「ファンづくり」のためのSNSとは? 人気企業SNS担当者4人が語るTwitter運用
企業のSNS公式アカウントは、顧客とのコミュニケーションのツールとして、今や確固たる地位を築いている。とはいえ、うまく運用ができない、どんな投稿をするべきか、炎上対策はどうすべきか、といった課題を抱える企業も多いだろう。
そこで、企業の公式SNSアカウント運用に成功した例として、「Web担当者Forum ミーティング 2019 秋」に、すかいらーくホールディングス、タカラトミー、東急ハンズ、山芳製菓のTwitter担当者が登壇。運用ノウハウやフォロワーとのコミュニケーションの取り方を語った。
Twitter運用で当たった壁は「社内理解」と「前任者がいない」こと
セッションはパネルディスカッション形式で行われ、「Twitterを運用する上で当たった壁と解決法は何か」というテーマから始まった。
登壇した4社の担当者は、いずれも「前例がないために、周囲の理解が得づらい」という状況に苦労していたようだ。特に、「経営層からの理解を得ることが最初の壁だった」と話す、すかいらーくでは、Twitter公式アカウント開設前に、社内向けの「Twitter勉強会」を開くことから始めたという。
同じマーケティング本部メンバーだけでなく、商品開発部門、お客様相談室、現場をマネジメントする営業部長ら20人程、会議室に招き、まず、「Twitterのダウンロード」と「アカウント作成」をしてもらいました。
そして「ガスト」と検索してもらい、ガストに関するツイートが表示された後、『私たち(公式アカウント)も、このTwitterで繰り広げられる会話に入りたいんです』と説明しました。Twitterの良さを私が伝えるよりも、ご自身で体感してもらった方が理解への近道だと思いました(すかいらーく)
社内でのTwitter理解の取り組みは、これだけにとどまらない。経営層が通る廊下にモニターを設置し、Twitterユーザーのすかいらーくに関するツイートが表示されるように設定。良いことも悪いことも全てそのまま表示したのだ。
お客様の率直な「声」が多くの社員にも届くことが、Twitter運用の価値の一つでもあるので、勉強会が終わった後、「Twitterを一切触らない」という状況には、したくなかったのです(すかいらーく)
こういった取り組みの結果、SNSや公式アカウント運用に対する理解が進んだ。さらに、Twitterでのお客様の「声」を受けて、新規メニューの開発につながったり、メニューのラインナップの見直しを行ったりした。
同じく東急ハンズでも、社内理解を得ることに苦労したという。「社内にTwitterをよく知っている人と、まったく知らない人がいることが課題だった」。この課題は、外部からの評価で解決したという。
Twitterを見たことがない、触ったことがない人たちに、私が何をやっているのか理解してもらうことが難しかったです。
しかし、外部メディアから取材を受けたり、記事として掲載したりしてもらうことで、社内での評価が変わりました。外部からの評価が社内に浸透してきたんです(東急ハンズ)
一方、「わさビーフ」の製造元である山芳製菓では、別の課題があった。山芳製菓がTwitterを開設したのは2013年。現在のように多くの企業が公式アカウントを開設していない時期だった。そのため「前任者・経験者がいない、自分より詳しい人もまったくいない状態」という状況だった。
解決策としては、とにかく炎上しないように運用しつつ、Twitter運用に関する本を買ったり、セミナーに参加したりしながら、少しずつ知識やノウハウを蓄えていったという。
課題や運営上での悩みがあって、社内で相談相手が見つからない場合は、セミナーで知り合った人やTwitterでやり取りする担当者に、メールで質問したり、直接会ったときに相談したりしていました。
これからTwitterを始めるという場合は、近い業界内でTwitterをうまく活用しているアカウントをフォローして、運用を参考にしてみるといいと思います(山芳製菓)
- 社内の認知や理解を得るために、勉強会とTwitter専用モニターの設置
- 外部メディアに取り上げられることで、社内の理解が高まる
- 前任者がいない場合、わからないことは同じ業界の先輩アカウントに積極的に質問する
Twitterの運用体制とその悩み
次に、話題は運用体制(1人・複数)と、運用する上での悩みの話へ移った。各社の運用体制は、以下の通りだ。
アカウント数 | 運用担当者 | |
---|---|---|
すかいらーくグループ | 7 (ブランドごとにアカウントがある) | 2 |
タカラトミー | 1 | 1 |
東急ハンズ | 1 | 1 |
山芳製菓 | 1 | 1 |
運用体制で感じている課題として、タカラトミーは「1人で運用していること」を挙げた。
ただし、属人化自体が問題ではないという。たとえば、1人の人が“中の人”として存在して、温かみや個性を出すことによって、お客様が安心してコミュニケーションが取れるといった良い側面もある。
一方、一人で運用することによって、投稿内容に多様性がうまれにくいことや緊急時対応といったリスクヘッジの面で課題を感じているという。
ありがたいことに公式Twitterを4年もほぼ一人で担当させてもらっていますが、今後は、チームでTwitterを運用できるようにしていきたいと思っています。1人のメイン担当が編集長のような形でスケジュールやトンマナ(トーン&マナー)を整え、ツイートを書く人が何人かいるというチーム運営をしていきたいです(タカラトミー)
また、東急ハンズも長く1人体制だったが、最近ようやくバディが見つかり、2人体制になった。
数年前から一緒にTwitterを運用してくれる人を探していました。『Twitterを使っていて、自ら手を上げてくれる人がいたらいいな』と思っていたところ、やる気のある人が名乗りを上げてくれて、一緒にやってもらっています(東急ハンズ)
念願叶って、2人体制になったものの、スムーズな運用には課題がある。2人が同じ部署ではないので、どう連携して、どう役割分担をするのが良いのか、運営するなかで問題を解決していっている。
すかいらーくの場合は7つのアカウントを運用。ブランドごとの新メニューやキャンペーンなど情報量は膨大だ。そのため、誰でもそのアカウントを運用できるように、運用担当者のペルソナを設定し、ペルソナが使う表現などが詳細に決められている。
ブランドごとにブランドターゲットに近い、運用担当者のペルソナを設定しています。
たとえば、ガストだったら30代男性、ジョナサンだったらスイーツが大好きな女性といったイメージです。リプライをするか、しないか、といったアクションまでフォーマットとして作りました(すかいらーく)
- 一人の「中の人」がいることはフォロワーの安心感につながる
- 複数体制にする場合は、Twitterをよく理解している人をバディに選ぶ
- 中の人のキャラクターを決め、アクションまでマニュアル化する
炎上・誤爆対策のための承認フローや、気を付けていることは?
次の話題は、ツイートする際に承認制度があるかどうかに移った。承認フローが明確にあるのはすかいらーくのみで、1か月分のツイートをあらかじめ作っておき、承認ツールに入れておくという方法だ。
少ない人数でたくさんのアカウントを見ているので、ツイートはまとめて作っておきます。広告など、手の込んだクリエイティブが必要ものはパートナー企業に依頼し、それも承認ツールに入れます。
上司が書いたものは私が、私が書いたものは上司がチェックして投稿という、一段階認証で運用しています(すかいらーく)
また、タカラトミーもかつては承認フローがあったという。
アカウント作成当初は承認フローがないまま運用していましたが、社内からの指摘をうけて、一時は承認フローを設けていました。しかし、半年間無事に運用していたので承認フローは解消しました(タカラトミー)
現在は承認フローはないが、具体的なガイドラインは設定している。ガイドラインの基礎部分の考えは、「常にフォロワー目線」であることだ。
そのツイートを世に出したときに、フォロワーはどう思うかと考えることで、「炎上リスク回避」と「信頼の獲得」につながる。また、企業都合の情報発信は極力避けるべき(但しそれが求められている場合は別)。常にフォロワー目線でいるために気を付けていることは、以下のような点だ。
- おすすめな人や使用シーンを明記する
- 企業目線の宣伝文句は極力使わない
- フォロワーのコメントにできるかぎり返事をする
- 特定の人をからかう、馬鹿にするような表現はしない
運用のガイドラインとは異なるが、同じく承認フローがない東急ハンズも、アカウントを運用するうえで気を付けていることを10カ条にまとめている。
山芳製菓も、運用のガイドラインはないが、気を付けていることがあるという。それは、投稿するときは「自分の中に視点を設ける」ことだ。この視点は、以下の3つだ。
- 自分がワクワクするか
- フォロワーさんがどう思うか
- 会社ごととしてどう捉えるか
上から順番に考えることが大事だ。逆から考えるとアイデアの幅が狭くなったり、限定されたりしてしまう。この視点を常に意識することによって、山芳製菓は今まで「炎上はゼロ」だという。
Twitterの運用は、顧客とのコミュニケーションのため
これまで各社の悩みや運用体制、承認フローについて聞いてきたが、それぞれのTwitter運用の根底には、「顧客とのコミュニケーション」がある。Twitterを運用する目的について、各氏が語った。
SNSの最終目標は売上ですが、ブランド想起のきっかけ作りのために運用しています。お客様が「今日のお昼はどこにしようかな?」と考えたときに、頭の中に浮かぶブランドになれるようにしたいです(すかいらーく)
ファン作りが目的です。フォロワー数よりも、関心を持ってもらえるアカウントを目指し、リツイートしてくる人の割合など、エンゲージメントを指標にしています(タカラトミー)
ファンになってもらい、繋がりを大事にしたい、という目的です。東急ハンズは小売業なので、実店舗の接客でファンになってもらうということは昔からやってきました。
今はお店に来ていない方にも、SNS上で店舗と同じように接客することができるので、その繋がりを通してファンになっていただきたいと思っています(東急ハンズ)
自社ファンの親近感を高めることが目的です。お客様とのコミュニケーションを重視しています。小まめな対応とユーモアの2軸で、会話のきっかけを提供できるよう心掛けています(山芳製菓)
最後に
TwitterというSNSの特性上、運用担当にも、“場”の流れや雰囲気を理解していることが求められる。特に、Twitterは他のSNSと比べて話題の流れが速い。そのため、「毎朝のツイートのフォーマットを決めるなど、きちんと登場することが重要」という意見も出た。
場の雰囲気を理解していれば、炎上することは少ないので、今から公式アカウントの運用を始めるという場合は、まず社内にTwitterが大好きという人材を探すのが先決かもしれない。
また、いずれのアカウント運用者も「お客様のため」にSNSを運用していた。フォロワーや情報の受け手にとって良いコミュニケーションとは何かを考え、その人のためになることを発信することが重要だろう。
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