登壇者は、Facebook Japanの中村淳一さん、シックス・アパートの壽かおりさん、note CXO/THE GUILD CEOの深津貴之さんの3人。
2012年頃からオウンドメディアに関わりはじめ、
2014年には運営者同士で学び合うコミュニティ「オウンドメディア勉強会」を設立。
これまで数々のサービスデザインやサーバーアプリの設計などをしてきた経験をもとに、
今回はTHE GUILD CEOの立場からお話いただきました。
徳力さんのモデレーションのもと、異なるバックボーンを持つ3人にそれぞれの観点から、最近のオウンドメディアの変化やいま注目しているオウンドメディア、未来にむけて挑戦していくべきことについてお聞きしました。
オウンドメディアにおける最大の変化
オウンドメディアという言葉が注目され始めてから早10年。昔と比べてどんな変化が見られるのでしょうか。
「ひとことで言うと、複雑になった」と壽さんは言います。昔はブログ形式での発信がほとんどだったのが、今はSNS、コミュニティ、動画、音声などプラットフォームが多様化したうえ、それぞれのコンテンツへの流入経路も複雑化していると説明。また、炎上リスクの高まりも課題になっていると指摘します。
深津さんは、最近の印象的な変化として、「Twitterのようなパブリックスペースというよりは、Discord(※)のようなクローズドスペースの中でかなり密なコミュニケーションが形成されてきている」と語ります。
※Discord:音声とテキストの両方でコミュニケーションをとることができるボイスチャットサービス。
深津さんの言葉を受けて、中村さんも「Instagramも特定のユーザーに限定公開できる”親しい友達”機能ができた」と重ねます。
クローズドなコミュニケーションが増えてきているのはなぜでしょうか。深津さんは炎上の話とからめながら「不特定多数に届くのは、いいことよりもデメリットのほうが多い。届けたいセグメントだけに届いたほうがいいという考えかたもあるのでは」と考察。
大勢の人に届けたい企業からするとジレンマかもしれませんが、中村さんは「何をコミュニケーションするかによって、オープンにするのかクローズドにするか、やりかたを考えていかないといけない」と言います。
さらに中村さんは、受け手側の変化についても指摘します。「顧客が、企業側から一方的に情報を送られ続けることを嫌がってきている」。以前は企業が持つ情報を顧客に伝えればよかったのが、今は顧客側もレビューなどを見て多角的な情報を持っている時代です。その集合知に対して企業がどうコミュニケーションをしていくかを考える必要があるとのこと。
壽さんは、「オウンドメディアを自分たちの言いたいことを一方的に発信するものとして使うのではなく、対話の場所として使うといいのでは」と提言。
深津さんは「メディア」ではなく、「自前のタッチポイントぐらいでいいと思う」と、オウンドメディアのありかたについてキャッチーな言葉で語りました。
新しいアプローチとして注目している企業は?
カンファレンス中盤では、具体的な事例をもとに、登壇者が注目しているオウンドメディアについて語っていただきました。そこで触れられたのは8つのメディア。登壇者のコメントとともにご紹介します。
株式会社CHINTAI「woman.chintai」
女性のためのお部屋探しサイト「Woman.CHINTAI」のInstagram。
「Instagramをオウンドメディアとして使っているケースとして、すごく上手だなと思っている。Instagramの機能をうまく使って雑誌やカタログのような見せかたをしたり、ストーリーズでアンケートをとって利用者とのインタラクションを行っている」(中村さん)
Nstock株式会社「Stock Journal」
株式報酬のポテンシャルを引き出すSaaS「Nstock」を開発中のNstock社が運営するオウンドメディア。
「メディアの新しい事例として注目している。スタートアップ設立初期のフェーズで製品開発と同時にメディア運営にも取り組んでいる。自社が思い描く未来を作るのに、製品とメディアの両輪で進めているのが興味深いし、こういう事例はもっと増えていくんじゃないかと思う」(壽さん)
全国農業協同組合連合会「JA全農 広報部【公式】」
JA全農の広報部が運営するnote公式アカウント。10月26日に投稿された「この食べ方に出会ったから、この食材を買うようになった」が話題に。
「オウンドメディアの記事としてすごくいいお手本。JA全農だってことを1文字も主張せずに、みんなが教えてくれたいちおしの食べ物とそれの調理法をひたすら集めてまとめている。この記事をきっかけに、みんながつながっている。こういう記事が世の中の価値を増やす」(深津さん)
株式会社newn「cohina.official 」
150cm前後の小柄な女性向けファッションブランド「COHINA」のInstagram。
「1200日連続で毎日Instagramでライブ配信を行っている。ライブのネタはどうしているかというと、ストーリーズで質問を募集して、お客さんと対話しながら作っている。そのなかでお客さんのインサイトをきちんと理解して商品にも落とし込んでいく。Instagramのライブ機能を使って、場を提供しているところがオウンドメディアの使いかたとしてすごく上手」(中村さん)
株式会社JADE「Blog」
「インターネットをよくする」をミッションにWebコンサルティング事業を行うJADEのブログ。
「古き良き情報発信の形のひとつ。自社が持っているノウハウを伝える記事もあれば社内の日常を語るブログもある。この会社が持っている知恵の集合体でもあるし、カルチャーを伝える場でもある。新しいわけではないが、すごくいいメディアの形」(壽さん)
株式会社クラシコム「北欧、暮らしの道具店」
オウンドメディアの先駆け的存在。商品の紹介だけにとどまらず、ラジオやドラマまで多様なコンテンツを配信している。
「理屈ではない感じのすばらしさがある。公共財に近いというか、世の中が面白くなることや良くなること、楽しくなることだけで全部できている」(深津さん)
株式会社SRACreative「posemaniacs - ポーマニ」
深津さんが手がけている、絵を学ぶ人のためのポーズ素材配信サイト「posemaniacs」のTwitter。
「このTwitterは4人くらいのチームで去年11月に始めて、1日の運用時間は15分くらい。それでもフォロワー数は11万人をこえた(2022年10月時点)。BtoCでも、ストイックに価値を配ることだけに特化するのもありでは」(深津さん)
あみもの工房Sheepl「あみもの工房 Sheepl」
奈良市にある毛糸店「あみもの工房Sheepl」が運営するYouTube。
「これまでの事例を見て、従業員が大勢いる大企業だからできるのではないかと思っている人もいるかもしれないが、そうではないという良い事例。YouTube、Twitter、Instagram、Facebook、Discord、noteのメンバーシップなどを行っているが、なんと従業員は2人。2人だけでここまでできる時代」(徳力さん)
企業は未来に向けて何に挑戦していくべき?
最後に、オウンドメディアをめぐる環境が大きく変わっているなかで、企業が挑戦していくべきことについて、3人の考えをお聞きしました。
壽さんは「自分たちが作りたい世界のために、それに共感してくれる人たちと一緒に作り上げていくための対話を続けていかなきゃいけない」と話します。さらにオウンドメディアの作り手のスタンスについても触れ、発信する側も楽しんでやることが大事だとアドバイス。「いち発信者として、また受信者として、ソーシャルでもブログでもnoteでもいろんな形で対話することを楽しんでいただけたらいいですね」
深津さんは、THE GUILDのクライアントに常々お伝えしていることがあるのだそう。それは、「メディアを作るより、ぺディアを作るチャレンジをしたほうがいい」。例えばTOYOTAであれば「車ぺディア」、日経新聞であれば「経済ペディア」のような、全ての人に役立つものを作れば、真に社会が豊かになると思うと言います。「各社がそういうものを作れば、各業界の困りごとが統括的にわかるようになる。SEOも強くなるし、みんなハッピーですよね」
最後に中村さんは、顧客のことを考えることが大事だとアドバイスしてくれました。「このセッションの最初にオウンドメディアの最大の変化を聞かれたとき、私はお客さんの変化について話しましたが、AIやDXが叫ばれ、効率化を進める今の時代だからこそ、お客さんは何が欲しいの? ということを同時に考えることがすごく大事だと思うんです。昔の日本の商売で"三方よし”、”六方よし"という言葉があるように、自社のこと、クリエイターやパートナーのこと、そして何より自社のお客様のこと、全てにとってWin-Winになるようにまず全体像を考え、その中でオウンドメディアをデザインするというのが私からのアドバイスです」
オウンドメディアの立ち上げを検討されている方々や、これまでの自社メディア運営を見直したいと考えている方々は、ぜひ参考にしてみてください。
登壇者プロフィール
壽 かおりさん
シックス・アパート株式会社 広報 /『オウンドメディア勉強会』主宰
ノルウェーOpera社のマーコム・B2Bマーケ担当を経て、2010年にシックス・アパート株式会社に入社し広報を担当。
2012年にSix Apartブログで執筆を始めた頃からオウンドメディアに関わり始め、2014年には運営者同士で学び合うコミュニティ「オウンドメディア勉強会」を立ち上げる。現在、Facebook上の勉強会グループには約1500人が参加し、SlackやTwitterスペースなどで交流を行う。複業としてライター・ブロガー活動、Vivaldi社のウェブブラウザの広報も行っている。2016年夏より、毎日自宅やコワーキングスペース、旅行先などからリモートワークで働き、リモートワークノウハウを発信。著書に『リモートワーク大全』がある。
Twitter
中村 淳一さん
Facebook Japan 株式会社 マーケティングサイエンス ノースイーストアジア地域統括
慶応義塾大学経済学部卒。2002年に消費財メーカー、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)へ入社し、消費者市場戦略本部に所属。柔軟剤ブランド「レノア」の日本投入コアメンバーや、ヘアケアポートフォリオ戦略、かみそりブランド「ジレット」、店舗営業チャネルシニアマネージャーを経たのち、2013年からシンガポールにてグローバルメディア、アジア地域ビッグデータ担当のアソシエイトディレクターに着任。日本帰国後は執行役員を務める。2017年6月にフェイスブックジャパン入社。現在はFacebookでアルゴリズムやマーケティング理論を研究しているマーケティングサイエンスの日本と韓国の代表。
Twitter / note
深津 貴之さん
note CXO / THE GUILD CEO
インタラクション・デザイナー。株式会社thaを経て、Flashコミュニティで活躍。独立以降は活動の中心をスマートフォンアプリのUI設計に移し、クリエイティブユニットTHE GUILDを設立。メディアプラットフォームnoteのCXOとして、note.comのサービス設計を務める。執筆、講演などでも精力的に活動。
Twitter / note
聞き手
徳力基彦
noteプロデューサー / ブロガー
text by 榎本紗智
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