【レポート】Web担当者Forumミーティング 2019 Autumn

デジタル変革が進まない本当の理由とその解決策とは?

なかなか進まない、企業のDX。その原因は「現状に不満がない状態=コンプレイセンシー」かもしれない。ヤフーの井上氏が、コンプレイセンシーの打開策と社内政治について解説した。
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先進的なマーケティングテクノロジーを導入したくても、経営トップや上司を説得しきれない──。そんな問題を抱える、担当者の方々も多いのではないだろうか?

実はこの問題を突き詰めて考えてゆくと、むしろ問題なのは「抵抗勢力」ではなく、「コンプレイセンシー」に囚われた人々だと主張するのは、ヤフーの井上大輔氏だ。

井上氏は、多くの人が悩む“社内調整”について、「Web担当者Forum ミーティング 2019 秋」で語った。

ヤフー株式会社 マーケティングソリューションズ統括本部 マーケティング本部長
井上大輔氏

みんなの悩みは「社内調整」

井上氏がヤフーに入社したのは去年(2019年)の2月。それ以前はアウディジャパン、ユニリーバ、そしてニュージーランド航空で、マーケティングコミュニケーションに携わってきた。

今回の講演で“社内調整”について取り上げたのは、井上氏がキャリアを通じてこの問題の根深さを実感しているからだ。よくビジネスセミナーに登壇する井上氏は、主催者から「デジタルマーケティングやDXを推進する上で、社内や上司の説得が難しいので、対処法も教えて欲しい」と依頼されることが多いそうだ。

なぜ社内調整に悩む人が多いのか? デジタルマーケティングやDXの推進が関連する領域が広く、企業の経営トップから現場担当者まで、すべての業務を見直すことになる場合もある。関係者の数も当然多くなるが、変革に後ろ向きな人も出てくる。これについて、井上氏は次のように語った。

DXが話題になる今、関係者の“心のトランスフォーメーション”はあまり体系的に語られることがない。特に、難しいのが、『コンプレイセンシー』とどう戦っていくかだ(井上氏)

「コンプレイセンシー(complacency)」を辞書で調べると、「ひとりよがり」「自己満足」という意味になる。しかし、ビジネスの世界では「現状に満足してそれ以上の改善・改良・変更を試みないこと」という意味でよく使われると井上氏は語る。

「コンプレイセンシー」とは

ではなぜ、“社内調整”に「コンプレイセンシー」との戦いが必要なのだろうか?

「コンプレイセンシー」は抵抗勢力よりも手強い

コンプレイセンシーについて、身近な例をあげよう。健康診断で悪い数値が出ているのに、改善に向けた行動ができない。誰にでも思い当たるフシがあるだろう。

これは、「今は健康なのだから」という、「現状への満足」が根底にあるのではないか。考え方によっては、風邪で熱があるなどの差し迫った体調不良より、こういう場合のコンプレイセンシーの方がタチが悪い。

同じことが業務改革にも言える。業務改革を試みる場合、必ず「抵抗勢力」がいる。しかし、「抵抗勢力」への対応は困難ではあるが、算段が立てやすい。

「抵抗勢力」は、全体のボリュームから見ると大抵は少数派だ。そして、明確な理由付けをして反論してきてくれる。主張の対立は顕在化していて、人数も把握できる。

それに対して、現状に満足し変化を受け入れない人とは、主張を戦わせることができない。変化が必要な事自体はすでに理解しているからだ。多数派でありながら、どれくらいいるかも解らない。「目に見えず、匂いもないが有毒なガス」のように、扱いがとても難しい。

まとめると、コンプレイセンシーが厄介な理由は2つだ。

  • 多数派でありながら、どれくらい蔓延しているかよく解らない
  • 変わらなくてはいけない理由を説いても仕方がない

こういったコンプレイセンシーを打破しなければ、DXをはじめとする業務変革はなかなか難しい。さらに、「企業の特性によって業務変革はさらに難航することがある」と、井上氏は言う。

DX推進で一番厄介な企業タイプ「非トップダウン文化+保守志向の現場」

井上氏は、コンプレイセンシーを倒す前方法の前に、DXの推進に難航する企業のタイプを紹介した。

企業タイプは、トップと現場の志向、トップダウン文化と非トップダウン文化の組み合わせで4つに分かれている。それぞれの特徴は以下の通りだ。

4つの企業タイプ

トップダウン文化 + 変革志向のトップ

「トップダウン文化 + 変革思考のトップ」は、苦戦することなく、業務変革が進んでいく。変革思考のトップはDXをはじめ業務変革に積極的になり、社内にもトップの考えが浸透しやすいからだ。スティーブ・ジョブズが率いたアップルなどがそうだろう。

非トップダウン文化+変革志向の現場

「非トップダウン文化+変革志向の現場」は、変革思考の現場が積極的に業務改革を進め、ボトムアップで随時変革されていく。そのため、このタイプも大きな問題はない。Googleなどがこのタイプではないか。

トップダウン文化+保守志向のトップ

「トップダウン文化+保守志向のトップ」は、トップさえ説得できれば、業務変革はスムーズに進むので、同じく難易度は高くない。DXに関しては、社会的関心事になっているため株主からの突き上げなどもきっかけになりうる。

 

“トップが明確な意思をもち、その意識が末端の現場まで伝わり、それが確実に遂行される組織”をここではトップダウン文化といっている。“トップの顔色をうかがい、機嫌を取る事を最重視する組織”は、ここでいう「トップダウン文化」ではない。

非トップダウン文化+保守志向の現場

「非トップダウン文化+保守志向の現場」が、一番の問題だ。トップの志向が末端まで浸透しにくく、現場が保守志向だと動きも鈍い。

「非トップダウン文化+保守志向の現場」の企業でDXを推進するには?

もし読者の皆さんが、「非トップダウン文化+保守志向の現場」の企業でDX推進特命部長に選ばれた時、どうすべきか? 鍵はコンプレイセンシーの打破にある。

井上氏は、コンプレイセンシー打破のための5条件を紹介した。

<コンプレイセンシー打破の5条件>①全員に直接語り自分ゴト化してもらう ②理解し共感する ③ギャップを理解する ④チェンジエージェントをつくる ⑤「クイックウィン」をつくる
コンプレイセンシー打破のための5条件

順を追って説明していく。

1.  全員に直接語り自分ゴト化してもらう

あるリテール部門において、それまでExcelベースだった顧客データベースを、本格的なCRMへと移行するプロジェクトが動いているとする。

全社員に対して「なにかアイデアがあったら送ってください」というお願いメールを出した。しかし、これに反応してくる社員はほぼゼロだった。何が根本的な問題なのだろうか。

井上氏は、反応を得たいならば、可能なかぎり全員と顔を直接合わせ「メールを送ったけど、見てくれた?」などと話すべきだとした。

『なんだ、そんな事か』と思われるだろうが、これは確実に効果がある。実際やってみると『あ、あのメールって私も意見を言っていいんですか』というような反応が返ってくる。

全員宛のメールでも、『一部の営業部長などだけに宛てたものだろう』『若手社員向けだな』などと、みんなそれぞれ(他人事だと)解釈してしまうからだ(井上氏)

井上氏自身、これらを「泥臭い方法」と自嘲するが、欠かせない重要な一歩であるとした。

2. 理解し共感する

「説明がしっかりしている」「じっくり話を聞いてくれる」病院ほど、患者はいい病院だと感じるそうだ。

話を聞いてもらった、解ってもらえた、という患者の実感が治療の大きな後押しになるのだろう。業務変革を進めたくない人がいる場合、その人たちの立場を理解し、共感しようと努める事で、前向きな姿勢を持ってくれる人も少しずつだが出てくるものだ。

3. ギャップを理解する

「大都会」と聞いてなにをイメージするだろうか? 岡山、新宿、 東京、パリ、ニューヨーク、クリスタルキングの名曲『大都会』。

これらは全部実際にあった回答だ。リーダーが伝えることと、聞き手が受け取ることの間には、常にこのようなギャップがある。「なんでニューヨークなんだよ!大都会といえばクリスタルキングじゃないか!」と憤っても仕方がない。

たとえば「顧客管理」といっても、それぞれイメージするものが違うかもしれない。業務変革のリーダーは、常にそのようなイメージのギャップを把握し、それを埋める努力をしなくてはいけない。

4. チェンジエージェントをつくる

「チェンジエージェント」とは、変化の触媒になるような人たちだ。

チェンジエージェントを選任するにあたっては、その人物が「アイデアを自発できる」「変化に前向き」などの条件がある。ただ、注意点もあるとして、井上氏は以下のように語った。

アイデアを自発できる、変化に前向きな人は、我が強かったり、キャラが濃かったりするケースも多いだろう。声が大きいからといって選任しても、皆が耳を傾けているかと言えば違うこともあるので、注意が必要だ。

そのため、周囲から「尊敬されている」人かという点も、重要な視点だ。人の輪の中心にいるような人、自然とその人の席に人が立ち寄るような人がふさわしい(井上氏)

<チェンジエージェントの条件>1. アイデアを自発できる 2. 変化に前向き 3. 尊敬されている
チェンジエージェントの条件

5. 「クイックウィン」をつくる

最後は、「クイックウィンをつくる」ことだ。プロジェクトを推進するうえで、何よりも重要なことは、まず結果を出すことだ。小さくても「結果」がわかると、変化が進んでいく。

ただし、全社規模のDXともなると、そう簡単には成果が出しづらい。その際には、「お客様から感謝の声を頂いた」、「顧客との接触時間が○○分伸びた」など、週単位・月単位でなにかしらの成果が出るような目標作りが重要だ。

クイックウィンが積み上がっていくと、社内に味方が増え、DX推進側がマジョリティになる。こうした取り組みが、好循環を生み出していく。

精神論ではなく、科学的アプローチでDXを進めよう

「人は常に変わりたいと思っている」と、井上氏は言う。たとえば新年に「今年は英語を覚えよう」など、目標を立てる人は多い。つまり、自分の能力を向上させたい、よい生活にしたいという思いは、誰しもが持っているだろう。

一方で、「変えられたくない」と思うのも人間の心理だ。特に外部からの意図(DXのように企業側の都合や意図)によって変化を強制されると、反発心が高まるのも事実だ。

人はみんな変わりたいが、変えられたくないと思っている。だからこそ、人々の「自発的な変化」を促すことが、DXに限らず様々なプロジェクトを進める上で重要だ(井上氏)

井上氏は、今回の講演で説明した手法が完璧な正解ではないとしつつも、「“心のトランスフォーメーション”の実現は、いつか体系化できると信じている」と締めくくった。

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