CX(顧客体験)施策を成功に導くポイントとは? 3社の事例から学ぶ
CX(顧客体験)はさまざまな業界・業種で共通して重要視されている。プレイドの福島正隆氏によれば、CXとは「特定のシーンだけを切り取って体験とするのではなく、オンラインとオフラインを問わず、さまざまなシーンにおける体験を向上させる取り組みのこと」だという。
「Web担当者Forum ミーティング 2019 秋」に登壇した福島氏は、プレイドの顧客体験プラットフォーム「KARTE」を使って、オンラインでのCX向上を成功させている「ガリバー」「PAL GROUP」「&mall」の3つの事例を紹介した。
中古車買い取り・販売「ガリバー」:Webチャットで利益が10%増加
1つ目の事例は、中古車買い取り・販売の大手「ガリバー」のサイトだ。
ガリバーでは、オンラインで中古車の販売は行っておらず、購入するためには実際に店舗へ行く必要がある。通常オンラインで購入ができない場合、オンライン(ECサイト)のCXはおざなりになってしまうことがある。しかし、ガリバーでは店舗同様に、サイト上での接客を重視しているという。
たとえば、店舗へ来店する顧客は、大きく分けて2つのケースがある。
- オンラインで車に関する情報を取得してから、予約して来店するケース
- 予約なしで店舗に直接行くケース
店舗に来店する顧客の半分が、サイトで中古車に関する情報を取得した状態で来店するのだ。こういったことから、オンラインでの貢献度が高い企業だといえる。
そこでガリバーは、「デジタル空間でもリアル店舗と変わらない接客をする」という目的で、2019年4月にKARTEを導入。チャット機能を利用し、ユーザーに合わせてチャットを出し分ける施策を行った。
具体的には、サイトにアクセスするとチャットアイコンが表示され、クリックするとチャットボットが起動する。定型的な質問ならボットで回答し、条件のヒアリングなどは、店舗と同様のきめ細かな対応をするため、オペレーターが担当する。
こうした取り組みにより、同年5月~8月のCVが1.55倍になり、全体利益が前年比で10%増加したという。特徴的な使い方としては、以下の2つだ。
特徴① サポート強化に活用
チャットを使って営業活動をする場合もあるが、ガリバーでは「これがわかれば買うのに」というユーザーの気持ちに応えることで、機会損失を減らすという観点で使っている。
特徴② CTA(行動喚起)を工夫する
見ているページによってユーザーが知りたいことは違うので、行動を喚起するために、該当ページに合わせた声がけをしている。また、文言も顧客のニーズに合わせて変更しているという。
たとえば、自動車ローンの解説ページを読んでいるなら「お困りのことはありますか?」ではなく「ローンをご希望ですか?」にする。また、具体的な車種を見ているなら「確認したいことはありますか?」ではなく「(かかる金額の)総額をきいてみる」にするといった具合だ。
また、自由回答を求めるよりも、Yes/Noで答えられる“クローズドクエスチョン”を用いて答えやすいように工夫している。加えてチャットアイコンのキャラクターをアニメにして動かして親しみやすくするというのも、工夫の1つだという。
キャラクターは無機質なものより親しみやすいものが良い。それだけでもコミュニケーション機会が生まれ、CTRで倍くらいの効果が出る(福島氏)
この事例のポイントは、以下の3点だ。
- チャット利用の目的を明確にする
- 次のアクションにつながりやすくする
- そのためには、ユーザーがどのタイミングで何を求めているかを知る
アパレルブランド「PAL GROUP」:ECサイトで顧客体験全体をデザイン
2つ目の事例は、小売り領域で店舗やオンラインショップを運営している「PAL GROUP」というアパレルブランドである。ECサイトでも、店舗での買い物のような一連のプロセスを意識し、以下のような施策を行っている。
施策① 初回来訪時:サイトの特徴を4つのポイントで表示
初回来訪時は、ECサイトの特徴などを知らない状態だと考えられる。そこで、ウェルカムメッセージととともに、このサイトの特徴を4つのポイントに絞って表示している。たとえば、「送料が5,000円以上で無料」「返品OK」といったことだ。
「長々と話すより、要点だけまとめてお知らせする」のがポイント。これで、会員登録率が20~30%上がる(福島氏)
施策② 商品を探索中の場合:閲覧ページに応じて人気ランキングを表示
店舗の場合、デニムのパンツを手に取った顧客に、「最近はこういうデニムが人気です」など、その人の今の関心に合わせて店員が声掛けすることはよくある。ECサイトでもその接客と同様の体験を実現するために、閲覧ページに応じた商品カテゴリのランキングを見せているという。
施策③ 購入を迷っている場合:クーポンを配信して購入を後押し
店舗で期間限定セール中などのときに「今ならお得ですよ」と店員に言われて、つい買ってしまうことはあるだろう。同様に、ECサイトでも購入意欲が高まっている人に、後押しするようなクーポンを配信する。
購入意欲が高まっているかどうかは、KARTEの「スコア」機能で判定できるという。たとえば、「お気に入りに追加したら+5」「長時間閲覧していたら+8」「カートに入れたら+15」「商品の写真を3D閲覧したら+0.5」と顧客の行動を数値化する。「合計スコアが70になったら購入意欲が高まっていると判断する」などの設定をするのがスコア機能だ。
施策④ 購入時:コーディネートできる別商品も併せて提案
パンツを買おうとすると、店員に「パンツに合わせたトップスはいかがですか?」などと声をかけられることがある。これと同様にECでよく見るのが、「カートに入った商品と一緒に買われている商品」が表示されるといったことだろう。
PALでは、もう一歩踏み込んで「カートに入っている商品と組み合わせれば、こういうコーディネートができます」など提案をしているという。
施策⑤ 離脱防止:カートに商品が残っていることをリマインド
カートに商品を入れたものの、購入せずにサイトを離脱してしまうことがある。今日は買うのをやめておこうと思っている可能性もあるが、単純にカートに入れたことを忘れて他の商品を見ている場合もあるので、リマインドすることは重要だ。
また、購入に至らなかった場合は、メールでリマインドする。リマインドメールは、「カートに入れた」以外に、「お気に入りに登録した」「商品ページを閲覧した」などのトリガーでも送信している。
施策⑥ 再訪時:トップページにお気に入り商品などを表示
一度離脱したものの、あらためて買いに行こうと思い立ったときには、その商品にすぐにたどりつける方がいい。そこで、サイトのトップページ自体のパーソナライズを行い、そこで「お気に入り登録」や「カートに入れた」商品を提示している。
施策⑦ 配送待ちの場合:マイページに配送のQ&Aページをリンク
ユーザーは注文を完了後、いつ商品が届くのかを知るためにマイページに調べに行くことがある。そのタイミングで、「ありがとうございました」というメッセージと、配送に関して記載したページへのリンクをポップアップしている。不安になるタイミングでサポートする仕掛けで、配送に関する問い合わせを9割削減できたという。
以上のように、「さまざまな形でプロセスを把握しながら取り組みをしている」という。この事例のポイントは以下の3つだ。
- 顧客の瞬間の行動だけでなく、一連の行動をもとに施策を展開する
- 体験プロセスのなかでの、感情の起伏に着目してみる
- 顧客の状況に応じて適切なタッチポイントで情報を届ける
Webショッピングモール「&mall」:顧客理解のためにアンケートを実施
3つ目の事例は、顧客理解のためのアンケートの実施だ。三井不動産は、ららぽーとなどの商業施設に加えて、「&mall」というWebショッピングモールも運営している。
「商業施設がただモノを買うためだけでなく、時間を過ごす場でもあるように、&mallでも、モノを買う以外に、さまざまな目的とそれに対するニーズがあるはず」と考え、&mall内のユーザーのさまざまな反応を可視化し、改善するために、KARTEを活用してアンケートを実施している。
設計した体験を机上の空論で終わらせないために、ユーザーのフィードバックを得て、それをチームで共有・共感し、改善点をユーザーに届けることで顧客ロイヤリティの向上を図る施策である。&mallではこれをCXM(Customer Experience Management)サイクルとして定式化している。&mallでの取り組みのポイントは以下の2点だ。
- 机上の空論にならないよう、現状把握をする
- 組織のなかでアイデアを共有・共感し合う
CXが注目される理由と向上のためのポイント
ここまで事例を3つあげてきた通り、デジタルの接客においてCXへの取り組みは欠かせない。CXが注目されている背景として福島氏が挙げたのは以下の3点だ。
- 顧客ニーズや購買行動の多様化
- 企業と顧客との接点が増加
- 情報流通の多様化
現在は、取捨選択する主導権がユーザーにあるため、ただモノやサービスを送り出せばいいわけではなく、顧客の体験を考え、知り、改善に活かすことが重要(福島氏)
福島氏は最後に、CX向上のポイントを以下のようにまとめた。
- 心理的な価値(CX)が顧客の商品・サービスの選定/企業成長の鍵を握る
- CXは新しい概念ではなく、普遍的
- 顧客の体験を考え、知り、改善に活かすことが重要
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