顧客はそのサービスの体験に満足しているのか? 顧客をデータとしてではなく「人」として見る方法
22億人のユーザーが解析したCXプラットフォームの開発企業が語る、デジタルマーケティングの現状の課題と、個々の顧客に適したコミュニケーションを取る方法とは。
「Web担当者Forum ミーティング 2018 春」では、プレイドの倉橋氏が、デジタルマーケティングの現状の課題とその解決方法を、プレイドが提供するCXプラットフォーム「KARTE(カルテ)」の取り組みを通して紹介する。
「何を買ってもらうか」ではなく「誰に買ってもらうか」
スポーツ用品のミズノの担当者は、あるセミナーで次のように発言したという。
オートメーション化はとてもすばらしいが、細かな気づきになかなか出くわさない。気づき、面白がって、おもてなしを考えられる体制にしたかった。
「何を買ってもらうか」よりも「誰に買ってもらうか」。
「ペルソナ」ではなく、「リアルなお客様」を把握して接客できる。ただ作る仕事から、考えて作る仕事に変わった。
注目したいのは、「何を買ってもらうかよりも誰に買ってもらうか」という言葉だ。マーケティングでは、「何を売るか、誰に売るか」と考えがちだが、「売る」というのは企業側の目線である。一方ミズノの言う「買ってもらう」というのは、顧客目線の考え方。倉橋氏は、「今後は『顧客目線を与えてくれる』プロダクトが注目されるだろう」と考えている。
その背景は、以下の5点だ。
- 顧客ニーズの多様化と情報流通の分散化
- ベクトルの分散化が始まっている
- マーケティングの高度化と支援ツールの細胞分裂
- 手段の目的化が蔓延している
- 企業と顧客の間で双方の思いが分断されている
その ① 顧客ニーズの多様化と情報流通の分散化
5年前10年前であれば、ネット上でリーチできる商品はそれほど幅広くなかった。しかし現在は、あらゆるカテゴリのあらゆる商品がネットで見つかる。顧客にとっては、どのように選択すればいいのか迷う状況だ。
また、ECサイトのトップページから検索をして商品を探す従来の形だけでなく、LINE、Instagram、Facebookなどソーシャルサイトを通じて、直接、商品そのものから入っていく形の情報流通が生まれている。企業と顧客の関係が多様化しているという認識が必要だ。
その ② ベクトルの分散化が始まっている
マーケティングの関係者といっても、下記の3つのパターンがあり、それぞれベクトルが少しずつ違う。
- ブランド・EC
- メディア・パブリッシャー
- ベンダー・コンサル会社
かつてはどれも「集客」に重きを置いて、いかに人を集めるかという取り組みを進めていた。しかし、そうした方向性がそれぞれ変わってきている。
そのなかで最近特に変化しているのは、「ブランド・EC」である。売上を増やすためにいかに顧客を確保するかという「量」ではなく、いかに顧客に自分たちのことを好きになってもらうか、長期的な関係性を築けるかという、「質」の勝負に急速にシフトしている。
その ③ マーケティングの高度化と支援ツールの細胞分裂
マーケティングは非常に高度化している。それを解消するものとしてAIが期待され、昨今バズワードとなっているようだ。また、支援ツールはより先鋭化され、さまざまなツールに分かれていった。
これはマーケティングツールをカテゴリごとにまとめて一覧できるようにした「カオスマップ」を見ると明らかで、かつて150くらいのサービスしかなかったカオスマップは、現在5000ものツールで埋め尽くされている。
完璧なマーケティングを目指してそのすべてのツールを導入することは不可能だが、もし可能だったとしても、顧客のデータがあちこちにばらばらに、異なる形式で保存されることになる。
顧客体験が一元管理されていない環境で、局所的にAIを使っても、あまり意味はない。重要なのは、いかに顧客体験を統合的に可視化するかである。
その ④ 手段の目的化が蔓延している
多数のツールが登場したこともあり、「DMPを導入したい」「AIでなんとかしたい」など、キーワードで課題解決を求める声が増えている。しかし、手段はあくまで手段で、目的は何かと考えることが重要だ。現状では、効率・工数、売上など、定量化しやすいものが指標になっているケースが多いが、これは目的ではない。
その ⑤ 企業と顧客の間で双方の思いが分断されている
企画を考える時には、どのような顧客に届けたいかを考えて、施策を検討する。ところが、実際に顧客に届ける段階になると、その思いが欠落するケースが多い。
一方で、顧客の行動は数字としてまとめられた状態で企業に伝わる。人の行動を数字にしてしまうと、意味や気づきが欠落してしまう。
つまり、顧客が思っていることを企業が知る、企業が伝えたいことを顧客が知るという、感情の流通が重要なのだ。現状では、リアルとネット、またサイトやアプリごとに分断されているが、これらをつなぐことが求められている。
顧客をデータとしてではなく「人」として見る
根本的な課題は、「人が見えていない」ことだと倉橋氏は言う。あるサイトに送客されたのがどのような人で、どのような状態なのか、送客後どのような動きをして、結果的にコンバージョンしたのかといったことが見えていない。
また、売上などの数字でものごとを見てしまうことも課題だ。社内の評価指標となる数字の圧力が強すぎて、人の思いをどうくみ取り、企業の本来の目的とバランスさせるかという考え方になっていない。サービス提供者側であったとしても社外に出れば消費者であり、消費者として求めている体験があるだろう。それを意識してサービス提供する必要がある。そして自社のサービスが楽しくなること、好きになることが重要だ。
サイトの訪問者数や売上、離脱率といった数値だけを見るのではなく、「ユーザーはそのサービスの体験に満足しているのか」という観点からそれらの意味を考えるのが、「顧客目線のマーケティング」というわけだ。
顧客の可視化と自由自在なアウトプットを実現する「KARTE」
「KARTE」は、約3年前に「ウェブ接客プラットフォーム」としてリリースされた。
ウェブ接客というと、クーポンのポップアップや、チャットでのコミュニケーションをイメージする人もいるかもしれない。
しかし倉橋氏は、「アウトプットとしてどのような顧客体験があるかが問題なのではなく、裏側でしっかり顧客を捉えて、適したメッセージをマネージメントすることが重要な観点」だと言う。サイトにしろメールにしろ広告にしろ、多様なチャネルを通して適したメッセージを提供できるようにマネージメントするということだ。
そこで「KARTE」は、ウェブ接客からさらに上位概念の「CXプラットフォーム」へとポジションをシフトしている。
CXプラットフォームの定義とは
CXとは顧客体験のことだが、プレイドではCXプラットフォームを以下のように定義している。
CXプラットフォーム = CI × CXM
CIは新たなキーワードで、考え方がいくつかある。
1つは「Customer Indicator」(カスタマーインジケーター)で、定量的な数値化した評価指標のKPIに対して、顧客が満足しているかどうかを定量または定性で捉える考え方だ。
その他、「Customer Insight」(カスタマーインサイト)や「Customer Intelligence」(カスタマーインテリジェンス)とも捉えられる。
またCXM(Customer Experience Management:カスタマーエクスペリエンスマネジメント)は、CRM(Customer Relationship Management:カスタマーリレーションシップマネジメント)と対比して、「成果を生む」というよりは「体験を作る」という観点から、顧客体験を統合的にマネージメントするという考え方だ。
約22憶ユニークユーザーが利用する「KARTE」
ちなみに、「KARTE」の累計解析ユーザー数は約22億ユニークユーザー、マンスリーで約1.8億ユニークユーザーだという。KARTEで解析してるユニークユーザー数の半分はECサイトで、その他、不動産、金融、人材、B2Bのクラウドサービス事業者など、さまざまなカテゴリで使われている。その年間解析流通総額は6000億円ほどである。解析しているデータ量が膨大で、“グーグルのカンファレンスで基調講演に呼ばれたほど”だ。
また、2018年4月には、初のメジャーアップデートが行われ、さまざまな機能が追加された。
今回のアップデートで特徴的な機能のひとつが、夏に本格的にサービス開始を予定している「ライブ」だ。顧客が見ている画面をカルテの管理画面で確認できる(個人情報はマスクされる)もので、カスタマーサポートなどでの活用がイメージしやすい。
どのページを見たかだけでなく、気になるキーワードをハイライトしたなどの行動が手に取るように把握できる。これにより、オンラインの接客を、オフライン店舗における店員の接客に近づけることができるだろう。
データを数値としてではなく人として見ることで、さまざまな気づきが得られる。例えば「KARTE GARDEN」というR&Dの一環として取り組んでいるサービスでは、3D空間に顧客を描画する。このため、実店舗で顧客の様子を見るような感覚で把握できる。
同じ場所で10分間立ち止まっている人に対して、どのような声かけをすればいいかなど、サービス提供者の想像力を引き出し、よりよい顧客体験を可能にするものだ。
倉橋氏は、「プレイドでは、このようなR&D的な取り組みも含めてデータから実際のお客様ひとりひとりを人として捉えて、よりよい体験が世の中に流通するように取り組んでいる」と締めくくった。
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