【レポート】デジタルマーケターズサミット2022 Winter

YouTube広告活用でEC売上が2.58倍! 大丸・松坂屋が取り組んだマーケティング施策

YouTube広告動画のリスクと効果を、大丸松坂屋百貨店が実施したYouTube広告動画の実例を元に、販促・広報・インバウンド担当の西本氏が語った。

インターネット広告はその普及と共に、提供形態・媒体がますます多様化している。中でも採用が広がっているのがYouTube広告だろう。国内外で圧倒的知名度・シェアを誇る動画サービス内に出せる広告であり、検索連動広告などとはまた違った効果が期待できる。

デジタルマーケターズサミット 2022 Winter」では、国内の二大百貨店をグループに抱える株式会社大丸松坂屋百貨店が登壇。コロナ禍における店舗集客、そしてECサイト集客のためにYouTube広告をフル活用し、EC売上昨対比2.58倍を達成した。その事例を含めたYouTube広告活用の舞台裏について、同社の西本祥子氏が解説した。

株式会社大丸松坂屋百貨店 西本祥子氏(本社営業本部 営業企画部 販売促進・広報・インバウンド担当)

バンパー広告とTrueView広告、どちらが効果的か?

講演は、実際に大丸京都店が実施したYouTube広告の事例を元にしたクイズから始まった。次の2つの動画のうち、どちらがより成果が出たかを聴講客に訊ねたのだ。

  • 選択肢A:約5秒の間に北海道をイメージさせるカットが詰め込まれた構成。ユーザーが任意にスキップできない「バンパー広告」と呼ばれる。
  • 選択肢B:1分以上の長い尺の中で、社内のバイヤー2名がショッピング番組風に商品を紹介するもの。ユーザーが手動操作でスキップできる「TrueView広告」と呼ばれる。
選択肢Aの動画。約5秒に北海道の見どころを詰め込んだ
選択肢Bの動画。テレビショッピング風かつ尺も長い

正解はどちらだっただろうか? 

答えは「B」

Bの動画を30秒以上視聴した率は16%にのぼり、ECサイトの売上は直近の企画と比較して158%増(2.58倍)を記録したという。

西本氏は、こうしたオンラインショッピングだけでなく、店舗も含めたグループ全体の販売促進業務に携わっている。北海道の店舗と近畿圏の店舗では客層・立地・競合などの環境がまったく違うし、ECにはECの事情がある。そうした差を考慮しつつ、広告などのデジタルメディアをいかに効果的に活用するかが、西本氏に課せられた使命だ。

失敗で気付かされた「コミュニケーション戦略」の重要性

実は西本氏、YouTubeによる販促に初めて取り組んだのは2011年と、かなり早かった。化粧品ECサイトの販促担当だった当時、同僚社員と共に、自らが出演するYouTube動画を制作したという。しかし「結果は散々。動画のクオリティも悲惨で、再生回数は最高でも100回ほど。ECの売上増にも繋がらなかった」(西本氏)。

2011年時点でYouTube販促にチャレンジするも、成果は出ず

失敗の要因として挙げたのが「コミュニケーション戦略の不在」だ。製作費がないことを言い訳にして、「何のために」「誰に向かって」「どうやってコミュニケーションをとるか」「PDCAをどう回すか」を思い描くことができず、YouTubeをはじめることが目的化してしまっていたという。「戦略・目的がないので、失敗を次に活かかすこともできずに終了してしまった」と、西本氏は当時を振り返る。

転機となったのは、現部署に異動した後の2016年。担当していたLINE公式アカウントが、経済産業省の「ソーシャルメディア活用ベストプラクティス」に選定された。大丸松坂屋百貨店のキャラクター「さくらパンダ」を全社を挙げて活用していたことが選定の大きな理由だが(つまり自分の成果ではない部分が大きいが)、定期的に集客・売上に寄与する企画の実施が評価を得たことにより、コミュニケーション戦略の重要性に改めて気付いたという。

まずは戦略を決めること。そうすれば、使うべきメディアが決まる。その上でPDCAを回していく。これを会社全体で一緒にやりたいと思い、現在に至ります(西本氏)

「折込チラシ」を「YouTube広告」に置き換え

では、なぜ、使うべきメディアがYouTubeだったのだろうか? 百貨店における販促といえば、これまではパンフレット・カタログ・郵便などの紙媒体が定番だった。だが、各種統計調査の結果などからは、消費者の行動やメディア接触時間がデジタル媒体へシフトしていることが明らかになっている。

そこで大丸松坂屋百貨店では、2017年から自社メディアをDX化し、紙媒体からデジタル媒体へと既存メディアを置き換えることにした。デジタル広告の効果検証を行うための社内体制も整備し、2018年からは、年間平均400キャンペーンを実施して仮説検証を繰り返した。

顧客の嗜好変化に合わせて戦略を変えた
社内体制も整備

今、西本氏らがYouTubeを重視しているのはまさにこの検証結果によるものだ。YouTubeは利用者数が圧倒的に多く、あらゆる年代・性別の顧客へリーチできる。そのためターゲティングの自由度が極めて高い。また、動画メディアであることから、静止画のバナー以上にリッチな訴求ができる。

最もマス広告に近く、リーチが獲得でき、かつ、マス広告よりも費用効率が良いのがYouTube広告だった(西本氏)

動画広告と、その他既存広告との比較
折込チラシを置き換えるほどの成果が、YouTube広告で出ているという

事例① 大丸京都店でのYouTube広告例

続いて西本氏は、大丸京都店におけるYouTube広告の活用事例を紹介。同店は京都市内でも屈指の繁華街にあり、周辺店との競争が激しい。また、コロナ禍ではイベント開催が難しく、緊急事態宣言などによって急遽開催中止になることもあるなど、宣伝方法が限られてしまっていた。名物催事である「北海道物産展」も店頭販促に不安があったので、ECでの販売に活路を見出すことにしたという。

コロナ禍での集客型イベント開催はハードルが高い

そこで西本氏らは、「北海道物産展」の魅力を伝えるため、YouTube広告の実施を決定。再生回数にはこだわらず、あくまでも「イベントの魅力を楽しく伝えること」を目的にした。やること・やらないことをハッキリと分けた格好だ。

出稿プランも厳密に策定した。既存客には、アプリやメールマガジンなどのオウンドメディアを通じて情報を届けられる。その上で、オウンドメディアだけでは届かない層、つまり「北海道物産展は好きだけれど、大丸松坂屋百貨店の会員ではない層」に効率よくリーチすることを狙った。ちなみに、本稿冒頭のクイズで取り上げた動画は、まさにこの施策で実際に配信されたものである。

YouTube広告の位置付け

YouTube広告動画の制作で意識したことは、視聴者の心の状況に合わせること。まずは冒頭で大丸京都店であることをアピールし、既存顧客の店頭集客を狙った。また、視聴者が興味のある「北海道のグルメ」についての動画であることを明確にし、自分ごとと捉えてもらうために「10秒だけお時間ください」と呼び掛けた。さらには、ECであることが伝わるようにテレビショッピング風に紹介。短い時間でわかりやすいように、バリューを単純明快にすることを心がけたという。

この広告にかけた予算は50万円。この費用感で、前述の通り「30秒以上動画を視聴した率16%、ECサイト売上158%増(2.58倍)」を達成した。

事例② 大丸下関店では、YouTube広告で来店客も増加

一方、大丸下関店(山口県)では、店頭集客でYouTubeを活用した。同店は下関駅に直結していてアクセス性が高いが、近年は競合となる大型商業施設が郊外のロードサイドへ多数進出。そうしたロードサイド店に自動車で出かけるニューファミリー層が増加していた。

下関店の課題

そこで、ニューファミリー層の取り込みを図るべく、集客施策と車で移動するニーズを掛け合わせた「シーモール下関 大誕生祭」を開催。具体的には、人気催事「北海道展」の開催、抽選会による買上促進、さらには駐車場を無料にしたのだという。その上で、足が遠のいていた客層の集客を最大化するためには宣伝メディアの組み替えが必要だと考え、YouTube広告を選択した。

その際、テレビCMをそのまま転用。西本氏は「テレビCM映像をYouTubeに転用することについては議論があるだろうが、製作費がないからYouTube広告を諦めるよりはいいと考え、そのまま配信した」と明かす。

こちらも広告費は50万円だったが、のべ20万人の顧客にリーチ。視聴率は30%を超えた。また、推計値ではあるが、動画視聴によって来店した客数は約6,000人に到達し、ターゲットとしていた「郊外に住むニューファミリー」の獲得ができた。店頭スタッフからは「普段見られないニューファミリー世代が見られた」「館内滞在時間が延長した」などの声が寄せられたという。

テレビCMに加え、YouTube広告でも来店促進を狙った

事例③ 正月おせちECではさらにYouTube広告を強化

正月のおせちは百貨店にとって大きな市場である。大丸松坂屋百貨店では、店頭受注はもちろん、EC受注にも力を入れており、2019年からYouTube広告を利用。また京都店・下関店の例とは異なり、おせちは全国で販売商品が統一されているため、本社が販促の主体を担っている。

西本氏によれば、おせちはコロナ禍で需要が拡大している。潜在顧客がまさに増えているタイミングであり、そうした客をいかに掴むかはマーケターの腕の見せどころだ。

コロナ禍でおせち需要は増大傾向

もともと、おせちの販促は百貨店にとっての年末恒例の一大行事で、既存客へのカタログ郵送、名物バイヤーのテレビ出演など、あらゆる手が駆使されていた。しかし、コロナ禍特有の事情も踏まえ、改めてインターネット広告を強化したという。

特に、YouTube広告の出稿タイミングは明確に変更した。従来は受注開始直後の10月に第1弾、お歳暮受注のために店舗へ訪れる客の「ついで受注」を狙って第2弾、という立て付けで時期を分けて広告を投下していたが、検索ボリュームを分析したところ、10月の段階で多く検索されているブランドのおせちが業界上位となる傾向を発見。そこで、2021年末商戦では10月の出稿に予算を傾斜させ、12月の販売終了まで広告が途切れないようにした。

結果として、YouTube広告リンクからの直接売上は対前年増率867.0%を記録。またEC全体の受注額は対前年で26.7%増という成功を収めた。

それまでのYouTube広告戦略をさらに強化した

メディアと顧客の視聴状態にそぐうクリエイティブを

「提供価値を顧客体験に寄り添い伝える」───西本氏は、京都店・下関店・おせちECの3事例が成功に繋がった要因をそう説明する。「北海道物産展についてよく知らないが北海道グルメに興味のある客」「普段は車で郊外ショッピングセンターに出かける客」「コロナ禍でおせちに興味を持ち始めた客」などに対して大丸松坂屋百貨店がどんな価値を提供できるのか、正確にわかりやすくアピールすることを徹底した。

マーケターの皆さんなら、一度は『動画作ったから広告よろしく』と言われたことはないだろうか? しかし、それではまったくダメ。目的があるからターゲットも決まり、ターゲットによって接触メディアも異なる。広告クリエイティブを作るのはその後、最後も最後(西本氏)

クリエイティブを作るのは、戦略を立て、ターゲットを決めた後で

動画クリエイティブの制作にあたって、顧客が喜ぶであろう内容を冒頭に持ってくるのは1つの手だ。しかし、制作者が決め打ちした意図が顧客に100%響くかはわからない。むしろ「お客様に選んでもらう」という心構えでいた方が、成功事例もうまれるのではないかと西本氏は述べた。

講演終盤には、大丸京都店の現場スタッフであり、同店公式YouTubeで数々の動画を公開している「タハラダ」のコンビが登場した。講演直前のバレンタインデー期間には、コンビが制作した動画をYouTube広告で配信。こうした取り組みが奏功し、関連ECの売上が対前年117%と好調だったという。

「タハラダ」コンビの動画制作スタイルはシンプルだ。撮影用カメラはiPhone 12が1台のみ。マイク、照明なども用意せず、手持ち撮影が基本で、三脚等は使わない。シナリオも作り込まずに自然体が前提。「自分たちの主張」を明確・シンプルに伝えることが最も重要だという。

大丸京都店の「タハラダ」コンビが飛び入り参加

YouTube広告だけが正解なのか? デジタル広告は使い分けが肝心

西本氏によれば、YouTube広告の選択は絶対的な正解ではない。数ある広告手段の中で、今回紹介した事例においてはYouTubeが最適だっただけだ。では、自社製品にとってベストのマーケティング方法はどのように見つければいいのだろうか? 西本氏は、仮説立案と検証を地道に繰り返すことに尽きると語る。現に大丸松坂屋百貨店では、Googleディスプレイ広告、YouTube広告、Instagram広告の3つを使い分けている。

大丸松坂屋百貨店では、Googleディスプレイ広告、YouTube広告、Instagram広告の3つを使い分けている

また、デジタル広告は良い面ばかりでなく、リスクもある。たとえば、フェイクニュースを吹聴するサイトに自社の広告が出てしまうなど、ブランドセーフティを担保することは常に求められる。実際、一般消費者から報告が寄せられるケースもあるという。

大丸松坂屋百貨店では、広告開始前に基本ガバナンスを策定することで、レピュテーション(世間の評判)リスクに備えている。広告の配信設定において、YouTube広告であれば選択レベルを「標準広告枠」にしたり、Googleのディスプレイネットワーク広告では「デリケートなコンテンツ」を除外したりするなどが基本だ。また、災害関連などのキーワードを「除外キーワード」にする方法もある。

「ブランドセーフティ」のための広告配信設定例

最後に西本氏は「YouTubeはあくまでツールの1つだが、細かく顕在化されたニーズで顧客をターゲティングでき、て顧客ニーズと自社の提供価値がかみ合うことで広告成果が生まれる」と、その活用法を改めて総括し、講演を締めくくった。

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