元P&G大倉氏、サイボウズ大槻氏が語る「社会を動かすメッセージの届け方とは? 」
noteプロデューサーの徳力基彦さんをモデレーターとして毎月開催している「等身大の企業広報」イベント。8月23日(月)に開催された第6弾では、「社会を動かすメッセージの届け方とは?」をテーマに、元P&Gの大倉佳晃さんと、サイボウズの大槻幸夫さんにお話しいただきました。
パンテーンの「#HairWeGo」やサイボウズの「がんばるな、ニッポン。」。どちらも企業発のメッセージによって、社会の「当たり前」を考え直すきっかけが生まれたプロジェクトです。一見、従来の企業プロモーションの枠からは外れているアプローチですが、じつはこうしたキャンペーンが企業の業績にも好影響をあげはじめています。
世の中に情報があふれているいま、会社やサービスの一方的な宣伝は埋もれてしまうこともしばしば。きちんと魅力を届けて行動を促すには、背景にある思想や問題意識から伝えていくことが重要なのではないでしょうか。
そこで今回は、冒頭でご紹介した取り組みをそれぞれリードされた元P&G 大倉さんと、サイボウズのコーポレートブランディング部長 大槻さんをゲストにお迎えし、「社会を動かすメッセージとは?」をテーマに議論しました。これからの企業広報のあり方を探りたい、自社の情報発信に力を入れていきたいという方、必見です!
noteが主催したイベントレポートをnoteの許諾を得て、Web担で掲載しています。オリジナル記事はこちら → https://note.com/notemag_business/n/nc488bf186411
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社会的責任を果たすことがビジネスグロースにつながる
――本日はよろしくお願いします。まずは簡単に自己紹介をしていただいてもよろしいですか?
大倉さん: 7月までP&Gに在籍し、11年にわたりシンガポールでAPAC Focus Market ヘアケア事業部統括CMOとして勤務していました。P&Gではパンテーンの「#HairWeGo」というブランドキャンペーンを企画・制作しました。現在は株式会社OKURA BOOTCAMPの代表取締役として経営・マーケティング・海外進出に関するアドバイザリーを行っています。
大槻さん: サイボウズでマーケティングを担当しています。2012年に「サイボウズ式」というオウンドメディアを立ち上げ、初代編集長を務めました。サイボウズのブランディング施策も担当し、アニメ「アリキリ」、テレビCM「がんばるな、ニッポン。」などを制作しました。
サイボウズ式 | 新しい価値を生み出すチームのメディア
https://cybozushiki.cybozu.co.jp/
―― パンテーンの「#HairWeGo」は髪の毛に関する問題提起的なキャンペーンです。従来のシャンプーのCMだと、有名な女優が登場して髪の毛の美しさを強調する、といったものが常識的でしたが、それとは真逆のアプローチですよね。この狙いは?
大倉さん: 日本特有の同調圧力というか、「おかしい」と思ってもなかなか声を上げる場がないといったような問題が、髪の毛に関することでもいろいろあると思います。髪型校則や、就職活動における髪型の問題もそうですよね。「#HairWeGo」はそういうことをテーマにして、それぞれのひとの個性を尊重した髪とともに前向きな一歩を踏み出していきましょうというメッセージです。
P&Gのテーマに「A Force for Good,A force for Growth(世界を変える力、未来を育てる力)」があります。パンテーンのような大きなブランドはやっぱり社会的責任というものがあるよねと。年間数100万人のひとに関わっていただいているブランドなので。いまの世の中ではそうした社会的責任を果たすとそれがビジネスグロースにつながる、という考え方を個人的に信じているし、実際に海外では成功事例がいくつかあるんです。
#HairWeGo - パンテーン(Pantene)公式サイト
https://pantene.jp/ja-jp/hair-we-go
――海外では成功事例があるけれど日本ではまだなかったんですよね。そういう新しいチャレンジをしようとすると社内で反対されることもあると思いますが、どのように説得されたのですか?
大倉さん:: キーになる関係各所の方、広報や人事の部署の方に事前に伝えました。キーになる方を早いタイミングで巻き込んで同じ船に乗せることが大切です。同じチームとしてやっていくみなさんをやる気にさせるということがマストだと思うので。あとは、社長やCEOといった究極の意思決定者を早い段階から巻き込むことですね。泥臭い話ですけど、まったく新しいことをやるときはそれが必要なのかなと。
――「#令和の就活ヘアをもっと自由に」は、139社の賛同企業を集めるところからはじめられているのがすごいですね。
大倉さん: このときは時間もあまりないなか、チームのみなさんが頑張ってくれました。最終的に139社もの団体様が賛同してくださったのはとてもうれしく、びっくりしましたね。
最初に賛同企業を募った考え方のフローとしては、最近よく「ブランドパーパス」が言われていますが、ブランドパーパスを設計して伝えるのは大事だけれど、そこからもう一歩進化させて「ブランドアクティビズム」に持っていきたいというのがあって。パーパスを言うだけじゃなくて、実際にブランドや中にいるひとが自分たちで手を動かしてアクションを取ることで、より消費者とのつながりができたり、消費者に信頼されるブランドになるんじゃないかと思っています。
#令和の就活ヘアをもっと自由に - パンテーン(Pantene)公式サイト
https://pantene.jp/ja-jp/hair-we-go/shukatsu-hair2019
おかしいと思ったことは言わないといけない
――サイボウズが2020年12月に公開したテレビCM「お疲れさま、ニッポン。」は、最後に「がんばるな、ニッポン。」というメッセージが出てきて衝撃的でした。
大槻さん: サイボウズはITツールの会社なので、もともと「無駄な頑張りをやめたいよね」という考え方があるんです。このテレビCMは2019年にブレスト会議で検討したんですが、2020年はオリンピックイヤーだから、オリンピックでつかわれるフレーズ「がんばれ、ニッポン」を裏返したらおもしろいんじゃない? という案が出て。このCMのターゲットは経営者なので、優しい言い方をされても気づかないんですよね。ある程度インパクトのあることを言われないと、なかなか価値観って変わらない。「頑張るな」まで言われたらちょっと考えるんじゃないかと。
――鋭い問題提起となっていますが、炎上などのリスクもありますよね。それを考えると、こういうことは企業としてはなかなか怖くてできないなんじゃないかなと思ってしまいます。
大槻さん: 何を怖いと思うかだと思います。このプロジェクトのオーナーは私なので、クレームの電話も私が受けていました。大事なのは覚悟です。
サイボウズには「多様な個性を重視しよう」「いろいろな意見があっていい」というカルチャーがあるんです。社内でいろいろな意見が出て、いわばつねに社内で炎上が起きているような感じで。でも、だからといってやめるのではなく、やっぱりおかしいと思ったことは言わないといけないよねと。それを社会にまで広げていこうという認識でやっています。
――やった甲斐はありました?
大槻さん: そうですね、認知度はめちゃくちゃ上がりました。わかりやすい反響としては、採用の部分で応募数が3倍にふえました。ただ、それはこのCMだけの効果ではなく、「サイボウズ式」での発信や、さまざまなメディアへの露出で「働き方」についての想いを伝え続けた結果だと思います。
うちはBtoBなので、キャンペーンをやったからといってすぐに売上につながるわけではありません。なので、売上としての数字よりも、YouTubeの再生回数やTwitterのコメントを重視しています。ユーザーが何と言ってくれているかということがすべて財産になるので、それを元にして次の企画を考えています。
小さくはじめてみることが大事
――ありがとうございます。本日はこれまでの等身大の企業広報とはちょっと趣向を変えて、「社会を動かすメッセージとは?」についておふたりにお話しいただきました。最後に視聴者に向けて、まず何からはじめたらいいのかということを、ヒントとしていただければと思います。
大槻さん: サイボウズの場合、グループウェアという、ほぼコモディティ化した市場なので、普通にプロモーションをしても売れないんです。結局は安いのがいいとか機能がたくさんあるほうがいいという話になってしまう。他社との差別化を図るには、自分たちは何者で、何のためにグループウェアをつくっているのかということを伝えないといけないと気づいたんです。
そこで、私自身がもともとインターネットが大好きだったこともあり、「サイボウズ式」を立ち上げて発信をはじめ、Twitterでもずっとサイボウズのことをつぶやいてきました。インターネットはひととひとがダイレクトにつながれるので、広告費をかけずに地道にやっていくだけで広げていくことができます。そういうシンプルなところからスタートすればいいのではと思います。
大倉さん: 日本の消費者に対するある調査で、60%ぐらいのひとが「何かしらの社会的責任を果たしていない企業やブランドの商品は買いたくない」と回答したというデータがあって。「SDGs」という言葉も日本ですっかり浸透しましたよね。僕は11年間シンガポールにいたので、久々に帰国して結構びっくりしたんです。でもそういうデータを信じて、とりあえず小さくはじめてみるということが大事なんじゃないかなと思いました。そういうものが必ず最終的にビジネスの結果につながってくると信じています。
SDGs時代に企業・ブランド価値を高めるマーケティングの考え方については、『ブランド価値を高めるSDGs時代のマーケティング』というnoteの記事のなかでも書いています。
ブランド価値を高めるSDGs時代のマーケティング | P&GパンテーンをV字回復させた、経営とマーケティングを結ぶ設計図
https://note.com/brand_builder01/n/n2613891a49c0
――おふたりとも、本日は参考になるお話をありがとうございました!
本記事は、noteの転載記事です。オリジナル記事はこちら
コメント
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記事の最初の「一見、従来の企業プロモーションの枠からは外れているアプローチですが、じつはこうしたキャンペーンが企業の業績にも好影響をあげはじめています。」
この「企業の業績にも好影響をあげはじめています。」の事が書かれていません。
結局の所ブランドイメージの向上(低下の阻止)の為の赤字投資という事ではないんですか?
「一見、従来の企業プロモーションの枠からは外れているアプローチですが」とある。
つまり広告効果の測定は不可能だけど間接的な利益をもたらすはずという計算での広告ですよね?
noteさんに共有します
本記事は「noteが主催したイベントレポートをnoteの許諾を得てWeb担に掲載」という立て付けですので、noteさんにご意見を共有してみますね。
鋭いご指摘、ありがとうございます!