note #等身大の企業広報レポート

サイボウズ×サツドラHD代表に聞く「トップの言葉をいかす広報戦略」とは

「トップの言葉をいかす広報戦略」サイボウズ 青野氏、サツドラHD 富山氏が登壇したnote主催 「#等身大の企業広報」。イベントレポートをWeb担でお届けします。

「めざす企業や社会を創るため、何をどう世に伝えるか。手段ではなく、目的が第一」と、サイボウズ代表取締役・青野慶久さん。

「震災やコロナ禍の非常時に、自社の社会的な役割と自らSNSで発信することの意味がみえてきた」とは、サツドラホールディングス代表取締役社長兼CEO・富山浩樹さんの言葉。

上場企業のトップでありながら、カジュアルで攻めた情報発信をしている経営者おふたり。その姿勢が社内の「ひと」を動かし、従業員によるオウンドメディアやSNSでの発信が注目を集めています。

毎月恒例の「等身大の企業広報」。今月は、企業トップが語る会社の存在意義や文化を、広報戦略につなげていくためのヒントがいっぱいです。

noteの許諾を得て、Web担で掲載しています。オリジナル記事はこちら
https://note.com/notemag_business/n/nb1c247bf5f21

目次

会社概要。3人→1000人超、ドラッグストア→ホールディングスに

――まずはじめに、会社概要をご説明いただけますか。

青野 1997年に愛媛県松山市でサイボウズを立ち上げました。当初の従業員は、僕を含め3人。24年経ったいま、1000人超にまでふえました。

もともとは「サイボウズ Office」というグループウェアが主力商品。でも最近は、テレビCMのおかげもあって、クラウドサービスの「kintone(キントーン)」を、より多くのみなさんに知っていただけているようです。

サイボウズ代表取締役 青野慶久さん

富山 サツドラは、父が1972年に札幌で開業した株式会社サッポロドラッグストアーが前身です。当時は医薬品などの販売をメインにしていました。

僕は他社での勤務を経て2007年に入社。2015年に代表に就任して、その後会社をホールディングス化しました。いまは、エネルギー事業や北海道経済コミュニティを活性化するための「えぞ財団」の運営など、幅広く手がけています。

サツドラホールディングス代表取締役社長兼CEO 富山浩樹さん

発信をはじめたのは、どうしても伝えたいことがあったから

――上場企業ではとくに、情報発信することがリスクととらえられがちです。そんななか、おふたりの会社が積極的に発信するようになったのはなぜでしょうか。

富山 ドラッグストアだけでなく、”地域”をテーマに企業活動を行っていることを広く知ってもらいたかったのが1番の理由でしたね。

僕は、「北海道が発展しないことには、わが社も発展しない」と考えていて。「北海道のひとや企業がより豊かになることをしたい」と本気で思っているとみなさんに伝えるために、発信をはじめました。

青野 うちの場合は、2010年ころに企業理念を”チームワークあふれる社会を創る”に定めたことが大きいです。

企業の理想という共通認識が社内にできた。ではその実現のために、何をすればいいのか。そう考えたとき、「社会を動かすために、​チームワークの大切さを伝える情報発信をしよう!」という声が社内から上がりました。

そうしてできたのが、オウンドメディアの「サイボウズ式」です。

サイボウズ式 | 新しい価値を生み出すチームのメディア
https://cybozushiki.cybozu.co.jp/

社会不安のときこそ、足元の発信が求められる

――2020年にはじまったコロナ禍。初期の混乱期に富山さんがアップしたYouTubeは、とても印象的でした。

富山 自分にとっても、この動画は転換点になりました。

当時は、大手メディアによる報道の影響もあり、マスクやトイレットペーパーなどが在庫不足で買えなくなるという不安から、人々が店に殺到したんです。本当は、市場から商品はなくなっていなかったのに。

そこで、在庫や入荷の状況、弊社の対応方針について、僕自らYouTubeで配信することにしました。

世の中が混乱しているとき、多くの企業は腫はれ物に触るような感じでなかなか発信をしない。でも本当はそんなときこそ、お客さんや世間が知りたいと思っている情報を、正面から伝えるべきだと考えたからです。

それと、うちの従業員がお客さんからきつい苦情を言われることが多かったのも、YouTubeで情報発信することにした理由のひとつです。従業員を守るためにも本当のことを言いたい、伝えたいという想いがすごく強くなりました。

YouTubeの内容は、ワイドショーや Yahoo!ニュースのトピックスでも取り上げていただいて。僕が発信したことが、みなさんにおおむねポジティブに受け取っていただけたと感じることができました。

社会的な意味がありつつ僕らの思いも伝わるという点で、SNSでの発信はすごく有効だと思えた出来事でした。

軸があれば、発信内容は自然と決まる

――サイボウズは、コロナ禍に「がんばるな、ニッポン。」の企業広告を打ちましたね。コロナ禍に無理して従業員を出社させなくても、チームワークある働き方はできると示すための発信でした。ただ、東日本大震災などでよく掲げられたスローガン「がんばろう、日本!」の逆をいく言葉をあえてつかっていて。会社の立場でこれを言うと、リスクがあると多くの人が感じてしまう行為だと思うのですが。

がんばるな、ニッポン。――サイボウズで働き方の選択肢を増やそう。
https://ganbaruna-nippon.cybozu.co.jp/

青野 僕たちは、あまりリスクを感じずにそういうことができるんですよね。なぜなら、サイボウズは「チームワークあふれる社会を創る」ことにコミットしていて。社会の働き方がそうでない方向に行ったときには、止める責任が自分たちにはあると思っているからです。

――会社の軸が定まっていると、言いたいことや言わなくてはならないことが定まるということですね。サツドラHD公式noteも、地域の話が中心で、お店の話はほとんど出てきません。

富山 ホールディングスの取組みの記事と、えぞ財団のnoteはとくにそうですね。理由は、いまの青野さんのお話と似ていて。僕たちの発信の目的が「北海道をよくするため」だから、自然とそうした内容になっています。

それと、北海道にある地域メディアに対する問題提起の意味も込めているんです。

地域メディアは本来、地域経済や地元で独自の活動をしてる人の後押しをしたり、彼らをつなげたりするのが役割だと思っています。でも、そうしたことにポジティブな発信をするメディアが本当に少なかった。そこで、「だったら自分たちで、noteを利用したコミュニティ運営をしてしまおう!」ということになったんです。

自発的な組織をめざして

――サイボウズは2000年にぐっと業績を伸ばしました。その後、青野さんが会社を劇的に改革してから、さらに成長されましたね。「サイボウズ式」は、社内変革のシンボルとして機能している印象があります。

青野 創業して10年くらいは、僕1人が会社のみなさんを引っ張るやり方をしていました。ベンチャーで会社を大きくする時期でもありましたから。そのころは、離職率が比較的高かった。

でもそれから、会社が新しいフェーズに入ったことに気がついて。社風も会社の方向性も、大きく変えることにしたんです。現場主導で、自立分散的に動いてもらうような組織を、意識しながらつくっていきました。すると離職率が下がりはじめ、業績も伸びていったんです。

新しい取り組みも、社員の方からどんどん手をあげてやってくれるようになりました。そのひとつが、「サイボウズ式」です。

インナーとアウターはつながっている

――サツドラは、発信しやすい雰囲気づくりのために何をしていますか。

富山 「サツドラグループみんなのnote」をつくりました。いまは約30名の社内ライターが、記事を書いています。

サツドラグループのみんなのnote | サツドラHD公式note
https://satudorahd-note.com/m/m3691315c5352

noteのサポート機能をつかい、記事を書いたひとに私から1回200〜300円くらいを送って。自分のアウトプットに対する反応を受け取ることで、書いてよかったと感じてもらえるといいなと考えています。

じつは、2020年に組織変更をしまして。これまで社長直轄だった広報を、HRチームの組織活性部門に組み込みました。社内広報を人事と連動して広報が行い、同時に従業員からの不満や要望などをフィードバックして、エンゲージメントをあげるのが目的です。

――サイボウズ式も社内のみんなで発信しているイメージです。「発信しよう!」という空気を、どうやってつくっていますか。

青野 「許容する」という雰囲気づくりを大事にしています。

人間は必ず失敗する生き物。私も、発信した内容についてあとから社内のひとに怒られたり、炎上したりしています(笑)。

でも1番大事なのは、失敗を許容し、みんなで改善していくことだと思うんですね。

社内で言いたいことを言えない人が、社外に対してものを言えるわけがない。だから、自由にアウトプットしていいんだという社内の空気づくりを、とても重要視しています。

――企業のトップが、おふたりのようにあまり明確にビジョンを語らない場合、広報担当者はどうすればよいでしょう。発信する目的があいまいになりがちで、戦略が立てにくいように思います。

富山 もし現在のトップがビジョンを語らないとしても、会社の生い立ちやめざしているところを整理して明らかにできれば、広報が発することはみつかると思います。

青野 ほとんどすべての企業が、創業時には「商売を進めた先に、社会がこんなふうになればいいな」といった想いが、あったんじゃないかと思うんです。

けれど、日々のオペレーションでいつの間にか目の前のことしかみえなくなる。そんな時は目線を上げて、視野を広げてみること。そうすると、企業として世の中に伝えるべきことが、少しずつみえてくるのではないかと思いますね。

――本日はおふたりとも、 貴重なお話をありがとうございました!

※敬称略

登壇者プロフィール

サイボウズ代表取締役
青野慶久さん

1997年に愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月、同社の代表取締役社長に就任。内閣府、内閣官房などの働き方変革プロジェクトの外部アドバイザーを歴任。

サツドラホールディングス代表取締役社長兼CEO
富山浩樹さん

2007年サッポロドラッグストアー入社。2016年にサツドラホールディングを設立し、代表取締役社長に就任。店舗や地域の資産をいかした新たな課題解決型ビジネスの創造をめざす。

interview by 徳力基彦 text by いとうめぐみ

本記事は、noteの転載記事です。オリジナル記事はこちら
https://note.com/notemag_business/n/n8f8498fb9f66

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