ゼロから始める動画広告、成功のカギを握る4つのポイント
モバイルやSNSでのコミュニケーションが当たり前となり、5G本格導入を前に動画広告施策を検討、採用する企業が増えてきた。
「Web担当者Forum ミーティング 2019 秋」に登壇したViibarの鈴木雄翔氏は、「動画広告は万能ではないので、設計をきちんとするべきだ」と述べる。動画施策をゼロからはじめたいマーケター向けに、動画広告施策を成功に導く設計、運用のポイントを4つにわけて示した。
- ポイント① ゼロから動画広告を始めるには、目的意識を共有する
- ポイント② 動画広告は主に「3つの制作技法」があることを理解する
- ポイント③ 広告運用者を中核にした施策・広告配信設計が重要
- ポイント④ 企画・制作のフレームワーク「CAMS」から第一歩を
ポイント① ゼロから動画広告を始めるには「目的意識」を共有する
YouTubeやInstagram、Facebook、Twitterなどの広告施策で、動画を採用する企業が増えてきた。しかし、鈴木氏は「広告において動画であることに意味はなく、そもそも動画は万能ではない」と指摘する。
一般的に、動画広告には「多彩な表現ができる」「ブランド認知に効率的」「コンバージョン率がアップする」といったメリットがあるといわれるが、「なぜ動画広告に取り組むのか。動画で伝える価値のあることは何か」を最初に考える必要があるのだ。
この「目的意識」が大事であり、誰に対し、どんなことを伝え、どのような効果を期待するのかを考えることだ。鈴木氏は、動画と静止画の特性を次のように挙げる。
動画の特性
動画は、動きや音声の表現によってストーリーをもったメッセージングが可能で、最大情報量は多い。その反面、視聴時間によって届けられる情報が異なる。
静止画の特性
一方、静止画は情報量は限られるものの、全員に同様の情報を届けられる。
動画だけに目を向けるのではなく、メッセージを端的に伝えられる静止画の役割も考えたうえで、動画をどう活かすかも考えなくてはならない。
動画化する価値(動画化価値)を考える
こうした特性を踏まえ、広告において「動画化価値」のある訴求や表現は何か、を考えることが重要である。
動画化価値とは?
「動画化価値」のある内容とは、次のようなことであると鈴木氏は言う。
- 商品のベネフィットや、独自性のある内容
- 複数の情報を集約してストーリーで伝えることで訴求力や伝達性が増す
- 動画にしかできない情緒的な訴求や表現
たとえば、広告する商品が「23区内の20代男性のオフィスワーカーをターゲットにした完全食」の場合、「『数分で必要な栄養素を摂取できる機能価値』と『使える時間を増やし、仕事もプライベートも充実化できる情緒価値』の両方を動画で伝えたい」といったことだ。
このように「動画化価値」を明文化して、広告目的をまとめて、ステークホルダーに共有したうえで取り組んでほしい(鈴木氏)
また、成果指標についても定義していくが、鈴木氏は、「購買や来訪、認知や選好など、いずれの施策目的においても、視聴率やクリック率だけでなく、その先のビジネス貢献を見ることが大事。動画広告の「視聴貢献」の可視化や判断は難しいものの、ビジネスや課題に合わせて仮説を立て、成果指標を見出していく姿勢が今後より一層求められていく」と述べた。
ポイント② 動画広告は主に「3つの制作技法」があることを理解する
2番目のポイントとして、鈴木氏は目的に合わせた「動画の制作技法」を選定することだという。企業の動画広告における制作技法は、次の3つに大別できる。
① モーショングラフィックス
主に、静止画(写真、イラスト)や図形、テキストを動かして動画を制作する技法。Webサイトや広告LP、パンフレットやチラシなど広告主が所有する静止画素材をベースにできるため、制作しやすく、コストパフォーマンスにも優れた手法だ。
費用感: 外注すると3万円から30万円ほど
② キャラクターアニメーション
アニメーターやクリエイターが制作チームに入るため、モーショングラフィックスに比べると、施策の改善サイクルの早さ、動画の仮説検証のしやすさはやや劣る。
費用感: 外注すると50万~500万円ほど
③ 実写
テレビCMと同じような実写動画は、キャスティングやロケ、脚本などが必要なため高額な制作費がかかる。その反面、企業のブランディングや情緒的な価値を表現するときに向いている。
費用感: 外注すると100万円から3,000万円ほど(もっと高額になる場合もある)
鈴木氏は、それぞれの制作技法の特性や向き・不向きを頭に入れて欲しいと述べる。制作費は「モーショングラフィックス」「アニメーション」「実写」の順で高額になっていく。企画・制作、仮説検証は「モーショングラフィックス」「アニメーション」「実写」の順にスピードが速い。
一方、差別化した動画表現、情緒的な価値表現では、「実写」「アニメーション」「モーショングラフィックス」の順番となる。これらを踏まえ、広告目的(購買プロセス)別に制作技法を使い分けた施策例を紹介した。
- 購買: ありもの素材でのモーショングラフィックス
- 理解: アニメーション
- 認知: アニメーション+部分的に実写
- ブランディング: 実写
この中で、鈴木氏がゼロからはじめる場合に推奨するのが「モーショングラフィックス」だ。広告主が所有する素材を流用でき、部分修正や制作の柔軟性、スピードも圧倒的に速いのがその理由だ。「購買やSNS反応などの定量指標のもとで、まずはモーショングラフィックス主体で動画広告施策に取り組み、チームとして経験を得ていくことも一つの方法」だという。
ポイント③ 広告運用者を中核にした施策・広告配信設計が重要
動画広告の3番目のポイントは「広告配信設計(メディアプランニング)」だ。鈴木氏によれば、「動画広告は良くも悪くも視聴者に与えるインパクトが強いため、広告配信設計は重要なプロセスの一つになる」という。
広告配信設計が甘いと、動画が視聴者にとって違和感がある内容になったり、ブランドイメージを損ねたりする可能性もある。
そこで、まず「メディア」「掲載先と広告フォーマット」「広告キャンペーン(自動入札/最適化)」「ターゲティング」「その他設定(フリークエンシーキャップや時間帯など)」などを定める。この「誰にどのように届けるか」を設計してから動画を制作することで、ターゲットにとっての視聴体験を良いものにでき、結果的に施策の成果も高めることができる。
たとえば、広告キャンペーンについては、メディア・掲載先がYouTube動画広告の場合、目的別に次のようなメニューが推奨される。
- リーチ・認知: 「バンパー」「TrueView リーチ」
- 理解・選考: 「TrueView インストリーム」
- 行動・購買: 「TrueView アクション」
また、YouTube動画広告におけるCTA(Call To Action)ボタンの位置や、Twitter(モバイル)の「ビデオウェブサイトカード」のテキストパーツなど、「各メディアの広告フォーマット仕様を把握し、ユーザーがスクリーン上でどのように視線を動かすかまで考えてから動画広告を制作すべき」だという。
このように、「広告配信設計」は、運用型広告や、メディアとそのユーザーへの理解がないと難しいことがわかる。静止画の広告運用やクリエイティブの知見も活きるため、動画広告施策のチーム組成に際しては、そうした広告運用者を中核メンバーにすることが重要だ。
ポイント④ 企画・制作のフレームワーク「CAMS」とは
そして、4番目のポイントが「動画広告の具体的な企画」だ。鈴木氏は、主に来訪や購買などの具体的な行動を促す動画を企画する際のツールとして、動画広告の企画構成フレームワーク「CAMS(キャムズ)」を示した。
これは、動画広告の構成を4つに分類したもので、CAMSは次の頭文字をとっている。
CATCH(キャッチ:つかむ)
課題や問題提起、または視聴者のインサイトに触れる内容で、1~2秒で心をつかみ、視聴への期待につなげる。
APPEAL(アピール:商品価値訴求)
ブランド情報とともに、CATCHに連動する内容で商品のベネフィット(独自性)をアピールする。
MOTIVATE(モチベート:動機付け)
疑問の解消や不安の払拭、実績、顧客の声、キャンペーンのインセンティブなど、補足的な情報で行動への動機づけをする。
SUGGEST(サジェスト:提案)
視聴者に期待する行動内容を、明確にわかりやすく勧める。
また、基本形は上記の構成だが、検証すべき訴求や表現内容が複数ある場合は、まずは「CATCH」と「APPEAL」の2つを、A/Bテストの変数にして効果検証を行うのが効果的だという。
鈴木氏は「広告目的やメディアに合わせて、「APPEAL」と「SUGGEST」だけで構成することもある。CAMSに縛られることなく、CAMSを共通言語にして関係者とのコミュニケーションにも役立てることができる」と述べる。
これらを踏まえた上で、「メディア適応」「ターゲット関連性」「ブランドらしさ」「明白さ」「あっという間(に視聴が終わる)感」「独自性・意外性」などを満たすよう、動画クリエイティブを企画、制作していく。
そして、鈴木氏は、その他の企画制作のTipsとして、次のようなポイントを示した。
- 「誰に対しての広告か?」というペルソナ設定をしっかり行い、関係者共有を行う。
- A/Bテストの変数は絞り、大胆に行う。
- はじめは短尺の動画からはじめる。
- YouTube動画広告は音声(BGM、効果音、ナレーション)を軽視しない。
- SNS広告は冒頭の1~2秒で親指を止めてもらえるかが大事。動画内容だけでなく、テキストパーツや自社SNSアカウント名・ロゴなどの構成要素も含めて磨く。
- 加えて、動画の企画、改善において定性インタビューを行うことや、制作者と目線を合わせるためにも、簡易的なものでいいので絵コンテを自分で作ってみることもおすすめしたいということだ。
最後に、鈴木氏は、今日の講演で示した4つのポイントを踏まえ、「動画広告は経験値を積まないと前に進めないため、小さくても確かな第一歩を踏み出して欲しい」と述べ、セッションを締めくくった。
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