランでは、それこそ「コップが空になっている」「メニューを見ている」等、顧客の行動から先を予測し、呼ばれていなくても注文を聞きに行くなどの対応をとる。さらに優れた店員は「いつもと違うアルコールを頼んでいる」のを見て、別のおつまみを勧めるなど踏み込んだ対応をする。これはまさに「接客」の妙。この接客をこそオフラインの世界だけでなく、デジタル(Webやアプリ)でも実現すべきというのが大熊氏の主張である。
これはまさに、マーケティングの理想型として長らく話題になり続けている「1to1マーケティング」そのものでもある。前述の“コンテンツ過剰”な現代情勢のなか、顧客1人1人に最適なコンテンツを提案することで希少性を確保できれば、それは売上に繋がるというわけだ。そこでは「Web接客」が重要となってくる。
そしてその際には、活用するデータの種類に注目したい。これまで、顧客行動分析に用いられてきたデータはすべて「行動データ」であった。どんなサイトから流入し、どんなコンテンツを何回見て……といった具合である。
そこに加えるべきが「会話データ」だ。具体的には「なぜその行動をとったのか」であったり、「どれくらいの予算感か」などをヒアリングやアンケートで詳らかにし、より深く顧客を知るというのが、基本的なアプローチである。ギブリーの提供するチャットボット型マーケティングツール「SYNALIO」は、この「会話データ」を取得する機能を多数備えている。
チャットボットとWeb接客を組み合わせてクロージング
チャットボットには大きく分けて「言語認識型」「オートリプライ型」の2種類がある。チャットボットの利用例として最もポピュラーなのは、電話・メールでのユーザーサポートをチャットで代替したり、FAQの検索を自然な会話風に行う「言語認識型」だった。
一方で、チャットボットをマーケティング目的で利用したい場合は、「オートリプライ型」のほうが効果的だと大熊氏はいう。あらかじめ用意した選択肢を選んでもらうことで、ユーザーを誘導していくことができるからだ。SYNALIOは、このオートリプライ型のチャットボットである。
さらに、Web閲覧者に対してポップアップでマーケティングメッセージを表示する、いわゆる「Web接客」機能もSYNALIOには統合されている。
我々としても、サービス運用を続けてきたなかで、実は「チャットボットだけでCVRを上げる」のはかなり難しいことがわかってきた。確かにチャットボットを入れれば、直帰率は下がるし、PVも上がる。ただ、“最後の背中の一押し”は、チャットボットよりポップアップのほうが絶対的に効果がある(大熊氏)
たとえば、ECサイトの場合、「広告でTOPページへ流入」した後「商品ページを閲覧」などの行動データをもとに、見込客かどうかを判別する。そして、ある一定時間が経過した後に、訪問目的などを問うチャットボットで「状況ヒアリング」を行い、顧客プロファイリングを行った上でレコメンドのポップアップを行うわけだ。
BtoB事例「freee」:キラーコンテンツに診断型botをおき、CVR向上
SYNALIOの導入事例として紹介されたのが、クラウド型会計ソフトで知られるfreeeである。同社の料金説明ページに、SYNALIOのチャットボットが導入されている。
freeeの個人向け料金プランは月額980円・月額1980円・年額3万9800円の3種類(セッション当時の価格)。価格に応じて機能が増えるものの、それでも大半の客が最も安い月額980円プランを選択していた。そして同プランは相対的に安価なため、freeeとしても解約防止策を積極的に打ち出しづらい(人的コストをかけられない)ことが課題だった。また、「自分に最適なプランはどれか」という内容の問い合わせがよく寄せられていた。
そこで導入したのが、料金プラン診断を行うチャットボットだった。料金ページというキラーコンテンツを閲覧していると、チャットボットが「税理士と契約しているか」「帳簿付けをしているか」など4つの設問(選択式)を投げかけてくる。それに答えていくと、オススメプランが提示されるわけだ。また、仮に契約に至らなくても診断履歴は保持されるため、特定条件に該当するユーザーが再訪した際にはポップアップを出すなどの対応がとれるようになっている。
接客の要は、オフライン・オンラインを問わず、顧客の意図を認識することだ。この事例では、単純な行動データに加え、“ユーザーの背景”がわかる会話データが加わっているだけに、その打ち手の幅も当然広くなる。
freeeでは、A/Bテストなどによって入念な設問設計を行った結果、CVRが向上。上位プランの選択率も向上したという。
おそらくどのサイトにも「このページを踏んだ人はCVする率が高い」というキラーコンテンツがあると思う。そうしたページに、提案のためのチャットボットを置くのは非常に効果的。SYNALIO導入企業は現在450社ほどあるが、そのうち50社はこの手法を使っている(大熊氏)
BtoC事例「茨城ロボッツ」:情報提供型bot導入でサイト直帰率改善
プロバスケットボール・Bリーグの茨城ロボッツでは、チームキャラクター「ロボスケ」のチャットボットを構築した。Bリーグ加盟チームのWebサイトは、リーグ管轄の元で共通化されており、チームごとのサイトデザイン差が意図的に抑えられていた。限られた策のなかで、チャットボットを導入した格好だ。
チャットボット導入前は、サイト内には膨大なコンテンツがあるにも関わらず、あまり閲覧されず、ほぼチケット購入目的でしか利用されていなかった。そこで、「試合スケジュールについて知りたい」「ファンクラブについて知りたい」「グッズについて知りたい」といった、ユーザーが知りたいと思われる情報ごとに適切なページへとロボスケがナビゲーションする「情報提供型bot」を導入した。その結果は上々。直帰率は1か月で14%以上改善した。
同じチャットボットでも、freeeではキラーコンテンツを踏んだお客様を逃がさないため、茨城ロボッツでは情報提供をして直帰率を改善するために使っている。サイトや、お客様のペルソナによって、チャットボットの設計を変えると効果も出やすい(大熊氏)
とはいえ、「やはり重要なのはPDCAサイクルの繰り返しだ」とも大熊氏は説明。導入から3か月以内のうちは、2週間に1度程度のペースでA/Bテストや設問の調整を行うのが運用のコツだとアドバイスし、講演を終えた。
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